>   >  『ナイツ&マジック』ハイクオリティなメカ表現をTVシリーズで描ききるオレンジの底力に迫る
『ナイツ&マジック』<br/>ハイクオリティなメカ表現をTVシリーズで描ききる<br/>オレンジの底力に迫る

『ナイツ&マジック』
ハイクオリティなメカ表現をTVシリーズで描ききる
オレンジの底力に迫る

<POINT:3>動かしやすく効率的に組まれたセットアップ

本作のようにたくさんのロボットが登場する作品では、セットアップの工夫も必要となる。四足の3DモデルはCATも使用しているが、基本的にこれまでオレンジが手がけてきた作品同様、CG-Animation社が開発したオートリグセットアップツールのLHAuto-Rigが採用された。LH Auto-Rig はBipedやCATと比べて機能が豊富で、ながれ作業的にリグの設定ができ、効率的なセットアップが行える。そうして組み上がったセットアップに加えて、アニメーターの作業実情を踏まえた上で、ディレクターや関係カットを担当するアニメーターにリサーチをして調整していくという。

もちろんそのままではなく、デザイン的に干渉するところはマニュアルで調整しやすいようにコントローラを組んでいる。モデリング時にある程度腕足の比率を修正しているが、アニメーション作業時に不都合が生じた際に容易に比率を変更できるよう、調整用リグも必ず組み込んでいるという。このように、特殊な機体を除き、通常の人型の機体はLH Auto-Rigと調整リグで構成され、仕様を統一することで管理の手間を軽減している。腕が太かったり脚が大きかったりと、サイズが異なる機体は骨に数値を入れて調整された。特殊機体では、例えばイカルガには腕が6本あり、阿修羅のようにそれぞれが独立して動くため、補助ボーンで対応している。しかしカスタマイズするほど重くなってしまうので、作業のベンチマークを見て作業しやすいように、なるべく軽いリグを組むように意識したという。

「モデルを一番触るのはアニメーターなので、円滑にカット作業ができるように考えて作成します」と長川氏。アニメーターのことをモデラーがよく理解することで、活き活きとしたアニメーションにつながっていくのだ。

LH Auto-Rig

▲LH Auto-Rigは、もともとキャラクターアニメーションに特化したリグであるため、多機能ではあるが、ロボットのセットアップに使用するにはカスタマイズが必須だった。特にシルエットナイトは基本的に2重関節のデザインが多く、可動部分の再現には別途リグを追加している。このほかに、アニメーションで手足の比率を変えたり、パーツのめり込みが発生する場合を想定した調整用リグを用意したり、各モデルに応じてセッティングしているとのこと。画像の左はLH Auto-Rigで生成したベースリグで、右は二重関節調整用リグ

CAT

▲ツェンドルグ(四足のロボット)など、人型からやや逸脱したシルエットの3DモデルはCATが用いられた。これは、大多数のロボットはLH Auto-Rigでセットアップされているが、特殊な場合はカスタマイズのしやすさやリグの軽さを考慮してCATが採用されたとのこと。<A>四足のシルエットナイト(ツェンドルグ)/<B>CATをベースにカスタマイズしたリグ

ポージングした状態のチェック

▲モデリングチェック、質感テスト等のチェック工程では、全てポージングをさせた状態で確認素材が提出されている。技術的なことよりも、チェックする側がイメージしやすいかたちで見せた方が良いだろうという考えからで、全ての3Dモデルに意識的にポーズを付けているという。設定画に描かれているアングルのほか、パースの強いカメラアングルや見栄を切らせたポージングをとらせた資料も用意することで、山本監督や演出スタッフがコンテを描く際にその資料を参考にしてくれる場合もあるそうだ

<POINT:4>ストーリー展開に合わせて進化する 遊び心も詰まったアニメーション

アニメーションについて「本作はメカアクションに長けたスタッフを中心に、井野元が自らチェックと指導を行うことで、アニメーションのクオリティも特段良いものになりました」と藤田氏。モデリングもこなす敏腕アニメーターの吉本氏も井野元氏と共に新人スタッフにイチから指導している。「若いスタッフに技術を伝承することで、スタジオとしての品質が保たれます」(吉本氏)。またカット作業はシーンや関連性を考えて割りふりすることで、全体のながれを意識して作業を進められたという。

