>   >  欧米文化を織り交ぜて現代にアレンジ『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』
欧米文化を織り交ぜて現代にアレンジ『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』

欧米文化を織り交ぜて現代にアレンジ『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』

<3>80年代のテイストを感じさせる絶妙なさじ加減

原作の雰囲気を重視しつつ欧米の視聴者を意識する

最後に、アニメーションからコンポジットまでの工程を紹介する。アニメーションについては、北米の視聴者をメインターゲットとした作品であるため、日本国内向けの作品とは少々趣がちがう。「海外をターゲットとしているとはいえ、北米的なフルモーションの中に日本アニメのテイストが感じられる動きを付けています」とアニメーターの林 文子氏。車田氏の「原作の雰囲気を重視したい」という希望もあり、80年代に放送されていたアニメ『聖闘士星矢』の映像を確認しつつ、「聖闘士星矢的な動きとはどのようなものか」を研究し現代風にアレンジした。「特に、コミックに描かれているポージングに注目し、中割りよりもポーズのシルエットを重視しています」と、アニメーターの小泉正行氏は実際にポーズをとりつつ語ってくれた。原作同様に、アクションカットでは各キャラクターの必殺技など、エフェクトを伴ったアニメーションも多く見られる。そのため、エフェクトチームとアニメーションチームの間でも密な連携をとった。エフェクトチームがエフェクトアセットを作成し、アニメーターに配布してアニメーションチームでエフェクトを設定。また、エフェクトチームの半分が新人だったということもあり、スケジュール的にシミュレーションを使用することができず、リグを仕込んだエフェクトアセットを作成してアニメーターにエフェクトを付けてもらった。「修正があればエフェクトチームで修正するのですが、修正がなければそのままコンポジットチームへ引き継ぎました。カットバイのエフェクト以外は全てアセットを使っています。この方法はとても上手くいきました」とエフェクト担当の渡邊亮太氏。

コンポジットには基本的にNUKEを使用。担当した松浦義孝氏は「特に変わったことはしていない」と控え目に話すが、コンポジット側でライトを追加したり、背景の空はNUKE内に天球オブジェクトを配置し、空の背景素材をマッピングしてコンポジットするなど、少人数でなおかつ制作スケジュールが厳しい状況で効率良くカットを仕上げるなど、その工夫は盤石である。「手描きのテイストを目指したわけではありませんが、セル調アニメに寄った表現になっていると思います。80年代のアニメ作品へのオマージュ的な表現も多く、あまりデジタルっぽくならないように意識しました。アニメ出身の監督なので、単純な単色ではなく色が少し混ざっていたり、画が硬くならないよう意識して処理しています」(松浦氏)。本作の「どこかレトロな雰囲気」はコンポジットのなせる技とも言えるだろう。

アニメーション

欧米の視聴者に違和感を与えないために、ボディランゲージのちがいには特に注意した。自分を指さす際、日本では人差し指で自分の鼻を指さすことが多いのだが、北米では【画像右】のように親指で胸に向けることが多い

アニメーションを付ける際に追求した『聖闘士星矢』らしいポージングについては、構えるときは足を大きく開いて腰を低く、ダメージを受けた時は少し内股気味に

吹っ飛ばされたときは、顔は見せずに体を大きく開く

アクションカットでは、パースを利かせたレイアウト(突き出した拳が大きく映るなど)を意識した

エフェクト

エフェクトを付ける工程では、GPUキャッシュおよびArnoldスタンドインを活用してレンダリング効率が高められた

アニメーション作業時

レンダリング作業時

コンポジット後

コンポジット

背景はコンポジット上で3D配置して調整した。遠景はマット画を使用しているためよく馴染み、空気感の調整やカラー調整がしやすいようにレイヤーを分けてコンポジット上で配置している

80年代に放送されたアニメ作品のオマージュとして撮影風の透過光に近づけた。フィルム合成などは当時では最新鋭の技術だ。光源感としてセルの裏に点光源を感じられるよう、ややグラデーションを強調。にじみとセルの奥のライトを意識した仕上がりになっている



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