■オレンジ
オレンジは2018年に劇場公開された『モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ』を事例に挙げた。3DCGモデルの場合、レンダリングをしたマスターデータ状態のままだとアオリや俯瞰、斜めの顔がアニメ的に厳しい見映えになってしまう。そのため、スクリプトでモーフターゲットの数値に変形をかける必要があった。
そこで、同社がTVアニメ「宝石の国」を制作していた頃に開発、運用開始したのは「Camera-O-Matic」というスクリプト。これはカメラの角度と焦点距離に応じて、あらかじめ登録したモーフターゲットに最適な状態でモーフィングパラメータを設定するというもの。アクティブカメラを回すとその角度に応じて顔がリアルタイムに変形する。
これには各社から驚嘆の声が上がっていた。キャラクターモデルが完成した後でこの仕込みに半年ほどかけ、さらに目の特定の部位を別途仕込んでアニメ的な見え方を追求する。その後、アニメーターはレンダリングした後に視線や口の微調整を行う。いったんこのマスターデータが完成したあとはメインキャラクターだけでなく、サブキャラクターにも転用することができるという。
オレンジのキャラクターモデルの口は2Dでつくられている。3D上での口の位置情報を、スクリプトを経由してAfter Effectsに読み込み、2Dの口にリンクさせてリップシンクする。この自動スクリプトを実行したのちに手で修正を加えていく。同社ではこのリップシンクだけでなく、モーションにおいてもキャプチャデータで70%までもっていき、その後に手付けで修正を行なっていく手法を採る
■サンジゲン
サンジゲンは鈴木大介氏が自ら制作した『ARGONAVIS from BanG Dream!』のMVより、ボーカルの七星 蓮を例に挙げて説明を行なった。蓮は男性バンドのキャラクターであるため、着替えが多い。そのため身体(服)と頭は別のモデルになっている。
サンジゲンはローポリゴンを目指して制作する哲学をもっており、それにターボスムースをかけてハイポリゴンにしている。蓮は約2万ポリゴンで、レンダリングするときは10数万ポリゴンになる。これは、現在サンジゲンが取り組んでいる作品はキャラクターが多いため、1体ごとのポリゴン数を減らす必要があるという理由からだ。また、ポリゴン数を減らす理由のひとつとして鈴木氏は「顔をアニメーターに積極的にいじってもらいたいから」だと語る。それはリテイクの際の速度にも関係し、制作全体を通じ大きな時間短縮につながる。また、リガーにとっても少ない方が取り回しが良いという反応を得たという。
リギングは3dx MaxのBiped。男性キャラクターの場合は上着が、女性キャラクターの場合はスカートがめり込みやすいため、アニメーターが作業しやすいようにオートで動くようなシステムを組んでいる。主人公キャラクターにはフルリグで組んでいる。Biped以外にも細かなコントローラを設置し、形を細かく変えることができる
フェイシャルはモーフィングで行う。モーフターゲットは50~80種類用意し、フェイシャルリグも細かく入れてアニメーターによる多彩な表情付けを推奨している
さらにサンジゲンの最近の取り組みとして、「モデルライブラリ」を紹介した。これは同社が過去の小物類を再利用するためのライブラリだ。『009 RE:CYBORG』(2012)にまでさかのぼって、以降の制作作品が登録されている。これによってどこに何があるかが整理され、膨大なモデル資産を活用できるようになった。これはサンジゲンの歴史がもつ強みと言える。先のキャラクター・蓮もこれらのパーツを利用し、修正したもので構成されている。
また、チェック内容のライブラリ化も行なっている。モデルだけでなくカットのチェックデータもデータベース化されているという。これによってディレクターとアニメーター、モデラーの間で、チェックとリテイクの動きを制作スタッフが把握できる。またこれらのリテイクデータを見ることで新規スタッフの教育効果も見込める。将来的にはモデルのライブラリとリンクすることを目標にしているという。
モデリング上達のコツとは
最後に、4社は聴衆に向けて「学生や若手が気をつけておくと上達できるモデリングのコツ」を伝えた。
オレンジ「アニメや映像を観察すること。弊社ではモデルだけではなく、画としてどう見せたいかに重きを置いてつくっている。キャラクターの等身バランスや見ている側の心理を考慮してつくっているので、"観ること"が大事」。
サムライピクチャーズ「モデリングに入るときは資料をとにかく集めて見ること。僕は自分が気になった映像をどんどんライブラリに入れています。学生のうちから参考になるものを集め、自分用のライブラリをつくっておくと良いです」。
東映アニメーション「商品になったときに自分が欲しいと思うかを常に考えながら、モデラーにチェックバックを返しています。例えばそれがフィギュアになったときに自分がそれを本当に手に入れたいか、魅力的に見えるかどうかを常に考えています」。
サンジゲン鈴木氏「キャラクターをつくりたいと思ったら人体を勉強してほしい。最終的には作りたい物がアニメキャラクターだったとして、3DCGにするときは設定に描いていないことも全部つくらなくてはいけないんです。そういうものをつくろうと思ったときに役に立つのは、本物の人間の体の構造や骨の長さと顔の形。どうなっていれば格好良く見えるのかを考えながら、人間の顔や筋肉のながれを研究してほしい」。