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"SIGGRAPH 2011Computer Animation Festival" 入選を果たすなど、海外でも高い評価を得た、『FEVER マクロスF』 のPR映像 "超時空スーパーライブ"。前編 に引き続き今回は、ヴァーチャルカメラによる撮影からコンポジットワーク、Massive を用いた群衆制作についてみていく。
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© 2007 ビックウエスト/マクロスF製作委員会・MBS © 2011 SANKYO
リアリティの礎となったヴァーチャルカメラ
前回紹介したように、フル 3DCG によるリアルな映像で表現することとなった 『FEVER マクロスF(フロンティア)』 の PR 映像。しかし制作当初は、スケジュール的にも技術的にも問題があったため、行き詰まり感が漂っていた。そんな中、MOZOO が独自に開発したヴァーチャルカメラが、新たな道を拓いたそうだ。
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© 2007 ビックウエスト/マクロスF製作委員会・MBS © 2011 SANKYO
「MOZOO さんからヴァーチャルカメラの説明を聞いて直ぐに、これは強力な武器になると思いました。そして実際にカメラテストを行なってみたところ、グレーの仮モデル状態だったにも関わらずキャラクターが生きているように見えたのです。これなら、河森さん(※TV版『マクロスF』の総監督、河森正治氏のこと)がコンセプトに掲げる "リアリティ" を、フィジカルなカメラワークやレンズの動きによって表現できるという、大きな手応えを感じました」(八木下浩史 VFX スーパーバイザー)。
MOZOO が自社開発したヴァーチャルカメラのデモ動画
本来、ヴァーチャルカメラにはあらゆるアングルから自由に撮影できるという利点があるのだが、本プロジェクトでは敢えて制限を持たせ、現実のコンサート収録を意識したカメラワークが目指された。そして、カメラワークにリアリティを持たせる上では、実写の撮影で幅広く活躍している榎田洋美キャメラマンに撮影を依頼したという。
「榎田さんには前もって楽曲の音源や本編の映像をお渡しして作品のイメージやキャラクターの魅力を伝えていたのですが、実際に榎田さんのカメラワークは僕たちが想像する以上にキャラクターが魅力的に見えるレイアウトになっていました。グラフのカーブや数値を調整しながら付ける CG のカメラワークとはまったく違うので、改めてキャメラマンの凄さと実写カメラの特性を知ることの重要性を実感しました」(森野浩典 CG スーパーバイザー)。
ヴァーチャルカメラを使いハンディーカムの撮影を行う榎田洋美キャメラマンと自らケーブル捌きを行う MOZOO 代表の竹原真治氏。榎田氏の持つモニタには、リアルタイムでランカやシェリルのダンスシーンが再生されている。モニター内のキャラクタの動きに合わせて榎田氏が撮影を行うことで、カメラワークやズーミングがキャプチャされ、それらのデータを Maya のカメラに流し込むことが可能
<ランカ編>
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ランカ編ステージ周りのカメラの配置と軌道(Maya MotionTrail にて表示)
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ハンディーカムでは顔を中心に撮影し、さらにミドルショット、手や足の動きを捉えたショットなどが収録された。クレーンカメラでは事前に Maya 上でクレーンの動きを付けているので、その動きに合わせたカメラのズームとカメラの振りがキャプチャされている。榎田キャメラマンにとって初めてのヴァーチャルカメラだったそうだが、CGの場合はキャラクターがリハーサルでも本番でも同一の"芝居"をしてくれるので、効率良く撮影プランを立てることができたそうだ
本作では、できるだけ実写プロジェクトのワークフローに近づけることで、フル CG アニメーションに現実世界のリアリティを持たせることが目指された。そこで、続くオフライン編集の際には、ヴァーチャルカメラの全テイクをフッテージとして編集室に持ち込まれた。
「ヴァーチャルカメラの収録では、ランカ篇は約 6 台、シェリル篇は約 8 台の CG カメラが配置されていたのですが、各カメラにつき 2 ~ 3 テイク撮りました。しかも収録の際は楽曲のパートごとに分けず、全テイクで PR 映像の総尺(約1分半)分まるまる長回ししていたので、オフラインクオリティと言えどもレンダリング負荷はかなりのものでした。最初は僕1人で書き出そうと思ったのですが、結局、森野と2人がかりで丸1日かけてレンダリングしました(苦笑)」(八木下氏)。
実写のミュージックビデオでも、全テイクがフルコーラスということはまずないわけだが、それがフル CG アニメーションとなるとかなりのレンダリング負荷だったことだろう。さらに、オフライン編集後も使用テイクや使いどころ(編集イン/アウト点)のデータ管理に苦労したという。「オフライン編集向けにレンダリングしたアニメーションはキャラ ON(タイムコードをオーバーレイさせた状態)で用意したのですが、編集結果を反映させる作業が目合わせになってしまい、かなり手間がかかってしまいました(苦笑)。今後ヴァーチャルカメラが浸透してきたら、フルCGアニメーションの場合もタイムコードをメタデータで管理するといったことが必要になるかもしれませんね」(八木下氏)。
<シェリル編>
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シェリル編のカメラ配置。内側のレールカメラの軌道が確認できる
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シェリル篇は半球型のステージを取り囲む様にレールが引かれ、カメラは一定の速度でレールの上を反復移動している。その動きに合わせたカメラのズームとカメラの振りがキャプチャされ、さらに上下動を加えたテイクも撮影された。カメラは特機のカメラやハンディカム、空撮用のカメラなどがあり、さらにそれぞれにバストショットやインサート用のアップショットなどが存在するため、シェリル篇だけでも 20 テイク以上撮影されたが、1 日で撮り終えることができたという
