>   >  スタジオカラーのシステム構築&東映アニメーションのAIを用いた背景作業の効率化~ACTF2021 in TAAF(1)
スタジオカラーのシステム構築&東映アニメーションのAIを用いた背景作業の効率化~ACTF2021 in TAAF(1)

スタジオカラーのシステム構築&東映アニメーションのAIを用いた背景作業の効率化~ACTF2021 in TAAF(1)

Session 02:コロナ禍における地方創生映像に挑んだ『URVAN』

『URVAN(ウルヴァン)』は東映アニメーションの新規IP研究開発チーム・PEROs(Prototyping and Experimental Research in Oizumi Studio)が制作した約5分間の実験映像だ。セッションでは東映アニメーションから製作部 製作管理推進室の深瀬晋太郎氏と製作部 海外製作室 美術課の葛西茉耶氏が登壇。数多くのチャレンジを盛り込んだ本作の成果を伝えた。

アニメ【本編】実験映像『URVAN』(ウルヴァン)長崎・佐世保×サイバーパンク

『URVAN』は新規IP開発や人材育成など多くのミッションを掲げて制作されたショートアニメである。地方創生をテーマとしており、本編には舞台となった長崎県佐世保市の風景が多数登場。佐世保の街並みをアニメ調で描いただけでなく、近未来的なサイバーパンク調で表現した背景美術が大きな特徴となっている。

本作はコロナ禍によって現地でのロケハンが不可能だったため、まず協力元の長崎国際大学の学生に「自分が見せたい佐世保」というテーマでロケーションの撮影と写真の提供を依頼。その写真と地図を見比べながら、梅澤淳稔監督が絵コンテを手がけた。

▲『URVAN』のコンテ作業

通常は絵コンテを基にアニメーターがレイアウトを描くが、『URVAN』ではコンテに合わせて写真原図を作成。サイバーパンク調の色合いを統一するためにカラースクリプトも用意した。

▲カラースクリプトは梅澤監督のアイデアで、佐世保独楽の色彩の由来である陰陽五行説にちなんだ配色となっている

その写真原図とカラースクリプトを合わせて、作画、背景、CGのセクションに渡すことで、各工程の作業インが早くなり、レイアウト以降の工程を同時進行することが可能になった。葛西氏は後半にタスクが重なるという弊害があったものの、3Dレイアウトや写真原図を採り入れる際には効率的な手法だったと振り返る。

▲『URVAN』と通常作品の制作工程の比較

『URVAN』の最もユニークな試みのひとつは、AI技術を用いて背景美術の制作工程を効率化した点にある。背景制作には株式会社Preferred Networksが開発した背景美術制作支援ツール・Scenifyを使用。Scenifyは画像変換およびセグメンテーション技術を応用し、実写写真を素材として、様々な画風の背景素材を生成する機能をもつ。

制作工程では最初に美術クリエイターが写真素材の色味を整えてから、Scenifyがアニメ調に自動変換。素材から物体を切り出すBOOK分けの自動化や、完成素材に残してはいけないものを自動で塗り潰す機能も搭載されている。対象の写真や表現手法により効果は異なるが、本作では画像の前処理工程にかかる作業時間を1/6に短縮した。

▲Scenifyで変換された画像素材に美術クリエイターがレタッチ作業を加えて、アニメ調の背景美術が完成。そこから再び美術クリエイターがサイバーパンク調に仕上げる

その後、美術クリエイターがレタッチ作業を加えてアニメ調の背景美術が完成。そこから色彩の変換やエフェクトを加えてサイバーパンク調の背景ができ上がる。Scenifyによって作業負担を軽減したことで、クリエイティブの自由度や振れ幅の大きいサイバーパンク調の制作に、より多くの時間をあてることが可能となった。

セッションではScenifyを利用した場合と、手描きのみで作業した場合の比較動画を公開。Scenifyありの場合は約50分、手描きの場合は約4時間50分で、作業時間の圧縮及び品質の担保に貢献した。

Photoshopを用いてフォトバッシュした背景美術との比較画像。Scenifyの場合はマットにアニメ調へと調整することができた

また、こちらはScenifyを活用した部分ではないが、一部シーンでは実写動画から背景動画の作成も行なっている。

セッション後の質疑応答では「今後もScenifyを活用できそうという実感は得られましたか?」という問いに、深瀬氏は「感触は掴んでいる」と回答。実戦投入も視野に入れているが、作品を選ぶツールのため、現代を舞台にしたタイトルでScenifyと相性の良い作品に使いたいと語った。

また「今後のコンテンツづくりにはITやテックに強い人材が必要になるのか?」という質問に、深瀬氏は同意する。ただ自身が文系出身ながらIT企業に務めていたことに触れて、カラーの鈴木氏が語ったように「現在は文系・理系の垣根がなくなってきている」とコメント。CGと作画が融合していく中でお互いの言葉を理解し、良いものをつくるというひとつの目標に向かってビジョンをもつことが重要だと見解を述べる。

さらに『URVAN』の梅澤監督は1981年に東映アニメーションに入社して40年の経験をもつことにも言及。そういったベテランたちが多く在籍していることも同社の強みである。そのノウハウや伝統が若手に引き継がれ、新たな技術が加わることによって、どんなアニメが生み出されるのか。まだ見ぬタイトルに期待が膨らむセッションとなった。

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