<2>大衆性と作家性のバランスをどう取るか
CGW:監督業をしていて、CGの実務経験が活きたことはありますか? または、実務経験を基に、意識していることや気をつけていることなどはありますか?
森江:たくさんありますが、修正指示を出しやすいというのは大きいですね。CG的にどうすれば良いのかを具体的に示せますし、実際に手を動かす側が信頼してくれます。
宮本:コスト感を把握した上で指示を出せたり、もっと良い方法を示せたり、そういう見通しが利くという部分では、やはり実際やってきたことが活きていると感じます。また、やりたい内容が予算的にハマらない、でもどうしても「俺はこうしたいんだ!」というときに、自力で何とかできるというのもあります。例えば、本当はキャラクター3人しか出せないと言われているけど5人出したい! という場合に、自分で2体つくるのでやらせてください、という交渉ができます。
森田:自分に関しては、昔は2人が言った通り、自分が使えることがすごく良いと思っていました。直接作業してみせることができるので、自分の考えていることが伝わりやすい。スタッフが演出に対して「できません」と言ってきたとしても、ここをこうしたらできるじゃん! みたいなやりとりを直接することができる。
宮本:わかります、すごく。
森田:......というスタンスでやってたんだけど、最近はちょっと自分の中で別の意見もあって。要は、「監督は果たして作業者であってよいのか」という問題があって、ひとつの弊害になってしまう可能性に気づいたんです。例えば、作画出身の監督が、どうしても自分の絵に頼ってしまって、演出という面では手薄になってしまうというケースはあると思う。演出というものは、絵がヘタクソでも何でもいいから、作品をいかに面白くできるかが腕の見せどころで、そうではなく実務者として手が動かせる人というのは、自分がつくれる範疇でしかものをつくれない可能性がある。
森江:それは僕も感じますね。
森田:むしろ実務は何もできなくても「こういう風にしたいんです」ってアイデアを出して、イメージをかたちにしていくところはプロにお任せする。そういう風にしていった方が良いんじゃないかと、最近考えがシフトしてきました。
宮本:自分も、今後演出や監督に注力していきたいと思っている中で、そこはすごく悩んでいるところです。幸いにも信頼できる仲間にたくさん恵まれて、彼らと組んで作品をつくっていくのはとても楽しいのですが、ある瞬間に「直したい!」って思って自分の手を動かしたくなっちゃう。実作業ばかりやっていてはいけないと周りからも言われますし、実際ダメなんだろうなというのは、わかるんです。わかるんですけど......でも、手を動かしたくなっちゃうこの衝動をどうしよう!......みたいな。
森田:気持ちはわかるなあ。ただ、ひとつ大事なのはやはり出来上がった作品に「華」があるかどうか。自分でやろうが、人にやってもらおうが、観た人にしっかりと「好き!」と言ってもらえるような要素が表れていれば良いなと。
宮本:なるほど。
森田:だから自分としては、自分が作家として取り組める作品と、エンターテインメントとして集団でつくっていく作品と、両方の側面をもてたらいいなと。例えば今やってる作品や『九十九』は前者で、自分も現場に入ってガッツリ手を動かす。後者の作品の場合は、自分は監督・演出に徹して、それ以外の部分はしかるべき人たちに任せる。去年ずっとやっていた『東京喰種トーキョーグール』はこっち。それぞれに頭の使い方がちがって、今は両方できるのが楽しいなと思ってる。
宮本:取り組む作品によって使い分ける......自分たちもキャリアを積んでいけば、そのあたりのバランス感覚がわかってくるんでしょうか。
森江:僕個人としては、監督は独裁者であるべきだと思っていて。そうやってつくられた作品は、その人の色が全面的に出てくるんじゃないかと。
宮本:その色が、民主主義的な体制だと薄くなっちゃうんじゃないかとは思いますよね。予算の大きな作品とかは当然、意見を言う権利をもつ人も増えてくる。いろんな意見や思惑が飛び交う中で監督をしなければいけない難しさというのは、今監督している『プリキュア』(※4)や、その前の『ワンピース』でも感じるところでした。
