2020年2月5日(水)公開の前篇に続き、武蔵野美術大学 造形学部 デザイン情報学科の高山穣 准教授、スクウェア・エニックスの中村翔氏、セガゲームスの伊地知正治氏、バンダイナムコスタジオの池沢宇功氏による座談会の模様をお届けする。前篇で語られた高山氏の研究・教育活動と、中村氏の学生時代の経験談を踏まえ、座談会の後半では、ゲーム開発におけるプロシージャル表現の有効性や、アート表現とゲーム開発のちがい、テクニカルアーティスト(以下、TA)の育成方法について活発な意見交換が行われた。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

増大する工数に対して、プロシージャル技術はてきめんに効く

▲左から、高山穣氏(武蔵野美術大学)、池沢宇功氏(バンダイナムコスタジオ)、伊地知正治氏(セガゲームス)、中村翔氏(スクウェア・エニックス)


CGWORLD(以下、C):池沢さんは、先ほど「日本大学の芸術学部で普通に油絵を勉強した」と語っていましたが(前篇参照)、アルゴリズムやプロシージャル表現を意識し始めたのはいつ頃でしたか?

池沢宇功氏(以下、池沢):もともとゲームが大好きで「ゲーム会社に入るためには、油絵をやらなきゃいけない」と思っていたんです。今ふり返ると、絵の基礎力はつきましたが、少し遠回りだったかなぁと(笑)。その後、Mayaを覚えてからナムコ(現、バンダイナムコエンターテインメント)に入り、背景モデラーとして『フットボールキングダム』(2004)というPS2のサッカーゲームの開発に参加しました。『ACE COMBAT ZERO』(2006)や『ACE COMBAT 6』(2007)では、メカ班のリードアーティストとして質感設計やテクスチャ制作を担当し、その頃からアーティストがシェーダなどのパラメータをいじるようになってきたんです。

C:ゲームのハードが、PS2から、PS3やXbox 360に進化したタイミングですね。

池沢:そうです。表現力が上がり、全ての面で、より多くの情報量が求められるようになりました。それまでは感性だけでやっており、「なぜ、そう見えるのか」を考えたことがなかったんですが、ちゃんとCGのしくみを勉強したら、戦闘機の見た目が明らかによくなったんです。そういう経験をして「感性だけでは駄目だ」ってことにようやく気が付きました。

伊地知正治氏(以下、伊地知):全て感性に頼っていると、行き詰まりますよね。好き嫌いも出てきますし、何より万人に対する説得力がありません。現実に裏打ちされた説得力を技術で引き出し、デフォルメや様式化をしながら、コモンセンスを狙っていくというアプローチが必要になってくるように思います。ゲームのエフェクトであれば、爆発、炎、煙、滝や波など、自然現象の原理、性質が必ずバックボーンにあります。『龍が如く』シリーズの血しぶきの例で言うと、静脈であれば赤黒い、動脈であれば鮮血、体の表層にあるのは静脈だから勢いはない、首などの特定の部位には動脈があるから勢いがある、といった具合に表現を分けています。

池沢:自分の過去をふり返ってみると、アルゴリズムを理解して、自分の中に落とし込み、アウトプットできたときが、1番のブレークスルーだったように思います。仕上がりがよくなりましたし、作業の効率も上がりました。プログラマーにJavaScriptを教えてもらいながら、Photoshopのアクション機能などを組み合わせた自動生成ツールをつくり、ニヤニヤと悦に入っていましたね。それがきっかけで、TAの仕事って大事だなと思い始めたんです。私は皆さんのようにプログラムやスクリプトをバリバリ書くわけではないですが、「どうやったら、これを自動化できるかな?」といったことを考えるのは好きで、TEC(※)やエンジニアによく相談しています。

※ バンダイナムコスタジオでは、エンジニア寄りのTAのことを「TEC(テック)」と呼んでいる。

C『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(2018)では、池沢さんはリードアーティストとして3Dグラフィックスのマネジメントを担当したと伺っています(※)。それと同時に、アーティスト寄りのTAのような役割も兼任なさったのでしょうか?

