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実在感を支える画づくりの妙〜『FINAL FANTASY VII REMAKE』(3)VFX&ライティング

実在感を支える画づくりの妙〜『FINAL FANTASY VII REMAKE』(3)VFX&ライティング

国内タイトルでは珍しい独立したライティングチーム

ゲーム部門でライティング専門チームが組織されることは国内タイトルではまだ珍しい。本作のライティングチームは、量産へとフェーズが移行するのと前後して、クオリティアップを目指して編成された。

「目指すものとして原作が存在していますが、それを単純に再現するわけではない、かと言って一新してまったく新しい世界をつくるわけでもない。原作を引き継ぎつつ、現代的に咀嚼していきました」と語るライティングディレクター・山口威一郎氏は合流当初、まず現実世界に沿ったライティングを試行。しかし現実世界に沿ったライトを模範しても『FFVII』の世界観にはマッチしないと感じ、改めて入念に原作を観察。



  • 山口威一郎/Iichiro Yamaguchi
    ライティングディレクター


  • 亀川淳史/Atsushi Kamegawa
    シニアライティングアーティスト(フリーランス)

「原作のミッドガルは様々な種類の照明が使われ、ごちゃごちゃとした雰囲気が特徴になっています。カラコレで彩度を抜いたりライトに統一性をもたせるといったことはあまりせず、ロケの特徴を出しています。今作では併せて、そういったSF色の強いルックの映画なども参考にしてイメージを固めていきました」(シニアライティングアーティスト・亀川淳史氏)。

チームメンバーの多くはプリレンダーCG映像制作出身者で、フォトリアルなライティングに長けたメンバーが揃っていた。「反面、リアルタイムとしての処理負荷を気にする習慣は身についていなかったため、初期にはダイナミックライトを大量に配置してしまい、その後見た目と処理負荷の兼ね合いに試行錯誤するといった場面もありました」(山口氏)。

そうしたゲーム開発の経験値は、最初に取り組んだ壱番魔晄炉で蓄積されていった。それもあって、冒頭の電車を降りる場面からの一連のシーンはこだわりの込められた仕上がりになっているという。「何もないところから手探りのチーム起ち上げとなりましたが、結果としてリアルタイムであってもプリレンダーに近づけることができたと手応えを得られました。ゆくゆくはプリレンダーに並ぶ画をつくる、というのを目指していきたいと思います」(山口氏)。「ユーザーからの期待の大きさもあり相当のプレッシャーがありましたが、世に出てみるとクラウドが格好良いとか、コルネオの怪しい雰囲気とか、すごく成果を実感できる反応を目にすることができました。そうした声を損なわないよう、さらにその上へとクオリティを押し上げていきたいと思います」(亀川氏)。

方向性の試行錯誤

▲【左】ライティング作業当初の、演出要素を排除しリアル値だけでライティングした状態。「工業地帯へ取材に出かけ、そこで撮影した光源を調べてゲーム内のライトアセットに適用しました」(山口氏)。データ的にはリアル値を使っているが環境デザインにはあまりマッチせず、ゲーム開始のロケーションとしての印象も弱かった/【右】原作を見直すなどして印象を汲み取り、演出を加えたライティング。「ユーザーが一番最初に目にするロケーションなので、インパクトを重視しています。一部のライトの配置は現実にはあまりない配置となっていますが、画面奥からの強い光で逆光感を強調した、ドラマティックなライティングにしています」(山口氏)

フィールドライティングのながれ

▲本作のライティングは、フィールドロケとカットシーンの2つに大別される。2nd Passを終えてENV班からライティング班へ渡ってきた状態のウォールマーケット「屋台通り」のアセット。ロケーションにもよるが、もっとラフに近い段階からライティングが関与し、雰囲気づくりのために仮ライトを仕込むというケースもある

▲段階的にライトを仕込んでいき完成度を高めていく。「どこかを集中して進めるのではなく、ロケーション全体でまず60〜70%に引き上げ、そこから詰めていきます」(亀川氏)

▲完成した実機画面。薄くフォグを適用し雰囲気を高め、明暗でユーザーの視線や進路を誘導している

▲同様に、地下下水道のボス・アプスと戦闘する部屋のライティング。ENV班からアセットを受け取りライティングを開始。部屋の中央やなど各所にプレイヤーキャラやアプスを複数配置し、全体のバランスを見ながら作業を進める。この時点ではフォグ感が強く、照明がやや黄味がかっている

▲調整途中の様子。段階的にフォグ感や黄色い照明を弱める方向で修正が重ねられている

▲【左】フォグ感を強め、やや青緑のトーンに調整。アプスがぶら下がるキャットウォークにも意識的にライトを配置するため仮のアプスが置かれている/【右】完成した実機画面。さらにフォグ感を強め、アプスのシルエットが出るよう調整された

天球の作成

▲天球は背景アセットをENV班から受け取り【左】、球状にレンダリング、Nukeで合成して作成している【右】。レンダリングにはArnoldを使用。「事前に要素ごとにグループ設定をしてもらっていたので、それをRenderSetupに登録しレイヤーを分けてレンダリングしています」(山口氏)。画像は七番街スラムの例で、Mayaからレンダリングされるレイヤー数は6、テクスチャサイズは8,192✕2,048となっている。昼と夜があるロケーションでは、コンポジット時にできるだけレイヤーを共有する組み方にしておくことでレンダリングコストを抑制。ミッドガルのプレートの上であれば上空は雲や星だが、プレートの下の街で上空に見えるのは、プレートの下面。「プレート上は基本的に夜空で多少ディテールが甘くても大丈夫なので天球テクスチャサイズは4Kでしたが、プレート下ではディテール感を出す必要があり8Kテクスチャを多用しました。さらに8Kでもディテール感が足りないという箇所も多々ありました」(山口氏)

