>   >  『ナイツ&マジック』ハイクオリティなメカ表現をTVシリーズで描ききるオレンジの底力に迫る
『ナイツ&マジック』<br/>ハイクオリティなメカ表現をTVシリーズで描ききる<br/>オレンジの底力に迫る

『ナイツ&マジック』
ハイクオリティなメカ表現をTVシリーズで描ききる
オレンジの底力に迫る

<POINT:2>作品の世界観に溶け込むリッチな質感表現

本作でロボットを描くにあたり、山本監督からはリアル寄りの質感が要求された。しかし作画作品にこってりしたリアルな質感の3Dモデルが登場すると、視聴者は嫌悪感を抱きやすい。そうした部分をいち早く感じ取っていた井野元氏は、長年培ってきた感性で、作画作品に溶け込むリアルな見た目にまとめ上げた。この質感を出すには、通常のライン、カラーに加え、傷や汚れ、陰影の素材が必要となる。また何年も使い込まれてきた設定から、傷や汚れのある古い機体と、新しい機体との差の表現も必要だ。天神氏のボードに描かれたウェザリングやマーキングなどを参考に、3Dとして成立するように落とし込む。デカールなど引き画でつぶれてしまうものは適宜省略し、新旧の機体の差別化と情報量のコントロールも図られた。リアルな質感を載せても堪えられるように、ハイポリゴンでモデリングしたことで説得力も増している。こうした試行錯誤の上に、現行のルックが完成したのだ。

一方で、このリッチな質感とクオリティをTVシリーズで維持することは非常に困難である。そこでレンダリング&コンポジット作業のカロリー削減が目指された。今年4月公開のPVでは、カラー、ライン、オクルージョン、金属質のメタル素材、ノイズ、汚れ、凹み素材を全て出力し、汚れや壊れはモデリングでも対応していたが、PV完成後に汚れや壊れはテクスチャに変更している。モデリング時にUV展開していたことから、テクスチャはオクルージョンやノイズを乗せ、金属の光沢や二号影が強く出るようにPencil+で設定し、3ds Maxの合成マップを用いてAEのようにコンポジットした状態で出力された。合成マップもレイヤーが多くなるとレンダリング時間が長くなるため、テクスチャレンダリングである程度素材をまとめているとのこと。マーキングも種類が多く、都度CGオブジェクトを表示/非表示すると混乱の種になるため画像データにまとめられ、最終的に1回のレンダリングで完結できるところまで効率化された。担当スタッフのストレスやカロリーの軽減を考えてデータ設計を行なった成果である。「PVで一度完成形をつくり、その経験をフィードバックできたことが起点となりました」(藤田氏)。

また、第2章で出現する魔獣ベヘモスはモデルサイズが大きく、質感の再現も大変だったという。ここでも専用スクリプトを組むことで1回のレンダリングで済むようにした。時間とクオリティの両立も、優れたクリエイターの証なのかもしれない。

PV公開時の質感表現

▲<A>PVで使用したシルエットナイトのコンポジット素材

▲<B>その完成画。このときからカラー素材にあらかじめオクルージョンと傷、汚れ素材を合成マップでまとめていた。そのほかデカールの上に乗せる傷や汚れ、ライン、デカール、メタル素材がそれぞれ分けて用意されている。ここから素材をさらに別出しすることも可能だったが、After Effectsでコンポジットした際にねらった画にならず、見た目に差異があったため取りやめたという。また、複数の異なる機体に同じような素材をAEでコンポジットすることはTVシリーズのカロリーに見合わないと判断され、その後合成マップを用い、質感出しを1回のコンポジットで完結できるような手法が採用されることになる

テクスチャ

▲<A>使用素材と色指定表。傷、汚れは白黒のマスクのため色を変更することができる。質感設定中に合成マップ内のレイヤーが膨大になってしまい、最終的にテクスチャレンダリングでまとめられた/<B>テクスチャレンダリングで統合されたテクスチャ。素材の組み合わせで数百パターンも用意できるという。「本作の経験を踏まえ、フォトリアルなテイストにする効率的な手法を今後も模索していきたいですね」(長川氏)

