本日12月18日(金)よりディズニープラスにて配信が開始された短篇アニメーション『ドラマヂロ』。本作はディズニー・ジャパン白組のタッグによる、日本オリジナルの作品だ。1話1分半の短尺に込められた様々な技術的挑戦について、2回に分けて紹介する。第1回はアルマジロのリアルな構造とコミカルな動きを両立させたキャラクター制作にフォーカスする。記事の最後ではR&Dの過程で検証されたリグのサンプルデータ無償配布も!

TEXT_草皆健太郎 / Kentaro Kusakai
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

ディズニープラスで第1話から第4話まで配信中
第5話と第6話は12/25(金)配信開始

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©Disney

<1>コンセプトは「アルマジロ×ストリートドラム×高円寺」

自らの甲羅を叩いてストリートドラムをしつつ、生き別れた父を探すアルマジロが主役のストーリーはどのように生まれたのだろうか。企画がスタートした2018年当初、監督の石井友博氏はウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社に在籍していた。「ディズニープラスの日本でのサービス開始を控え、日本発のローカルコンテンツとして、短編アニメーションの開発が始まったんです」(石井氏)。

写真左から 田仲森太郎氏、初鹿雄太氏、金子友昭氏、石井友博氏、向澤一輝氏、小森啓裕氏、梶川友明氏

そこで社内チームでミーティングが重ねられ、指針となる4つのテーマが設定された。そのテーマは以下の通り。

1.ディズニーだからできる
2.日本だからできる
3.ストーリーテリング
4.実験的な表現

まとめると、視聴者が思う「ディズニーらしさ」という期待を裏切らない、かつ日本らしいもの、ということだが「短編で考えてはいたんですが、やっぱりディズニーならストーリーがしっかりないといけないだろうと。ディズニーはストーリーを重んじているので、そういう部分を忘れないように意識していました」と石井氏は言う。

  • 石井友博/Tomohiro Ishii

その点を踏まえ、コンセプトとして掲げられたのが「動物×音楽」。そこから「動物」の要素として選ばれたのがアルマジロだった。「アルマジロは可愛いし、アルマジロが主役の作品というのは自分はまだ見たことがなかった。丸まれば固くなるし、アニメーションとしても転がったりできるのではないかと」(石井氏)。

さらに「音楽」の要素にはストリートドラムを採用。アルマジロの特徴である固い甲羅を活かし、体そのものを楽器にすることとなった。「配信プラットフォームでオリジナル短編アニメをつくることを考えたときに、大道芸のような、たまたま通りかかって『お、何かやってるな』と思ってもらえるような要素が必要だと考え、そこからストリートドラムに行き着きました」(石井氏)。

このあたりの考え方は、キーワードを元に組み立てていく定番の方法論とはいえ、(実際は相応に悩んだのかもしれないが)すらすらと組み立てられている点が素晴らしい。作品のコンセプトづくりは、躊躇しないところも重要なのだろう。

また、ストーリー性をもたせるため「父親を探して放浪しながらストリートドラムで生活している」という設定が生まれ、日本らしさという点から高円寺がロケーションとして選ばれた。「ミュージシャンが集まっていて、商店街は昭和的で日本にしかない風景」という点がポイントだったそうだ。

その後、パイロット版となる第1話の制作を経て、シリーズ化が決定。「1話完結をベースとしつつ、シリーズを通したストーリー性も必要になりました。ディズニー作品の王道である『親子の絆と友情』を軸として、このときは全10話で考えていました。音楽が世界を平和にする......という風にもっていければ良いなあと」と石井氏はふり返る。残念ながらコロナ禍の影響もあり、現在は6話までが制作されているとのこと。

実制作は白組が担当した。キャラクターデザイン~撮影~CGアニメーション制作~合成~グレーディング~本編集まで、基本的に社内で全工程をまかなっている。「最初にこの企画のお話があったときに、自分たちのあまり経験のない工程をまるっとアウトソーシングするよりも、作品の規模的にも小回りが利いた方が良いと考えまして、最終的なグレーディングまで含めてパッケージで担当させていただきました」と語るのは、アニメーション監督を務め、VFXも担当した白組・小森啓裕氏。

