昨年9月28日(土)、秋葉原のUDX GALLERY NEXTにて、アニメ制作技術に関する総合イベント「あにつく 2019」が開催された。「キャラクターモデリングセッション」と題された講演には、サンジゲンサムライピクチャーズ東映アニメーションオレンジのCGプロデューサーらが登壇し、キャラクターモデリングへの取り組みについて解説を行なった。モデリングにおける制作工程や目標設定など、それぞれのスタジオの哲学が垣間見える内容だ。講演はパネルディスカッション形式で行われ、各社が互いのプレゼンに対して質問を投げかけ、コツを探ろうとするライブ感のある講演が展開された。

■関連記事はこちら
『海獣の子供』監督&CGI監督が語る、作画とCGを組み合わせたアニメーションのつくり方~あにつく2019(1)
イラスト、キャラデザ、モデリング監修......人気イラストレーター4名が語る『イラストレーターのウラバナ!』〜あにつく2019(2)

TEXT&PHOTO_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

4社4様のキャラクターモデリング術

講演には、サンジゲン、サムライピクチャーズ、東映アニメーション、オレンジの4社からCGプロデューサーなど総勢7名が登壇した。いずれも人気作品を手がける錚々たる面々だ。

登壇者、写真左から林 和正氏(サムライピクチャーズ・CGディレクター)、大曽根 悠介氏(東映アニメーション・CGディレクター)、野島淳志氏(東映アニメーション・CGプロデューサー)、鈴木大介氏(サンジゲン・CGスーパーバイザー、モデリングセクションマネージャー)、山本健介氏(オレンジ・VFXアートディレクター)、長川 準氏(オレンジ・CGモデリングアーティスト)、瓶子修一氏(サンジゲン取締役)

■東映アニメーション

『スター☆トゥインクルプリキュア』©ABC-A・東映アニメーション

最初は東映アニメーションから、TVアニメ『スター☆トゥインクルプリキュア』のキュアスターを例に解説が行われた。同業者からもエンディングのダンスは日本のCGアニメの代表例と言われるほどの知名度を誇る『プリキュア』シリーズ。同シリーズでは作品性に合わせてルックを調整しており、本作ではPencil+4 for Mayaを使用し、さらにセルルックに近づけた印象だ。

キュアスターの設定画

まずは上記の設定画からローポリゴンのモデルを作成し、それを基にハイモデル化、それをアニメーターが動かすという段取りを踏む。レイアウトやボディモーションのアニメーション作業は軽いローモデルで行い、詳細な部分はハイモデルで行うという効率化が図られている。この両モデルの LOD(Level of Detail)をアニメーターが手元で切り替えられる装置を使っている。この装置は双方向で、作業が進んでからローに戻すということも可能だ。



  • プライマリモデル:25,420ポリゴン



  • セカンダリモデル:33,024ポリゴン

アニメーターがボディモーションを付けると、続いてリガーが髪の毛や服を揺らすシミュレーションを組む。揺れものは操作1つで動かすことができる。これらのシミュレーションはコリジョン(衝突判定)がない簡易的なもので、めり込み修正は手付けで行うが、ある程度までは自動で行なってくれるため、アニメーターからも好評だという。

続いてフェイシャルリグを設定する。TVシリーズ用のフェイシャルターゲットは21個

リグもボディのみに入れたプライマリと、揺れものにまで入れたセカンダリがあり、これらも切り替えが可能

ローモデルに入れたリグ。ハイモデルにはアニメーターがパラメータ1つでポーズを付けやすいように細かいアトリビュートを用意しているという。写真右下はリグのセレクタツール

■サムライピクチャーズ

続くサムライピクチャーズは、『モンスターストライク』のスピンオフ音楽コンテンツ『モンソニ! ダルタニャンのアイドル宣言』中のダンスパートを例として解説を行なった。

主人公ダルタニャンのキャラクターデザイン(左)と衣装デザイン(右) ©mixi,Inc.

3ds Maxのターボスムースを使ってローモデル(左)とハイモデル(右)を切り替えている ©mixi,Inc.

髪は細かく層を当ててつくっている。顔のモデルと身体のモデルを一体でつくる会社もあるが、サムライピクチャーズではポリゴン数を抑えるために分けている。これは、会社が小規模であるため管理が行き届くというメリットを活かしたもの ©mixi,Inc.

フェイシャルのモデリング。白目部分も球体でつくっている ©mixi,Inc.

白目の影はカメラマップで投射している ©mixi,Inc.

顔チェック用のレンダリング画像。左:パース詰め気味、右:パースが空いている状態。作品ごとに監督の個性が異なるため、望遠にも広角にも対応できるようサムライピクチャーズではチェック画像を2パターン用意している ©mixi,Inc.

モデラーがファイナルの画まで見られるようにしておくべきという思想がサムライピクチャーズにはあるという ©mixi,Inc.

リギングでメインに使うのはBiped。日常芝居はAスタンスでつくることが多いが、本作のようなダンスが多い作品の場合はTスタンスでつくる。肩が開いているため、ねじれの調整を行う際にはTスタンスのほうが目立たないという。髪と衣装の揺らしにはSpring Magicを使用。それぞれの関節の根本にヘルパーを仕込んでレイヤー調整ができるようにしている。アニメーターが熟練するにつれ、これらのシミュレーションは卒業し、手付けに移行していくという ©mixi,Inc.