※ 『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』における3Dグラフィックスの絵作りについてはこちらの記事を参照。

▲『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(Nintendo Switch)参戦ファイター紹介映像


池沢:そうです。本作の開発では、アーティストがそれなりにいて、グラフィックスのエンジニアが何人かいて、TECと、私以外にもアーティスト寄りのTA的な人が数人いて、もちろんキャラクター・背景・エフェクトなどのパートごとにリードアーティストもいました。当然ながら、それぞれが、それぞれの立場でものを言うので、そこをうまいこと調整する役回りでした。

TAは、アーティストとエンジニアの仲を取りもつ「翻訳者」のような立場だと、多くの人が語っており、その通りだなと思います。ただ、最近はそれだけじゃないとも感じ始めています。相談を受けてから動くのではなく、テクニカルディレクターのような視点に立ち、プロジェクトに関与していくケースが増えてきました。「こうすればアウトプットの質が上がる」、あるいは「効率がよくなる」といった提案を積極的にしていくことが求められており、TAの意義や必要性が高まってきたように感じます。

伊地知:そうですね。そこにたどり着けるのは、かなり優秀な人か、それなりの経験を詰んだ人だと思いますが、1人でもいると相当強いですね。エンジニア寄りのTAと、アーティスト寄りのTAの比率はどのくらいですか?

池沢:2対1くらいで、エンジニア寄りのTAの方が多いですね。あえてそうしたかったわけではなく、結果としてそうなっています。どのくらいの比率がベストなのかは、私にはまだわからないです。ただ、エンジニア寄りのTAとアーティスト寄りのTAとで話し合いをすると、たいていの問題はスッと解決するように思います。

C:以前の座談会のとき、沼上さん(TECの沼上広志氏)は「TAの数を増やしたい」と語っていましたが、池沢さんもそう思いますか?

池沢:それはもう。どこのプロジェクトでも必要としています。本当に足りていません。

C:増やす手段として、かつての中村さんのような適性のある学生を新卒TAとして採用するという選択肢と、社内の適性のある人にTA的な素養を伸ばしてもらうという選択肢があると思いますが。

池沢:どちらの選択肢も、力を入れていきたいです。特にHoudiniなどを活用したプロシージャルなデータ生成は、TA的な視点でもってどんどん推進していく必要があります。アーティストが、1個1個、ワンオフでデータを作成するやり方はキリがなくて、残業時間がいくらあっても足りません。多分、どこの会社も状況は一緒だと思います。


伊地知:増大する工数に対して、プロシージャル技術はてきめんに効きますよね。

池沢:そうですね。実現できるクオリティと物量が、劇的に変わります。

伊地知:特にオープンワールドのゲームは、本当に物量がすごいから。働き方改革が進み、労働基準監督署の目も厳しくなってきた昨今、昔みたいな長時間労働でゲーム開発の現場を支えることは難しくなりました。学生にはいい時代になったとも言えますし、厳しい時代になったとも言えます。手でゴリゴリつくっていたら間に合いませんし、残業もできないので、速く上手く大量につくる技術はこれから確実に必要です。

私は1分1秒でも働きたくない、寝ないと体力がもたないという人間だったので、楽してすごいものを大量につくることに心血を注いできました。一方で、寝ずにがんばっていた人もいたのですが、30歳半ばを過ぎた辺りから体力が激減し、若い頃の無理がたたって50歳で亡くなってしまいました。

C:学生も、開発者も、寝ることをおろそかにしてほしくはないですね。海外はもちろん、国内でも『ファイナルファンタジーXV』(2016)や『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(2017)など、オープンワールドゲームが増えていますから、プロシージャル技術はますます必要になると思います。ワンオフでデータをつくってきたアーティストに、プロシージャルへの理解を深めてもらう場合にも、高山先生のような教え方(前篇参照)は有効なように思いますが、如何でしょうか?

池沢:有効だと思います。いろんなところで「TAってどうやったら育つんでしょう?」と聞かれるんですが、「こうやればいいんだな」と思いながら、すごく興味深くお話を聞いていました。TAに転向しなくても、アルゴリズムや法則性を見いだせる力が育てば、TAやエンジニアに相談しつつ、今以上のクオリティアップや効率化が図れるようになると思います。

伊地知:ゲーム開発者に向けた、公開講座の需要もありそうに思いますね。

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アートでは抽象が許されるけど
プロダクトは具象じゃないといけない

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アートでは抽象が許されるけど、プロダクトは具象じゃないといけない

