>   >  「アーティストとしての本分をまっとうしたい。」バーチャルヒューマンプロジェクト『Saya』、中核メンバーたちが思いの丈を語り合った。
「アーティストとしての本分をまっとうしたい。」バーチャルヒューマンプロジェクト『Saya』、中核メンバーたちが思いの丈を語り合った。

「アーティストとしての本分をまっとうしたい。」バーチャルヒューマンプロジェクト『Saya』、中核メンバーたちが思いの丈を語り合った。

<3>『Saya』プロジェクトの展望

ーーバーチャルヒューマンプロジェクト『Saya』は来年以降も継続されると思うのですが、それぞれのお立場から展望をお聞かせください。

木下:『Saya』という、TELYUKAさんが魂を込めて創り出したキャラクターを動かすことができたのはひとつの奇跡だと思っています。このプロジェクトに携わる責任の重さよりも、一緒に歩んでいける喜びや未来への希望の方が大きいですね。これからもぜひ一緒に歩ませていただきたいですし、"観る側"としては『Saya』のさらなる成長を楽しみにしてるひとりでもあります。通常の案件に取り組んでいくなかで得た知見を最大限『Saya』にも還元していけるようにひき続き努力していきます。

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三鬼:『Saya』に取り組んで、フェイシャルキャプチャはモーションキャプチャを越えたと思いました。リアルに見せる上で足を引っ張るのはフェイシャルではなくボディの方になってしまったと。フェイシャルはキャプチャ技法だけでなく、表現としても皺や凹凸を出す、頬を赤らめるといった伸びしろが大きいのですが、ボディについては既存手法だけでは頭打ちに近づいていると感じています。

ーーなるほど、そうした課題があるんですね。

三鬼:それはキャプチャ技術というよりもセットアップのコストに依存する面が大きいのですが、『Saya』ぐらいハイディテールのキャラクターであれば、顔の造形を3Dスキャニングするように、モーションキャプチャ収録時に筋肉の伸縮性をキャプチャした情報を反映するなどしなければ顔のディティールに負けてしまうのではないかと、新たな課題が浮き彫りになりました。技術的にはまだこれからですが、ハイエンドを突き詰めていく上では体表面の変化や指先をキャプチャするための研究にも取り組む必要があることを今回思い知りましたね。

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高橋:わたし自身はプロデューサーとして、予算やスケジュールの管理、技術者やデザイナーにとってより良い環境をつくるのが役割なわけですが、『Saya』と出会ったことで「技術的な課題にどう向き合っていくのか?」「どうすれば良い成果が得られるのか?」といった、ものづくりの原点と純真に向き合う機会にめぐまれました。それとは別に、個人的に思っているのが"みんな『Saya』が本当に好きなんだなあ"ということですね(笑)。CG・VFX制作者だけでなく、一般の方々も気になる存在になっていることにワクワクしています。

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亀村:これまではシーンリニアなど、デジタルシネマ映像制作に関するワークフローの構築やコンサルティングが自分のメインフィールドであり、ヴァーチャルヒューマン関連にはほとんど縁がありませんでした。それが『Saya』を通じて、AIなど、新たな分野のリサーチや研究開発にふれあうことができています。TELYUKAさんが苦心されている姿をみて、コンテンツをつくることの大変さ、それをヒットさせることの難しさも実感していますが、こつこつと活動を続けていくことがイノベーションを導くのだと思っています。

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友香:亀村さんと初めてお会いしたときに"コンテンツには確かな求心力があるから育てていくべき!" というアドバイスをいただいたことをよく覚えています。そのアドバイスをうけて、習作として取り組み始めた『Saya』がどんどん育っていき、その求心力によって多くのモノとヒトが集まってくる。そして自分たちの人生を変えかねない存在になっていることは本当に驚きですね。今後も制作を続けて、自分たちが納得できる最終形態にまで到達できればと思います。

