[PR]
アニメ特有の世界観を、実写撮影のノウハウを採り入れたフル3DCGアニメーションへと生まれ変わらせた『FEVER マクロスF』のPR映像 "超時空スーパーライブ"。"SIGGRAPH 2011Computer Animation Festival"/入選を果たすなど、海外でも高い評価を得た本作のメイキングを、前後編の2回に分けてお届けする。
劇場版とは異なる、新たなCGアニメーションを目指して
近年の日本アニメーションを代表する大人気シリーズ『マクロスF(マクロス FRONTIER)』 を題材とした、パチンコ『FEVER マクロスF』のPR用映像として制作された"超時空スーパーライブ!"は、「通常のアニメとは異なる新たな表現に挑む」 というコンセプトの下、生み出された意欲的な作品だ。フルCGアニメーションとして制作された本作は、昨夏にバンクーバーで開催された SIGGRAPH 2011「コンピュータ・アニメーション・フェスティバル」(CAF) への入選を果たすなど(英題 "Listen to Our Song! Superdimentional Diva LIVE!" として入選)、日本アニメ特有のキャラクター表現とヴァーチャルカメラを用いた臨場感溢れるライブパフォーマンスの融合が海外でも高く評価された。
3DCG アニメーション制作をリードしたのは、言うまでもなくサテライト デジタル部。TV版『マクロスF』総監督を務めた 河森正治 氏の豊かなイマジネーションを、3DCG を軸とするデジタル技法を用いて具現化させ続けている彼らだが、本作では『劇場版 マクロスF』2部作にて、ひとつの極みに達したマクロスのヴィジュアルを、また別の切り口から追求したものだという。
© 2007 ビックウエスト/マクロスF製作委員会・MBS © 2011 SANKYO
「企画当初は、"『マクロスF』の歌姫たちがアニメの世界から現実世界に飛び出して来た" という方向で、実写の背景にアニメのキャラクターを合成するという手法を模索していました。我々はアニメ制作会社ですが、常日頃から既存の枠に囚われないエポックメイキングな映像を作ることを意識してきましたし、技術向上の良い機会と捉えチャレンジすることにしたわけですね」と、CGアニメーション制作を担当した サテライト デジタル部の橋本トミサブロウ プロデューサーはふり返る。
昨年6月頃から、アニメキャラの実写合成という方向で、プリプロダクションに着手。まずは『マクロスF』の映像演出やモニタグラフィックを手掛けてきた HIBIKI 氏が、ランカ・リーとシェリル・ノームという2人の歌姫のキャラクターに合わせた世界観をプランニング。それと並行してセルシェーディングで描画されたキャラクターや 3DCG のバルキリーの実写合成テストが進められた。
しかし、プリプロを進めていく中で、たとえ実写合成をさせたとしても自由にキャラクターやカメラを動かしてしまっては最終的に劇場版の表現に行き着いてしまう。そこで、"敢えて物理的な制約を設ける"、"重要なのは写実性であり実写であることではない" という結論に。
その上で、これまで培ってきた強みを最大限に発揮できる制作手法は何かと再検討した結果、「ヴァーチャルカメラを用いたフル CG アニメーション」 という切り口に軌道修正されたのであった。
フル 3DCG で制作することになったことにより、実写合成に対する技術的な懸念はなくなったが、CGで如何にリアルな映像を作り出すかという技術的な問題と、既存のリアルな作品群と如何に差別化を図るかが新たな問題として浮上したという。
「橋本さんから『実写で撮影するにせよ、フル CG にせよ、一目で綺麗と思えるような映像にしたい』というオーダーを受け、暗闇の中で照明が輝くステージと、青空が広がる近未来都市のステージをイメージしました」(HIBIKI氏)。
そこでランカのステージは TV 版にもあった遊園地でのコンサートのシーケンスを再現することにし、シェリルのステージは繁華街でライブを行うという設定を考案。