高山穣氏(以下、高山):ゲーム開発の場合、横浜の街をフォトリアルに再現するとか、爆発や炎などの現象を的確に再現するというような、かなり明確な目標がありますよね。一方で、われわれの表現活動の場合は「こういう技法を使って、どこまでいけるだろうか?」というアプローチで進めるので、明確なビジュアルの目標がありません。世の中にないものをつくり出すためにプロシージャル技術を使った結果「何をもって完成とみなすのか?」、「プロシージャルの完成って何なんだ?」というように、悩んでしまう学生が多くいます。美大生は「いいか、悪いか」を自分で判断できなくてはいけませんが、「先生、これでいいですか?」と質問してくる人もいます。そのときの教え方を、われわれはまだ悩んでいるんです。

池沢さんは、油絵を描いていた当時の完成と、現在のアートディレクションにおける完成のちがいをどう受け止めていますか? あるいは伊地知さんは、現実にないエフェクトをプロシージャルにつくるときの完成をどう見定めているのでしょうか?

伊地知:極端な話をすると、アートの場合は、その人が「完成だ」って言ったところで完成になっちゃうんですよね。実際には、いかに説得力をもって言えるかどうかが重要だと思いますが。

池沢:そうですね。ゲームの場合は、ゲームの要件を満たした時点で完成となりますね。アーティストが「もっとやりたい」と言っても、ちょっとしょっぱい話になりますが、予算とか、期間とか、ほかの都合で「もう充分ですよ」となります。それから、ディレクターが「このゲームは、こう見せたいから、それ以上表現するとやりすぎですよ」とか、「目立ち過ぎるからライトを減らしましょう」というようなケースもあります。どちらかというと、完成は外的要因によって決まりがちですね。

伊地知:アートでは抽象が許されるけど、プロダクトは具象じゃないといけない、というちがいもありますね。具象の場合は、腕が上がれば上がるほど、完成イメージが明確になり、そこに近付けられるようになります。抽象の場合は、完成イメージを設定しづらいですし、他人の理解も得にくいので、自分との戦いになってくるかもしれません。

C:「誰かに『完成です』と言ってほしい」と考える学生は多いのでしょうか?

高山:そうですね。「道筋を立ててほしい」と言う学生の方が多いです。絵面(えづら)で発想するアートであっても難しいのに、全部数字で発想し、なおかつ自分でレールを敷いて、どこまで走るか自分で決めなさい、と言われても、うまくいかない学生が多いです。途中で妥協したり、一部のしくみだけつくって終わるケースが多々ありますね。

C:そうやって在学中に自分で「完成」を決める訓練を積んでも、会社でプロダクトをつくるようになったら、ほかの誰かが決めた「完成」に向けて走ることを求められるというのは、皮肉な話ですね。ここ数年で、その変化を経験した中村さんは、どう感じていますか?

中村翔氏(以下、中村):先ほど伊地知さんが言われた「説得力をもって言えるかどうか」が在学中はすごく問われましたね。例えば卒業制作の場合だと、何度か講評会があり、自分は何をつくりたくて、どういう手段でもって、最終的に何を表現したいのか、その表現は何を目的としているのか、という点がシビアに評価されます。それらが自分の中で固まっていないと、説明に説得力がなく、先生たちの理解を得られません。会社に入ってしまうと、自分で決めることもありますが、上から下りてくるものに従ってつくるケースが大半なので、気楽といえば気楽ですね。

高山:中村さんは、卒業してからさらにグッと成長したように思うんです。ある程度目標を設定した方が、学生は伸びやすいのかもしれないという思いもあり、試行錯誤しているところです。


中村:人によりけり、のような気がします。自由を与えられた方がバンバンつくれる人もいたし、ある程度固めてもらわないとつくれない人もいました。

池沢:自分で「完成」を決める訓練をしておくと、提示されたものに対して「自分だったらこうできる」とか、「こうやれば、もっとよくなる」といったディスカッションができて、さらに高め合うことができるんじゃないかと思います。実際、そういうTAがいるプロジェクトは、どんどんクオリティが上がっていくんです。ちゃんと「完成」を考える、というのは非常に難しい課題ではありますが、とても素晴らしい取り組みだと思います。

▲高山氏が「造形アルゴリズム」と題した演習講義の第1回で使用したスライドの一部。絵面(えづら)で発想するのではなく、しくみで発想する表現方法について解説している


伊地知:基本的に仕事だと絵面で発想するんですが、趣味でHoudiniを使っていると、だいたい脱線して、しくみで発想するルートになり、抽象的な表現になりますね。例えば、これなんか(以下動画)はおもしろかったです。球の上で、うねうねモフモフした何かを動かしてみました。何がしたくてこうしたのかってことは、自分でもよくわかっていません。「つくってみたらできちゃった。Houdiniって楽しいな」という感じです。