次ページ:
■オレンジ

[[SplitPage]]

■オレンジ

オレンジは2018年に劇場公開された『モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ』を事例に挙げた。3DCGモデルの場合、レンダリングをしたマスターデータ状態のままだとアオリや俯瞰、斜めの顔がアニメ的に厳しい見映えになってしまう。そのため、スクリプトでモーフターゲットの数値に変形をかける必要があった。

そこで、同社がTVアニメ「宝石の国」を制作していた頃に開発、運用開始したのは「Camera-O-Matic」というスクリプト。これはカメラの角度と焦点距離に応じて、あらかじめ登録したモーフターゲットに最適な状態でモーフィングパラメータを設定するというもの。アクティブカメラを回すとその角度に応じて顔がリアルタイムに変形する。

これには各社から驚嘆の声が上がっていた。キャラクターモデルが完成した後でこの仕込みに半年ほどかけ、さらに目の特定の部位を別途仕込んでアニメ的な見え方を追求する。その後、アニメーターはレンダリングした後に視線や口の微調整を行う。いったんこのマスターデータが完成したあとはメインキャラクターだけでなく、サブキャラクターにも転用することができるという。

オレンジのキャラクターモデルの口は2Dでつくられている。3D上での口の位置情報を、スクリプトを経由してAfter Effectsに読み込み、2Dの口にリンクさせてリップシンクする。この自動スクリプトを実行したのちに手で修正を加えていく。同社ではこのリップシンクだけでなく、モーションにおいてもキャプチャデータで70%までもっていき、その後に手付けで修正を行なっていく手法を採る

■サンジゲン

サンジゲンは鈴木大介氏が自ら制作した『ARGONAVIS from BanG Dream!』のMVより、ボーカルの七星 蓮を例に挙げて説明を行なった。蓮は男性バンドのキャラクターであるため、着替えが多い。そのため身体(服)と頭は別のモデルになっている。

サンジゲンはローポリゴンを目指して制作する哲学をもっており、それにターボスムースをかけてハイポリゴンにしている。蓮は約2万ポリゴンで、レンダリングするときは10数万ポリゴンになる。これは、現在サンジゲンが取り組んでいる作品はキャラクターが多いため、1体ごとのポリゴン数を減らす必要があるという理由からだ。また、ポリゴン数を減らす理由のひとつとして鈴木氏は「顔をアニメーターに積極的にいじってもらいたいから」だと語る。それはリテイクの際の速度にも関係し、制作全体を通じ大きな時間短縮につながる。また、リガーにとっても少ない方が取り回しが良いという反応を得たという。

リギングは3dx MaxのBiped。男性キャラクターの場合は上着が、女性キャラクターの場合はスカートがめり込みやすいため、アニメーターが作業しやすいようにオートで動くようなシステムを組んでいる。主人公キャラクターにはフルリグで組んでいる。Biped以外にも細かなコントローラを設置し、形を細かく変えることができる

フェイシャルはモーフィングで行う。モーフターゲットは50~80種類用意し、フェイシャルリグも細かく入れてアニメーターによる多彩な表情付けを推奨している

さらにサンジゲンの最近の取り組みとして、「モデルライブラリ」を紹介した。これは同社が過去の小物類を再利用するためのライブラリだ。『009 RE:CYBORG』(2012)にまでさかのぼって、以降の制作作品が登録されている。これによってどこに何があるかが整理され、膨大なモデル資産を活用できるようになった。これはサンジゲンの歴史がもつ強みと言える。先のキャラクター・蓮もこれらのパーツを利用し、修正したもので構成されている。

また、チェック内容のライブラリ化も行なっている。モデルだけでなくカットのチェックデータもデータベース化されているという。これによってディレクターとアニメーター、モデラーの間で、チェックとリテイクの動きを制作スタッフが把握できる。またこれらのリテイクデータを見ることで新規スタッフの教育効果も見込める。将来的にはモデルのライブラリとリンクすることを目標にしているという。

モデリング上達のコツとは

最後に、4社は聴衆に向けて「学生や若手が気をつけておくと上達できるモデリングのコツ」を伝えた。

オレンジ「アニメや映像を観察すること。弊社ではモデルだけではなく、画としてどう見せたいかに重きを置いてつくっている。キャラクターの等身バランスや見ている側の心理を考慮してつくっているので、"観ること"が大事」。

サムライピクチャーズ「モデリングに入るときは資料をとにかく集めて見ること。僕は自分が気になった映像をどんどんライブラリに入れています。学生のうちから参考になるものを集め、自分用のライブラリをつくっておくと良いです」。

東映アニメーション「商品になったときに自分が欲しいと思うかを常に考えながら、モデラーにチェックバックを返しています。例えばそれがフィギュアになったときに自分がそれを本当に手に入れたいか、魅力的に見えるかどうかを常に考えています」。

サンジゲン鈴木氏「キャラクターをつくりたいと思ったら人体を勉強してほしい。最終的には作りたい物がアニメキャラクターだったとして、3DCGにするときは設定に描いていないことも全部つくらなくてはいけないんです。そういうものをつくろうと思ったときに役に立つのは、本物の人間の体の構造や骨の長さと顔の形。どうなっていれば格好良く見えるのかを考えながら、人間の顔や筋肉のながれを研究してほしい」。