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映画『ミロクローゼ』の演出と VFX に迫る

映画『ミロクローゼ』の演出と VFX に迫る

絵本の世界のようなオブレネリ ブレネリギャーの小さな家

『ミロクローゼ』

セット、模型、3DCG のハイブリッドで作り上げる

重なり合いつつもそれぞれ異なる不思議な世界が登場する本作。その中の1つ、オブレネリのパートではパステル調でミニチュア撮影したような質感の、絵本的でファンタスティックな世界が描かれている。オブレネリの家は、1階、2階、テラスのセットを部分的に組み、セットエクステンションとして壁や屋根が 3DCG で足された。また家のミニチュア模型も制作され、それを利用してフル 3DCG も起こされている。この模型の家とセットからマチエールを撮影してテクスチャを作り、3ds Max のモデルに貼り込むことで質感の向上を図ったそうだ。ベッドや時計などの小物に関しても、実物のリファレンスから 3DCG が起こされており、リアリティのある画に仕上がっている。そのためテクスチャ容量は 4GB にものぼったそうだが、完成した映像を観ると、独特の質感表現に貢献していることがわかるだろう。

『ミロクローゼ』イメージボード 『ミロクローゼ』イメージボード

シナリオ制作前に描いたイメージボード

『ミロクローゼ』

ミニチュアや絵本のような世界観に仕上げられている

このパートは 3DCG で補う部分が多かったため、多くのカットでカメラトラッキングが必要になった。トラッキングには PFTrack が使用され、3D カメラを 3ds Max へ読み込むことでマッチングが行われている。さらに、彩度の高いカラフルな色遣いのこのパートでは、人物などのパーツごとにカラーコレクションを施さなければならなかった。そのために必要な多くのマスクワークは、大阪電気通信大学の学生による人海戦術で乗り越えたそうだ。

『ミロクローゼ』メイキング 『ミロクローゼ』メイキング

<左>バーチャルセットとして機能するように、3ds Max で家の細部まで作り込まれている。<右>テクスチャフォルダには膨大なファイルが並ぶ。質感を出すために1つずつ丁寧にテクスチャが描かれていった

リアルさと違和感を併せ持つネコ
ベランドラ・ゴヌゴンゾーラ

3DCG で描かれる不思議なネコの表現

オブレネリの家に住みつくネコ、ベランドラ・ゴヌゴンゾーラはフル 3DCG で描かれている。リアルな質感でありながらも、独特な動きや表情がどことなく違和感を感じさせる、不思議な存在だ。監督からは、世捨て人のようであり狸のようでもある、毛並みの長いネコにしたいという要求があり、それに応えるためにどのようなルックにしてどのような手法で作成するのか、制作終盤まで試行錯誤を重ねたという。

その中で、毛の表現には細心の注意が払われている。毛並みを細かくスタイリングするのには、3ds Max 標準搭載の Hair&Fur を使用。コンフォーム機能によってクシで毛を梳かしたり、散髪したりするようにモデリングが行われた。しかし、これがなかなか思うように動かず、良い結果になるまで何度もトライして追い込んでいったという。また、ネコのような動物の毛が、体の中心に向かうにしたがって影が濃くなっていく現象をディープシャドウというが、本作ではレンダリングを V-Ray で行なっているため、そのままではこのディープシャドウを表現できない。そこでヘアのレンダリング時に V-Ray 1.5 SP3 から対応した mr prim モードを使うことでこの問題を解決したとのこと。このような積み重ねがのひとつひとつが、一見リアルなようでリアルでない、ファンタジーかつ独特な世界観を作り上げるのにひと役買っているというわけだ。

『ミロクローゼ』メイキング

Hair&Fur で少しずつ毛並みを整え、イメージに近づけていく。1日中毛を弄っている日もあったとか

『ミロクローゼ』メイキング 『ミロクローゼ』メイキング

顔と胴体を分けてレンダリングし、後で合成した

『ミロクローゼ』

リアルな外見に反して不思議な動きをするベランドラが世界観の演出にひと役買っている


映画『ミロクローゼ』より、ベランドラ・ゴヌゴンゾーラの動き

テラオカマサヒロ氏


テラオカマサヒロ

株式会社ギャラクシーオブテラーにてビジュアル・エフェクツ・ディレクターとして活躍中。実写合成からフル 3DCG まで、幅広い VFX 制作に携わっている

TEXT_高橋哲人/下村舞子(TETSUJIN Audio Visual)
映像音楽家・ディレクター/CG デザイナー
www.tetsuto.jp
PHOTO_弘田 充



『ミロクローゼ』

『ミロクローゼ』

11 月 24 日(土)シネクイントほか全国順次ロードショー
©2012「ミロクローゼ」製作委員会
監督・脚本・美術・編集・音楽:石橋義正
出演:山田孝之、マイコ、石橋杏奈、原田美枝子、鈴木清順、佐藤めぐみ、岩佐真悠子、武藤敬司、奥田瑛二
主題歌:ONE OK ROCK『LOST AND FOUND』(A-Sketch)
音楽:久保田修、生駒祐子、清水恒輔
配給:ディーライツカズモ
www.milocrorze.jp

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