>   >  武蔵美が新卒TAを輩出!?>>スクウェア・エニックス、セガゲームス、バンダイナムコスタジオの開発者が、武蔵野美術大学でプロシージャル表現とTA育成について語り合う(後篇)
武蔵美が新卒TAを輩出!?>>スクウェア・エニックス、セガゲームス、バンダイナムコスタジオの開発者が、武蔵野美術大学でプロシージャル表現とTA育成について語り合う(後篇)

武蔵美が新卒TAを輩出!?>>スクウェア・エニックス、セガゲームス、バンダイナムコスタジオの開発者が、武蔵野美術大学でプロシージャル表現とTA育成について語り合う(後篇)

生き残るために進化して、TAみたいな感じになった

伊地知:多分、絵面で発想するアプローチと、しくみで発想するアプローチを同時に行なっているんだと思います。具象と抽象の間も行ったり来たりしながら、最終的には抽象的な具象を表現しています。それがゲームの最大の目標なんです。具象をそのまま表現してしまうと、ゲームになり得ないので、抽象化された具象、デフォルメされた具象を実現する必要があります。しかも、簡単に生成できないといけない。

高山:今にいたるまでの、伊地知さんのバックグラウンドをお伺いしたいです。鶴野玲治先生の研究室出身ということは存じ上げているのですが。

伊地知:鶴野研究室では、SIGGRAPHの論文を読んだり、CGのプログラムをC言語で組んだりしていました。4年次(1995年度)に「CGのための波の生成」というテーマで卒業論文を書いたのですが、流体力学のナビエ・ストークス方程式がすごく難しくて、研究にはまり過ぎた結果、就職活動を忘れてしまい、翌年に当社(当時はセガ・エンタープライゼス)を受けました。当時の社内には『セガラリー』シリーズのチームがあり、Houdiniでプロシージャルにコースを生成していたんです。カーブをいじるだけで、センターラインや外野席が全部一緒に動いてくれて、レベルデザインがすごく楽でした。そういうつくり方をしているチームから、Houdiniのライセンスを渡され「勉強してみませんか?」と言われたんです。「新人アーティストの中だと、技術面に明るそうだ」という理由で誘われたんだと思います。

ただ、当時はリジッドボディ・シミュレーションができるのはMayaだけだったので、Houdiniを使う作業は次第に減っていきました。Mayaで1,000行くらいのスクリプトを書き、ボロノイ分割した100個くらいの破片を飛ばすエフェクトをつくったりしていました。破片の分割、UVの生成、シミュレーションの生成が完了するまでに10分くらいかかっていましたね。その後、2017年のGDCでHoudiniのGame Development Toolset(現、SideFX Labs)が発表され、Houdiniのシミュレーションをゲームの中で再生できるようになり、表現力や制作効率が劇的に向上しました。それまで10分かかっていたことが7秒でできるようになり、しかも、飛ばせる破片の数が5倍に増えたんです。そこからまたHoudiniにシフトして、今にいたります。だから私のHoudini歴は、Ver. 1~5と、14~最新版なんです。

C:入社直後から、プロシージャル表現や自動化に取り組んできたんですね。

伊地知:私の場合は、自分自身が自分のためのTAでもありました。TAは、プロジェクト全体の効率化のために、自身の工数を使うのです。そうすると、背景班であったり、キャラクター班であったり、大人数をつぎ込む班にメスを入れることで、最大の効率化を図ろうとします。その結果、人数の少ないエフェクト班は「自分で何とかしてください」となるわけです。おかげで、私はTAではないですが、ちょっとTAみたいな感じになってきています。

C:背景班のために街路の自動生成機能をつくったという時点で、ちょっとどころではなくTAな気がします。

高山:どんどん仕事が洗練され、進化なさっているように感じますね。

伊地知:生き残るために進化しました(笑)。ほかにも、追い詰められてTAになった人がいましたね。膨大な数のアセットを修正してくれと言われ、悩みに悩んだ結果、スクリプトが書けるようになりました。

