ディズニー公式動画配信サービス「ディズニープラス」にて第1話〜第4話が配信中の短篇アニメーション『ドラマヂロ』。本日12月25日(金)にはシーズン2(第5話・第6話)が配信開始となった。1話1分半の短尺に込められた様々な技術的挑戦について、第2回は各話数ごとのアニメーション~グレーディングまでのプロダクションワークフローと、ACESで統一された破綻のないカラーパイプラインを紹介する。

TEXT_草皆健太郎 / Kentaro Kusakai
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

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ディズニープラスにて第1話から第6話まで配信中

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<1> コンパクトにまとめられ効率化されたワークフロー

リアルな質感のキャラクターに実写の背景、だがアニメーション作品として動きはキャラクターに愛着が湧くようコミカルに。という方針で進められた本作は、作品のトーン決定だけでなく制作フローの策定にも様々な試行錯誤があった。第1話をパイロット版として制作したのち、その結果を踏まえてさらに改良を重ねることで、効率良く制作を行うワークフローを確立したという。

限られた予算の中でコンパクトに撮影から完成までもっていかなければならなかったが、リアルなCGの実写合成はそうやすやすとは実現できない。そこでポイントとなったのがカラースペースをACESに統一し、一本化された制作フローだ。「当時CM制作でACESを使って実写合成するというフローがチームの中で浸透してきたところだったので、徹底的に無駄をなくすためにも撮影からグレーディングまでの全工程をACESでやった方が良いと考えました。グレーディング時にも撮影したときのダイナミックレンジを活かすことができれば、ワークフローとしてマッチするのではと」と、アニメーション監督を務め、VFXも担当した白組・小森啓裕氏は語る。

写真左から 田仲森太郎氏、初鹿雄太氏、金子友昭氏、石井友博氏、向澤一輝氏、小森啓裕氏、梶川友明氏

当初はPanasonic LUMIX DMC-GH4を使用したlog撮影であったが、ACES環境におけるグレーディング作業やダイナミックレンジと相性があまり良くなかったことや、撮影時の立ち回りを考慮して途中からBlackmagic Pocket Cinema Camera 4Kに変更し、Blackmagic Design独自のフォーマットであるBlackmagic RAW(BRAW)で撮影された。

撮影の際にはキャラクターの位置やカメラの位置などの測定に加え、HDRI撮影なども行う。撮影した素材はBRAWのままDaVinci Resolve(以下、DaVinci)にもち込みACES-Linear環境で現像、ショットごとの差異やホワイトを調整した後にOpenEXR形式で出力、CGのバックプレートに。それを使ってCG側でキャラクターのアニメーション、ライティング、レンダリングを行いNUKEでのコンポジットへ。カットの確認作業にはHIEROも使用された。NUKEではバックプレートとCGを合成し、再びACES-LinearのOpenEXR形式でDaVinciにインポートする。最後に、DaVinci内で元々の撮影されたプレートと合成された素材を入れ替え、グレーディングを施し、最終的な編集を経て、tifの連番として納品する、というながれだ。

このやり方はDaVinciを軸に、各ソフト間のデータのやりとりはACESに統一されているため、一度フローを確立してしまえば色のズレが起こらないという。従来のワークフローではそもそも撮影をlogで行い、いったんプリグレーディングを施した素材をCGに渡すとCG側でも色を合わせることが見た目頼りになってしまい、コンポジットでそのズレを整えても結局グレーディングでまたズレを補正し、最終的には本編集でも調整......と、データをやりとりするたびに画づくりとは本来関係のない色調整が必要になってくる。今回はコンパクトな体制での制作ということもあるが、シンプルなカラーパイプラインを採用したことによって制作フロー全体がストレスのないように組み立てられている。