▲伊地知正治氏による、Houdiniを用いた抽象的な実験映像


C:確かに、楽しそうですね。

伊地知:これ(以下動画)は具象と抽象を行ったり来たりしていますね。Houdiniのディストラクション機能を使いながら、キャラクターをモーフィングさせました。ボロノイ分割した破片をスプライトシートにして、パーティクルにビルボードとして割り当て、飛ばした後に再結合させています。こういう表現を自動化できると、量産化がはかどります。

▲伊地知正治氏による、Houdiniを用いたキャラクターモーフィングの実験映像


C:こちらはゲームの演出で実際にありそうですね。

池沢:そうですね。変身の演出なんかで使えるかもしれません。

伊地知:これ(以下動画)は完全に具象ですね。下の方で岩を、上の方で鍾乳石を自動生成し、プロシージャルにダンジョンをつくってみました。毎フレーム伸びていき、ランダムシードを変える度に、ちがうダンジョンが生成されます。自宅だとこんな感じで遊びながらつくれるんですが、仕事の場合はお金をもらって作業しているので、遊びでやるわけにはいきません。『龍が如く7 光と闇の行方』(2020年1月発売)で街路の自動生成機能をつくったときは背景班の工数を使ったので、いつも以上にプレッシャーがありました。

▲伊地知正治氏による、Houdini用いた自動ダンジョン生成の実験映像


C:やはり、具象であるほどゲームっぽいですね。

高山:道路標識や区画線、道路標示を数字化し、アルゴリズム化するという発想は大変すばらしいと思います。伊地知さんは、見たものをどう捉えているのか、その感覚をどうやって培ってきたのか、すごく興味があります。

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生き残るために進化して、TAみたいな感じになった

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生き残るために進化して、TAみたいな感じになった

伊地知:多分、絵面で発想するアプローチと、しくみで発想するアプローチを同時に行なっているんだと思います。具象と抽象の間も行ったり来たりしながら、最終的には抽象的な具象を表現しています。それがゲームの最大の目標なんです。具象をそのまま表現してしまうと、ゲームになり得ないので、抽象化された具象、デフォルメされた具象を実現する必要があります。しかも、簡単に生成できないといけない。

高山:今にいたるまでの、伊地知さんのバックグラウンドをお伺いしたいです。鶴野玲治先生の研究室出身ということは存じ上げているのですが。

伊地知:鶴野研究室では、SIGGRAPHの論文を読んだり、CGのプログラムをC言語で組んだりしていました。4年次(1995年度)に「CGのための波の生成」というテーマで卒業論文を書いたのですが、流体力学のナビエ・ストークス方程式がすごく難しくて、研究にはまり過ぎた結果、就職活動を忘れてしまい、翌年に当社(当時はセガ・エンタープライゼス)を受けました。当時の社内には『セガラリー』シリーズのチームがあり、Houdiniでプロシージャルにコースを生成していたんです。カーブをいじるだけで、センターラインや外野席が全部一緒に動いてくれて、レベルデザインがすごく楽でした。そういうつくり方をしているチームから、Houdiniのライセンスを渡され「勉強してみませんか?」と言われたんです。「新人アーティストの中だと、技術面に明るそうだ」という理由で誘われたんだと思います。

ただ、当時はリジッドボディ・シミュレーションができるのはMayaだけだったので、Houdiniを使う作業は次第に減っていきました。Mayaで1,000行くらいのスクリプトを書き、ボロノイ分割した100個くらいの破片を飛ばすエフェクトをつくったりしていました。破片の分割、UVの生成、シミュレーションの生成が完了するまでに10分くらいかかっていましたね。その後、2017年のGDCでHoudiniのGame Development Toolset(現、SideFX Labs)が発表され、Houdiniのシミュレーションをゲームの中で再生できるようになり、表現力や制作効率が劇的に向上しました。それまで10分かかっていたことが7秒でできるようになり、しかも、飛ばせる破片の数が5倍に増えたんです。そこからまたHoudiniにシフトして、今にいたります。だから私のHoudini歴は、Ver. 1~5と、14~最新版なんです。

