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映画『ミロクローゼ』の演出と VFX に迫る

映画『ミロクローゼ』の演出と VFX に迫る

完成度を押し上げた 3DCG 表現

ここからは、本作の具体的なメイキングについて紹介していこう。石橋監督独自の制作手法に加え、挑戦的な表現を描くのにひと役買った VFX ワークについて中核スタッフのひとり、ギャラクシーオブテラーのテラオカ氏に話を聞いた。

『ミロクローゼ』メイキング

全てはこの画のために! 圧巻の大立ち回り

浮世絵×絵巻物:飽くなき映像制作

本編後半に登場するタモンの大立ち回りは、石橋監督がこのシーンを描くために本作を撮ったというだけあり、大勢の役者が入り乱れ浮世絵の中に入り込んだような錯覚さえ覚える、とても見応えのあるシーンだ。

当初は4レイヤー化して別々に撮影し、後で合成して画をつくることも検討されたそうだが、最終的には奥行きのある横長のセットを作り、1発撮りで撮影されたという。カメラはハイスピードで撮れる FASTCAM を使い、最もスピードが活きる 500 コマ/秒で撮影。奥にいる人物の演技までしっかりと観ることができる。スローモーション映像としての尺は長いものの、実際の演技時間はわずか 20 秒間ほど。これを1セットとして4セット撮影したそうだ。役者ひとりひとりの演技と構図がどこのタイミングでも決まっており、1コマ1コマが絵画のように見えてくるほどの完成度には驚かされる。その中でカメラがドリーし、奥方向の構造が見えてくる瞬間は鳥肌ものなので、ぜひ劇場で体感していただきたい。

『ミロクローゼ』セット 『ミロクローゼ』セット 『ミロクローゼ』セット

大立ち回りのために制作されたセット

『ミロクローゼ』メイキング 『ミロクローゼ』メイキング

<左>処理前の映像。上手にはグリーンバックが見える。<右>セットで作れなかった欄間などが 3DCG で足された

3DCG は、セットの構造で作ることのできなかった欄間や飛ばしものの小物のほか、襖の奥に繋がる部屋や庭、タモンが見得を切る際のモーフィングなどで使われた。ハイスピードカメラで撮影された映像は NUKE でカラーコレクションが施され、そこに 3ds Max で作った 3DCG 素材を足して仕上げられている。3DCG を実写に馴染ませるには複数のパスが必要になってくるため、OpenEXR を使いマルチパスで管理された。しかし、このカットは全篇ハイスピードカメラで撮影されているため、とにかくデータ量が多く、200GB 強にも膨れ上がった素材の管理には苦労したそうだ。

『ミロクローゼ』メイキング 『ミロクローゼ』メイキング

<左>3ds Max での作業画面。カメラは boujou でトラッキングしている。<右>合成前の 3DCG 素材。この後コンポジットで実写と馴染ませる

『ミロクローゼ』小物 『ミロクローゼ』小物 『ミロクローゼ』小物 『ミロクローゼ』小物

刀や花札などの飛ばしものは 3DCG で制作された。これらを合成して映像が完成する

このシーンの要所要所でタモンが見得を切り、カッコイイ! と思うと同時に笑ってしまうのだが、この歌舞伎絵のような表現も 3DCG によって実現したものだ。西洋からパースという概念が持ち込まれる以前の歌舞伎絵では、人間の関節が3次元的にはありえない付き方で描かれることがあった。それを表現するために役者の顔と腕を別に素材撮りし、2D 的にモーフィングさせることで画を完成させたという。ただし、寄り眼の表現は、当初 CG で対応することも検討されたが、役者が練習してできるようになってしまったというから驚きだ。

1番の見せ場と言える、見得を切るシーン

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