カットシーンライティング 

▲カットシーンライティングは、大きく3つのステップで制作していく。画像はカットライトのない状態

▲仮ライト

▲ブラッシュアップライト

▲ポストプロセスで全体のトーンを整え、処理負荷対策まで行なった最終的なライティング。処理負荷の高いカットシーンでは、シャドウを抑えるなど負荷と見た目の品質のトレードオフに頭を悩ませることも。「エフェクトやフィールドとで処理負荷の配分があり、それぞれ余裕があれば譲り合って『エフェクトの処理負荷に余裕があるのでもっとライトを追加していいよ』などのやりとりがありました」(亀川氏)。ポストプロセスについては、前述した頭痛エフェクトなどのポストプロセスはVFX班が担当する一方、ライティング班は被写界深度・モーションブラー・輝度値に対するグレアの具合など、カメラに関わるパラメータを管轄した

ライティングのためのシーケンサー拡張 

▲シーケンサーにはライティング作業のための拡張も施されている。【左】ライト/ポスプロ作成ツール「Make Light Track」。「Spot Light Track」「Post Effect Track」などカットシーンライティング作業に必要な要素にチェックを入れて、一括で作成することができる/【右】カットごとに複数のライトを配置してライティングを行なっている様子。左列のリストは階層化されており、「C0090」「C0100」などカット単位でグルーピングされている。キャラクターへのライトは、1人3灯を目安に周辺の状況に合わせて変動

▲カットごとに、ポスプロ・フィールドライト・エミッシブアセットの強度などを制御している様子。各カットの区切りはタイムライン上に縦線として表現される

Shotgunや共有マップによる他班との連携

▲【左】他班との連携のために、作業ステータスをShotgun上で共有。レイアウト/アニメーション/フェイシャル/VFX/ライティングの状況が逐次投稿されており、各班の情報がひと目でわかるシンプルな構成となっている。ライティング・パイプラインステップには「ライティング」「MasterShot」の2タスクを登録。各イベントのキーとなるショットをマスターショットとして優先的に制作、承認され次第イベントを通した一連のライティングに取りかかる/【右】ライティングのチェックバックにはShotgun上のオーバーレイ・プレーヤを用い、文字・矢印などのアノテーションで指示が行われる。まずマスターショットでOKを受けてから作業に入るため、ここで大きくNGとなることはない

▲各種テストを行うためのベースロケーションを用意し、前ページでも紹介したようにVFX班と共有。このマップはENV班に依頼して作成してもらった軽量な街アセットを配置したものだ。「ゲーム中の基本となるライトやカメラ設定を、昼【左】・夜【右】それぞれ適用しています。ここでエフェクトの輝度感などを早い段階で摺り合わせて作業を進めていくことができました。ライティング班設立にあたってはプロジェクト全体で好意的に受け取ってもらえたことが大きかったと思います。他班がライティングのために動いてくれるなど、ライティングに理解を示して暖かく対応してもらえることが多くありました」(山口氏)

処理負荷の最適化

▲ライティング班開設当初は、映像制作のライティングの要領で潤沢にダイナミックライトを配置、質感は十分ながら実機での負荷が過大となってしまった。【上段左】処理負荷対応前のフィールドライト/【上段右】ステーショナリライトのオーバーラップ表示。赤〜白の高負荷領域が画面の大部分を占めている/【下】この状態でプレイすると、17.53FPSと快適とは言えないフレームレートに

▲【上段左】処理負荷対応を終えたフィールドライトと【上段右】オーバーラップ表示。「スタティックライトはベイクするため処理負荷が低いのですが、質感が出ません。そのため、遠景や、近景であれば強めにならないようにして配置しています。ダイナミックライトはそれぞれ近接しないようにし、スポットライトのコーン角度、照射距離、シャドウの精度を調整して、処理負荷を低減しています」(亀川氏)。処理負荷対策後のフレームレートは29.84FPSとなり、グリーンの範囲に収まっている【下】

オススメのライティングカット

▲山口氏お気に入りのライティングカットは、壱番魔晄炉爆破後、八番市街地の地下道を抜けた後の広場でのワンシーン。オープンワールドのゲームのように、ユーザーの意思で任意に様々なロケーションを行き来できるのとは異なり、本作では一度通り過ぎたら再度訪れることはできないロケーションが多く存在する。そのため、現実に則してスマートに画づくりしたくらいではユーザーの心に残らない。ここぞという場面では誇張を効かせ、インパクトを重視した。「配置されているエフェクトの炎で得られる光量よりもかなり強いライトを設定しています。ここは魔晄炉爆破の影響をより印象づけたかったので、リアルではなく演出に寄ったライティングにしています」(山口氏)。ほかにも、順当なライティングでは得られないくらい強めにリムライトを当てるなど、カットごとに演出やキャラクターの魅力が際立つよう工夫し、本作の長大なカットシーンを飽きさせないよう誇張を交えながら丁寧に描いている

▲亀川氏が印象に残っているライティングとして挙げたのは蜜蜂の館。特にダンスイベントは作中最大級の長尺カットシーンとなっている。「原作から大きく拡張された部分の1つです。ダンスが3曲含まれるといった演出を際立たせるために、ミュージカルやライブ映像を多数鑑賞してイメージを膨らませてライティングしました。」(亀川氏)。また、コルネオは亀川氏お気に入りのキャラクターでもあり、"悪者感""いやらしい雰囲気"が滲み出るようライティング。ユーザーからの反応にはコルネオに関するものも多く、手応えを実感しているという



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