>   >  アルマジロの変形を嘘や誇張なくリアルに再現~ディズニー・ジャパン&白組が贈る、オリジナル短篇アニメ『ドラマヂロ』(1)【データ配布有】
アルマジロの変形を嘘や誇張なくリアルに再現~ディズニー・ジャパン&白組が贈る、オリジナル短篇アニメ『ドラマヂロ』(1)【データ配布有】

アルマジロの変形を嘘や誇張なくリアルに再現~ディズニー・ジャパン&白組が贈る、オリジナル短篇アニメ『ドラマヂロ』(1)【データ配布有】

<3> 実際の骨格に合わせたリグ構造とキャラクター性の両立

リグに関しても、見た目以上に難題が多かったようだ。「今回の企画を聞いて面白そうだなと思った反面、容易にはいかないだろうとも感じました。元々のオーダーとして、リアリティのある映像にしたい、ということでモデルの精密さが求められていました。頂点数が多いモデルが上がってくることになるので、アニメーション作業時のレスポンスの問題、それに対していかにリアリティのある変形をさせるかという部分が課題でした」と語るのは、リグ構築をはじめ本作のテクニカル面を一手に担った初鹿雄太氏。

  • 初鹿雄太/Yuta Hatsushika

構造に関してはかなり深く検討されており、まず「ツールでカバーできるものはリグ構造には含めない」とした。その基準の上でリグ構造の考え方を階層化し、アルマジロとしてのベーシックなリグ、帽子やスティックなどキャラクター固有の要素に対応するユニークリグ、丸まって移動する場合等特定の動きの中でのみ使用するスペシャルリグ、という3つの階層に分けた。特にスペシャルリグはアドオン形式になっており、必要なショットでのみアセットに追加するしくみになっている。

リアリティを担保するために、伸縮は使わずCG的に嘘をつかない変形を目指したが、特に背中の三つ帯部分の表現が困難だったという。「三つ帯は甲羅の固い部分と皮膚の柔らかい部分が交差しているので、様々なポーズに対応することに神経を使いました。また、帯の間の皮膚の面積が多く見えてしまうと生々しくなりキャラクター性を損なうため、変形時に違和感がない程度に帯の幅をリグ側で調整できるようにしています」(初鹿氏)。

また、細かい点で言うと、アニメーションを多少オーバーに見せるためのスクワッシュ機能や、首部分がめり込まないようにするために動的にスキンウェイトを変化させたりなど、様々な工夫が凝らされている。

今回のキャラクターはベーシックな四足歩行の動作に加え、丸まった状態で移動する、演奏をする、立ち上がって二足歩行をする等、芸達者なキャラクターであるため、当初はシチュエーションに合わせてリグを変えないと上手くいかないだろうか?という話もあったようだが、バリエーションを増やすとアセット管理のコスト、モデルやアニメーションの差し替えに負担がかかる他、画が繋がりにくくなるため演出自体も再検討せざるをえなくなる。そこで、最終的には1つのリグで全てをまかなえるようにセットアップされている。白組の技術の粋を凝らした秀逸なセットアップと言えるだろう。

ドラマヂロのリグ構造

▲実際に構築されたリグのテスト。見事に球状から変形ができるようになっている。また、今回モデルとリグとアニメーションが並行して作業を進めていたことから、モデルを置き換えるときのスキニング作業は一考したそうだ。「モデルは上がってくるたびにトポロジーが変わるわけです。リグはスクリプトで再構築可能ですが、問題はスキニング。トポロジー変更に耐えられるようにスキニング処理をしていかなければならないので、Additive Skinという、「頂点に依存しない処理のみでスキニングされた複数のスキンを合成し、モデルFix時にひとつのスキンに統合する」というトポロジーに依存しない非破壊なスキニングシステムを構築し、モデルの差し替えに対応しました。モデルの差し替えや、アニメーターに渡すときも自動的に置き換えられるようにツールを作成しています」(初鹿氏)

特殊なリグ

●Animated Deform

▲首の付け根部分は干渉しやすいため、コントローラでスキンウェイトの影響範囲を動的に調整できるようになっている。筆者はリグに関しては明るくないが、このやり方はなるほどと思った(ウェイトは絶対的なもので、あとはデフォームなりで処理するものだという固定概念があった)

▲球状になったときに間の帯部分のサイズや膨らみを自動または手動で調整できるようになっている

●Ground Collision【データ配布あり】

▲こちらは接地部分を変形させるように作成されたしくみだが、甲羅部分が柔らかく見えてしまうと違和感があるとのことで、最終的には使われなかった。接地が見えやすい作品だけに、こういった準備もなされていたようだ
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●Smear Deform【データ配布あり】

▲移動速度に合わせてモデルの端を変形させるしくみ。カートゥーン的な表現が可能だが、今回は見送られた
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メッシュの切り替え

▲初期から予見されていた通り、レンダー用のモデルでの変形処理が非常に重いため、そのままではアニメーション作業時のタイムスライダの操作等に非常に時間がかかってしまった。そのため、アニメーション用メッシュとの切り替えに工夫が凝らされている。「アセットを担当作業に最適な状態に切り替えるResponserというしくみを入れています。ただアニメーション用メッシュと本番用メッシュの表示を切り替えているだけではなく、負荷の高い処理もON/OFFしています」(初鹿氏)

自動回転制御システム「Rolling Addon」

▲ドラマヂロたちは転がって移動することが多いが、その動きを通常のリグで逐一表現するには手間がかかる。そのため、自動で回転を制御できるシステムを開発。丸まった状態になると簡易表示されて、球体を移動させるとその方向に向かって自動的に回転するようになっている。また、グラウンド用メッシュに自動的に接地するように移動するため、アニメーターは移動のキーとタイミングを調整するだけで済む。しかし、アセットにこのシステムを追加すると、転がる動きがないショットでもデータが重くなってしまうためアドオン形式でアニメーターが任意にアセットに追加できるようにしている

▲このしくみの応用として、回転したドラマヂロの上にリンゴを乗せ、さらにそのリンゴも回転【上】、など様々なシチュエーションで使うことができる。逆に、回転するリンゴの上にカゴを乗せ、さらにその上にドラマヂロが乗る【下】などの動きも容易に作成可能だ

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