  • 小森啓裕/Yoshihiro Komori

「ドラムのリズムに合わせたアニメーションをすることに加えて、アルマジロをリアルに動かさないといけないという点が技術的に大きなポイントでした。最初フルCGでご相談いただいていて、さすがに全てのロケーションをCGで制作するとなるとコストが多くかかってしまうため、なるべくアニメーションに時間を割けるように撮影でやりましょう、実写合成でどうですか、と弊社からご提案させていただいたんです」(小森氏)。とはいえ、なかなか前例のないテイストだったため、当初は作品のトーンを決めるのに苦労したそうだ。また、予算の中で演奏も含めたキャラクターアニメーションと実写合成を成立させるために、表現と技術の良い落としどころを探ってアイデアを出し合い、R&Dと第1話の制作を経て実写背景に合わせたリアルかつコミカルなアルマジロの表現と、ACESによるシーンリニアワークフローを軸とした制作体制を確立させていったという。次項からはアルマジロのCG制作について解説していく。

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<2> 物語の主役となるドラマヂロのキャラクターデザイン

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<2> 物語の主役となるドラマヂロのキャラクターデザイン

企画と制作フローがおおよそ固まってきた段階で、さっそく主役となるドラマヂロのモデル制作に取りかかった。制作にあたっては写真・動画や骨格、解剖図など様々な資料を収集し、実物のアルマジロの取材も敢行。これらの情報を基にデザイン画を起こし、甲羅の部分と体の部分に手分けをして作業を進めていった。「キャラクターもののモデリングでは、通常あまり見えない部分はディテールを省略したりします。ところが、ドラマヂロに関しては、最も多く登場するのが丸まってドラムを叩くポーズなんですが、足の裏やスティックをもつ前足、お腹まで全部見えちゃっているんです。しかもそういう箇所に限ってディテールが密集しているので、その部分はかなり時間を割いてモデリングしました」と、モデリングを担当した向澤一輝氏は語る。

  • 向澤一輝/Kazuki Mukaizawa

モデリングはZBrushSubstance Painterで行い、それを3ds Maxにもち込んでV-Rayでレンダリングするというフローで進められた。このアルマジロというのがなかなか難しいモチーフで、丸く変形するのだが、実際のアルマジロは球体ではなく、ラグビーボールに近い形になる。しかし、リクエストとしては丸まった状態で転がれるよう球体に変形でき、かつキャラクターとしての可愛さも表現する必要があるとのことで、モデル~リグ~アニメーションの担当者間で相互にデータを往き来しつつ、各ポジションで調整を加えていったという。

また、アルマジロは観察すればするほど複雑な造形で、毛が生えていたりシワが多かったりするとのこと。「実際のアルマジロをみるとけっこうシワが深いんですけど、忠実に表現するほど老けて見えてしまう。ドラマヂロは少年の設定なので、見た目の印象と実際のディテールの入れ方のバランスにはなかなか苦労しました」(向澤氏)。

さらに、リグやアニメーションの項でも触れるが、作中ではサッカーボール程度の大きさのアルマジロが地面を歩いたり転がったりするためローアングルが多く、接地がわかりやすく目立つ。ディスプレイスメントマップを使うとアニメーターが作業時に接地を確認できないということもあり、実際のジオメトリでディテールを直接表現している部分が多い。

ルックに関しても当初は白組のオフィス近くで撮影されたHDRIを基につくっていたそうだが、その後、実際の現場で撮影したHDRIを作成したことにより、そこで詰められている。またロケハンなどでアングルチェックをする際に、第1話ではサッカーボールをドラマヂロに見立てていたが、制作途中からCGモデルを基に同社のミニチュア班が3Dプリンタを使ってドラマヂロのモックアップを作成、活用された。

  • ◀3Dプリンタで作成されたドラマヂロのモックアップ

アルマジロに関する考察

▲実写合成作品ということもあり、キャラクターがデフォルメされすぎないよう、リアリティとキャラクター性が両立されるようにデザインが進められている。そのためにまずはアルマジロとはどんなものなのか、実物の観察も含め様々な資料を基に各部署で研究された。アルマジロは哺乳類で、骨格的にはネズミに近いのだそうだ。同じアルマジロでもかなりの種類が存在するが、実際に丸くなることができるのはミツオビアルマジロと呼ばれる背中の蛇腹が3つの種類だけらしく、ドラマヂロはいくつかの種類のアルマジロから要素を取り出してデザインされている。また、写真をみると、お腹は毛がふさふさだ。当初石井監督は「このふさふさに色々しまえて便利」と思ったそうだが、体が球状に変形する上に毛がふさふさではコスト的に大変......ということで、丸まったときに干渉しない程度の長さに抑えられた。さらに、実際には全然丸くはならないこともわかる。ドラマヂロは転がって移動することもあるため、いかに球状にするかというのもポイントだったという

