>   >  武蔵美が新卒TAを輩出!?>>スクウェア・エニックス、セガゲームス、バンダイナムコスタジオの開発者が、武蔵野美術大学でプロシージャル表現とTA育成について語り合う(前篇)
武蔵美が新卒TAを輩出!?>>スクウェア・エニックス、セガゲームス、バンダイナムコスタジオの開発者が、武蔵野美術大学でプロシージャル表現とTA育成について語り合う(前篇)

武蔵美が新卒TAを輩出!?>>スクウェア・エニックス、セガゲームス、バンダイナムコスタジオの開発者が、武蔵野美術大学でプロシージャル表現とTA育成について語り合う(前篇)

そもそも、どうして「数学で武蔵美に入ろう」と思ったのか?

中村:高校時代は理系の進学校に通っており「このまま進んで、何をするんだろう?」と悩んだ時期がありました。やりたいことが見つからない中で、いろいろ考えていたときに「そういえば、子どもの頃から、ものづくりに興味があったな」と思い出し、美術大学への進学について調べたのです。最終的に、数学で受験できる本学に入学したものの、最初のデッサンの講義でいきなり衝撃を受けました。

C:お察しします。同級生の9割は、武蔵美のデッサン受験をくぐり抜けてきた、腕に覚えがある人たちという環境ですよね。

中村:そうなんです(笑)。めちゃくちゃ絵の上手い人ばかりで「ここで生き残るにはどうしたらいいんだ」ってことを考え始めました。そんなとき、ちょうど高山先生のプログラミングの講義が始まり、「自分の力を活かしながら、ここで生きていくには、この道がいいんじゃないか」と考えたのです。そこからプログラミングを学び始め、ほかの講義でデザインの基礎も学びました。

その後「学んだことを仕事にするには、どの方向に行けばいいんだろう」って、また悩んでいたら「TAという仕事があります」という話を高山先生から聞き、いろいろ調べていく中で、自分の考え方や、やってきたことに近い仕事だとわかったので、スクウェア・エニックスに応募しました。TAの仕事は幅が広くて、今のプロジェクトではプロシージャル表現を扱っていませんが、「取り入れていきたい」という話は出ているので、今後は関わる機会があるかもしれません。

高山:美術大学を卒業し、新卒でTAになる人はまだまだ珍しいと思うのですが、中村さん以外にも、ゲーム会社のTAになる人が出てきています。受け入れ先のゲーム会社の中には「武蔵美は一体どういう教育をしているんですか?」とびっくりなさる方もいましたが、本学が特殊なのではなく、優秀な学生や、ちょっと変わった理系志向の学生が、たまに入学してくれるのです。そういう人たちが、より柔軟な発想を育めるように、環境を充実させていきたいと考えています。

▲座談会は、武蔵野美術大学(東京都小平市)の高山氏の研究室にて行われた


C:在学中の中村さんは、ご自分は理系志向で、同級生の大半はアーティスト志向、あるいはデザイナー志向という環境で学ばれたと思います。価値観のちがう人と接する中で、TAの仕事に魅力を感じていったのでしょうか?

中村:本学での1年次、私は友人たちと一緒に「ゲムつく」というゲームを制作するサークルを立ち上げ、副部長になりました。設立当初は3人のみの小さなサークルでしたが、3年次には在籍者が30人を超えていました。そこではアーティスト寄りの視点をもつ人たちと頻繁にやりとりをしていて、何かをつくるときの考え方が真逆だったので、「そういう考え方をするのか」と最初は戸惑いました。私は論理的に考えてしまう方なのですが、向こうは形や感性から入ろうとするので、話が噛み合わないことが多々あったのです(笑)。

でも、話を続けていくうちに、その人の人間性や、考え方の根幹にあるものがわかるようになってきて、話が通じるようになりました。例えば制作中のゲームの全体像を共有するとき、つくり方のプロセスを順番に説明しても、あまり伝わっていないように感じたので、最初にズバッと絵を見せて「こういうゲームをつくります」と言うようにしました。その方が、言いたいことが伝わるんだと学びましたし、アーティストとエンジニアの橋渡しをするというTAの仕事への興味も湧きました。当時の経験は、今の仕事に活きていると思います。

高度なツールを先に教えてしまうと、発想が閉ざされ、演出に走る

C:一方で高山先生の講義では、形や感性から入ろうとする典型的な美大生に、理系志向の考え方や、しくみで発想するアプローチを伝えようとしていますよね? 一筋縄ではいかないように思いますが、どんな教え方をなさっているのでしょうか?

