<2>UE4による様々な破壊実装のワークフロー
ファイル形式ごとに異なる破壊シーン実装の選択肢
次に斎藤氏が語ったのは、UE4における破壊シーンを実装するための様々なワークフローについてだ。UE4での破壊には大きく「事前に破壊する」と「リアルタイムに破壊する」という2通りのワークフローがあるが、今回は「事前に破壊する」ワークフローを選択。「Art Diveは名前の通りアーティストからの注目度が高いイベントなので、見た目のクオリティを高めるため事前に破壊する手法を選びました。さらに事前破壊の中にもいくつかのワークフローが存在し、今回はそれら全てを網羅的に検証しました」(斎藤氏)。
事前破壊におけるワークフローとして考えられるのは3つ。【FBX】を用いた【スケルタルメッシュアニメーション】、【Alembic】形式の【ジオメトリキャッシュ】、【頂点シェーダ】とテクスチャによる【Vertex Animation Texture】(以下、VAT)だ。「実装後の見た目という観点ではどれも大きく変わらないのですが、実装フローの特徴が異なるため、適切に選択する必要があります。特にFBXはキャラクター実装でも使用されるメジャーな手法なので、これを軸に他の手法を適宜組み合わせるのが良いのではないでしょうか」と斎藤氏は語る。FBXはゲーム業界では一般的に使用されているファイル形式であり、UE4でも様々な箇所で利用されているため、安定性の面では申し分ない。逆にAlembicは現在UE4上では実験的機能であり、安定しているとは言いづらいところだが、映像制作分野で広く受け入れられており、実装コストも高くない。「とりあえず実装する、というような場合には、Alembicはオススメできます。VATは、コストをかけてでも処理負荷を下げたい、という場合には一考する価値があると思いますね」(斎藤氏)。
今回は、もともとHoudini愛好家である斎藤氏はHoudiniでのエクスポートを採用したが、どのDCCツールであっても、ファイル形式さえ同じであれば同じワークフローが選択可能とのことだ。「同じ破壊シーンを実装するにしても、ケースバイケースで手法を適切に選択する必要があります。ただ、これまではそれを一覧化した資料はありませんでした。ざっくりでもいいので知りたい、と私もかねてから考えていたので、この機会にかなりおおまかですが資料をまとめてみました」(斎藤氏)。これらの手法は状況に応じてさらに細かく検証するのが適切だが、処理負荷なども含め、破壊シーンを実装する一手目の資料としては重要な手がかりになるのではないだろうか。
見た目のちがいがない3種の実装手法
【FBX】【Alembic】【VAT】の各手法で実装した破壊シーン。見た目のちがいがほとんどないことがわかる
UE4における破壊実装手法の特徴を表にまとめたもの。ケースバイケースで状況は異なるため、実際にはきちんと検証することが必要だが、VATは作業コスト、Alembicはデータサイズに難があり、FBXは中庸であることがわかる。なおChaos Destructionは処理負荷以外で優秀だが、事例・情報に乏しい。また、PhysXは将来的には非サポートとなることが発表されている
RigidBody/SoftBodyの双方で実装可能な各ワークフロー
昨今の破壊表現では、リアリティを高めるためにSoftBody表現も随所に必要となってきている。今回の作例では、豚モデルや布、のれん、すだれなどでSoftBodyシミュレーションが行われたが、その実装には【Alembic】が使用されている
【Alembic】によって実装された各SoftBody
【FBX】によって実装された骨アニメーションによるSoftBody。骨アニメーションにベイクされるため、頂点単位の精度の高いアニメーションは再現できないものの、ゲーム開発においても現実的な処理負荷とメモリに収めやすいとのことだ