キャラクターのベースとなるデザイン画

▲リアリティをもたせつつも丸く、可愛くとのことでデザインされたドラマヂロと、その父親パパマヂロ。サイズ的にはサッカーボール程度を想定したそうだ。というのも今回撮影するにあたって、あまりに小さいとカメラの最低高が足りなくなってしまう。実際のアルマジロはサイズも様々だが、あまり大きすぎても怖くなってしまうので、このサイズに決定したとのこと。また、設定がストリートドラマーということもあり、パパマヂロにはミュージシャンらしさも加えられている。よく見るともみあげがあったりハンチング帽をかぶったりしているが、これは某有名ギタリストをモチーフにアレンジが加えられたという

▲4話から登場するドロボヂロ(右)は、ドラマヂロよりひとまわり大きく、甲羅を叩くと金属っぽい音がする設定で、ミツオビアルマジロとココノオビアルマジロをミックスした架空の動物としてデザインされている

ドラマヂロモデルの制作

▲モデルはZBrushでつくり込まれている。その後Substance Painterでペイントされ、3ds Maxにもち込みV-Rayでレンダリングされる。つくり始めた頃は甲羅の模様もかなり整然と並んでいたそうだが、実際のアルマジロを見るとかなり複雑な模様だったため、アルファマスクをいくつも組み合わせて再現している。また、鼻も特徴的で、実物は常にひくひく動いているそうなのだが、あまりリアルにすると生々しくなりすぎてしまうので、やや抑えめにディテールアップされている

▲Substance Painterでの作業画面。左が体、右が甲羅。足も特徴的で、後ろ足側は肉球(のちにバスドラムとなる)、手(前足)側は鋭い鉤爪になっている。このツメの質感は足の先に生えている部分だけではなく皮膚の様々な部分に存在し、このあたりはSubstance Painterを駆使して再現したそうだ

▲3ds Maxに読み込んだモデル。ディスプレイスメントマップを使用せず全てメッシュで制作しているため、ワイヤフレーム表示にするとその密度の高さがよくわかる

▲V-Rayでレンダリングし、質感チェック

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<3> 実際の骨格に合わせたリグ構造とキャラクター性の両立
【データ配布あり!】

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<3> 実際の骨格に合わせたリグ構造とキャラクター性の両立

リグに関しても、見た目以上に難題が多かったようだ。「今回の企画を聞いて面白そうだなと思った反面、容易にはいかないだろうとも感じました。元々のオーダーとして、リアリティのある映像にしたい、ということでモデルの精密さが求められていました。頂点数が多いモデルが上がってくることになるので、アニメーション作業時のレスポンスの問題、それに対していかにリアリティのある変形をさせるかという部分が課題でした」と語るのは、リグ構築をはじめ本作のテクニカル面を一手に担った初鹿雄太氏。

  • 初鹿雄太/Yuta Hatsushika

構造に関してはかなり深く検討されており、まず「ツールでカバーできるものはリグ構造には含めない」とした。その基準の上でリグ構造の考え方を階層化し、アルマジロとしてのベーシックなリグ、帽子やスティックなどキャラクター固有の要素に対応するユニークリグ、丸まって移動する場合等特定の動きの中でのみ使用するスペシャルリグ、という3つの階層に分けた。特にスペシャルリグはアドオン形式になっており、必要なショットでのみアセットに追加するしくみになっている。

リアリティを担保するために、伸縮は使わずCG的に嘘をつかない変形を目指したが、特に背中の三つ帯部分の表現が困難だったという。「三つ帯は甲羅の固い部分と皮膚の柔らかい部分が交差しているので、様々なポーズに対応することに神経を使いました。また、帯の間の皮膚の面積が多く見えてしまうと生々しくなりキャラクター性を損なうため、変形時に違和感がない程度に帯の幅をリグ側で調整できるようにしています」(初鹿氏)。

また、細かい点で言うと、アニメーションを多少オーバーに見せるためのスクワッシュ機能や、首部分がめり込まないようにするために動的にスキンウェイトを変化させたりなど、様々な工夫が凝らされている。

