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CG現場出身ディレクター座談会 〜作品全体を監督するという立場になってわかったこと〜

CG現場出身ディレクター座談会 〜作品全体を監督するという立場になってわかったこと〜

<4>「これしかやりたくない」と表現の幅を狭めるのはもったいない

  • 「CGWORLD白書」特別企画・CG現場出身ディレクター座談会
  • 「モデリングだけが
     キャラクター表現ではないと感じた」

森田:「なぜCGで作品をつくりたいのか」という質問がよくあるんだけど、確かに、今どきCGでやったから、CGを使ったからといってそれが売りになるわけではないじゃない。で、僕の中で思っているのは、作画と比べてCGを選択する理由として、演出面の幅というのがあると思っていて。例えばカメラの自由度とか。

宮本:ああ、わかります。あとは質感とかルックとかですよね。

森田:作画はどうしても手描きである以上の限界があって、演出の面ではCGと比べれば制限が大きいという側面はある。もちろんそういうときは、作画にCGを組み合わせたりとか、補助としてCGを使ったりとかして演出の幅を広げるということも行われるんだけど。

宮本:自分も、一時期CGから離れてアニメの原画を描いていた時期があったので、両者のちがいはそのとき実感しました。

森田:そうだったんですね、いつくらい?

宮本:東映アニメーションに入る直前なので、ちょうど5年くらい前ですね。『夜桜四重奏』のOVA版第一話で、りょーちもさん(※4)が初めて監督を務めた作品です。ほんの数ヶ月の経験でしたが、あのときの経験が今すごく武器になっていると感じますね。やはり異分野を通過したことで、見えていなかったものがめちゃくちゃ見えるようになった感覚はあります。

※4 りょーちも イラストレーター、アニメーター、アニメーション監督。『夜桜四重奏~ハナノウタ~』(2013)にてTVアニメ監督デビュー

森江:それは羨ましいですね、その経験は。

宮本:そういった2D側の方々から得た知識を3Dに取り込むために、フェイシャルリグの設計も含め色々と開発を行なっています。

森田:やはり作画には独特な表現世界が広がっているよね。

宮本:3DCGには3DCGの幅があるんですけど、それを活かすにはどういう表現が良いかと考えるとき、作画が何十年も積み重ねてきたものがあるわけで、そこから吸収しない手はないと思っているんですよね。

森田:自分はそれが根底にある表現が大好きで、それまではCGを中心にやってきたけれど、何なら作画の監督もやれた方が良いと思って『東京喰種トーキョーグール』では作画を選択しました。「今回はCGの方が」、「これだったら作画の方が」という選択は、作品によって変わるなと思って。

宮本:監督としてそのあたりを使い分けられるっていうのは素敵ですよね。

森江:僕はできるだけアニメ系とかリアル系とか、作品の内容はとにかく幅のある、色々やれる状態でいたいと思っています。「あのスタジオは○○」、「あいつは○○」みたいにはなりたくないなと思って。

森江氏が監督を務めたWEB限定ムービー『アサギマダラの夢』(京都学園大学 2015年度TVCMシリーズ)
©京都学園大学 All rights reserved.

宮本:リアルからトゥーンまで、幅広く色々やっていると、あいだを取れるようになるじゃないですか。それは絶対強みになると思うんですよね。

森江:30歳になったところで、まあ、言ってもまだ30じゃないですか。一方向にまとめにいかずに、幅を広げておきたいなと。

宮本:学生さんで「モデリングしかやりたくありません」、「アニメーションしかやりたくありません」と言う人をよく見かけるんですが、もったいないなって思うんですよね。でも気持ちはすごくよくわかって、実は就職したばかりの頃の自分がまさにそうだったんです。モデリングしかやりたくなくて、漠然と「一流モデラーになるんだ!」って思っていた。で、その呪縛を解いて経験を広げていくきっかけになったのが、実は映画『アバター』なんです。上映当時、僕はアニメが大好きで大好きで、一番アニメにハマっていた時期でした。もうアニメ以外興味ないというくらいの。そんな状態で観た『アバター』ですごく衝撃的だったのが......ネイティリという青い女の子が出てくるじゃないですか。最初PVを観たときは「なんだこの青い猿、気持ち悪い......」なんて思っていたのに、劇場を出るころには「か、かわいい」って(笑)

一同:(爆笑)

森江:わかる! すごくわかる‼

宮本:そのときに気づきましたね。「あ! 演出ってこういうことか!」って。モデリングセクションとか深夜アニメとか、そういう分野を超えて感じられる何かがあるんだと気づいて、そこから、何かを1つに絞るもったいなさを感じるようになりました。

森江:同じような感じで、ピクサーの『ウォーリー』に、イヴという白いロボットが出てくるじゃないですか。

宮本:ああ! かわいいんですよね、イヴ!