C:入社直後から、プロシージャル表現や自動化に取り組んできたんですね。

伊地知:私の場合は、自分自身が自分のためのTAでもありました。TAは、プロジェクト全体の効率化のために、自身の工数を使うのです。そうすると、背景班であったり、キャラクター班であったり、大人数をつぎ込む班にメスを入れることで、最大の効率化を図ろうとします。その結果、人数の少ないエフェクト班は「自分で何とかしてください」となるわけです。おかげで、私はTAではないですが、ちょっとTAみたいな感じになってきています。

C:背景班のために街路の自動生成機能をつくったという時点で、ちょっとどころではなくTAな気がします。

高山:どんどん仕事が洗練され、進化なさっているように感じますね。

伊地知:生き残るために進化しました(笑)。ほかにも、追い詰められてTAになった人がいましたね。膨大な数のアセットを修正してくれと言われ、悩みに悩んだ結果、スクリプトが書けるようになりました。

C:オープンワールドゲームが増え、物量が増えれば増えるほど、追い詰められるアーティストも増え、結果としてTAが増えるかもしれないですね。自分で言っていて、かなり怖いなと思いますし、この座談会の結論にはしたくないですが(苦笑)。

池沢:当社でも特に背景は物量がやばいことになっているので、Houdiniを使い始める人が増えてきましたね。グラフィックスのチームは、プロジェクトではなくて、キャラクター、背景、モーションなどの職能で分かれているので、プロジェクトをまたいでノウハウが共有されており「あっちのプロジェクトのシェーダが、こっちでも使えそうだ」みたいな話はよく聞きます。Houdiniの使い方についても、背景とエフェクトの人が中心になって、いろいろと意見交換しています。

伊地知:すばらしいですね。当社も麓さん(TAの麓一博氏)が中心となって、プロジェクトをまたいで人と人をつなげたり、情報を取りまとめたりしてくれています。ただ、バンダイナムコスタジオさんは、社内の情報共有において若干先を行っているような気がします。

池沢:組織のトップが「どんどんやってください」と推奨しているので、そこはありがたいですね。

イヤイヤやっても長続きしないから「楽しく学べる学び方を学ぶ」

高山:本学にもゲーム業界を目指す学生は数多くおり、憧れの仕事のひとつだと思います。ただし、TAの仕事は一部の学生にしか知られていません。われわれはTAの仕事をどのように紹介し、どんな学び方を勧めればいいのか、この機会にぜひ伺いたいです。


伊地知:私の場合は、CGで食っていくには技術が必要だったので、とにかく必死で勉強しました。大学を出て、ゲーム開発の現場に飛び込んでみたら、絵が描けるのは当たり前で、絵の上手い人が偉いという価値観の、非常に厳しい世界だということを思い知らされました。そんな中で、大して上手くも速くもない自分が唯一勝負できるのが、自然現象の造詣と、それを表現する技術だったというだけの話です。その一方で、自分のつくったエフェクトに対する「すごいね!どうやってつくったの?」という同僚の驚きや称賛が心の支えになり、なんとかやってこれました。

私が入社した頃と比べると、今のゲーム業界はスタートラインがちょっと高いんです。でも、技術を修得すればスタートラインに立つまでがすごく楽になるので、一長一短のように思います。入社すれば具象をいっぱいつくることが求めらるのは明らかなので、イメージの引き出しを充実させ、どんな要望にも応えられるように表現力を磨きながら、技術を詰め込んでおけば、両者がつながり、人々の心に響くゲームを世に送り出していけると思います。

ただし、何事もイヤイヤやっていたら絶対に長続きしないので、勉強自体を楽しめることが大事な資質だと思います。なので美大におけるテクニカル教育に期待することは「楽しく学べる学び方を学ぶ」ということでしょうか。遊びと学びは、どちらも人間にとって大切な、欠けてはならないものです。

C:「追い詰める」ことで成長を促すよりも、「楽しく学ぶ」ことで成長する術を学んでもらった方が建設的な気がしますね。

伊地知:「楽しい」のは、ほんとに大事です。

中村:私のような論理思考の人間と、感性思考の人間がアルゴリズムで何かをつくろうとしたとき、最初の成長スピードは論理思考の人間の方が速いと思います。でも、使いこなしたときの爆発力は感性思考の人間の方が大きいような気がして、結構恐れています。でも、そこにたどり着く以前のハードルが高過ぎて、止めてしまう人が多いんです。それがもったいないなと、日々感じています。

池沢:ストレスを与えるタイミングと、解放のタイミングを、意図的にコントロールするといいのかなと思いました。当社の面々にしても、長いこと物量に追い詰められてきた中堅以上の人間ほど、高山先生の話が響くような気がします。

C:例えば、木を100本くらい手で植えてもらってから、アルゴリズムによる自動生成を教えると感動が100倍になるとか?

