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ヨルシカ『春泥棒』、n-buna・森江康太ロング対談で語るミュージックビデオの現在地

ヨルシカ『春泥棒』、n-buna・森江康太ロング対談で語るミュージックビデオの現在地

■音楽・映像・文学 近い価値観をもつ2人

――ヨルシカは様々なMVを発表されており、その中にはアニメーションも実写もあります。アニメーションMVという表現手法を使う意味をn-bunaさんはどのように捉えていますか?

n-buna:僕にとってはアニメーションも3DCGも実写動画も、ただ表現手法が異なるだけのものだと捉えています。鉛筆か絵の具かスプレーかといったような、ツールのちがいですね。突き詰めたCGは実写と区別がつきませんし、今後の技術の発達によってはさらにそれが顕著になっていくことも考えられます。逆説的な言い方になりますが、だからこそそこに筆のちがいというものが生じて、3DCGというツールにしかつくれない映像というものが出てくると思うんです。今回で言えば、どの筆を使う人が美しく描けるかを考えたときに思い浮かんだのが森江さんでした。そして森江さんはCGのアーティストであった、という考えなんです。

――森江さんはご自身の創作活動の中で、アニメーションMVをつくることについてどのような考えをおもちですか?

森江:まず、このシーン界隈が今すごく盛り上がっているなという印象をもっています。昔はプロモーションビデオ(PV)と呼ばれていましたよね。つまり、音楽の販促ツールだったわけです。それが今は「ミュージックビデオ」と呼ばれ、音楽と映像がひとつになって主張する文化に変わっています。それはやはり動画サイトの存在感の大きさにあると思いますし、そこにおけるアニメーション表現の親和性の高さがこの状況に表れていると思います。2020年から2021年にかけて様々なアーティストのアニメーションMVが発表されましたし、皆さんこのシーンをウォッチしているのだなと、そこからも感じます。あと、僕を含めてみんなアニメーションが好きなんだなと思います。いわゆる日本のアニメーション表現が海外からもネットを通じて本当に多くの方がご覧になっていますし。

n-buna:アニメーションという筆の良さって、現実に描けないものも描けるところにあると思っていて、その非日常感の表現が現代の音楽とマッチしていて、アニメーションMVが増えているのかなと思うんです。

森江:現実・非現実の話で言うと、高畑 勲監督の映画『おもひでぽろぽろ』のなかで、紅花を摘むシーンがあって、それがものすごくリアルなんですよ。それに対して高畑さんは「実写で撮影してもそこまで感動しないけれども、それをアニメーションで表現することで人は見てしまうのです」といった趣旨のことをおっしゃっていました。何気ない景色もアニメーションの絵になることで、人を惹き付ける。最近アニメーションのMVが増えているのはこのあたりにも理由があるのかなと。今回の根川緑道の景色も、実際に綺麗でとても素敵な場所なんですけど、アニメーションにすることでより際立ったのだと思います。

――お互いの創作活動に対して伺ってみたいことはありますか?

森江:ヨルシカってリリースのスピードがメチャクチャ早いじゃないですか。僕は映像をつくっていると納期に追われて、てんてこ舞いになることがよくあるんですけど、n-bunaさんはどういうペースでつくっているんですか?

n-buna:リリースのペースというよりも、僕はずっと曲をつくっていて、いつの間にかアルバムの分量ができて、それをまとめて形にしているという感じなんです。この前、知り合いにその事を話したらワーカホリックと言われたんですけど(笑)。でも個人的にはそれぞれの曲はゆったりとつくれていると思っているし、決して無理矢理つくらされているということもないんですよ。急に入ってきた仕事で、これはどうしても請けたいというときには多少忙しくなることはありますが。そんなときでも、納得いくまで出来にこだわり続けるので、作業をずっとやり続けているということはあります。2〜3日遅れたけど、デモ曲も2〜3曲追加して提出しているとか(笑)。

森江:楽曲づくりは全部おひとりでされるんですか?

n-buna:はい。提出するときには編曲までバッチリ行なって、そのまま世に出しても納得できるレベルまでつくり込みます。レコーディングのときはそれを生音に変えるくらいです。

森江:レコーディングのときにスタジオミュージシャンにアレンジをしてもらうことはあります?

n-buna:楽曲の肝になるフレーズやリフは完璧になぞってもらいますが、そのプレイヤーさんの個性が出るようなところは部分的に入れてもらうようにしています。やっぱり、せっかく生音でレコーディングをするのですから、そうした要素は採り入れたいなと思って。ときにはあるパートを丸ごと空白部分にしておいて、ギターソロやピアノソロを自由に入れてもらうようにすることもあります。

森江:この前のオンラインライブでの『春泥棒』のストリングスアレンジが素晴らしかったです(編注:2021年1月9日(土)に行われた有料配信ライブ、ヨルシカ Live「前世」)。

n-buna:あれはストリングスのリーダーの方と相談してつくっていただいたんです。編曲にもその人の個性というものは必ず出ますし、本職の方ですから勉強になりましたね。極めた人だからこそできる楽曲編成というものがある一方で、勉強道半ばの人が生み出す良さというものもあると思います。日々勉強して、今の自分にしかできない作品を生み続けることが大事なんだと、最近は特に思います。