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ーーさしつかえのない範囲で2017年の計画を教えてください。

友香:アセットとしては2017年の春には完成させる予定です。そこからはビジネスにつなげていくための活動を行なっていきたいですね。生活の糧を得なければならないので(笑)。

晃之:現時点では、「良い感じになってきてる」ということだけはお伝えできますかね(笑)。CEATECの後もモデルとしてだけではなく、フェイシャルやボディのセットアップなど日々改良を加えているので、実は今回の『Saya』特集で説明させていただいたものとは異なる手法で取り組んでいる部分も多々あります。特にClothとHairシミュレーションまわりは品質の向上だけでなく、効率化にも取り組んでいるので。

ーー以前のお話では、2体目、3体目のキャラクターにも取り組んでいかれるとのことでしたが?

友香:はい。『Saya』がアセットとしては固まってきたので、次のキャラクターも計画中です。

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晃之:ひとつのキャラクターのブラッシュアップに集中することも大切ですが、その合間に別キャラを試作した際に気づいたことを『Saya』にフィードバックすることで良い結果が得られる場合もあるんですよ。例えば先日は、リハビリを兼ねておっさんキャラをZBrushでスカルプトしてみたのですが、そこから得たノウハウを『Saya』に活かせました(笑)。節目となる期日的なものはありますが、オリジナルのプロジェクトなのでわりと縛られているものがありません。ですので、『Saya』以外にも手をつけていきたいと思っています。

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友香:『Saya』にはすごく時間を費やしましたが、その経験が活かせるので「2体目、3体目はもっと早くつくれそうだよね?」と、ふたりで話したばかりでした。

晃之:『Saya』をさらに発展させていく必要があるのですが、デジタルヒューマンの将来性を追求する上では『Saya』だけで終わらせるわけにはいきません。「(『Saya』の)次をどう打っていくか?」ということを考える必要があると思います。それを創り出すのが、わたしたちなのか別の方になるのかはわかりませんが、5年後には『Saya』クオリティのCGキャラクターがどんどん出てくるだろうと、個人的には思っています。

「アーティストとしての本分をまっとうしたい。」バーチャルヒューマンプロジェクト『Saya』、最新状況を中核メンバーが語り合った。

友香:業界として盛り上がっていくには、わたしたち以外の方々の取り組みもかかせません。自分たちの活動を発表することで、刺激や参考になれていたのなら嬉しいですね。

晃之:わたしたちがフォトリアルなCGキャラクターに取り組み始めた動機は、先に上手いアーティストさんがいて、それを見て追いつき追い越したいというものでした。切磋琢磨しあえるよきライバルが現れると、それが近しい存在であればあるほどデジタルヒューマンは飛躍的に進化するはずです。

三鬼:そのときは、日本中のデジタルヒューマンをぜひツークン研究所で動かしたいですね(笑)。日本中のデジタルアーティストさんに、どんどん新しいキャラクターを発表してもらえればと! できるだけオープンなかたちで研究開発に取り組んでいるので、気軽にご相談いただければと思います。

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収録後の記念撮影より。一様にユニークな表情をしているのはご愛敬

info.

  • CGWORLD vol.221(2017年1月号)
  • 月刊CGWORLD + digital video vol.221(2017年1月号)

    第1特集 『Saya』』ver.2016
    第2特集 映画『海賊とよばれた男』
    定価:1,512円(税込) 判型:A4ワイド 総ページ数:144 発売日:2016年12月10日(土)
    ASIN:B01MPW6CW8

Profileプロフィール

『Saya』プロジェクト中核メンバー/Virtual Human Project "Saya"

『Saya』プロジェクト中核メンバー/Virtual Human Project "Saya"

左から、亀村文彦氏(ロゴスコープ)、石川晃之&友香氏(TELYUKA)、三鬼健也氏、木下 紘氏、高橋沙和実氏(以上、ツークン研究所

バーチャルヒューマンプロジェクト『Saya』

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