C:オープンワールドゲームが増え、物量が増えれば増えるほど、追い詰められるアーティストも増え、結果としてTAが増えるかもしれないですね。自分で言っていて、かなり怖いなと思いますし、この座談会の結論にはしたくないですが(苦笑)。

池沢:当社でも特に背景は物量がやばいことになっているので、Houdiniを使い始める人が増えてきましたね。グラフィックスのチームは、プロジェクトではなくて、キャラクター、背景、モーションなどの職能で分かれているので、プロジェクトをまたいでノウハウが共有されており「あっちのプロジェクトのシェーダが、こっちでも使えそうだ」みたいな話はよく聞きます。Houdiniの使い方についても、背景とエフェクトの人が中心になって、いろいろと意見交換しています。

伊地知:すばらしいですね。当社も麓さん(TAの麓一博氏)が中心となって、プロジェクトをまたいで人と人をつなげたり、情報を取りまとめたりしてくれています。ただ、バンダイナムコスタジオさんは、社内の情報共有において若干先を行っているような気がします。

池沢:組織のトップが「どんどんやってください」と推奨しているので、そこはありがたいですね。

イヤイヤやっても長続きしないから「楽しく学べる学び方を学ぶ」

高山:本学にもゲーム業界を目指す学生は数多くおり、憧れの仕事のひとつだと思います。ただし、TAの仕事は一部の学生にしか知られていません。われわれはTAの仕事をどのように紹介し、どんな学び方を勧めればいいのか、この機会にぜひ伺いたいです。


伊地知:私の場合は、CGで食っていくには技術が必要だったので、とにかく必死で勉強しました。大学を出て、ゲーム開発の現場に飛び込んでみたら、絵が描けるのは当たり前で、絵の上手い人が偉いという価値観の、非常に厳しい世界だということを思い知らされました。そんな中で、大して上手くも速くもない自分が唯一勝負できるのが、自然現象の造詣と、それを表現する技術だったというだけの話です。その一方で、自分のつくったエフェクトに対する「すごいね!どうやってつくったの?」という同僚の驚きや称賛が心の支えになり、なんとかやってこれました。

私が入社した頃と比べると、今のゲーム業界はスタートラインがちょっと高いんです。でも、技術を修得すればスタートラインに立つまでがすごく楽になるので、一長一短のように思います。入社すれば具象をいっぱいつくることが求めらるのは明らかなので、イメージの引き出しを充実させ、どんな要望にも応えられるように表現力を磨きながら、技術を詰め込んでおけば、両者がつながり、人々の心に響くゲームを世に送り出していけると思います。

ただし、何事もイヤイヤやっていたら絶対に長続きしないので、勉強自体を楽しめることが大事な資質だと思います。なので美大におけるテクニカル教育に期待することは「楽しく学べる学び方を学ぶ」ということでしょうか。遊びと学びは、どちらも人間にとって大切な、欠けてはならないものです。

C:「追い詰める」ことで成長を促すよりも、「楽しく学ぶ」ことで成長する術を学んでもらった方が建設的な気がしますね。

伊地知:「楽しい」のは、ほんとに大事です。

中村:私のような論理思考の人間と、感性思考の人間がアルゴリズムで何かをつくろうとしたとき、最初の成長スピードは論理思考の人間の方が速いと思います。でも、使いこなしたときの爆発力は感性思考の人間の方が大きいような気がして、結構恐れています。でも、そこにたどり着く以前のハードルが高過ぎて、止めてしまう人が多いんです。それがもったいないなと、日々感じています。

池沢:ストレスを与えるタイミングと、解放のタイミングを、意図的にコントロールするといいのかなと思いました。当社の面々にしても、長いこと物量に追い詰められてきた中堅以上の人間ほど、高山先生の話が響くような気がします。

C:例えば、木を100本くらい手で植えてもらってから、アルゴリズムによる自動生成を教えると感動が100倍になるとか?