「『マクロスF』の作中にも渋谷という設定がありましたし、シェリルのキャラクターを考えるとゲリラライブが相応しいと。また、ステージにリアリティを持たせるべく、スポットライトの位置やネオン管などのデザインにも注意を払いました。河森監督からはステージの外見だけでなく、歯車や浮遊するオブジェクトなど、マクロスらしい可動ギミックを追加したいというオーダーを受けましたが、これらの要素を追加し過ぎてしまうとリアリティがスポイルされてしまうという欠点もあるので、バランスを保ちながらデザインする必要がありましたね」。
プリプロ時に HIBIKI 氏が作成した、世界観コンセプトのプレゼン資料。ランカ篇(左)は「夜の遊園地(光のページェント)」というキーワードをベースに、暗闇に浮かぶ色鮮やかな照明や映り込みがキャラクターの魅力をさらに引き立てる様に空間をデザインしている。一方シェリル篇(右)のステージは、ランカ篇と明確に差別化するため、近未来都市の雑多感はありつつも、空が抜け青空が広がった空間がデザインされた
「キャラクターの 3DCG 化については、劇場版本編に加えて 『マクロスF MUSIC CLIP集 娘(ニャン)クリ』(2010) で経験済みですし、モーションキャプチャに関しても、『バスカッシュ!』(2009) のエンディングなど複数プロジェクトで利用してきているので不安はありませんでした。ただ、本格的にフォトリアルな質感の CG 表現に取り組むのは今回が初めてだったので、『そもそもリアルって何だろう?』といった曖昧な部分をスタッフ間で具体的にイメージを共有していくのと同時に、実写合成に精通された方にカメラやレンズなどのレクチャーを受けたりしていましたよ」と語るのは、VFXスーパーバイザーを務めた八木下浩史氏。
余談だが、PR映像自体はフルCGアニメーションとして制作されたが、同時並行で制作された『FEVER マクロスF』CMでは、PR映像向けに作られたフル 3DCG アニメーションを実写合成する形で作られており、制作の際はプリプロで行なった各種テスト結果が大いに役立ったという。「元請けの立場として、常にフロントランナーであり続けたい」と橋本氏が語る通り、本プロジェクトも極めて実験的な作品となったが、SIGGRAPH 2011 "CAF" 入選を果たすという対外的な評価を勝ち取ったことは参加したスタッフたちの自信にも繋がり、技術的にも次に繋がる確かな一歩となったはずだ。
PR映像並びにCMの映像演出を手掛けた松 宏彰ディレクター(TYO)によって描かれた構成コンテ(プリプロ時に作成)。総合監修を手掛けた河森氏のベースコンセプトが盛り込まれた。バーチャルカメラの使用はこの時点で決定していたそうだが、CGのカメラに現実のカメラに伴う物理的な制約をかけるといったプランはまだ決まっておらず、かなりアニメに近いファンタジー感のある構成となっていた
ルックデヴ&キャラクターモデル
一般的にセル調のアニメを制作する場合は、情報を適度に間引き記号化を行うことが要となるが、フォトリアルの場合は目指す世界観の下で逆に情報や記号を適宜追加させる必要がある。つまり同じ 3DCG アニメーション制作であっても真逆のアプローチが必要となる。そこで、プリプロ段階にて森野浩典 CG スーパーバイザーが中心となり「実写とアニメが融合した映像」というテーマに沿った実写合成の検証が行われた。
「まず、実写とアニメをどうしたら上手く馴染ませられるかのテストを行いました。実際に街へと繰り出し、実景素材とIBL(イメージ・ベースド・ライティング)用の素材を撮影したり、boujou でマッチムーブのテストを行なったりもしました。キャラクターは当初セルシェーダを使用していたのですが、実写との馴染みに違和感があったのでフィギュア調のシェーダ等の検証も行いました。本格的な実写合成は今回が初めてでしたが、まずまずの手応えを得ることが出来ましたね」(森野氏)。