カラーパイプライン

▲本作のカラーパイプラインは図の通り。大まかなながれを書くと、Blackmagic Pocket Cinema Camera 4Kを使用し、Blackmagic RAW(BRAW)で撮影。撮影素材をACES(ビューイングはRec.709)の設定を行なったDaVinci Resolveに読み込み現像、オフライン編集を行いバックプレートとしてOpenEXR形式で出力。CG側は3ds MaxとV-Rayを使って、同じくACES(ビューイングはRec.709)の設定がされたV-Ray Frame Buffer上で確認しつつライティング作業を行い同じくOpenEXR形式で出力。合成時は、NUKE上でも同じACESの環境設定を行いDaVinciから出力したバックプレートとCGを合成し出力。合成されたものを再度DaVinciにもち込み、グレーディングと編集を行う。文章化すると複雑に感じるが、常にカラースペースはACESを軸に使い、RRTを通して確認をしているため色情報を損なうことなく最後まで一貫して同じカラースペースとダイナミックレンジを保持したままグレーディングと編集が可能になっている。また一度パイプラインが構築されれば、現場で撮影したHDRやキャラクターのテクスチャもACESに変換して使用しているため、CGの合成もその後のグレーディングでも、色を個々に調整する必要がない

<2>効率的な撮影のための準備

コンテが作成された後ロケハンを行い、それを基にまずはプリビズを制作。ロケハン時には、カメラからキャラクターまでの距離やタイルの目地など、プリビズ制作のための各種計測も合わせて行われた。「初回のパイロット版ではスチルでしか記録を撮っていなかったので、プリビズが組み立てにくいという問題がありました。CGで仮の商店街のモデルを起こし実際のカメラワークの検証を進めていたのですが、これが結構大変で。第2話からロケハン時にも本撮影を想定し、アングルチェックを兼ねてカメラを回すことにしました。そうしてロケハンでのカメラワークを基にプリビズを作成し、石井監督にも見ていただいた上で本番はプリビズ通りに撮りきるという方法に行き着きました」(小森氏)。

  • 小森啓裕/Yoshihiro Komori

加えて、制作初期は現場の写真をスマートフォンで撮影し、プリビズの商店街モデルに貼り込んでいたが、こちらも途中から撮影した写真を基にReality Captureによるフォトグラメトリで商店街を再構築する手法を採用。予想より精密にデータが取れたため、このデータをプリビズ以外のアニメーションやライティングの工程においても大いに活用できたとのこと。

また、現場でのキャラクター位置等の計測の際、従来は測定値をノートに手書きで記録していたが、今回はiPadで対象を撮影し、写真に直接測定値を書き込むことで、対象と数値を突き合わせる手間が大幅に削減でき時短になったという。「ノートに書くと現場では殴り書きになりがちで後から何を書いたかわかりにくくなることもあったので、写真に直接書き込めるのはとても便利でした」(金子氏)。

今回キャラクターがサッカーボールサイズでほぼローアングルでの撮影だったため、雲台を装着した状態で高さ8cm程度になるサイズの三脚を撮影部が自作したという。「撮影は1日で終わらせる予定だったのですが、撮影の時間帯が冬の日中だったので太陽の位置が変わりやすく、なるべくタイトにやっていこうと言うことで、撮影部とも相談して機動性の高いカメラを用いつつレンズやカメラ高などロケハンの段階できっちり固めてから撮影に臨みました」(小森氏)。

前回も紹介したように第1話の撮影ではドラマヂロのアタリにサッカーボールを使用していたが、途中から本作のミニチュア班(GEN MODELSの元内義則氏)が制作したモックアップに切り替えたことで、よりスムーズに進行することができたという。撮影の際には、並行してHDRI用の撮影も実施した。

撮影

▲撮影の様子。主に高円寺の商店街で行われたが、シチュエーションによって中野、神田、行徳、野方などでも撮影された。本編には人物も登場するが、目立つところはスタッフや、ディズニーの社員がエキストラとして入り、通行人を演じている。「商店のシャッターが閉まっていると殺風景で色のない世界になってしまいますが、カラフルな服装のエキストラを歩かせるなどしてバランスを取りました」(石井友博監督)

フォトグラメトリ


  • ▲現場で撮影したフォトグラメトリ用の写真の一部

▲Reality Captureでのフォトグラメトリの様子

▲フォトグラメトリによってデータ化された商店街。予想以上に高精細なデータが作成でき、様々な工程で活用された

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<3>写実的なキャラクターとコミカルな演技のさじ加減

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<3>写実的なキャラクターとコミカルな演技のさじ加減

撮影後はレイアウトを経てアニメーション作業に入る。いざアルマジロをアニメーションさせようと考えたとき、キャラクターとしてどのように作品と相性の良い表現を行うべきか。リアルなアルマジロとキャラクターらしさが成立する落としどころを見つけるまでにはかなり苦労があったようだ。

