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仕事の合間にクロッキー。プロになっても勉強し続ける人の力になりたい

仕事の合間にクロッキー。プロになっても勉強し続ける人の力になりたい

仕事をしながら勉強することが、今後は当たり前になる

C:2Dのアニメーターと、3DCGのモデラーやアニメーターとでは、勉強する内容は変わるのでしょうか?

高見:僕が教えていることは基礎の基礎なので、特に分けて考えていません。ただ、僕自身も3DCGをやってみて、ものの形を捉える力が重要だと感じました。3DCGの場合、光の表現はソフトウェアがやってくれますが、現実の立体をモデリングし、2次元の画としてレンダリングする場合には工夫が必要です。その工夫の仕方は人によってちがっていて、それが個性だと思うのです。

C:その個性が際立ってくると、作家性と呼ばれるものになるのでしょうか?

高見:そうです。それが到達点だと思っていますが、まずは基礎をしっかり身に付けましょうという指導をやっています。

C:美術解剖学はどうやって教えているのでしょうか?

高見:骨や筋肉は、実際には見えないわけです。だから解剖図を使って説明して、まずは覚えてもらう必要があります。人体クロッキーの上にトレーシングペーパーを乗せて、骨を描き込み、さらにその上から筋肉を描き込んでもらうこともありますね。とはいえ、たくさん描かないと描けるようにはなりません。繰り返し解剖図やモデルさんを見て、繰り返し描いていくなかで、少しずつわかってくるのです。

C:トレーシングペーパーを使うというのは、いいアイデアですね。直感的で、理解が進みそうです。

高見:JAniCA主宰のクロッキー会で教える際には、美術解剖学の講座と、実際にモデルさんを見ながらの人体クロッキーを組み合わせています。「今日は頭部の骨」というようにテーマを決め、頭部の骨について勉強してから、モデルさんの頭部を描くわけです。やっぱり描かないと覚えられないですからね。

▲JAniCA主宰のクロッキー会での、美術解剖学の講座風景(写真提供:高見政良氏)


  • 高見氏によるデッサン。人体クロッキーの上から骨格を描き込んでいる


C:feel.やダンデライオンのように「社内でクロッキー会をやりたい」と思う会社はほかにもあると思うのですが、実際にやる場合、どんなことが課題となりますか?

高見:アニメーターにしろ、3DCGのアーティストにしろ、すごく忙しい人たちなんですよ。クロッキー会に参加したいけど、仕事が忙しくて参加できないということが頻繁に起こるのです。女性でお子さんがいる方だと、子供のお迎えがあるから参加できないという場合もあります。そういう人でも参加しやすいように、始業前に開催するとか、1回あたりの時間を短くして回数を増やすとか、工夫が必要だと思っています。

C:勉強できる場を設けても、目の前の仕事に追われて参加できないというのは悩ましいですね。

高見:特にアニメーターの給料は出来高制なので、仕事の絵を描かないと収入が下がってしまいますからね。それでも、仕事をしながら勉強することが、今後は日本でも当たり前になると思います。それを保証できる会社の方が、良い人を集めやすくもなるでしょう。

C:一方で、現役の学生の場合は、デッサンやクロッキーのような地味な反復練習を嫌がる人が多いように思うのですが、如何でしょうか?

高見:嫌がる人はいっぱいいますね(笑)。仕事に就いてから重要だったと気付くのですが、学生の間はなかなか伝わらないです。どこでも、全体の1/5くらいは一生懸命に勉強していて、1/5くらいは「まあ、勉強しようかな」、2/5は「ちょっと勉強しようかな......」という感じで、残りの1/5は「............」といった調子です。

C:半分以上の学生が、あまり勉強する気がないというのはもったいないですね。

高見:学校では人体クロッキーのサークルの面倒も見ており、学生からモデル代として1人1,000円くらいずつ集めるのですが、希望者が少なく、モデル代を捻出できないという場合もあります。それでも熱心な学生には勉強させてあげたいですから、僕が補填することもありますね(苦笑)。

C:たいへんなお仕事ですね。

勉強も仕事も楽しめることが一番大事

C:基礎画力のない人が、ある程度仕事で評価されるレベルの画力を身に付けるまでに、どのくらいの時間がかかるものでしょうか?

高見:早稲田大学のアニメーション研究会の学生で、2年生から4年生までの3年間、毎週土曜日に1回あたり6時間くらい描き続けた人がいましたね。その人は、今はアニメーターとしてばりばり仕事をしています。そういう人はちゃんと勉強するし、コミュニケーション能力が高い場合が多いので、原画や演出になるのも早いですね。このスタジオの受講生の中には、今ではアニメの監督になっている人も何人かいて、その中の1人は「ある程度描ければ、アニメーターにはなれます。アニメーターになって、何がしたいのかが大事なんです。キャラクターデザインをやりたいとか、監督になりたいとか、そいう意志をもっていないと続けられないですよ」と言っていました。

C:最後に、今後の抱負を聞かせていただけますか?

高見:デッサンやクロッキーの勉強ができる場を維持していきたいというのが、一番の思いですね。若い人の数が減っていることもあって、一時期ほどには人が集まらなくなっているのです。それでも、仕事の合間を縫って1時間だけ描きに来てくれる人もいるわけです。そういう人たちが勉強できる場は必要だと思うし、継続させたいと思います。

C:そういう人たちは、このアトリエでの勉強を経て、さらに良い仕事をするようになるでしょうね。今後もアトリエが継続することを願っています。

▲STUDIO・t23や、JAniCA主宰のクロッキー会に通う加藤朱佳氏による人体クロッキー。【左】は約1年半前、【右】は最近のもの。以前は週末のたびに他県の実家から通っていたが、今はSTUDIO・t23の近くに部屋を借り、毎日デッサンやクロッキーを描きながらアニメーターを目指しているという


高見:以前、ゲーム会社で3年間デザイナーをやってきた人が、会社を辞め、1年半くらいこのアトリエに通ってくれたことがありました。仕事をやるなかで「デッサン力が足りない」と思ったそうで、毎日デッサンとクロッキーをやり、仕事に復帰していきました。今では人気ゲームのキャラクターデザイナーをしているのですが、このアトリエで学んだことが自信になっているんじゃないかと思います。その人は、今でも時々クロッキーをやりに来てくれるのですが、「勉強した方が良いと周りの人に言っても、仕事をしながら勉強する人はほとんどいないです。でも欧米では、仕事をしながら勉強することが当たり前のライフスタイルになっています。だから日本は欧米に逆転されつつあるのだと思います」と言っていました。

C:そのキャラクターデザイナーにしろ、先ほどのアニメの監督にしろ、勉強や仕事に対する意気込みがすごいですね。

高見:昔も今も、彼らは勉強と仕事を楽しんでいますね。楽しくないと、勉強も仕事も続かないのだろうと思います。そういう意味では、勉強も仕事も楽しめることが一番大事なのだろうと思います。誰もが、そうなってほしいと願っています。

Profileプロフィール

高見政良/Masayoshi Takami

高見政良/Masayoshi Takami

1948年生、青森県出身。画家として活動する一方、四半世紀にわたり基礎画力向上のためのデッサンとクロッキーの指導に携わる。2000年、絵画やクロッキーを教える「STUDIO・t23」を三鷹に開設。東京デザイナー学院、東京ネットウエイブ‎、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、 NPO法人 アニメーター支援機構、feel.、ダンデライオンアニメーションスタジオなどでも指導にあたる。日本美術会会員。日本美術解剖学会会員。
studio-t23.com

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