プロジェクトスタート前には、実景との合成テストを行なった。実写の背景と VF-25 (作中に登場する可変戦闘機)を馴染ませるためにキヤノン EOS 7D で銀玉を撮影し、HDRI(ハイダイナミックレンジイメージ) を作成。さらに空中モニタやエフェクトなど、マクロスFの世界観を取り込むことで、アニメとCG、実写の3素材が上手く融合されている
先述の通り結果的に PR映像"超時空スーパーライブ"自体はフル CG アニメーションとして完成されたが、フル 3DCG になったことで背景の作り込みや質感の追加など、リアリティを高める上で新たな課題が発生したという。さらに本プロジェクト制作時は、『劇場版マクロスF ~サヨナラノツバサ~』(2011) 制作が同時並行で進んでいたため、外部パートナーの協力を求めたという。
「約30カットあるランカ篇のアニメーションを クロフネプロダクト さんに、同様に約50カットのシェリル篇は ワオワールド さんに担当して頂きました。その他にも、背景モデルは DEC(デジタル・エンバイロンメント・クリエイション)さんに協力してもらいました」(八木下氏)。
外部パートナーという意味では、ヴィジュアル・スーパーバイザーを務めた HIBIKI 氏の存在も本作の画づくりの上で欠かせない存在だったと言えよう。
キャラクターとメカモデルのアニメーション、ベースとなるカメラワークなどの制作に関してはサテライト内部で作成し、それらのデータを社外へ渡し、レンダリングや After Effects での仮コンプを行う。それらの AE データを受け取り、HIBIKI氏を含めたサテライト デジタル部スタッフにて微調整をしながら最終的なコンポジットを行なっていくという流れを構築したことで、ルックのバラつきを極力抑えることができたそうだ。
ランカ・リー(セル)と実写の合成テスト。上の画像に、アニメ的な撮影処理を加えて馴染ませた合成テストの結果が下。ラインの濃度を調整したり、アニメ的なフィルタ処理を加えることで違和感なく実写に馴染ませている。最終的に本編はフルCGで仕上げられたが、一連の実写合成ノウハウは CM 向け VFX 制作でフル活用された
キャラクター・セットアップ
プリプロを経て、最終的にフルCGで制作することが決まった後は、ランカ・リーとシェリル・ノームのキャラクターモデルのリファインが行われた。ベースモデルは劇場版や『娘クリ』向けに制作されたものを流用しているが、"超時空スーパーライブ!"では、クローズショットも多いため、相応に改良が施されたという。
ダンス以外のカットは全て手付けでアニメーションされているため、手付け用に IK とコントロールリグがセットアップされている。一方、ダンスの振り付けは、MOZOO で収録したモーションキャプチャをベースに、髪の毛やドレスのユレものをMotionBuilderにて手付けで加えられた(同じく MOZOO が担当)
ランカのフェイシャルターゲット。基本的な目や口の動きの他に、特殊な表情の追加が発生することを想定し、予め空きスロット(ターゲット)が用意された
ランカ篇の完成モデルと背景シーン。HIBIKI 氏のコンセプトデザインをベースに 3DCG で作られた背景モデルにランカをレイアウト
シェリルのセットアップ。ランカと同様に、シェリル・ノームも手付け用に IK とコントロールリグがセットアップされている。動きによっては髪の毛が体にめり込んでしまうので、髪や服の揺れなどのセットアップにはまだ課題が残っていると八木下氏は語るが、躍動感を優先にするという明確なビジョンがあるので、作品をトータルで見れば大した問題ではないように感じた
シェリルのフェイシャルパターン。曲のテンポに合わせ、全身のダイナミックな動きを見せることをメインにしているので、シェリルの表情はランカに比べると少なくなっている