高山:造形を数字で発想する訓練をさせています。例えば「円を数字だけで表現する方法」を考えてもらったりしています。ProcessingやCGツールの機能を使えば、命令やボタンひとつで円を描けますが、それを使わずに円を描くための生成規則を問うわけです。人によって向き不向きがありますが、学生時代の中村さんは10通り以上の方法を出してきました。

▲高山氏が「造形アルゴリズム」と題した演習講義の第1回で使用したスライドの一部。スライドでは「円を数字だけで表現する方法」として「ある点から等距離の箇所を記す」という方法を紹介しているが、これは一例で、方法はほかにも数多くある


高山:デッサンの考え方を土台にして教えたりもしています。例えば「デッサンをするときに、光の向きと、視線の向きと、面の向きを、どのように考えていますか?」と問いかけて、それをプログラミングに置き換えるよう促すんです。「デッサンのときの考え方が、ベクトルに置き換えられるんですよ」と言うと、「なるほど」と理解してくれる学生は多いです。

何かしら、身近にある題材の中から、生成規則を見つけるよう促していますが、感覚的に考えてしまう学生は多いですね。例えば、フローチャートを書くときに「球に光が当たった」というような書き方をする学生が多いので、「何をもって当たったと判断するんですか? 球に光が当たるとは、数字で表現するとどういう事象ですか?」と、ひとつずつ指摘しながら、数字情報として分析していく訓練をさせています。

▲同じく「造形アルゴリズム」のスライドの一部。デッサンをはじめ、美大生が理解しやすい題材に例えて話すよう心がけているそうだ


高山:それから、Processingのようなミニマルなツールでもって発想してもらうことも心がけています。高度なツールを先に教えてしまうと、ビジュアル先行の美大生は発想が閉ざされ、演出に走ってしまう危険性があるのです。例えばプログラミングの世界では、RGBの加算合成をすると発光っぽい表現ができますが、私はあえて教えないようにしています。昔の芸術家は、そういうテクノロジーがない時代から、実際には発光していないのに、発光しているように見える表現やデザインを編み出してきました。そういう発想を培ってほしいので、機能の限られたツールを使わせています。

C:例えば、1ピクセルに8ビットしか使わせないとか?

高山:そのピクセルのビットをどう重ねるかも、自分で発想してほしいのです。そうしないと、考え方が出来合いのRGBの加算合成だけになってしまう。でも実際には、美大生は様々な色の重ね方を知っています。加算合成を使って赤と青のグラデーションをつくるのと、パステルを使って赤と青のグラデーションをつくるのとでは、途中経過がまったくちがいますよね。そういった自分たちの経験を数字に置き換えながら発想してほしいので、あまりリッチな環境は与えないようにしています。その結果、工夫を重ね、ときには変なこともやりながら、自分の目指す表現を論理的に考え出してくれる学生が多いです。在学中の中村さんも、そこに上手く乗っかってくれた学生の1人でした。

▲同じく「造形アルゴリズム」のスライドの一部。高山氏の講義では、形状記述法ではなく、手続記述法によって完成イメージを生成するための考え方を教え、Processingなどのミニマルなツールを用いた演習も行い、プロシージャルな手法によるCG表現の可能性を伝えている


池沢:私は日本大学の芸術学部で普通に油絵を勉強してからナムコに入ったのですが、学生時代に高山先生の講義を受けたかったですね。漠然と「こうなんだろうな」と思考してきたことを、学生時代に再構成できていたなら、その後の歩みがだいぶんちがっただろうなと、お話を聞きながら思いました。

高山:ありがとうございます。私の講義は、私のお師匠さんだった大平先生や、その後に指導を受けた源田悦夫先生(現、神戸芸術工科大学 教授)の考えが土台になっています。学生はよく「コンピュータを画材のひとつだと捉える」と言うのですが、「画材」と言ってしまうと手先の話で終わってしまいます。例えばデッサンの目的は、手先を鍛えることだけに留まらず、目を鍛えることも含みますよね。さらに、目に入ってきた情報を、どのように知覚して紙の上に表すかということまで加わります。大平先生は、「コンピュータは、画材とみなすよりも、自分の鏡のようなもの、自分が内面で考えていることを外在化するための道具のようなものだと捉えなさい」と語っていました。私も学生に対し、同様のアドバイスをしています。

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アルゴリズム化できる

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