>   >  Autodesk Smoke 2013 導入事例<1>Khaki ~プロダクションハブとしての可能性~
Autodesk Smoke 2013 導入事例<1><br />Khaki ~プロダクションハブとしての可能性~

Autodesk Smoke 2013 導入事例<1>
Khaki ~プロダクションハブとしての可能性~

プロジェクトを通して実感した
Autodesk Smoke 2013 の強み

ポスプロ作業中、撮影データ(MXF)に問題が発生したこともあったというが、その際でも MacBook Pro に Autodesk Smoke 2013 が入っていたため、直ぐに確認することができたという。このように Autodesk Smoke 2013 は Mac ベースなので、柔軟に対応できる点が強みの一つだった。安心感と堅牢な編集システムという点については Linux ベースのターンキーシステムである Autodesk Flame に一歩譲る部分があるものの、Flameに劣らぬ柔軟性や機動力を活かした作業が可能になるのが Smoke なのでは......と、水野氏は言う。

Khaki

『黒猫の不思議な旅.jp』メイキング:ティルトダウンするとヨーロッパ風の街並みが広がる遠景。そこから少女ジェシカ(メール送信者を象徴)の部屋までズームするという長回しが印象的なトップカット(3DCG 制作:SAMPRASdesign)。Action の中でもノードベースなので画像の位置調整や、窓ガラスに映り込む街並みの透明度などを一括で管理できる
© 2013 Japan Registry Services Co.,Ltd.

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『黒猫の不思議な旅.jp』メイキング:塔の賢者(ルート DNS サーバを象徴)のシークエンスより(3DCG 制作:横原大和氏)。カメラマップした FBX を読み込むことにより、Z デプスのパスが作成できる。これによりデータのやりとりが最小限で済んだとのこと
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「Autodesk Smoke 2013 は、ConnectFX の中で選択したノードから手前の部分をまとめる Create CFX がとても優れています。具体的に言うと、ノードの中でタイミングを調整したい時に一度まとめ、そこに TimeWarp でストレッチをかけて調整でき、まとめたものを展開すればノードが残っているという機能がとても便利なんです。ツリー状態のノードのタイミングを変える作業には今まで苦労させられていたので、より便利さが実感できます」(水野氏)。

このように、ノードを保ったままひとつにまとめてくれる Create CFX(ConnectFX) は複雑なノードを組む時にはとても重宝するという。「解像度などはクリップに依存しますが、ConnectFX だと様々な解像度で出力することができ、バージョニングが楽なんです。例えばタイプ毎にノードに置いて"どれにしようか?"と比較することが直ぐにできる。様々なバリエーションをひとつのノードの中で作成できるのはとても便利ですね」(水野氏)。この機能を使えば、例えばクリップだけ置き換えて同じ効果を加えることも簡単に行えるという。

『黒猫の不思議な旅.jp』 『黒猫の不思議な旅.jp』

『黒猫の不思議な旅.jp』メイキング:ConnectFX の使用例。ノードベースなので Autodesk Flame のバッチ機能と同様に全体の作業が把握しやすく、細かい調整が非常にやりやすい
© 2013 Japan Registry Services Co.,Ltd.

Khaki が目指すもの

現在、Khaki で使用している Autodesk Smoke 2013 は1ライセンスのみで、おもに水野氏が使っている。そのため田崎氏は After Effects と NUKE をメインツールとしているが、元々は Autodesk Smoke ユーザーだったのだとか。「隣で水野の作業を見ていて、オールインワンとしての Autodesk Smoke 2013 は素晴らしいなと思いました。僕が Smoke を使っていたのはもう何年も前のことなので直ぐに切り替えるのは難しいですが(苦笑)、機会があれば触ってみたいですね」。

Autodesk Smoke 2013 自体は After Effects や NUKE などと混在でき、協業することも可能だ。しかし同社では、最終的にはポスプロにアーカイブの形で持ち込む(※)ことに加え、Autodesk Smoke であればクライアントが立ち会った状況で、迅速に編集/合成結果をプレビューできる点を加味し、Autodesk Smoke で仕上げることを前提に作業しているそうだ。
※Autodesk Smoke 2013 のアーカイブは 2013 年3月現在、Linux 環境では Flame/Flame Premium はバージョン 2013 20th Anniversary Edition 以降、Flame 以外はバージョン 2013 Extension 1 以降で対応している