2D でデザインされたキャラクターを 3D に起こす際に問題になるのが髪の毛の扱い方であるが、本作の場合は、ある程度の毛束をポリゴンで表現する形を採っている。また髪の毛の揺れやなびきはキャラクターに躍動感を与える上でとても大きな影響力を持つポイントなので、髪の毛の束をどの様に細分化するかが重要だ
背景デザイン&撮影プラン
全編をフル 3DCG で制作することで、キャラクターだけでなく背景にもリアリティを持たせる必要があった。さらに舞台をデザインする以前にビジュアルイメージを明確にする必要があったため、HIBIKI 氏によってステージのコンセプトとデザインが描き起こされた本作。また、キャラクターや背景だけにリアリティを求めるのではなく、それらを捉えるカメラの配置やカメラワークにもリアリティを持たせることに注力したという。
「まずは、実際にライブを撮影するとしたら、どの地点にカメラの配置するかを考えました。よりライブ映像に近付けるために、今回は敢えてカメラワークを限定させたり、ショットに応じて望遠レンズと広角レンズを使い分けたりしています。さらに手振れやフォーカスの遅れなども取り入れることで躍動感が溢れるダイナミックな映像を意識して作成しました。」(八木下氏)。
企画当初のブレスト時にHIBIKI氏によって描かれた『ランカ篇』ステージのラフスケッチ。フォールドクオーツや浮いたハートのモニタ、稼動ステージのギミックなど多くのアイデアが描かれている
同じく企画段階に描かれた『ランカ篇』ステージのイメージボード、ステージのデザインだけでなくライティングの設計も同時に行われている。「ステージの大きさやスポットライトの配置などにも説得力を持たせるようにしました」(HIBIKI氏)
同様に『シェリル篇』ステージのメカ機構に関するスケッチ(作:HIBIKI)
HIBIKI氏が描いた『シェリル篇』ステージのイメージボード。
ステージプラン
本プロジェクトでは、リアリティを持たせる上でカメラワークが要となった。そこで、まずは実際のライブ映像などを参考にカメラの配置を決めていったという。
『ランカ篇』の撮影ポイント案。はステージを中心にハンディカムやクレーンを配置し、カメラの位置に応じてレンズを使い分けている
同じく『シェリル篇』の撮影ポイント案。空撮やビルの屋上にカメラを配置することでゲリラライブ感を増幅させている
Google Map を参考にリアリティを追求
ビルの配置にもリアリティを持たせるべく、Google Map で得た渋谷のスクランブル交差点の俯瞰図を参考に大きさや配置の調整が行われた。
渋谷駅前スクランブルの Google Map 航空写真(左)と、それを下絵に描かれた『シェリル篇』の背景レイアウト案(右)
Maya による背景モデリング。レイアウト案を基に背景担当の DEC/鮫川氏によって細部まで作り込まれていった
現実のカメラクレーンの動きを再現
3DCG上で現実世界のカメラワークを再現する上では、米 Pacific Motion Control 社 が提供している同社製カメラクレーンなどの特機スペックのデータを Maya 上に読み込み、コントローラーをセットアップしたという。
『シェリル篇』CGクレーンカメラのセットアップ。カメラ特機ベンダー米Pacific Motion Control 社の機材スペックを基にしている
カメラのセッティング例。この様に実際のコンサート会場で使用されている特機の仕様を採り入れ敢えてカメラの稼動域に制限を持たせることにより、無理のない自然なカメラワークが、まるで本物のライブ映像を観ているような説得力を持たせることが可能になった
TEXT_村上 浩(夢幻PICTURES)
PHOTO_弘田 充
『FEVER マクロスF』
本映像は、『FEVER マクロスF』(フィーバーマクロスフロンティア)公式サイトの「スペシャル」ページにあるゲーム「アイ君を探せ!」をクリアすれば視聴できる。ぜひ挑戦してもらいたい。
公式サイト
© 2007 ビックウエスト/マクロスF製作委員会・MBS © 2011 SANKYO