<2>アニメーション~コンポジットにおける創意工夫
劇場作品に対応するためにショットワークのフローを刷新
映画は内部的にはA~Dの4パートに分かれ、MORIEはBパート以降の約140カットを担当。体数の少ないカットやあまり動きのないカットもある一方、終盤は数十体を数えるカットも多く、中には200体を超えることもあった。アニメーションは小川光悦氏・菅原愁也氏を主軸に、丹原 亮氏・東 孝太郎氏の計4名で担当。これまではいわゆる科学番組に登場する恐竜を手がけることが多く、キャラクター的な擬人化を避けつつ、実際に動物として存在していたらどうかという点を考察した上でアニメーション作業が進められていた。「本作では、そのようなアプローチでは生々しくなってしまい馴染みません。とはいえ擬人化的な芝居の方向性とも異なり、まずはそのあたりのバランスを探っていきました」(小川氏)。作業開始時点でOKが出ていたのは、先行して森江氏が仕上げていたおまけ映像用のアニメーションであり、これが唯一の正解への手がかりとなった。「アニメらしい演出が多く、現実味もありつつ演技性を重視して作業を進めました。足の裏が見えるほど大げさにアクションしたりと、無駄な動きをしない野生動物とは異なるニュアンスを大事にしながら進めました」(菅原氏)。
アニメーション後はレンダリング、コンポジットを経て納品される(納品後はシンエイ動画内で作画・エフェクトなどを含む撮影が行われ完成となる)。レンダリング設定やコンポジットは、ひとつひとつは難しくないものの手順が多く、恐竜の種類が多いカットなどは素材数が膨大になる。「これまでは、レンダリング設定を済ませたシーンにアニメーションシーンをリファレンスで引っ張ってくるフローで、問題が起きたら都度対応していました。1名で対応する予定だったため、ルックを構築しながら『これを映画1本分行うのは現実的ではない』という結論に至りました」(木寺氏)。そこで、CGディレクター・柴野剛宏氏と共に現行フローの改善に着手。大量のカットをミスなく捌くため、Shotgunの導入や、アニメーションシーンを引き継がずAlembicで出力した上でレンダリングシーンを構築するフローに変更。マテリアルの割り当てやXGenの読み込みなどの設定類をツール化し、可能な限りミスを減らしている。その結果として、「無添加無農薬のシーンをレンダリングに回しているためトラブルも減り、効率的にレンダリングを消化できるフローになりました」と木寺氏は語る。
演出を汲み取り3DCGのフィールドで膨らませる
ティタノサウルスの群を縫うように飛行する、小川氏お気に入りのカット。「ダイナミックな演出ですが、先方からの作画指示では背景は2Dパンで処理しているなど対応に悩んでいる様子でした。そこで提案型で空は3Dの天球に切り替え、構図などもよりダイナミックにしています」(小川氏)
作画指示の一例と、それに合わせてレイアウトをとった様子
3Dのダイナミックさがより活きるよう調整
完成。このように、作画指示に囚われず恐竜が「よりカッコよく」「より美しく」見えることを優先して作業が進められた
演出に合わせて周囲との干渉まで表現する
鉄格子越しに威嚇するヴェロキラプトル
作画レイアウト
Mayaでの作業画面。美術に合わせて鉄格子の仮モデルを用意している。羽毛恐竜は周囲のものとの干渉を意識する必要があり、通常はレンダリング時のみ用いるXGenを設定したメッシュも読み込んでプレビューを行うことも
このカットの演技を詰めるために菅原氏が撮影したリファレンス動画。クローゼットの隙間にペットボトルをねじ込んでいる。「人間大の恐竜が隙間から噛みつこうとしている、というちょうどいいリファレンスはそう見つからないので、できるだけ演出のシチュエーションに近づけて撮っています」(菅原氏)
完成
Alembicを組み込んだ群衆対応リグ
恐竜が一度に大量に登場するカットは、通常のアニメーション用リグとは異なるアセットを用意して対応している
あらかじめアニメーションを数パターン作成し、Alembic出力した上で切り替え用コントローラを付与して1アセット化。プテラノドンでは6種ほどのアニメーションを組み込んでいる(図はわかりやすく複数表示したもの)
シーンとしては軽くなるがアニメーションのシークは重たくなるため、20体程度でシーンを分けている。このカットでは3分割された。最も手前にくる数体【右】は通常のリグで個別に演技させている
レンダリング、コンポジットしたもの
フローを見直し安定してレンダリング
これまでは、アニメーション後のシーンファイルをレンダリング設定を済ませたシーンにリファレンスすることで、レンダリング作業を進めていた。「わかりやすい反面、開くのに時間のかかる重たいデータになりがちです。またエラーが発生したら個別対応が必要になりますが、これを映画1本分行うのは現実的ではないと判断しました」(高畠氏)。そこで、アニメーション後はAlembic出力し、レンダリングシーンを都度新規に構築するフローに変更。マテリアルアサインやレンダリング設定、XGen関連はツール化することで、ほぼ流れ作業でファームに投げることが可能となった。Shotgun関連とAlembic出力をテクニカルアーティストの伊藤浩之氏が、シーン構築ツールとコンポジット関連を高畠氏が担当した。「恐竜が200体以上登場するような数カットのみ、Alembic出力が現実的ではなかったため個別対応しています」(高畠氏)
色指定とコンポジット
25種類の恐竜は登場する場面ごとに色指定が行われ、それぞれにAfter Effectsのコンポジションが用意されている。それらの「シーンカラーAEP」は、CG恐竜の登場する25場面に、恐竜ごとに用意され、計93ファイルに及ぶ。これを手動で適切に納品コンポジションに組み込むのはヒューマンエラーのもととなるため、自動的に組み込み・素材置き換えを行うツールが用意された。「各場面や各カットの登場恐竜と対応するシーンカラーなど、諸々の情報はShotgunで管理し、各自動化ツールで活用しています」(伊藤氏)
なお制作終盤、図鑑風の仕上げも維持しつつ、ディテールを減らした仕上がりとブレンドし撮影側で作画との馴染ませ具合を調整できるよう、コンポジション構造の変更があった
ファイナル