池沢:追い詰めてから教える(笑)。「何で先に教えてくれなかったんですか!」って怒られそうですが。

高山:そういう経験は、非常に重要だと思います。私も学生時代に、ポスターカラーで写真を数mm角のモザイク状に模写するという、無茶苦茶な課題をやらされました。しかもA4くらいのサイズで、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)と、白黒しか使えないという。

C:つまり高解像度のドット絵を手で描けと。人間スキャナーですね。それをやれば、Photoshopの有り難みに加え、画素や解像度、階調のしくみも理解できそうですね。

伊地知:技術の進化を追体験しながら、小さな成功体験を積み重ねられるといいのかもしれないですね。技術が身に付き、表現力が高まると、自分がちょっと強くなったような、成長しているような感じがして、楽しくなるんです。「苦しい」って感じちゃうと続かないので、遊びと学びが融合したような感じで進められると、学生の心が折れるのを防げるかもしれません。ゲーム的な楽しみがあると、効果的かもしれないですね。

高山:確かに、単純なパズルゲームを題材にして配列のルールを伝えると、わりとすんなり理解してくれたりします。いいヒントをいただきました。楽しみの部分をどう提供していくかが、私の課題ですね。何日も理解できなかったアルゴリズムやプログラミングが、何かのきっかけで理解できるようになると、新しいことを覚えるのが快感になり、とんとん拍子に伸びていくというケースを何度か見てきました。そういう人を増やしていきたいです。

池沢:とんとん拍子に伸びるようになると、自分がなぜ理解できなかったのかを忘れてしまうんですよね。だから、ほかの人に教えようとすると下手だったりします(笑)。

伊地知:昔、自分はバカだったはずなのに、バカだったときの自分の気持ちがわからない、というのはよくあります。そこの謎を解いていくことも重要なのかもしれないです。

池沢:それから、中村さんのような、新卒でいきなりTAになるケースは最近のことだと思います。当社のTAは、もと背景アーティストであったり、もとモーションアーティストであったりと、何らかのバックグラウンドをもっているケースが大半です。その経験が、いろんなところで役に立っており、話す内容に説得力をもたせています。学生のうちから「自分はこれが好きです」と言えるような何かをもっておくと、いいんじゃないかなとも思います。

中村CEDEC2019のラウンドテーブルを実施する前に、登壇した各社の若手TAたちと打ち合わせをして「学生のうちに、どんなことをしておくといいですか?」という質問がきたときに、どう答えようかという話をしました。そのときの全員の総意として「何かしらのツールやスクリプトを覚える」ことよりも、「学生のときじゃないとできないことをやる」であったり、「論理的に考える訓練をしておく」、「プロセスを考えられるような力を養う」といったことが大事だろうという結論になりました。結局、今は主流になっているツールやスクリプトも、何年かしたら新しいものに変わるので、5年先、10年先に勉強し直すことになったとき、そういった経験や力が必要になってくるよね、という話をしました。

C:そうなると、伊地知さんが言われた「楽しく学べる学び方を学ぶ」ことが不可欠になってきますね。

中村:そうですね。常に学び続ける姿勢が必要です。

伊地知:歳をとってくると、新しいことを学ぶのが億劫になってくるんですよ。でも学ぶことが習慣になっていれば、あまり苦痛を感じることなく、生き延び続けられると思います。

池沢:当社の場合、TAは、担当するプロジェクトのグラフィックスの基準を提案できる立場にあるんです。新しい技術を取り入れる場合にも、一番先頭に立つ立場なので、イノベーションをもたらす存在と言えます。ぜひ、多くの人に目指してほしいです。

高山:私が本学でCGをつくっていた時代は、就職先がなくて、先生から「CGだと食えないから、大学院に行きなさい」と言われたんです。でも今は、ちゃんと仕事がある時代なんですよね。今日の座談会で改めてそれを確認できたので、しっかり学生に伝えていきたいです。

C:本日はお集まりいただき、ありがとうございました。

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