写実性と感性のベストバランス〜コンポジットワーク
ヴァーチャルカメラを導入することで、フル CG アニメーションに実写特有のリアリティを持たせることに成功した本作。オフライン編集についても実写プロジェクトと同じ要領で行うことで、実写のライブ感を凝縮することが目指された。
続くコンポジット作業では、「ランカ篇=ナイトシーン、シェリル篇=デイシーン」 という、それぞれのシチュエーションに合わせて、実写特有のニュアンスを加わえることで 2 人の歌姫のリアリティを高めることを心掛けたそうだ。
「カメラの特性を再現することでリアリティを表現したかったので、レンズのミリ数やシャッタースピード、光量などについて、Maya のシーン設定をベースに この条件下で実写撮影をしたらどうなるか を念頭に置きながらコンポジットを行いました。例えば、夜のシーンのランカ篇では高感度カメラを意識しノイズを強めに乗せ、さらに露出時間が長くなると想定しモーションブラーを強めに掛けています。逆にシェリル篇は真昼の設定なのでモーションブラーを弱めにしてシャープな画づくりを目指しました」(HIBIKI コンセプト&ヴィジュアル・スーパーバイザー)。
<シェリル編:ショットブレイク>
STEP 1:カラーパス(シェリル)
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STEP 2:V-Ray for Maya による光の方向性を持った GI 素材を重ねた状態
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STEP 3:After Effects 上でカラコレした影素材を重ねた状態
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STEP 4:V-Ray for Maya による GI 素材(その2)を重ねた状態
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STEP 5:さらにフレネルパス等を加えて立体感を出したシェリルの最終ルック
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STEP 6:BG 素材
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STEP 7:観客モブ(Massive で作成)を追加。モブ素材は 3Delight でレンダリング
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STEP 8:デプスマスク。被写界深度の調整には、AE 上で Lenscare を使用
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STEP 9:ステージに舞う紙吹雪素材を追加
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STEP 10:被写界深度 OFF(パンフォーカス)
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STEP 11:被写界深度 ON
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STEP 12:全体のトーンを整えた完成形
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シェリル自体のコンポジットも基本的にはランカと同じ構造(後述)となっているが、真昼のシュチュエーションということで全体的にフレアを強めに入れ、やや白飛びした画づくりになっている。望遠レンズの場合は Lenscare をい、被写界深度を付けることで奥行き感を強調させている
合理性を踏まえた上で、最終的にはアーティストの感性が決め手になる
本プロジェクトでは色味の階調表現にひときわ注意を払ったため、コンポジット作業には OpenEXR にネイティブ対応している NUKE を使うという案もあったという。しかし、制作時は 『劇場版マクロスF ~サヨナラノツバサ~』(2011)プロジェクトも同時並行で動くなど、結果的にかなりタイトなスケジュールになったこともあり、日頃から使い慣れた After Effects を選択したそうだ。
「写実性の高い映像表現は多くあると思いますが、物理的な正確さに囚われてしまうと、フラットに見えてしまう危険が出てきます。そこで、画面に華を添えてくれるのが HIBIKI 君です。キャラクター・アニメーションを魅力的に仕上げる上ではアニメーター独自の感覚が重要になると言われていますが、コンポジットワークについても同様でコンポジター独自のセンスが求められると常々感じています。そのセンスとは、テクニカルな知識はもちろんですが、それ以上にその人の創造力に委ねる部分が多いのではないでしょうか」そう語るのは八木下氏。
言うまでもなく、コンポジットワークを行う上では合成の原理や画面内の情報に号整理を持たせるための知識が欠かせない。例えば、本作のようなコンサートシーンであれば実際にライブを観に行ったり、ライブ映像を参考にすることが成功への近道となるが、単純にそれらを模倣するだけでは魅力的には仕上がらない。物理的な根拠を念頭に置きながらも最終的な画づくりは、担当デザイナーがそれまでに得た知識や経験を下にその感性をいかんなく発揮することで初めて魅力的な映像に仕上がるわけだ。
本プロジェクトの場合、特にランカ篇では"観る人の感性に訴える光のページェント"という極めて感覚的な要素が必要だったため、ステージ演出用のスポットライトや観客が持つペンライトなどの光の演出を調整する上で HIBIKI 氏の感性が最大限に発揮された。
<ランカ編:ショットブレイク>
STEP 1:カラーパス(ランカ)
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STEP 2:V-Ray for Maya による光の方向性を持ったグローバルイルミネーション(以下、GI)素材を重ねたもの
