建物や道路も、その裏側にルールがあり、アルゴリズム化できる
伊地知:高山先生の講義では、観察眼を鍛え、法則性を見いだすことを目指しているのでしょうか?
高山:そうです。私の講義では「法則性」のことを「生成規則」と言っています。生成規則を見つけるために、絵ではなく、図を描かせてみることも有効です。絵を描く場合は、観念的に、明示的なものを描きます。そうではなく、情報がどう処理され、データがどうながれるかを図にすることで、自分たちが普段目にしている自然物や人工物のしくみが見えてくるのです。
伊地知:Houdiniエキスパートで、プロシージャルアーティストのAnastasia Oparaさんは、オランダのNHTVブレダ応用科学大学で、そういう視点や、考え方を学んだと聞いています。ほかにも、そういうことを教えている教育機関があるかもしれませんね。
池沢:確かに、フラクタル構造に代表されるような法則性は、世の中にたくさんありますね。よく言われるのは、ブロッコリーとか、海岸線とか、樹木とか。
高山:はい。講義では、自然物でも人工物でもいいから、生成規則を見つけて、図や、フローチャートや、擬似コードにしてみるよう指導しています。
▲高山氏の演習講義で、学生の頴川生楽氏が制作した作品。Processingによるプログラミングのみで制作しており、プログラムを実行する度にちがう都市景観が自動生成される
▲同じく、学生の池田苑夏氏が制作した作品。プログラムを実行する度にちがう模様の手鞠が自動生成される。模様は全て円弧の組み合わせで表現されている
▲同じく、学生の金子渚氏が制作した作品。プログラムを実行する度にちがう形状と色の線香花火が自動生成される
▲同じく、学生の瀧ヶ崎宇朴氏が制作した作品。プログラムを実行する度にちがう形状の盆栽が自動生成される
▲高山氏の指導を受けた学生の戸谷昂平氏によるプログラミング作品『Feather』。プログラムを実行する度にちがう形状と模様の羽根が自動生成される。羽根の描画にはベジエ曲線、長さの調整には正弦波の式、模様の生成には三角関数を用いている
池沢:どの作品も、発想がおもしろいですね。
高山:いずれもソースはすごく簡潔です。本学の学生は、実装能力では理工系の学生に劣るかなと思いますが、発想が柔軟で、おもしろいことや、変なことをする人が多いですね。
C:受講者の中には、数学受験以外の学生もいるのでしょうか?
高山:はい。数学受験の人は受講者の2〜3割で、大半はプログラミングの初心者です。
伊地知:建物なんかも、実はその裏側に建築基準法などのルールがあるんです。道路も同様で、道路標識も、区画線も、道路標示も、全て昭和35年に国土交通省が制定した法律にのっとってつくられています。『龍が如く7 光と闇の行方』(2020年1月発売)では、舞台となる横浜の街路をHoudini Engine For Mayaを使いプロシージャルに生成しています。本作では、カットシーンのエフェクトに加え、背景班のお手伝いとして、街路生成のしくみづくりも担当しました。自分勝手にアルゴリズムを生成するのではなくて、法律をベースにして、ゲームとしておもしろくなるようにデフォルメしていく必要があり、苦労しました。ゲームだと、法則性もデフォルメしなければならないんです。
▲PS4専用ソフト『龍が如く7 光と闇の行方』最新ゲームトレイラー。舞台となる横浜の街路は、Houdini Engine For Mayaを使いプロシージャルに生成されている
高山:すごいですね。国土交通省の法律をアルゴリズム化したわけですよね。
伊地知:はい。背景班からどんどん上がってくる仕様と、国土交通省のWebサイトを見比べながら、車道の車線の数や幅、車線変更線や停止線、歩道、側溝にいたるまでアルゴリズム化しています。複数のカーブインプットから道路を生成し、交差点をパラメータでつくれるようにもしました。逃げたかったですね(笑)。
高山:建物も、道路も、その背景にはちゃんと理由があるんですよね。例えば宗教美術でも、その裏には教義や思想が潜んでいたりします。学生には、そういうバックグラウンドまで意識させたいと思っています。
前篇は以上です。後篇では、ゲーム開発におけるプロシージャル表現の有効性や、アート表現とゲーム開発のちがい、TAの育成方法について語り合います。ぜひお付き合いください。
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