TV本編の質感表現

▲<A>レンダリングされた本編のモデル。最終のレンダリング素材としては、カラー、ライン、発光素材のみ/<B>合成マップの設定。質感処理は全て合成マップを用いて3ds Maxのシーン上で使用素材をコンポジットしている。これにより、カラー出力時は多少時間がかかるが、基本的に1回のレンダリングで完結するしくみだ/<C>Pencil+の設定。オレンジではセル調のCG作品の場合、Pencil+のマテリアルを頻繁に使用している。今回はPencil+ 3マテリアルの影色に二号影が強く出るように設定してコントラストを強くしたり、ラインを細く設定したりすることで若干CG寄りの表現になるようにし、シルエットナイトのもつ雰囲気を表現した

デカール

▲<A>天神氏が作成したデカールのテストボード。ここから実際のカット作業でディテールがつぶれるであろう細かなマーキングを間引いた資料を作成し、デカール素材をモデルに貼り込んでいく。新しい機体は、傷や汚れがついた古い機体と並べた際にどうしても見劣りしてしまうため、デカールなどを増やすことで情報密度を釣り合わせているという。ただし、実際に画として観たときにうるさく感じないようにコントロールする必要があり、スタッフのバランス感覚が問われたようだ

▲<B>完成画のロングショット/<C>完成画のアップショット。ロングではつぶれてしまうデカールを考慮して間引いている。古い機体と見比べてもしっかりとした存在感がありながら、スマートな印象も受けるルックだ

物語の進行に合わせた質感の変化

▲<A>古くから使われているフレメヴィーラ王国の制式量産機 カルダトア/<B>新しく開発される次期主力機 カルダトア・ダーシュ。新品機体の質感を表現する際、単純に傷や汚れを外しただけでは他のロボットと並んだときに統一感がなく浮いてしまう。そこで金属部分に雨だれ的なノイズ素材が薄く乗せられた。また、実際にロボットをペインティングすると塗装が行き届かないところが発生すると考え、角やフチに白いエッジハイライトを入れて塗りムラ表現したり、ワックスがけしたようなピカピカ感を部分的に入れたりもしている

テクスチャの組み合わせによるバリエーション

▲様々なバリエーションのカルダトア(左側:モブ一般機、右側:朱兎騎士団機)のレンダー結果。画像が小さく見えづらいが、各パターンとも微妙にデカールの剥がれ方や傷、汚れのつき方が変えられている。小さい部分にまでリアリティを求める姿勢が、ロボットに大きな説得力をもたせているのだ

設定に見事に寄せた魔獣・ベヘモス

▲<A>ベヘモスの美術ボード/<B>ベヘモスのCGモデル

▲<C>AEの作業画面。魔獣は複雑な質感の上、光る表現が多く、その話数で使いきることがほとんどだったため、AE上で素材を複数組み合わせて美術ボードに極力近づけている。魔獣のコンポジット作業はモデラーの西村 朗氏が担当。これほど突き詰めた質感表現はあまりなかったというが、この再現度は見事というほかない。この出来にオレンジとしても手応えを感じたという。一方で「今後同じような質感を表現する場合は、使用素材を簡潔にまとめる必要もあります」と長川氏はふり返る

Profileプロフィール

オレンジ /Orange

オレンジ /Orange

左から、制作・藤田進夢氏、アニメーションCGチーフ・吉本一貴氏、CGアーティスト・長川準氏。以上、オレンジ
www.orange-cg.com

フリーランスのCGディレクターだった井野元 英二氏が2004年に設立したCGプロダクション。 作画アニメと3DCGの自然な融合を得意としており、特にロボットの演出で高い評価を受けている。代表作はTVアニメ『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』、『蒼穹のファフナー EXODUS 』、劇場版アニメ『コードギアス 亡国のアキト』など。 求人情報:http://cgworld.jp/jobs/21018.html
会社情報:http://www.orange-cg.com

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