>   >  欧米文化を織り交ぜて現代にアレンジ『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』
欧米文化を織り交ぜて現代にアレンジ『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』

欧米文化を織り交ぜて現代にアレンジ『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』

<2>『聖闘士星矢らしさ』を追求したアセット

原作の雰囲気を崩さずにどこまで3DCGで起こせるか

次に、アセット制作からルックデヴまでの工程について紹介していこう。キャラクターアセットのモデリングはキャラクター設定画からスタート。設定画には質感の設定がないため、モデルを作成しつつ質感を決め込んでいった。まずは主人公である星矢のプロポーションから詰めたのだが、なかなか落ち着きどころが見つからず試行錯誤が続き、質感についても最終的なルックにたどり着くまで何度も試作がくり返された。また、本作に登場するモデル数は合計で78体と非常に多いため、セットアップやリグの効率化が制作のポイントとなった。例えばセットアップではプライマリレベルのスキニングにおいて、各キャラクター共通のスキニング用ケージをこれまで使用していたケージからさらに汎用性を高めたリグに改良。そうすることで、肉感が似ているキャラクターであれば2日ほどでスキニングできるようになった。そのほか、筋肉が強調される造形が多いため「首の筋肉周りの表現」や指を曲げた際の「指の腹の膨らみ」などがきちんと表現できるリグになるよう、これまでとは一段上のレベルでリグの設計が実現されていると、リギングを担当した中谷純也氏は話す。

キャラクターと合わせて背景アセットも非常に物量が多かった。「Substance Painterで作成した汎用シェーダをなるべく流用しつつ量産していきました。また、AJamと呼ばれる背景のローモデルとハイモデルを簡単に切り替えられるツールを開発し、アニメーション作業の負荷を軽減しています」と背景を担当した黒田誠一氏。シリーズものであるため、アセットのパブリッシュを他のセクションのスケジュールと合わせやすくなるよう、Shotgunを有効活用しながら密な連携をとった。また、監督とディレクターにあらかじめ説明し、先に簡単なガイドモデルでレイアウトを作成してもらうことができたため、レイアウト上の問題も先行して洗い出しておくことが可能だったという。背景のアセットが完成すると、完成した背景とキャラクターを使用してルックデヴが行われた。ルックデヴを担当したのは芦野健太郎氏だ。芦野氏によれば、同社ではルックデヴは基本的に「セットライティング」を指し、背景アセットに対してアートチームから上がってきたライティングボードに基づいてライティングを施していくのだそう。また、単にライティングを施すだけではなく、レンダリング時の安定性の確認やシェーダのデバッグなども行われる。さらに芦野氏はマスターショット制作も担当しており、ショット制作の効率化につながるShotgunの改良やその他のツール開発を行うなど、技術的な提案から実装までこなしている。

キャラクターモデリング

主人公・星矢の聖衣のダメージ質感の参考画

星矢のポーズ付き3Dモデル

セットアップとリグ

「ケージ」と呼ばれるスキニングを効率的に行うためのメッシュ(各画像の左側が星矢で右側が一輝)。ケージのエッジループの位置にジョイントが配置されるように調整されている。エッジループとジョイントが重なっている部分の頂点がメインの骨と重なっていれば水色に、補助骨と重なっていればオレンジ色に塗り分けるようになっている。他キャラクターにケージを流用する際、塗り分けを参考にケージの調整をすることができたため、これまで以上に作業がしやすく精度の向上と工数削減につながった

指の補助骨のイメージ。 従来通りの補助骨の仕込みでは【左画像】のようなポーズを取った際、指の付け根あたりが不自然に尖ってしまう。本作ではよく使用する手のポーズなので、きちんと表現するために専用のリグを追加することで改善した【右画像】

背景

AjamのUI



  • スタンドインの機能を使用してMayaのビューポート上は軽量化されたモデルを表示



  • レンダリングするとレンダリング用モデルに切り替わる。Mayaのデータ容量もB のモデルとほぼ変わらなくなるため、起動や挙動が速くレンダリングも多少軽くなる

ルックデベロップメント

シチュエーションルックデヴでアートチームが描いたライティングボード



  • 【ライティングボード】を基にライティングしたシチュエーションルックデヴのレンダリング画像



  • 【左画像】のライトの彩度をゼロにしたアセット色味確認用画像

シェーダ確認用のAOVごとの画像

【シチュエーションルックデヴのレンダリング画像】のライティングを反映させた実際のカットでのマスターショットのレンダリング画像

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<3>80年代のテイストを感じさせる絶妙なさじ加減

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