池沢:追い詰めてから教える(笑)。「何で先に教えてくれなかったんですか!」って怒られそうですが。

高山:そういう経験は、非常に重要だと思います。私も学生時代に、ポスターカラーで写真を数mm角のモザイク状に模写するという、無茶苦茶な課題をやらされました。しかもA4くらいのサイズで、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)と、白黒しか使えないという。

C:つまり高解像度のドット絵を手で描けと。人間スキャナーですね。それをやれば、Photoshopの有り難みに加え、画素や解像度、階調のしくみも理解できそうですね。

伊地知:技術の進化を追体験しながら、小さな成功体験を積み重ねられるといいのかもしれないですね。技術が身に付き、表現力が高まると、自分がちょっと強くなったような、成長しているような感じがして、楽しくなるんです。「苦しい」って感じちゃうと続かないので、遊びと学びが融合したような感じで進められると、学生の心が折れるのを防げるかもしれません。ゲーム的な楽しみがあると、効果的かもしれないですね。

高山:確かに、単純なパズルゲームを題材にして配列のルールを伝えると、わりとすんなり理解してくれたりします。いいヒントをいただきました。楽しみの部分をどう提供していくかが、私の課題ですね。何日も理解できなかったアルゴリズムやプログラミングが、何かのきっかけで理解できるようになると、新しいことを覚えるのが快感になり、とんとん拍子に伸びていくというケースを何度か見てきました。そういう人を増やしていきたいです。

池沢:とんとん拍子に伸びるようになると、自分がなぜ理解できなかったのかを忘れてしまうんですよね。だから、ほかの人に教えようとすると下手だったりします(笑)。

伊地知:昔、自分はバカだったはずなのに、バカだったときの自分の気持ちがわからない、というのはよくあります。そこの謎を解いていくことも重要なのかもしれないです。

池沢:それから、中村さんのような、新卒でいきなりTAになるケースは最近のことだと思います。当社のTAは、もと背景アーティストであったり、もとモーションアーティストであったりと、何らかのバックグラウンドをもっているケースが大半です。その経験が、いろんなところで役に立っており、話す内容に説得力をもたせています。学生のうちから「自分はこれが好きです」と言えるような何かをもっておくと、いいんじゃないかなとも思います。

中村CEDEC2019のラウンドテーブルを実施する前に、登壇した各社の若手TAたちと打ち合わせをして「学生のうちに、どんなことをしておくといいですか?」という質問がきたときに、どう答えようかという話をしました。そのときの全員の総意として「何かしらのツールやスクリプトを覚える」ことよりも、「学生のときじゃないとできないことをやる」であったり、「論理的に考える訓練をしておく」、「プロセスを考えられるような力を養う」といったことが大事だろうという結論になりました。結局、今は主流になっているツールやスクリプトも、何年かしたら新しいものに変わるので、5年先、10年先に勉強し直すことになったとき、そういった経験や力が必要になってくるよね、という話をしました。

C:そうなると、伊地知さんが言われた「楽しく学べる学び方を学ぶ」ことが不可欠になってきますね。

中村:そうですね。常に学び続ける姿勢が必要です。

伊地知:歳をとってくると、新しいことを学ぶのが億劫になってくるんですよ。でも学ぶことが習慣になっていれば、あまり苦痛を感じることなく、生き延び続けられると思います。

池沢:当社の場合、TAは、担当するプロジェクトのグラフィックスの基準を提案できる立場にあるんです。新しい技術を取り入れる場合にも、一番先頭に立つ立場なので、イノベーションをもたらす存在と言えます。ぜひ、多くの人に目指してほしいです。

高山:私が本学でCGをつくっていた時代は、就職先がなくて、先生から「CGだと食えないから、大学院に行きなさい」と言われたんです。でも今は、ちゃんと仕事がある時代なんですよね。今日の座談会で改めてそれを確認できたので、しっかり学生に伝えていきたいです。

C:本日はお集まりいただき、ありがとうございました。