全ての人に最適なキャラクターをつくるために取捨選択された要素
続いてTanabe氏はキャラクターデザインについて解説を始めた。キャラクターデザインでも背景と同じようにさまざまなデザイン画が描かれた。そして同じように選択基準がないことが問題になった。
そこで参考にされたのが前作『風ノ旅ビト』のキャラクターデザインだ。Tanabe氏はこのデザインが、ゲームデザインの要請に従ってつくられたものだと述べた。足があるのは世界を走り回ったり、ジャンプしたりするため。マントを羽織っているのは落下中にふわりと広がることで、ジャンプという行為に視覚的な意味をもたせるため。そして表情に乏しかったり、腕が省略されていたりするのは、ゲームプレイや、ゲームプレイを通して発したいメッセージと、直接関係がないからだ。
それでは『Sky』はどうだろうか。Tanabe氏は「開発チームが最も重視したのは、プレイヤーに童心に返ってもらうこと」だと述べた。そのためパジャマ姿の子どもの絵柄が有力候補に挙がっていたのだ。ところが開発中に不都合が生じた。マルチプレイ時におけるキャラクターの差別化が難しかったのだ。
『Sky』開発初期段階で描かれたデザイン画の数々
また、空が飛べることが視覚的に表現しづらいことも課題だった。試行錯誤の結果、最終的に採用されたのがケープ的な服を着せることになった。ちがったケープのデザインにすることで差別化が図れ、マント的なシルエットにすることで、空を飛ぶことを連想させることも可能になった。
続いて髪や肌の色をどうするか、という問題がおきた。「特定の人種をイメージさせないこと」、「それぞれのプレイヤーが本当に好む色にすること(現実の髪の色と同じであること)」が理想だが、技術的な面から不可能だった。そこで採用されたのが「白色」だ。肌の色も同様の理由から、「灰色」が採用された。表情についても、プレイヤーの感情とキャラクターの表情を同じにすることが模索された結果、仮面を着けて表情を隠す、というアイデアが採用された。
それでは腕はどうするべきだろうか。『風ノ旅ビト』と同じように省略するべきだろうか。もっとも、これについては早い段階から決まっていた。プロトタイプ版で「握手」というモーションが実装されたとき、「腕はないとダメだ」と決まったのだ。「シンプルだが力強く、ゲームのコンセプトにあっていた」という理由で採用され、キャラクターデザインにも反映されたのだ。
『風ノ旅ビト』のキャラクターデザイン
『Sky』では握手ができることがゲーム体験上で重要だった
最後にTanabe氏は「終わりのない感動的なゲーム体験を全ての世代に届ける」ことが同社のビジョンであり、そのために「感情曲線を設定して、それに則したテーマとビジュアルをデザインした」とまとめた。そのうえで67才の女性から届いたという手紙を紹介し、開発チームが得た究極のリワードだと締めくくった。
「67歳のおばあちゃんです。 マリオとか、ゲームはやったことがありません。ジャンプしたり、空を飛んだりするやり方もわかりません。でも、『Sky』で元気に遊んでいます。今日は「友達」がエデンに連れて行ってくれました。 そして、目的を達成できませんでした。私は連れ戻されるまでの30分間で泣いてしまいました。このゲームは自分自身について多くのことを教えてくれました。私は愛情の人で、1人でいるのが好きではありませんが、あなたのゲームによって勇気が引き出されました。私の人生に素晴らしい貢献をしてくれたことに感謝します。
心から。
孫たちが『Sky』をプレイするために、アップグレード版が出たら購入するおばあちゃん」。
開発チームに届いたファンレター