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映画『ミロクローゼ』の演出と VFX に迫る

映画『ミロクローゼ』の演出と VFX に迫る

石橋義正監督インタビュー
〜純粋なものづくりへのこだわり〜

監督だけでなく、脚本、美術、編集、さらに音楽まで自らてがける石橋監督。様々な挑戦を続ける監督が本作で試みた表現とは何か。『ミロクローゼ』で監督はどのような世界を描こうとしたのか、石橋流映像演出に迫る。

石橋義正監督


:カット割りやノリの良さなど「石橋ワールド」全開の本作ですが、編集も監督自ら行われているのですか?

石橋監督:はい。シネレンズを装備したソニーの PMW-EX3 で撮影を行い、データを ProRes 422 で Mac に取り込み、Final Cut Pro で編集しています。編集が終わったものはカットごとに After Effects に読み込んで、カラーコレクションを施しました。そこまでの作業は自分で行い、それ以降は CG が必要なカットなどに分け、分業しながら進めています。様々な技術が進化したことにより、今は編集スタジオを借りなくても自分で作業することが可能になりました。時間をかければとことん追究できるので、本作でも細部までこだわって作り込んでいます。

『ミロクローゼ』After Effects での操作画面 『ミロクローゼ』After Effects での操作画面

After Effects での操作画面。監督自ら編集も行う

:石橋監督の作品は映像が音楽的で、観ていて非常に気持ち良いですが、音楽も担当されているそうですね。

石橋監督:音楽は感情的に作っていけるので好きですね。ベッソンのパートはミュージカル的な表現になっていて、映像に後から音楽を付けるのではなく、シナリオを書く前に曲から作っています。Logic Pro 上でキーボードやループ音源を使って作曲しました。どのようにダンスをみせるかを決め込んでから撮影に臨み、音に合わせて自分で編集をしています。それが全体のリズム感につながっているのでしょうか。ベッソンのパート以外は作曲家にお願いしていますが、もう少し乾いた感じ、ウェットな感じ、というように曲のニュアンスを伝えながら仕上げてもらいました。

『ミロクローゼ』Logic Pro の編集画面

Logic Pro での編集画面。監督自ら作曲することで映像と音楽がマッチした気持ちよいグルーヴが生まれる

:主人公の1人、タモンが大立ち回りする大迫力のシーンには圧倒されました。あの表現に行き着くまでの経緯をお聞かせください。

石橋監督:「大立ち回りの途中で見得を切るシーン」を描きたくて、この映画を創ったようなものです。自分は「こういう画を撮りたい」というところから映画づくりに入ることが多いのですが、このシーンは高知県で絵金の歌舞伎絵を観たときに思いつきました。絵巻物のように横にスクロールしながら、平面的ながらも奥の方まで人物の細かい動作が見えてくるようにしています。最初はセルフタイマーでカウントしながら自分で動いてみて、イメージボードを起こし、After Effects でプリビジュアライゼーションを行い、それを元にアクション監督と動線や動きを決めていきました。このシーンは 50 人ほどの役者が一斉にアクションするのですが、ひとりひとりに自分の演技を大切にするようにしてもらったので、とても活き活きした画が撮れています。現場が一体となって盛り上がり、その気持ちが画として出ているのかもしれませんね。当初はブルーバックで別々に撮影し、後で合成しようとも考えていたのですが、一発勝負でやって良かったと思っています。

『ミロクローゼ』メイキング 『ミロクローゼ』メイキング

何度もリハーサルを重ね、全スタッフの心をひとつにして一発勝負の気持ちで撮影したという

:大勢の学生スタッフも制作に参加されたということですが?

石橋監督:以前から、前向きな意味での自主制作的なスタンスで作品制作に臨んできたのですが、今回はプロが学校に持ち込んだプロジェクトを学生が手伝い、現場を体験しながら学ぶというプログラムがあり、それに参加しました。タモンの大立ち回りで登場する横幅 30m のセットを京都造形芸術大学のウルトラファクトリーに、お猪口や花札などの小物は 3DCG を大阪電気通信大学の学生たちに頼みました。彼らは手探りなので、やってみたけどできなかったということも起こり得るのですが、純粋にものづくりをしたいという気持ちだけで挑んでいるのは大変気持ち良いものですし、一緒に制作することで刺激も受けました。自分も常に「純粋にものづくりを!」という気持ちを大切にしているので、こういった自主制作的なスタイルをこれからも続けていこうと思っています。

『ミロクローゼ』メイキング 『ミロクローゼ』メイキング 『ミロクローゼ』メイキング

オーディションで選抜された学生スタッフも加わり、大立ち回りをはじめとする様々なシーンのセットが組み上げられた

:映画原作の制作が難しい状況下で、あえて挑戦した思いを聞かせてください。

石橋監督:この映画を完成させるのに8年の歳月がかかりました。原作のある映画とちがいヒットの保証がないオリジナル作品は、どんなに良い脚本ができてもなかなか話が進みません。たとえ自分ひとりになってもつくるんだという強い思いがなければできないのだと痛感しました。現在、原作を持った映画や広告を目的とした映像が多く、映像本来の作品性が失われつつあります。また、どこででも簡単に映像が観られるようになったことで映画館を利用する機会が減り、映像はどんどんパーソナルなものになってきました。「大勢で共有できる文化」としての映像をつくっていくことは、映像に携わる人間にとって大切なことです。その意味でも『ミロクローゼ』が映画発の作品であることは、意義があると思います。

『ミロクローゼ』台本 『ミロクローゼ』の台本

『ミロクローゼ』の台本。中にはラフコンテも描き込まれている

:CG など映像技術の発達によって、どのような変化がありましたか?

石橋監督:コンピュータ1台で作品がつくれるようになったことで、絵を描いたり写真を撮るように、映像制作が身近になった影響は大きいです。ポスプロなど、今まで誰かに頼まないとできなかったことが自分の手で行えるようになり、時間をかければとことん追い込むことができるようになりました。もちろん何もかもが CG になってしまうと手作り感が失われてしまう気もしますけど、今後 3DCG を含め映像技術がどう発展していくか楽しみにしています。

石橋監督のデスク

石橋作品が生み出される監督のデスク

『ミロクローゼ』イメージボード 『ミロクローゼ』イメージボード

シナリオと同時に描かれたイメージボード。様々なことが自身で可能となり、思い描いたビジュアルにより近づけられるようになった

『ミロクローゼ』イメージボード 『ミロクローゼ』

同じくイメージボード<左>と、実際に制作されたカット<右>

石橋義正監督


石橋義正(監督)

1968 年、京都生まれ。京都ならではの伝統工芸に慣れ親しみながら、映像制作の道へ。初の短編映画がキリンプラザ大阪コンテンポラリーアワード優秀賞、映像部門賞を同時に受賞する。代表作は『オー!マイキー』『バミリオン・プレジャー・ナイト』、劇場用映画『狂わせたいの』など。また、映像&パフォーマンスグループ「キュピキュピ」のメンバーでもある。

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