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劇場アニメーション長編『009 RE:CYBORG』 神山健治監督&サンジゲン中核スタッフインタビュー

劇場アニメーション長編『009 RE:CYBORG』 神山健治監督&サンジゲン中核スタッフインタビュー

サンジゲン流のアニメ制作とは

『009RE』映像制作をリードする株式会社サンジゲンは、日本アニメ作品向けの 3DCG アニメーションに特化して、これまでの既成概念を打破し続けてきた。神山監督が「今、最も勢いのある制作会社のひとつ」と賞賛する彼らの強みとは、一体何なのだろうか。まずは制作プロデューサーとして本作に参加した、サンジゲンの代表取締役 松浦裕暁氏に、同社の信条について話を聞いた。

松浦裕暁氏(右)(まつうら ひろあき)
株式会社サンジゲン代表取締役、プロデューサー。同社の近作は、来年からスタートする TVシリーズ 『ブラック★ロックシューター』 をはじめ、劇場版『トワノクオン』 他多数。

鈴木大介氏(左)(すずき だいすけ)
株式会社サンジゲン取締役、アニメーションディレクター

「語弊を承知で言いますが、僕らの一番のお客さんは観客ではなく、プロの作画マンだと思っています。まずは作画のアニメーターさんに認めてもらいたい......その先に、きっと市場が広がっていると思うんです」(松浦氏)。

2006年の創業以来、作画アニメに近い 3DCG アニメの表現に力を入れ、下請けとして活動してきた同社。他の制作会社と差別化するために心掛けているのは、スタッフを CG アニメーターではなく、原画マンとして扱うという点だ。
「お客さんには"僕らを原画マンと同じように扱ってください"とお願いするようにしてます。使う用語も、なるべく作画アニメに近寄って、心を開いてもらうようにしている。もちろん、アニメ業界にとって、3DCG はまだ新しい技術ですから、毛嫌いされる場合もあるんですが(笑)。......だけど、"サンジゲンを使わなければ絶対に良くならない"と思ってもらえるよう、さらに頑張るつもりです」。

また、これまで下請けとして多くのプロジェクトに携わってきた経験から、早く仕上げるよう実践してきた、という松浦氏。さらに、クライアントである演出や原画マン達とできるだけ多くの意見交換を交わすなど、3DCG プラスαの制作体制を築くことで、そのアイデンティティを確立していったのだとか。

「『009RE』のように全体に関わっている作品とは別に、単純に、クルマのモデルを作るだけ......といった仕事も、もちろん担当しています。そういう場合は、絵コンテさえもらえば、後は指示がなくても"やっておきますね"と。お客さんの手間にならないよう、かつ期待以上のクオリティに仕上げることを実践してきました」。
アニメーションと言えば手描き、といった感もあるアニメ業界の中で、敢えて 3DCG を選び、使い続けてきたサンジゲン。そこには、やはり長年、使い続けてきた彼らだからこそ感じるメリットがあるはず。
「一番のメリットは、やはり鉛筆を持って絵を描かなくて良いこと。ただし、自動的に何かが出来上がるとは思っていません。従来の 3DCG は大半が"シミュレーション"(=誰がやっても同じ結果になる)の域を脱してなかったのに対し、僕らは CG で原画を描く感覚で絵を作っています」。
もちろん、シミュレータを利用しない訳ではない。しかし彼らは、あくまでも、"絵筆"として 3DCG を使い、シミュレータの利用は、ルーチンワークの自動化といった、サポートに使用するのだという。

『009 RE:CYBORG』の制作体制

では、実際に『009RE』PV 制作がどのような体制で行われたのか、少しだけ紹介しよう。
まず始めに松浦氏によると、これから制作していく本編は約1,500カット、110分程度の尺を目指し制作が進められているという。スタッフの人数は、現時点で(外部スタッフも含めて)約70名ほどで、常時『009RE』に携わっているのは25~30名程度だとか(もちろん本制作が進むにつれてスタッフは増えていくおとだろう)。
「プロジェクトがスタートしたのは今年5月、PV は7月からスタートして、約2ケ月ほどかけ、制作しました」。
また、本作のために、レンダーファームを60台追加したほか、ストレージの増設、ネットワーク回線の一新など、ハードウェアの強化も行われている。さらに、色指定に合わせ、各シーンごとに自動で色合わせるツールを自社開発するなど、3DCG のアニメ屋ならではの、制作体制の効率化が行われている。
このように、2D アニメに近い絵作りと、デジタルならではの効率化という2つの武器を持って、『009RE』の制作は進めれられているようだ。

『009 RE:CYBORG』場面写真

© 2012『009 RE:CYBORG』製作委員会

『009 RE:CYBORG』から、これからの 3DCG アニメへ

作画ルックの 3DCG を得意としてきたサンジゲン。『009RE』PV の映像を見ると、そのクオリティは、コアなアニメファンでなければ、作画なのか 3DCG なのか判らない......というレベルにまで、近づいてきているように思う。しかし、松浦氏によると、現段階はまだまだ通過点に過ぎないのだとか。
「アニメの 3DCG は、一般的な人からすれば、現時点ですでに完成されていると思うかもしれません。ですが僕達は、2D アニメの原画を描く人が見ても判らない......というレベルを目指しています。これまで10年かけてやってきたのは、3DCG を 2D の作画アニメに近づけるということ。これからの2~3年は、新たな映像表現の扉を開くための時期だと思っています」。
常に新しい表現を目指し、進化を続けていくというサンジゲンの姿勢。かつて、爆発的な進歩を見せてきた 3DCG や VFX の映像表現も、ここ数年は、その成長速度が緩やかになってきているように思う。しかし、松浦氏の話を聞いていると、アニメ作品の、しかも 3DCG という、まだ伸びしろのある分野だからこそ、私達がこれまで目にしたことのない、新しい映像を見せてくれるのでは......と、そんな風に感じて、何だかワクワクさせられる。
「正直な話、日本の 3DCG アニメーションは、これまでほぼ全てが商業的には失敗していると思います。だからこそ、自分は日本市場で成功するためのひとつの有効な解答として"セルルックのCGアニメーション"で勝負を仕掛けているのです」。
3DCG アニメにかけるその情熱が、新しい表現を確立し、かつ、商業的に成功する。そんなゴールを目指し、サンジゲンの挑戦はまだまだ続いていくようだ。

Profileプロフィール

Kenji Kamiyama

Kenji Kamiyama

神山健治(かみやま けんじ)
1966年(昭和41年)3月20日生まれ。埼玉県出身。
代表作『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ、『精霊の守り人』、『東のエデン』他

『009 RE:CYBORG』(ゼロゼロナイン リ・サイボーグ)

『009 RE:CYBORG』(ゼロゼロナイン リ・サイボーグ)

西暦2012年 秋 全国公開予定
原作:石の森章太郎
脚本・監督:神山健治
キャラクターデザイン:麻生我等
アニメーションディレクター:鈴木大介(サンジゲン)
制作プロデューサー:松浦裕暁(サンジゲン)
プロデューサー:石井朋彦
共同制作:Production I.G / サンジゲン
配給:Production I.G / ティ・ジョイ

© 2012『009 RE:CYBORG』製作委員会
http://009.ph9.jp/

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