
ゲーム業界向けに培った最先端のCG技術・リアルタイムレンダリング技術を活かし、近年はエンターテインメント以外の産業向けビジュアライゼーション事業にも積極的なシリコンスタジオ。そんな同社は、セミナー「事例から学ぶ3Dデジタルツイン~ROS連携シミュレーション~」を2025年7月18日(金)に開催した。本稿ではセミナーのメインパートとなった、西松建設が構築した「山岳トンネルのデジタルツインプラットフォーム」構築事例セッションをふり返る。
専門性が高く危険を伴う山岳トンネル工事の課題解決策としてのデジタルツイン
本セッションに登壇したのは、西松建設 技術戦略室 技術研究所 土木技術グループの所属で上席研究員として活躍中の山本 悟氏と、シリコンスタジオ テクノロジー事業本部 プロジェクト管理部の所属でプロジェクトマネージャーとしてプロジェクト管理業務を担当している川勝諒平氏。
西松建設は2024年に創業150周年を迎えた老舗の総合建設会社である。同社はダムやトンネルなどの大型土木工事を得意としており、山本氏は技術戦略室 技術研究所の土木技術グループ内にあるトンネルチームに所属して、山岳トンネル関連の研究開発に取り組んでいるとのこと。
西松建設 山本 悟氏(以下、山本):トンネルチームは現在、私を含めた5名で活動しています。今回ご紹介させていただく山岳トンネルのデジタルツインの開発は、当社が2022年に策定した「西松DXビジョン」の一環として取り組んでいるものになります。
「西松DXビジョン」では、「 現場力がシンカ(深化・進化)したスマート現場」、「 仮想と現実が融合した一人ひとりが活躍できるワークスタイル 」、「 エコシステムで新しいサービスや空間を創り出すビジネス 」という3つの重点領域を中心に様々なDXに取り組んでいます。
そして、私のチームでは「現場力がシンカしたスマート現場」の一環として、施工現場の遠隔化や無人化、自動化を目指してデジタルツインの活用にも取り組んでいる最中です。


山本氏は以前から山岳トンネル施工現場の様々なデータをIoTテクノロジーを使って取得して、現場に行かなくても最新の状況を把握するためのプラットフォームをつくろうとしていたそうだ。当初はグラフなど数値的な情報の取得と表示だでで考えていたが、西松建設が掲げたDX戦略のながれを受けてデジタルツインの構築へとつなげていったという。
山本氏:山岳トンネル関連のDXは、当社全体の技術開発の中でも先行しています。デジタルツインについても特に力を入れている領域です。
山岳トンネル工事では、発破や大型特殊重機による作業を伴うため、騒音や振動の問題が避けられません。また、現場は高温・高湿度で粉塵も発生するため、作業される方々の負担はどうしても大きくなっています。さらに少子高齢化が進んでおり、働き方改革への対応によって以前のようなペースで働くことも難しくなっているのが現状です。
そのためにも自動化や無人化を進めていく必要があります。

グラフィックスとインターフェイスの両面で、ゲーム開発の知見を活かす
ここで、西松建設が構築した山岳トンネルのデジタルツインプラットフォームが紹介された。
本システムは、UnityとROS(Robot Operating System。ロボット開発のためのオープンソースのミドルウェアおよびソフトウェアフレームワーク)との連携によるデジタルツイン技術を活用したものである。トンネル切羽(きりは)で掘削作業を行なっている重機の位置・姿勢、稼働状況、環境データ、設備稼働状況、作業員のバイタルデータなどをリアルタイムに統合し、現場全体を俯瞰的に管理することを可能にすることで、トンネル工事の効率化、安全性および生産性向上の実現を目指している。
山本:ご覧いただいているものは、「N-フィールド」という那須塩原にあるわれわれの山岳トンネル技術開発拠点内に建てた模擬トンネル環境から取得したROSなどのデータを、Unityで開発したデジタルツインプラットフォームにリアルタイムで反映しています。
山岳トンネル工事を想定した切羽付近を模擬トンネル内につくり、現地のホイールローダー(※タイヤで走行する、前方に装備された大型のバケットで土砂や砕石などの粉体・粒体物をすくい上げて運搬・積み込みを行う建設機械)に設置したセンサーから、その位置や姿勢、可動部位の状態などをROSデータとして取得してデジタルツインに反映しています。ROSデータだけでなく、現地の気温や湿度、風の向きなどのデータもIoT系のセンサーを使って別系統から取得し、デジタルツインに反映しています。