ロボット技術の進展は本作の核だ。第1~3章では、パーツパーツを動かさず、駆動させすぎないことで古いロボットらしさを演出し、その後技術が発展していくと可動域が増え、ついに空へ飛び上がるほど動くようになる。古いロボットのゆっくりとした動きをCGに落とし込むことは難しいそうで「ロボットの重量感を表現しつつ、見ていて気持ちの良い動きにしなければなりません」と吉本氏。単純に動きを遅くしただけでは退屈な動きになってしまうため、動き始めをじんわりと、スピードに乗ったら速くといったメリハリをつけることを留意したという。藤田氏によると「(オレンジは)軽快な動きがひとつの売りなので、重い動きには慣れていませんでした。やっと慣れたと思ったら、作中では年代が進んでよく動くようになっていました」と苦笑する。ただ、そうしたスキルの蓄積がスタジオとしての財産となり未来へ活かされていくそうだ。

このように、同じ作品内で大きく動き方が変わるため作業はハードとなるが、そんな中でも遊び心やこだわりは忘れていない。何気ないポーズ、歩き、剣を握る手など細部にまでこだわりぬいている。「ベヘモス戦でグウェールの刃が衝撃で赤熱化したり、着地時に地面が割れたりと、随所に指示にない演出を加え、遊びを入れています」(吉本氏)。このように楽しんで作業するスタッフの姿勢は映像に現れるという。藤田氏、長川氏は口を揃えて「やりがいがあり楽しんで成長できた作品です」と語る。

これからますますの盛り上がりを見せる『ナイツ&マジック』。主人公にも勝るとも劣らないロボット愛を胸に抱いたクリエイターたちが、もてる全ての情熱を傾けてつくったロボットに、ぜひ注目していただきたい。

あえて動きを抑えた初期のシルエットナイト

▲作中のロボット技術の進展に合わせ、本作ではロボットのアニメーションも描き分けている。初期のシルエットナイトは、パーツはあまり動かさずゆっくりとしたモーションにすることで、まだ技術が進展していない古い機体の動きが表現された

完成した新型シルエットナイト テレスターレ

▲ロボット技術が進んだことで、可動域が増え、素早く機敏な動きが可能となった新型のシルエットナイト テレスターレのアニメーション。メカアクションを得意とするオレンジの本領が発揮されたカッコ良い動きに仕上げられた。このように、ロボットのアニメーションの進化を丁寧に描くことで、物語に厚みをもたせている

作画のような誇張したポージング

▲本作は絵コンテの段階で極端なパースで動くものが多く、それをCGで上手く違和感を感じさせないようにカッコ良く仕上げている。画はパースを強調したグゥエールのアニメーション。CGは正確であるがゆえにこのような誇張表現をすると画が崩れてしまうこともあるが、見事に迫力ある画に仕上がっている

アニメーターのアドリブ演出

▲ベヘモス戦のカットでは、グゥエールが硬いベヘモスを剣で切りつける際に、刃がその衝撃で熱を帯びて赤くなるという演出がされている。これは吉本氏がアドリブで入れた表現だ。このように作業者が作品を良くするために「遊び」でプラスアルファの画づくりを自発的に行なっているという。そのような積み重ねが、作業者のこだわりが、画に深みを足しているのだ

TEXT_野澤 慧
PHOTO_弘田 充





  • 『ナイツ&マジック』

    TOKYO MX、BS11ほかにて 好評放送中!
    原作:天酒之瓢(ヒーロー文庫『ナイツ&マジック』/主婦の友社 刊)
    原作イラスト・シルエットナイトデザイン:黒銀
    監督:山本裕介
    CGディレクター:井野元英二
    3DCG:オレンジ
    アニメーション制作:エイトビット
    製作:ナイツ&マジック製作委員会
    Twitter:@naitsuma_anime


    www.knights-magic.com

Profileプロフィール

オレンジ /Orange

オレンジ /Orange

左から、制作・藤田進夢氏、アニメーションCGチーフ・吉本一貴氏、CGアーティスト・長川準氏。以上、オレンジ
www.orange-cg.com

フリーランスのCGディレクターだった井野元 英二氏が2004年に設立したCGプロダクション。 作画アニメと3DCGの自然な融合を得意としており、特にロボットの演出で高い評価を受けている。代表作はTVアニメ『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』、『蒼穹のファフナー EXODUS 』、劇場版アニメ『コードギアス 亡国のアキト』など。 求人情報:http://cgworld.jp/jobs/21018.html
会社情報:http://www.orange-cg.com

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