今回のキャラクターはベーシックな四足歩行の動作に加え、丸まった状態で移動する、演奏をする、立ち上がって二足歩行をする等、芸達者なキャラクターであるため、当初はシチュエーションに合わせてリグを変えないと上手くいかないだろうか?という話もあったようだが、バリエーションを増やすとアセット管理のコスト、モデルやアニメーションの差し替えに負担がかかる他、画が繋がりにくくなるため演出自体も再検討せざるをえなくなる。そこで、最終的には1つのリグで全てをまかなえるようにセットアップされている。白組の技術の粋を凝らした秀逸なセットアップと言えるだろう。

ドラマヂロのリグ構造

▲実際に構築されたリグのテスト。見事に球状から変形ができるようになっている。また、今回モデルとリグとアニメーションが並行して作業を進めていたことから、モデルを置き換えるときのスキニング作業は一考したそうだ。「モデルは上がってくるたびにトポロジーが変わるわけです。リグはスクリプトで再構築可能ですが、問題はスキニング。トポロジー変更に耐えられるようにスキニング処理をしていかなければならないので、Additive Skinという、「頂点に依存しない処理のみでスキニングされた複数のスキンを合成し、モデルFix時にひとつのスキンに統合する」というトポロジーに依存しない非破壊なスキニングシステムを構築し、モデルの差し替えに対応しました。モデルの差し替えや、アニメーターに渡すときも自動的に置き換えられるようにツールを作成しています」(初鹿氏)

特殊なリグ

●Animated Deform

▲首の付け根部分は干渉しやすいため、コントローラでスキンウェイトの影響範囲を動的に調整できるようになっている。筆者はリグに関しては明るくないが、このやり方はなるほどと思った(ウェイトは絶対的なもので、あとはデフォームなりで処理するものだという固定概念があった)

▲球状になったときに間の帯部分のサイズや膨らみを自動または手動で調整できるようになっている

●Ground Collision【データ配布あり】

▲こちらは接地部分を変形させるように作成されたしくみだが、甲羅部分が柔らかく見えてしまうと違和感があるとのことで、最終的には使われなかった。接地が見えやすい作品だけに、こういった準備もなされていたようだ
データ配布はこちらから

●Smear Deform【データ配布あり】

▲移動速度に合わせてモデルの端を変形させるしくみ。カートゥーン的な表現が可能だが、今回は見送られた
データ配布はこちらから

メッシュの切り替え

▲初期から予見されていた通り、レンダー用のモデルでの変形処理が非常に重いため、そのままではアニメーション作業時のタイムスライダの操作等に非常に時間がかかってしまった。そのため、アニメーション用メッシュとの切り替えに工夫が凝らされている。「アセットを担当作業に最適な状態に切り替えるResponserというしくみを入れています。ただアニメーション用メッシュと本番用メッシュの表示を切り替えているだけではなく、負荷の高い処理もON/OFFしています」(初鹿氏)

自動回転制御システム「Rolling Addon」

▲ドラマヂロたちは転がって移動することが多いが、その動きを通常のリグで逐一表現するには手間がかかる。そのため、自動で回転を制御できるシステムを開発。丸まった状態になると簡易表示されて、球体を移動させるとその方向に向かって自動的に回転するようになっている。また、グラウンド用メッシュに自動的に接地するように移動するため、アニメーターは移動のキーとタイミングを調整するだけで済む。しかし、アセットにこのシステムを追加すると、転がる動きがないショットでもデータが重くなってしまうためアドオン形式でアニメーターが任意にアセットに追加できるようにしている

▲このしくみの応用として、回転したドラマヂロの上にリンゴを乗せ、さらにそのリンゴも回転【上】、など様々なシチュエーションで使うことができる。逆に、回転するリンゴの上にカゴを乗せ、さらにその上にドラマヂロが乗る【下】などの動きも容易に作成可能だ

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R&Dデータの配布はこちらから!

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配布データ概要

記事中で紹介した2種類の検証データを、無償で配布致します。3ds Maxやリグに興味のある方はぜひご活用ください!

●Ground Collision

地面との簡易コリジョンのしくみのサンプルデータです。

●Smear Deform

移動速度に合わせてモデルの端を変形させるしくみのサンプルデータです。

利用にあたって

・対応環境

Autodesk 3ds Max 2018/2019/2020

・免責事項

商用、非商用問わず利用可能ですが、サンプルデータの使用にあたり、何らかの損害が生じた場合でも白組およびボーンデジタルは一切その責任を負いません。

下記ボタンよりデータをダウンロードしてください。

Ground Collision(zipファイル)

Smear Deform(zipファイル)

>>第2回に続く