デジタルツインの実装にあたっては、シリコンスタジオが3DCGで仮想空間にトンネルを再現し、現場トンネル内の「環境データ」および⼈・重機の「位置データ」を仮想空間にリアルタイムで取り込んで反映・表示する仕組みの部分を開発している。
シリコンスタジオ 川勝諒平氏(以下、川勝):開発はUnityで行なっています。施工現場で稼働している建機のセンサーから取得したROSデータ、それとは別のシステムから取得した現場の温度や湿度、風速、気圧、照度などの環境に関するデータがクラウドにアップされ、クラウド上からUnityに読み込んでいます。そしてUnity上でデータ変換処理を行いリアルタイムで描画しています。
プロジェクトの初期にUnreal Engineも検討しましたが、Unityの方が、使用中のクラウドサービスで用意されているROSデータの通信周りのサンプルプログラムやSDKが充実していたので、Unityを選びました。


山本:開発にあたっては、使いやすさとビジュアルにこだわりました。
現場で働いている方々に使ってもらえるものにしないと意味がないので、コンピュータに苦手意識のある人でも直感的に操作できるUIを目指しています。
ビジュアルについては、わかりやすくするという目的もありますが、デジタルツインなどDX関連の技術は先進的なものであるがゆえに、技術特性やその効果について正しい知識をもっている人は社内でも多くありません。ビジュアルを良くすることで、「かっこいい」と思ってもらうことが実際に使ってもらえる第一歩だと思っています。

山本:開発に着手する前に、先行事例などをリサーチしました。
国立研究開発法人土木研究所が進めている自動施工技術基盤「OPERA」において、Unityが使われていることから、ゲームエンジンを使ったビジュアライゼーションを得意とする会社を探していく中でシリコンスタジオさんのことを知りました。
オリエンタル白石さんのニューマチックケーソン工法の事例を知り、自分たちがやりたいことに近いものだと思い、私の方からシリコンスタジオさんに連絡を取りました。
私はUnityや3DCGのことはよくわかりませんが、シリコンスタジオさんはいつもわかりやすく説明してくれるので助かっています。同僚に「CADデータや写真などの2D資料から、いったいどうやって3Dのデジタルツインを細部までこちらのオーダー通りにつくることができるんだ?」と言われたことがあります。
私たちのオーダーに対して「できません」とは言われたことがありません。もし技術的な問題がある場合は必ず代案を提示してくださります。
川勝:西松建設さんとのお仕事はとてもやりやすいです。われわれの提案をひとつひとつ丁寧に聞いてくださるので提案しがいがあります。
提案した内容が山本さんの意図とはちがっていた場合も、「ここは〇〇という理由で、△△ではなく、◆◆にしてもらう必要がある」といった感じにわかりやすく説明してくださるので助かっています。

将来的には、デジタルツイン上から工事現場を制御することを目指す
2023年11月から始動した山岳トンネルのデジタルツインプロジェクトは現在、フェーズ4が進行中だ(下図)。
川勝:フェーズ1では、PoC(実装概念 ※新しい技術やアイデアが実現可能か、試作開発や本格導入の前に評価・検証するプロセス)としてN-フィールドのデジタル化やホイールローダーをROSで動かすことに取り組みました。
各フェーズを通して少しずつできることを増やしています。現在進行中のフェーズ4では、外部データを参照して、トンネルモデルの形状を自動生成することを目指しています。また、外部アセットや照明の位置をGUI上で調整できるように作成中です。

山本:近い将来の目標としては、「ずり(※トンネル掘削時に掘り出される土石や岩屑)」を点群データとしてデジタルツインに反映させたいです。それによって、ずりを効率的にトンネル坑外へ搬出するための施工方法をシミュレーションできるようになると便利だと思います。
また、将来的にはROS以外の現場のあらゆるデータをデジタルツインに反映させたいです。急速に実用化が進んでいる生成AIを利用して、現場の状況のデータをAIに監視させれば、異常が起きる可能性を事前に把握できるようになり、事故を防げるはずだと考えています。
そして、デジタルツイン上からROSデータで現場の重機を制御できるようにすることが最終的な目標です。
山岳トンネルの工事は自然を相手にするため、これまでは作業員の方々の経験や勘に頼るところが多かったのですが、デジタルツインを用いることで無人化や自動化を実現できると思っています。

——セッションの最後には質疑応答の時間が設けられ、参加者からの熱心な質問が続いた。山本氏が語った通り、デジタルツインは先進的なテクノロジーのため、多くの現場で試行錯誤が重ねられている。そうしたなかで催された本セミナーは、デジタルツインについての知見を共有する有意義な機会になったはずだ。
お問い合わせ
シリコンスタジオ株式会社
www.siliconstudio.co.jp
TEXT & EDIT_NUMAKURA Arihito