特に、R&Dの段階ではフルフレームのアニメーションで検証を行なっていたが、それにより、逆にキャラクター自体が割と硬質なイメージになってしまうことに気が付き、第1話のパイロット版では、「甲羅に動作が縛られて動きまで硬くなりすぎないように、自由に動いている感じ、かつこの作品におけるキャラクターらしさが際立つ表現を確立する」(小森氏)ことを目指して、リードアニメーターの金子友昭氏と試行錯誤がくり返された。

  • 金子友昭/Tomoaki Kaneko

「アニメーションの方向性を色々試していく中では、誇張表現のさじ加減の見極めが最も難しかったです。ディズニー作品ではありますが、僕らが"ディズニーアニメーション"と聞いて想像するストレッチ&スクワッシュを多用したカートゥーンアニメ的な誇張表現はキャラクターデザイン的にマッチしない。そこで案のひとつとして出てきたのが"コマ撮り風表現"でした」(金子氏)。この案により細かくドラムを叩く部分等を除いて基本は2コマ打ちのアニメーションとすることで、実写合成作品として実物感を出しながらコミカルなキャラクター性を表現している。

また、「体を楽器として叩く」という本作の設定上、演奏シーンはストリートドラムのパフォーマンスとしての動きを表現することに重点が置かれた。ドラマヂロたちの体をドラムセットに見立て、叩く位置とバスドラムやスネアといった打楽器の対応をあらかじめ決めておき、演奏する曲に合わせてアニメーションを付けていった。「最初は細かく楽器の対応ルールに従ってアニメーションをつけていましたが、話数が進むとポーズによっては無理な動きになってしまうところもあって、そういった部分はルールよりも演奏感重視で動きをつけました」(金子氏)。

  • 梶川友明/Tomoaki Kajikawa

アニメーションワークフロー

▲第1話のパイロット版制作を通して、金子氏と梶川友明氏が中心となって策定されたプロダクションのフロー。コンテが完成した後に作打ちでそれを紐解きつつ小森氏がカットごとの細かな演出プランをドキュメント化しアニメータに提示したという。その後ロケハンを行いその際の計測データを基にプリビズを作成、フレーミングの検証等を経て本番撮影を実施。撮影素材を基にレイアウトを決め、アニメーションを付けていく。大体1話あたり25〜30カットを2〜3名のアニメーターが担当し、作業が進められた

叩く部位と楽器の対応

▲【左】あらかじめ設定されたドラマヂロの楽器構成/【右】作曲家が制作した曲の各楽器ごとにトラック分けされたデータをガイドとして演奏シーンを組み立てていく。「演奏が複雑なシーンの場合は、事前に叩く場所やタイミングのわかるガイドを作成し、それをテンプレートにアニメーションを付けていました」(梶川氏)

コミカルな動きの表現

▲【左】3ds Max上でのコマ打ちアニメーション制作画面。カット内容に応じて3ds Max内でキーをステップにしてアニメーションを付ける方法か、3ds Maxでは普通にアニメーションを付け、その後After Effectsでタイムリマップを活用する方法を併用してコマ撮り感を表現した。後者の方が後からの修正には対応しやすかったという。また、AEで調整したタイムリマップ情報は、スクリプトによってNUKEのFrameHoldノードに渡せるようになっており、NUKEでのコンポジット作業時にコマ打ちの再現が可能になっている/【右】コマ打ちアニメーションの他にも、コミカルさを演出するために様々な表現が使われている。例えばスティックを回転させる場面では作画アニメーションでいうところの「オバケ」表現で、残像を実際にモデルを配置して表現している

▲持っていたものがなくなった表現を点線で表しているカット。このように、随所にコマ撮りやクラシックカートゥーン的表現が盛り込まれている

フォトグラメトリを活かしたアニメーション

▲【左】背景撮影の様子/【右】フォトグラメトリによりデータを活用したアニメーション制作シーン。もともとはプリビズ制作のために導入されたフォトグラメトリだったが、そのデータはアニメーション制作においても大いに役立った。「現実の現場は完全な水平ではないことがほとんどで、アニメーションの際は傾斜を再現した地面を3ds Max内に別途準備する必要があったのですが、フォトグラメトリデータが取得できたことで、キャラクターの動きを現場の傾斜に簡単に合わせることができ、接地に関する作業が非常に行いやすかったです」(梶川氏)。特に今回はキャラクターのサイズ上ローアングルで接地がかなり目立つことに加え、丸くなって地面を転がるアニメーションも多かったため、計測が困難だった地面の傾斜や凹凸が再現されていることは大きなメリットとなった。またHDRIの位置調整やライティング時に影をキャストする地面としても活用の幅が広がり、非常に役立ったとのこと