森江:メチャクチャかわいいんですよ! 僕、アニメーターとしては『ウォーリー』がピクサー作品の中で一番好きなんです。『カーズ』みたいにぐにゃぐにゃさせないという強い制限の中で、ウォーリーとイヴというキャラクター性をアニメーターが最大限に引き出している。

森田:動きの制限が大きいよね。あれは演出が上手い。

森江:カメラワークも非常に巧みで好きですね。イヴのアニメーションも、途中から「かわいく」見えてくるんですよね。

宮本:女子に見えてきますよね!

森江:見事に女子ですよね。あれを表現できるアニメーターのスキルに圧倒されて、エンドロールで号泣しました。技術に感動して。

森江氏が監督を務めたTVCMオカモトコンドームズ『ゼロワン 恐竜篇』日本語版
©Okamoto Indstries, Inc. All rights reserved.
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<5>ディレクターを目指すデジタルアーティストにひとこと

  • 「CGWORLD白書」特別企画・CG現場出身ディレクター座談会
  • 「"アニメーションから入る"
     のが最もディレクターになりやすい道だと思う」

CGW:最後になりますが、将来的にディレクターを目指したいデジタルアーティスト(CGデザイナー)の方に向けて、何かアドバイスやメッセージ、これをやっておくといいよ、などあればお願いします。

森江:まず1本つくってみるというのは大事だと思います。多分そこが一番のハードルで、そこを越えてしまえば2本、3本と先に進みやすくなるのかなと。なのでまずは5分くらいの尺で1本つくってみて、力試ししてみるのが良いと思います。あと僕はアニメーター出身なのでアニメーターびいきな部分もあるかもしれませんが、「アニメーションから入る」というのが、最もディレクターになりやすい道だと思っています。普段から演出に踏み込んだり、絵コンテを読み込んだり、というのが監督としての作品づくりに直結しやすいんじゃないかなと。

宮本:実際、モデリング出身の自分から見ても同じように思います。CG作業が様々にセクション化されている中で、どこが最も監督に近いかと考えたら、それはアニメーションです。自分がモデリングに注力し続けて、アニメーションをやらずにいたら、多分監督になれていなかったと思いますね。

森田:確かにそうなんだよね、アニメーターで上手いなと思う人は、やはりそのシーンで押さえるべきポイントがわかっている。ここは目立たせよう、ここは抑えておこう、という。そういう人って、絵コンテとはちがっていても演出上はズレていない、想像していたものとはちがうけどイケてるものを出してくることがある。それは演出を読み解いて芝居を考えてくれているということで、演出・監督という仕事に一番近いんだなと思う。

宮本:あとは、僕は東映アニメーションという大きくて歴史のある会社で監督をやらせてもらっていますが、それは監督やクリエイターであるのと同時に、サラリーマンでもあるわけです。だから、上司やスタッフとの関係や筋の通し方とか、いわゆる一般社会で必要なことが、より明確に組織の中で身につけられた気がします。で、監督になると、外部とのやり取りや様々な方への挨拶など、各所との折り合いをつけないといけないこともあります。純粋に映像づくりに打ち込む以外の時間が増えたり、雑事にリソースを割かなければいけない中で、色々な感情が渦巻く瞬間もあるとは思います。それでも、よりたくさんのお客さんの心に響くものをつくるために、諦めない気持ちを大事にしてほしいと思いますね。

「CGWORLD白書」特別企画・CG現場出身ディレクター座談会



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    ©2015 映画Go!プリンセスプリキュア製作委員会

  • 「CGWORLD白書」特別企画・CG現場出身ディレクター座談会
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    定価: 2,268円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:152
    発売日:2015年7月10日
    ASIN:B00XVN1OXU

Profileプロフィール

森田修平/Shuhei Morita(YAMATOWORKS)<br />宮本浩史/Hiroshi Miyamoto(東映アニメーション)<br />森江康太/Kohta Morie(Transistor Studio)

森田修平/Shuhei Morita(YAMATOWORKS)
宮本浩史/Hiroshi Miyamoto(東映アニメーション)
森江康太/Kohta Morie(Transistor Studio)

(中)森田修平/Shuhei Morita(YAMATOWORKS
(右)宮本浩史/Hiroshi Miyamoto(東映アニメーション
(左)森江康太/Kohta Morie(Transistor Studio

スペシャルインタビュー