Khaki

『黒猫の不思議な旅.jp』メイキング:バージョン2013から設定された解像度よりも大きなサイズの素材を配置すると、フレーム枠の 外側部分も表示されるようになった。この改善により、今までもよりもさらに効率的に画づくりが行えるようになったという。また、本作では最終 的なグレーディングも Autodesk Smoke 2013 上で行われたが、16bit カラーで作業することにより、マッハバンド が現れない高精細な繊細なグレーディングが可能だ
© 2013 Japan Registry Services Co.,Ltd.

制作環境としては、Thunderbolt 接続でビデオアウトに AJA Io XT を、ストレージは Netstor NA762TB(8ドライブの SATA エンクロージャー)を RAID5 で運用している。MacPro ではなく iMac を使用している点については、iMac でも問題なく動作するため、最小限の環境でどこまで対応できるのかを試してみたいためなのだとか。さらに現状、MacPro には Thunderbolt が付いていないため、システムが大がかりになってしまいコストも増えてしまうデメリットを避けたかったからとも言う。なおプラグインとしては、現在は Primatte を使用しており、今後は Sappire も導入する予定とのことだ。

Khaki

Khaki の Autodesk Smoke 2013 使用環境。コストパフォーマンスなどを加味した結果、iMac で使用されている

同社が今後の目標として挙げた中でとくに興味深かったのが、Autodesk Smoke 2013 のライセンスを2つに増やし、オンライン編集を複数人で行いたいという点だ。実際に別のプロジェクトで、Khaki と同じ頃に誕生したブティックスタジオの DEFENSE の格内俊輔氏に協力をあおぎ、Khaki へ出向いてもらい同時並行で編集作業を行なったことがあったそうだ(そのときは格内氏に MacBook Pro を持参してもらったとのこと)。
こうした体制は監督からの評判も上々だったとのこと。長尺プロジェクトであればこのような制作体制もあるだろうが、今後は Khaki が主戦場とする CM や MV 案件でも積極的にチャレンジしていきたいという。
「他にも試してみたいことは色々あります。クリエイティブでもっと面白いことにもチャレンジしたいので、そのための技術も磨いていかなければいけません。実は 3DCG にも興味があって、特に Autodesk 3ds Max のプラグインFumeFX に関しては、時間を見つけて勉強したいです。そうしてスキルとノウハウを培っていきながら Khaki が実践するワークスタイルをどんどん発信していければと思っています。スタッフにも同じような考えが増えてきたので、お互いに切磋琢磨していけると良いですね」。
Khaki への取材を通して、ポスプロのエンジニアである筆者が強く感じたことは2つ。まずは Autodesk Smoke 2013 の可能性はスモールプロダクションでの作業内容を確実に高めるということ。もう1つは、ツールの使い方を熟知して効率やクオリティについて考えることで、ワークフローに大幅な変革をもたらすことができるという点である。そして、彼らに対してサービスを提供するポスプロ側としても、より柔軟な対応を目指していかなければならないということを、実感させられた。

TEXT_小林正樹(WINK2
PHOTO_弘田 充

Smoke 2013

Autodesk Smoke 2013

価格:535,500 円(コマーシャル スタンドアロン版)
OS:Mac OS X 10.6.6、10.6.7、10.7.2 または 10.8.x ※64ビット Intel マルチコア プロセッサ
RAM:8GB 以上を強く推奨
※詳しくは 公式サイト を参照のこと
問:オートデスク 株式会社

Profileプロフィール

(メイン写真)
左から順に、豊田京太郎氏(ディレクター)、田崎陽太氏(VFX コンポジター、マットペインター)、水野正毅氏(VFX コンポジター、プロデューサー)以上、Khaki。横原大和氏(デジタル・アーティスト、フリーランス)

スペシャルインタビュー