<3>クオリティを底上げする各種TIPS
ひと手間を惜しまず加えることで破壊の見た目が映えていく
続いて共有されたのは、破壊シーンのクオリティを上げるための様々なTIPS。例えばエフェクト実装に関しては、UE4の最新エフェクトツールであるNiagaraや、昨今のリアルタイムレンダリングでますます存在感を強めるレイマーチング手法による煙など、多彩かつテクニカルな手法が説明された。これらのTIPSは見た目に関するものに限らずEditor Utility Widgetを用いたマテリアルアサインの自動化といった現場で求める声の多いものなど、斎藤氏の幅広い知見が惜しみなく共有された。斎藤氏によれば「今回のレイマーチングに関しては、見た目重視の力技でのりきった面もあって若干恥ずかしくもあるのですが、そういう方法も情報のひとつかなと考え、思いきって盛り込んでみました」とのことだが、もちろん力技で押しきるだけでなく、マテリアルによる歪み表現なども盛り込んだ、テクニカルとアートのバランス感覚が垣間見える内容となっていた。
講演の最後には、UE4における撮影手法、バーチャルカメラやカメラシェイクトラックによる手ブレなど、映像制作の分野に訴求しそうな手法が紹介され、リアルタイムレンダリングの強みであるイテレーションの速さ、ライティングの瞬時の切り替えなども実例と共に紹介された。「今回たまたま、Twitterで『豚の目を光らせよう』というリプライをもらい、テンションが上がってしまってすぐに対応するということがありました。これはとても『あぁ、これ現場でもよくあるな』という修正要望で、実際の制作現場での無理や無茶を肯定したくはないのですが、UE4のリアルタイム性能を活かした良い例になったなと思っています」(斎藤氏)。変更内容としては影響範囲の小さい要望で、UE4上では再レンダリングも含めて15分ほどで対応したそうだが、プリレンダであれば数十分~数時間かけて全フレーム再レンダリングする可能性もある。リアルタイムレンダリングの対応力の高さを端的に物語るひとコマとなった。
今回の作例は、実際の破壊シーンのクオリティもさることながら、その裏にある数多くの下準備、ワークフロー、仕上げるための広範な知見が網羅的に提供され、高品質なアートワークには数々の技術が必要となることを改めて実感できるものであった。また、今回はオンライン上でのイベントとなったが、ライブストリーミング配信で見る場所を選ばないという利点やスムーズな運営など、視聴者からは多くの好評をSNS上で見かけることができた。今後の勉強会開催の指針にもなり得る素晴らしい勉強会だったように思う。「背景、VFXと展開してきたArtDiveですが、ひき続き各分野で開催していきたいと思っています」(斎藤氏)。
レイマーチングによる各種煙の実装
レンダーターゲットを用いた連番3Dテクスチャによる煙。4Kテクスチャを実に100枚以上使用という暴力的な実装。また、レンダーターゲットにレンダリングするために、実際にプレーンを100枚以上並べそれを撮影するというアイデアも面白い。「実際の開発でこの手法を使用したら怒られると思うので気をつけてください」(斎藤氏)とのことだが、当然である
メモリを節約するためにループ化されたレイマーチング煙。20fほどの長さで、中間フレームは補間もされている
メモリを削減したい場合、UE4にはリアルタイム流体オプションも用意されている。斎藤氏いわく「Volumetricsというプラグインもありますが、現行コンソールでは少し厳しい処理負荷です。映像用途には使えるかもしれません」とのこと
マテリアルによる動的な歪み
Pre-Skined Local Positionノードを用いての動的で自然な歪み。歪み自体はノイズノードを利用してワールドポジションオフセットで実装されている
実際のシーンにオフセットを適用したもの。板面などに有機的な歪みが追加され自然な壊れ感を演出している
UE4よる瞬時のライティングの切り替え
京都アセットには昼と夜のライティングがもともと用意されている。今回はそれを切り替えるだけで雰囲気のガラッとちがった破壊シーンを作成することができたとのことだ
Twitter上で要望された豚の目を光らせる修正を行なったもの。豚の目はエミッシブで光らせただけとのことだが、面白い雰囲気が醸し出されている