▲フォトグラメトリが活用された、ドラマヂロが地面を転がっていくアニメーションの一部

<4>現場の照明を活かしたライティングと、演出のためのグレーディング

色の管理に関しては、先述の通りカラーワークスペースにACESを用いている。最終的にRec.709での納品となるが、ライティング〜合成〜グレーディングの工程はACESで管理することにより高い合成精度やグレーディングの柔軟性に繋がった。基本的に撮影時は照明を焚かずに現場の照明のみで撮影をしているため、HDRIでのライティングは非常に馴染みやすい反面キャラクターの光量が不足するカットもあり、CG上で演出的なライトを足して視認性を上げている。

  • 田仲森太郎/Shintaro Tanaka

BRAWの現像

▲前述の通り、今回の撮影はBlackmagic RAW、略してBRAWで行われた。BRAWはBlackmagic Design独自のフォーマットであるためDaVinciとの相性が良く、カメラロールそのままで編集作業が行え、扱いやすかったという。RAWデータのままDaVinci内でオフライン編集を行い、その時点でView LUTはACES Rec.709で確認している。BRAWで撮影されたプレートのカラーチャートに合わせてプレグレーディングを施したのち、リニアで出力されてCG部に渡される。また、今回撮影の段階からかなりノイズは少なかったが、暗い部分はやはりどうしてもグレインノイズが強くなりやすい。だがDaVinciのデノイズはかなり優秀で、暗部のノイズは明るい部分に合わせて抑えられてからプレートとして出力されている。【左】撮影時のイメージ/【右】DaVinciでのBRAW現像の様子

HDRIの作成

▲【左】HDRは現場で3方向を魚眼レンズで撮影する従来のやり方で取得されているが、RAWで露出を9段階に分けて撮影した後Photoshopでホワイトバランスを調整しsRGBに変換、PTGuiでスティッチしてパノラマに【右】。この時点ではsRGBのOpenEXR形式ファイルになっている

▲その後NUKEでACESにカラースペースを広げ、素材と合わせて撮影した、リニア化したオリジナルプレートのカラーチャートから色情報を取得してトーンマッピングを行い、オリジナルプレートに合ったHDRIとして出力

ライティング

▲【左】ライティングは基本的にはHDRIをベースとし、光量が足りないと感じる箇所には補助的に3ds Max内でライトを足している/【右】V-Ray Frame Bufferでのレンダリング結果

▲【左】NUKE上でCG素材と背景プレートを合成/【右】結果。現場の照明のみで撮影を行なったため、背景プレートとのマッチングは非常に円滑だったという。「バチッと合ったときは非常に気持ち良いですね。経験上、従来の方法だとなかなか合わないので。ACESによる一貫したカラーマネジメントを行うことでライティング、コンポジットのみに良いかたちで集中することができました」(田仲森太郎氏)

▲HIERO上でのプレビューの様子

グレーディング

▲最後にCGが加えられた素材をDaVinciに再度読み込み、グレーディングを行う。「出来上がった素材は、CGはすごく馴染んでいるんですが、撮影時に照明がカットを通してつながっていなかったり、キャラクターに目が行きにくいカット、また、その演出に最適な色味とは言いにくい場面も存在していました。グレーディング時にACES環境での利点を活用することで、部分的に極端な色味の調整を行なっても撮影時に取得した情報を破綻させることなく、現場で照明を足したり変更したりするのと同じような効果を後処理で再現することができました」(小森氏)。コンポジット後の監督チェックで出た色に対するリクエストも、この方法ではDaVinci上で対応が可能だ。また、必要に応じてFusionを使って映り込みや照り返しを足したり、AEで素材を作成したりすることもあったという

▲完成したカット。「破綻なく背景とCGキャラクターとをセットでグレーディングできるのがとても良いです。実写にCGを合成したものをさらにグレーディングする場合はレンジがピッタリ合って合成が馴染んでいて、かつ階調が工程の最後まで保持されていることが重要です。今回はそれが実践できてとても満足のいく結果を得ることができました」(小森氏)