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ヴァーチャルカメラで切り開く和製 CG アニメの新次元〜『FEVER マクロスF』PR映像

ヴァーチャルカメラで切り開く和製 CG アニメの新次元〜『FEVER マクロスF』PR映像 "超時空スーパーライブ"(前編)

ルックデヴ&キャラクターモデル

一般的にセル調のアニメを制作する場合は、情報を適度に間引き記号化を行うことが要となるが、フォトリアルの場合は目指す世界観の下で逆に情報や記号を適宜追加させる必要がある。つまり同じ 3DCG アニメーション制作であっても真逆のアプローチが必要となる。そこで、プリプロ段階にて森野浩典 CG スーパーバイザーが中心となり「実写とアニメが融合した映像」というテーマに沿った実写合成の検証が行われた。

「まず、実写とアニメをどうしたら上手く馴染ませられるかのテストを行いました。実際に街へと繰り出し、実景素材とIBL(イメージ・ベースド・ライティング)用の素材を撮影したり、boujou でマッチムーブのテストを行なったりもしました。キャラクターは当初セルシェーダを使用していたのですが、実写との馴染みに違和感があったのでフィギュア調のシェーダ等の検証も行いました。本格的な実写合成は今回が初めてでしたが、まずまずの手応えを得ることが出来ましたね」(森野氏)。

実写との合成テスト
実写との合成テスト

プロジェクトスタート前には、実景との合成テストを行なった。実写の背景と VF-25 (作中に登場する可変戦闘機)を馴染ませるためにキヤノン EOS 7D で銀玉を撮影し、HDRI(ハイダイナミックレンジイメージ) を作成。さらに空中モニタやエフェクトなど、マクロスFの世界観を取り込むことで、アニメとCG、実写の3素材が上手く融合されている

先述の通り結果的に PR映像"超時空スーパーライブ"自体はフル CG アニメーションとして完成されたが、フル 3DCG になったことで背景の作り込みや質感の追加など、リアリティを高める上で新たな課題が発生したという。さらに本プロジェクト制作時は、『劇場版マクロスF ~サヨナラノツバサ~』(2011) 制作が同時並行で進んでいたため、外部パートナーの協力を求めたという。

「約30カットあるランカ篇のアニメーションを クロフネプロダクト さんに、同様に約50カットのシェリル篇は ワオワールド さんに担当して頂きました。その他にも、背景モデルは DEC(デジタル・エンバイロンメント・クリエイション)さんに協力してもらいました」(八木下氏)。
外部パートナーという意味では、ヴィジュアル・スーパーバイザーを務めた HIBIKI 氏の存在も本作の画づくりの上で欠かせない存在だったと言えよう。
キャラクターとメカモデルのアニメーション、ベースとなるカメラワークなどの制作に関してはサテライト内部で作成し、それらのデータを社外へ渡し、レンダリングや After Effects での仮コンプを行う。それらの AE データを受け取り、HIBIKI氏を含めたサテライト デジタル部スタッフにて微調整をしながら最終的なコンポジットを行なっていくという流れを構築したことで、ルックのバラつきを極力抑えることができたそうだ。

ランカの合成テスト ランカの合成テスト

ランカ・リー(セル)と実写の合成テスト。上の画像に、アニメ的な撮影処理を加えて馴染ませた合成テストの結果が下。ラインの濃度を調整したり、アニメ的なフィルタ処理を加えることで違和感なく実写に馴染ませている。最終的に本編はフルCGで仕上げられたが、一連の実写合成ノウハウは CM 向け VFX 制作でフル活用された

キャラクター・セットアップ

プリプロを経て、最終的にフルCGで制作することが決まった後は、ランカ・リーとシェリル・ノームのキャラクターモデルのリファインが行われた。ベースモデルは劇場版や『娘クリ』向けに制作されたものを流用しているが、"超時空スーパーライブ!"では、クローズショットも多いため、相応に改良が施されたという。

ランカのフェイシャル

ダンス以外のカットは全て手付けでアニメーションされているため、手付け用に IK とコントロールリグがセットアップされている。一方、ダンスの振り付けは、MOZOO で収録したモーションキャプチャをベースに、髪の毛やドレスのユレものをMotionBuilderにて手付けで加えられた(同じく MOZOO が担当)

ランカのフェイシャル

ランカのフェイシャルターゲット。基本的な目や口の動きの他に、特殊な表情の追加が発生することを想定し、予め空きスロット(ターゲット)が用意された

ランカCGモデル+背景 ランカ単体ワイヤーフレーム 背景+ランカCGモデル(ロング) 背景+ランカCGワイヤーフレーム(ロング)

ランカ篇の完成モデルと背景シーン。HIBIKI 氏のコンセプトデザインをベースに 3DCG で作られた背景モデルにランカをレイアウト

シェリル・ノームのフェイシャル

シェリルのセットアップ。ランカと同様に、シェリル・ノームも手付け用に IK とコントロールリグがセットアップされている。動きによっては髪の毛が体にめり込んでしまうので、髪や服の揺れなどのセットアップにはまだ課題が残っていると八木下氏は語るが、躍動感を優先にするという明確なビジョンがあるので、作品をトータルで見れば大した問題ではないように感じた

シェリル・ノームのフェイシャル

シェリルのフェイシャルパターン。曲のテンポに合わせ、全身のダイナミックな動きを見せることをメインにしているので、シェリルの表情はランカに比べると少なくなっている

シェリル・ノームCGモデル シェリル・ノーム単体ワイヤーフレーム 背景+シェリル・ノームCGモデル(ロング) 背景+シェリル・ノームCGワイヤーフレーム(ロング)

2D でデザインされたキャラクターを 3D に起こす際に問題になるのが髪の毛の扱い方であるが、本作の場合は、ある程度の毛束をポリゴンで表現する形を採っている。また髪の毛の揺れやなびきはキャラクターに躍動感を与える上でとても大きな影響力を持つポイントなので、髪の毛の束をどの様に細分化するかが重要だ

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