森江:僕は音楽家の人が大好きで、n-bunaさんのようにつくる人も好きですし、先ほどのスタジオミュージシャンの方も好きで、ブックレットでクレジットをよく確認しています(笑)。あとはオーケストラのように生本番をガツンとキメてくる技巧性にも憧れますね。映像制作ってライブがないものですから。

n-buna:僕もレコーディングのときはリハーサルが一番楽しいです(笑)。みんなで曲を合わせていて、音楽がパッケージングされる前のあの空気。そこに音楽をやっているときの気持ち良さを感じます。僕からは、森江さんはどういうきっかけで映像制作を始められたかを伺いたいです。

森江:もうCGが好きだからとしか言いようがないですね(笑)。母が映画好きで、よくビデオを借りてきていたんです。僕が小中学校の頃って、『ジュラシック・パーク』、『トイ・ストーリー』、『マトリックス』と、後のCGの教科書に載るような作品が次々に公開されていった時代で、その頃のCGの発展を目の当たりにしていました。見たことがないような映像の連続で「こんなのどうやって撮影したんだ?」と思っても、今ほどメディアが発達していないから情報がない状況。たまにTV番組でCG映画のメイキングを扱うとそれを食い入るように見ていました。まさにあれが僕にとってのセンス・オブ・ワンダーで、それを仕事にしたいと思いました。高校に入ったときには最初から先生に「卒業後はCGの専門学校に行きます」と宣言していました。

n-buna:決心の固さがすごいですね。

森江:その頃から考えると、CGで食べていくという意味では夢は叶いました。ただ、今度はもっとこんな映像がつくりたいという、さらに次の夢ができました。CG業界には各専門部署に職人的な人は大勢いるのですが、僕はもうひとつの夢として映画監督があったんです。よく小学校の頃に書かされる「将来の夢」のときも、そう書いていました。

n-buna:それ、わかります。僕も中学生くらいの頃に書いたことがありましたから。

森江:ただ、周りにそういうことを書いている人が誰もいなくて、その温度感のちがいで恥ずかしかった覚えもあります(笑)。でもなりたくて、CG業界でいろいろと仕事をしていったら、結果的に20代後半くらいから監督作品をつくらせてもらえるようになり、こうやって『春泥棒』も監督できるようになりました。ふり返ってみると、当時の思いが原点になっているのかなと思います。実家に帰ったときに母とそういう話をしたら、「あんたは昔からそういうのが好きなのよ」って言われました(笑)。

n-buna:いい話ですね~。同じようにふり返ってみると、僕は小説家だったり映画監督だったりに憧れて、だから今でも音楽をつくるときに情景からつくったり、コンセプトありきでつくったりするんだろうなと。原点はあそこにあったんだと思いました。そういう意味で森江さんと根っこが近いんだろうなと思いました。「朋あり遠方より来たる」というか、根が近いと創るものも気が合うんだろうなと思いました。

森江:『春泥棒』も、最初のコンセプトができたときに、n-bunaさんは絶対に気に入ってくれる自信がありましたから。

n-buna:まさにその通りです。サビの途中に『Express』のセルフオマージュが入っているのもメチャクチャ良かったです。

森江:あと、もうひとつ、今回の映像で一瞬ベッドシーンを入れています。僕がヨルシカの楽曲を聴いていて、人間のリビドーというか性的なニュアンスを感じることが多かったんです。直接的にそういう描写はないのですが、それを揶揄したりオマージュしたりする感覚があったので、今回盛り込んでみたところ、「ぜひこれでいきましょう」とおっしゃってくれたとき、やっぱり感覚が近いんだと嬉しかった覚えがあります。

n-buna:僕は美しいだけの映像ではなく、そこに挟まるある種の違和感も好きなんです。セクシャルな表現を綺麗か汚いかと思うのはそれぞれの感覚によりますが、僕は表現の仕方次第で綺麗なものになり得ると思うし、桜の映像ばかりながす中で逆に違和感としても作用する。そういう両面性をもち得ると思ったし、それが単に桜が綺麗だと思って観ている人の心を動かすものになると思いました。

――n-bunaさんは今後また森江さんにMVをお願いしそうな音楽をつくる予定はありますか?

n-buna:もちろんです。そういう曲ができたらもっていくと思います。森江さんが気に入ってくれることが前提ですが(笑)。先ほど森江さんがおっしゃった、PVからMVへというお話もとても共感できるもので、僕もMVは音楽の付属品であってはいけないと思うんです。やるからには音楽と融合して成立するように、MVには振る舞ってほしい。だからこそ、MVをつくるときは音楽側の意図を全て伝え、監督が表現したい映像を自由につくっていただく。そして音楽と合わせて成立させるものだと思っています。森江さんとは今後またそういう作品がつくれたらと思っています。

森江:そのときはぜひ、よろしくお願いします!



  • ヨルシカ / 1st EP『創作』
    2021年01月27日(水)リリース
    配信一覧
    VA.lnk.to/sousaku

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