Q.現在の日本のCG/映像業界をどのように捉えていますか?
北田氏:ハリウッドのCG制作と日本のCG制作では、これまで歴史的に積み上げられている層の幅が全くちがいますね。
作品の善し悪しは別にして、CGの技術的な側面から見てしまうと、海外と日本とでは10年ぐらいの開きがあると言われています。
日本の多くのプロダクションが、プロジェクトが終わったらチームを解散して、また新しいチームで新しいプロジェクトを始めるということが多い気がします。
プロダクションとしての知識や技術の蓄積があまりなされていない感じがします。
海外のプロダクションでは、長年のノウハウの蓄積がとても優れていて、基本的にフリーランスのスタッフを集めて制作を行っているにも関わらず、プロジェクトのちがいによってクオリティが下がるということがない。多くのプロジェクトを手掛けていくことで、そのノウハウをうまく蓄積していって、年を追うごとにクオリティが上がっていくような作り方をしています。

Q.今までの経験から海外との制作現場の差はどのように感じていますか?
北田氏:技術的な蓄積のちがいのほかに大きな差として感じるのが、制作に対するスケジュール感のちがいだと思います。
日本から海外のスタジオに移籍して最初に感じたカルチャーショックがそこでした。データの管理のシステムであったり、アセットのパブリッシュの方法といった部分は、当時、私が在籍していた会社とあまり変わりはなかったのですが、働く姿勢とか、タスクに対するスケジュール感がまったくちがってましたね。
日本の現場だと11時ぐらいに出社して、夜遅くまで作業していることが多いですが海外のプロダクションではそれは通用しません。
少なくとも私の勤めたスタジオで勤務時間中に寝ているやつは皆無でしたね(笑)。
Animal Logicの時は9時スタートで19時ぐらいまでの勤務でした。その間にお昼休みがあるので、実質労働9時間でした。
みんな朝型で決まった勤務時間内に決まったタスクをきちんとこなして帰宅する。そこが最初はショックでした。
Animal Logicはオーストラリアの中で一番大きなプロダクションで、非常に優秀な人材が集まっています。日本で就業していたときに築き上げた12時間でこのクオリティで仕上げられるというスキル的な担保が通用しなくなってしまったので、8時間から9時間で彼らのクオリティのレベルでタスクを仕上げないといけないというのに慣れるまで大変でした。
日本にいたときに比べて4時間分のスピードアップをしなければいけないので、それまでマウスで作業していた部分をペンタブレットに変えたり、効率良いモデリング手法を模索するなど色々な工夫をして海外の制作スピードに合わせていきました。
海外のプロダクションのスタッフは基本的にプロジェクト単位での契約が多いので、そのプロジェクトで成果を出しておかないと次のプロジェクトに呼んでもらえなかったりします。そういう点では仕事に対する甘えがなく、危機管理のできている人が多いと感じました。
Q.今後、日本の制作現場に必要なことはどのようなことだと思いますか?
北田氏:海外のプロダクションのような、効率のいい制作マネージメントを行うためには、現在の日本のCG制作の現場では、技術的なサポートやマネージメント、エンジニアリングが圧倒的に足りないような気がします。
テクニカル職の充実も行っていかなくてはいけないと思います。
海外のプロダクションでは、テクニカルディレクターやテクニカルアーティストといったテクニカル職がスタッフの3割を占めており、とてもアーティストに対するテクニカルなサポートが充実しているんです。
あと、ハリウッドの大手プロダクションがブランチオフィスをシンガポールなどに構えていることもあって、日本以外のアジア圏のアーティストが確実に伸びてきている。
日本のアーティストは平均点が高いという評判でしたが、個人でもアジア圏のアーティストに太刀打ちできない時代が来るかも知れません。
彼らは技術に対して非常貪欲で甘えが少ない。彼らに対向するためにも、国内のアーティストの底上げが必要だと思っています。
Q.北田さんご自身の経験から北田さんの考えるプロフェッショナルとはどのようなことでしょうか?
北田氏:限られた資源の中で、最高の仕事ができることだと思います。
先程もお話したように海外のアーティストたちは限られた時間の中で仕事をすることが日常的に身についている。
限られたスケジュール、限られた予算の中で結果を出すことができないとプロの仕事ではないと思っています。
例えば、私がシンガポールで働いていた時の上司は、スーパーバイジングが非常にうまかったですね。タスクの割り振りがとてもうまい。でも自分では仕事をしない(笑)。
なぜ仕事をしないかというと、プロジェクトのスケジュールが厳しくなってきたときに、自分がヘルプに入れるだけのバッファを残しているんです。
アーティストのリソースを使い切ったときに、プロジェクトをどう回していくかまでを考えてマネージメントしている。
彼は、モデラーとしても、ハードサーフェスからオーガニックなものまでこなせ、Gnomonでも講師していたような一流のアーティストでもあるんです。
アーティストとしても一流で、マネージメントも非常にうまいというところで、私が今後お手本としたいスーパーバイザーですね。
Q.最後に今後の北田さんの活動についてお聞かせいただけますか?
北田氏:私は、今ModelingCafeの取締役に就任したので、日本での活動がメインになってきますが、今後ModelingCafeを日本でどのように発展させていくかということに注力することになると思います。
色々とプランがあるのでそれに向けてどうしたらよいのか考えています。
もうフリーではないので、ModelingCafeを一つの会社として代表の岸本氏と共に考えていかないといけない。
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- 個人的にやっていきたいと思っているのは、新人の発掘とか、新人をどんどん育てていきたいと思っています。
そうすることで日本のCG業界の底上げにつながっていくと思うので。積極的にセミナーとかワークショップ的なものをやらしてもらっているのは、CGをやりたいとコンタクトを取ってくれている方々に何らかの情報を出したいと思っているからです。
福岡支社に関しても現地採用を基本にしており、本社からは24歳のスタッフがひとり来てもらって、あとは私が教えていくという感じです。
経験あるなし関係なく横に並べてやっていくということにしています。実際にすでに大型の案件が動いているので、実践しながら育てていくという感じになると思います。
あと才能の発掘という点からいうと 、コンテストのようなものにも関わって行きたいと思っています。
やはり新人のモチベーションをあげるためにも、業界のスーパープレイヤーの存在が必要になってくると思うのです。
TEXT_大河原 浩一
PHOTO_大沼 洋平
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プロップと背景から学ぶワークフロー
著者:北田 栄二
価格:4,968円(税込)
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