※4:2015年10月31日(土)から全国で上映された映画『映画Go! プリンセスプリキュア Go!Go‼豪華3本立て!!!』の一編、『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』のこと。
CGW:興味深いお話ですね。
宮本:宮崎監督であったり新海 誠監督であったり、ひとりの作家が中心になってつくる"濃さ"が感じられる作品は僕も好きなので「それってどうなんだろう......」とも思うんですが、一方、そういうようなつくり方で面白くなるものというのも、確実にあるんだなと思いました。人の話を聞きすぎるとどんどん作家性が薄れていっちゃうんですけど、聞かなさすぎると大衆性が薄れてしまう。そこのバランスは重要です。プリキュアは大衆性に加えてさらに「子供向け」という要件があって、子供に対して"悪"であってはいけないし、わかりやすいものでなくてはならない。最初に描いた絵コンテはわれながら「すごく面白いものができた!」という出来映えだったんですが、いざチェックに出してみると「これはやめて」、「プリキュアの設定ではこれはNG」みたいなのがいっぱい返ってきて。「絶対自分のアイデアのままの方が面白かったのに!」ってすごく悔しくて、くそっ! って思いながら直すんですけど、そうしてできたものをつないで観てみたら「......面白いな、これ」って。
一同:(笑)
宮本:実際とてもわかりやすくなったと思うんですよね。それが大衆性なのかなと、すごく勉強になりました。
<3>「知らないことは知らない」と認めることが大事
CGW:デジタルアーティストから監督になったとき、経験が活きた部分についてお伺いしましたが、逆に苦労した、こういうスキルが足りなかった! といった部分はありますか?
宮本:音を仕切るのって、すごく大変だなと思いました。いまやってるプリキュアで、新米監督として声優さんに指示を出すというのがちょうど先週あってですね。いま思い出してしまっているんですけど......その、緊張のあまり、吐きましたね......。
森江:うわあ......。
宮本:東映アニメーションでは伝統的に「演出担当が音響監督をやる」というスタイルで。『ワンピース』をやったときは、さすがにド新人でわからないだろうと、音響監督を立てていただいたんです。なので、ミキサーさんの横に音響監督の方に座っていただいて僕はその後ろ、という体制でした。で、今回の映画もそうなると勝手に思っていたんですが、スタジオに入ると「ここに座れ」って監督椅子を指差されて。完全に想定外で、テンパりまくってもう何も喋れない状態。空気凍りましたね。......30にもなってくると、仕事上ではどちらかというと怒られることよりも褒められることの方が増えてきていたんですが、これほど「こいつ使えねえ」扱いをされたのは久々でした(笑)
一同:(笑)
宮本氏が監督を務めた『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』/予告編
©2015 映画Go!プリンセスプリキュア製作委員会
森田:僕なんかは、音に疎い分、任せちゃおうという気持ちでやっているのと、「テンションシート」というのを用意しています。「盛り上がるところ」、「静かになるところ」みたいなのをカット1から始まってずっとグラフに描いておいて、それを渡しちゃって、口頭ではわかりづらいからそれと一緒に説明する。
宮本:良いですね、今度使わせてもらいます!
森田:今はそうやって任せようとしているからいいけれど、昔は知らない範囲に踏み込んでも「知っているフリ」をしようとしていた。それがある時期しんどくなってしまって、開き直っ て知らないことは知らないですと表明するようになって。もちろん「こいつ、こんなことも知らねえの?」という感じになるんだけど、実はそれはスタートだけのこと。ちゃんと一緒にやっていくと、お互いのものづくりのスタンスがわかってくる。
宮本:そういう、未経験ゾーンに入ったときとか、経験で何とかできる範疇を超えて手に負えないことをやりはじめて、やはりしんどい、キツい......というのが今まで何度かあったんですけど、ふり返ると人間的に一番成長できたのもその頃なのかなと思います。