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STEP 3:After Effects 上でカラコレした影素材を重ねたもの
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STEP 4:V-Ray for Maya による GI 素材を重ねたもの
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STEP 5:フレネル等を重ねて立体感を出したランカの完成ルック
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STEP 6:BG 素材
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STEP 7:被写界深度用のデプスマスク。被写界深度には AfterEffects 上で LensCare を使用
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STEP 8:被写界深度 OFF(パンフォーカス)
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STEP 9:被写界深度 ON
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STEP 10:完成形
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ランカのカラー素材に V-Ray for Maya によるオクリュージョン素材やフレネル素材などを重ね合わせることで、立体感や柔らかさを強調させている。フォグライトの演出には当初ボリュームライトを利用していたがレンダリング負荷が大きかったため、最終的にはムービングライトの設定を行なった後に Maya からライトの位置データを出力し、Trapcode LUX を使用して合成している。その他に、光の表現には Optical Flare と Knoll Light Factory も重宝したとのこと。スポットライトなどは本来カメラを通すと白飛びし色味もそれほど出ないが、『ランカ』篇ではキャラクターを引き立てるべく意図的に彩度を高めに設定された
Massive によるモブ(群衆)表現
2010年に Massive を導入したというサテライト デジタル部。本作でも、Massive を使いモブを配置したことで映像に厚みを持たせることに成功している。
「TV 版や劇場版『マクロスF』で表現しきれなかった課題のひとつとして、モブシーンがありました。全宇宙を舞台にした壮大な物語であるはずなのに、街中の人数がどうしても限られていたのです(苦笑)。シェリルやランカのライブシーンの観客も止め絵になっていたので説得力に欠ける部分がどうしても心残りでした。 3DCG の利点のひとつは効率的に物量を表現できることなわけですが、さすがに数万人規模のモブとなると通常のやり方では限界があります。群衆シミュレーションに特化した Massive は、以前から導入したいツールと考えていたのでようやくひとつの願いが叶った感じですね」(八木下氏)。
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観客モブに使用したモデル(Massive ではエージェントと呼ばれる)。基本的には遠景用として使用するのため 1 体あたり約2,000ポリゴンでまとめられている
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ランカ篇のモブの配置(左)と、Brain(群衆全体の動きを制御する要素)の設定画面(右)。ランカ篇では 1.5〜2 万体のエージェントが観客としてレイアウトされた
「カメラがエージェント(Massive で動かす群衆キャラ)に近づき過ぎるとレンダリングできないというバグがあったので、モブを避けるようなカメラワークに変更したり、モデルがローポリモデルなので寄りで映るカットでは合成時にぼかしを入れるなどして対応しました。また、スケジュール的な制約もありエージェントの接地を追い込むのが難しかったため、足元を映さないようにも配慮しています(苦笑)。Massive はまだ使い始めたばかりなので、これから色々と試しながらノウハウを蓄積していきたいですね」(森野氏)。
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完成したモブシーン(上:『ランカ』篇、下:『シェリル』篇)
チームとしての経験値こそが、"最大の武器"
サテライト デジタル部は、常に先行者として斬新な映像表現を目指している。その為、ある程度はクオリティを犠牲にしてでも、新たな技法を積極的に採り入れてインパクト重視での制作が目指されている。
「僕らは集中力が続かないのでなかなか長期戦は難しいんですが、その代わりにゲリラ的な戦いは得意なんですよ」と、プロデューサーの橋本トミサブロウ氏が言うように、このゲリラ的な試みがひとつの形として結実したのが、CGWORLD でも取り上げた クラムボン MV『KANADE Dance』 であった。つまり『FEVER マクロスF』は、『KANADE Dance』で得たノウハウを武器にさらなる新境地に挑んだプロジェクトなわけだ。
『FEVER マクロスF』では、橋本氏を中心としたこのチームの成長を強く感じる。同じイメージを共有し、同じベクトルで制作できるチームを持つということは非常に強力な武器であり、作品のクオリティに直結すると言っても過言ではない。今後もそのチームワークと新たな技法や手法によって、アニメという表現枠に囚われることなく、より一層強烈なインパクトを与えるゲリラ的な作品が生まれることを楽しみにしている。
TEXT_村上 浩(夢幻PICTURES)
PHOTO_弘田 充
『FEVER マクロスF』
本映像は、『FEVER マクロスF』(フィーバーマクロスフロンティア)公式サイトの「スペシャル」ページにあるゲーム「アイ君を探せ!」をクリアすれば視聴できる。ぜひ挑戦してもらいたい。
『FEVER マクロスF』公式サイト
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