>   >  「承認欲求」と「視線誘導」を意識する~キャラクターアーティスト藤田祐一郎が語るモデリング技術の向上法
「承認欲求」と「視線誘導」を意識する~キャラクターアーティスト藤田祐一郎が語るモデリング技術の向上法

「承認欲求」と「視線誘導」を意識する~キャラクターアーティスト藤田祐一郎が語るモデリング技術の向上法

<3>承認欲求と上手く付き合うことがモチベーションを上げるコツ

CGW:普段制作をするときに意識していることはありますか?

藤田:モチベーション的なところでお話をすると、実は仕事を始めてから少し経った後、自分の限界を感じてかなり思い詰めた時期があったんです。周りに海外就職者やコンセプトアーティストとしての成功者が出始める中、私自身は好きだったはずのCGに全然身が入らなかったというか。何とかモチベーションを軌道に乗せないと、と思っていた時期がありました。


CGW:何となくわかります。クリエイティブな作業をしているはずなのに、技術的に同じことのループになってしまっている感というか。

藤田:そうですね。だから一度立ち止まって考えてみたのですが、私が作品づくりの中で楽しいと感じるポイントは2つあって。1つはつくっている最中の全能感というか、クリエイターズ・ハイとでも言うような高揚を感じているとき。もうひとつはつくった作品を誰かに見せて「すごい!」と言ってもらえたときです。これ、調べてみるとどちらも「承認欲求」という言葉で語られていたんですね。

CGW:なるほど。表現者にとっては、常に付きまとうキーワードな気もします。

藤田:はい。この承認欲求というやつと上手く付き合っていく、というのがモチベーションを保つのに不可欠だと思ったんです。ただ上達するまではなかなか他人から褒められない。他人の評価で承認欲求を満たそうとしても、その判断基準は他者にあるわけです。そこでまずは、自分が最大限に楽しいと思えることをとことん追求して、自己承認欲求を満たしていくことにしました。

CGW:それで好きなものを描き続けた、ということですか。それで自己承認欲求が満たされるというのは、根っからのクリエイター気質なのかもしれませんね。

藤田:そうだと嬉しいです。ただ時には他者からの承認も得たくなるもので、ゲーム大会の優勝イラストを描いたり、Twitterで「RTした方に抽選でアイコン描きます!」みたいな企画をやったりもしました。必ずしも自分の技術への称賛ではなくても、反響があれば欲求は満たされるものだとわかりました。行動は人それぞれですが、自分の欲求とどう付き合っていくかを考えることはモチベーションの維持に繋がると思います。

CGW:とは言え、自分自身を掘り下げて分析する、というのは簡単にできることではないと思います。

藤田:そうですね......私自身は留年も浪人もしているので、立ち止まって考えるのは慣れているのかもしれません(苦笑)


CGW:ちなみに、ルック的なところで言うと、どういった部分に気を遣って制作をされていますか?

藤田:ルック周りについては、何よりもパッと見の印象勝負! というところに重きを置いています。映像作品はシナリオの良し悪しや動画の出来などももちろん重要ですが、キャラクターをひと目見たときの魅力というのも非常に求心力があります。そこで意識しているのは「視線誘導」ですね。

CGW:3Dモデルを見たときのユーザーの目線の動き、ということですか?

藤田:と言うよりは、静止画における視線誘導、という感じです。内容はチュートリアル動画でも触れますが、様々な場面で使われている視線誘導の例をたくさん集めてきて、似たもの同士でグループ分けしました。体系化して理解することでそれぞれを比較したり、組み合わせたりできるようになります。その結果、引き出しを開けるスピードが早くなったり、新たな理論を発想しやすくなります。

CGW:なるほど! 非常に面白い分析だと思います。視線誘導の具体例などはありますか?

藤田:分類した4つの視線誘導の中では、「形による視線誘導」がわかりやすいかも知れません。例えばこのドラゴンの作品を見て下さい。


藤田:この中で注視させたいのは真ん中のドラゴンで、そこに目がいくような構図にしています。各人物の手やマントのなびき方が、ドラゴンへの方向性をもっているような感覚になりませんか?

CGW:この作品はわかりやすいですね、パッと見たときに中心に目線が行きます。

藤田:他にも、人間が纏うローブはあえてシンプルな形にすることで、ディテールまで表現したドラゴンに視線を誘導しています。これらは全て意図的にやっていることです。

CGW:このあたりは全てチュートリアルで解説されている情報なんですね。現在公開中の動画チュートリアルについて、内容を教えていただけますか?

藤田「ポートレート作成を通じて学ぶリアルな肌・ヘアーの作成方法」と題して、全20回でリアルな人物のポートレートを作成していく、という内容です。特に「髪」と「肌」の質感表現について詳しく触れています。基本的にはMayaを触ったことがある方向けですが、肌の設定などのやり方は全て動画内で解説しています。先ほどお話しした視線誘導の4つの分類法も含め、ぜひチェックしていただければと思います。

藤田氏の動画チュートリアルより、視線誘導の4つの分類に関する解説を特別に公開!

CGW:最後に、チュートリアルを実践される方に向けて、一言コメントをいただけますでしょうか。

藤田:これは動画の最後のチャプターでも言ったのですが、もし動画を見て参考になったところがあれば、ぜひそれを絡めた作品をつくっていただいて、そしてそれをいつか私に見せていただけたらと思っています。楽しみにしています。

CGW:ありがとうございました。


ポートレート作成を通じて学ぶリアルな肌・ヘアーの作成方法
(CGWORLD Online Tutorials)の
詳細・動画はこちら

Profileプロフィール

藤田祐一郎/Yuichiro Fujita

藤田祐一郎/Yuichiro Fujita

1988年愛媛県生。2012年立命館大学卒業後、都内CGプロダクションに入社。これまで主にキャラクターデザイン、キャラクターモデリング・リギングを担当。ちなみに着用しているのは片桐裕司氏の初監督作品『GEHENNA』のTシャツ。藤田氏は片桐氏の彫刻セミナーに参加した際に感銘を受け、自分を見つめ直してキャラクターアーティストへの決意を新たにしたとのこと。「そのご恩を返したくて『GEHENNA』のTシャツを着てステマしました。ちなみに私自身は制作にはいっさい関わっておりません!」(藤田氏)。なお、『GEHENNA』は2018年夏、東京でロードショー決定(上映後イベントあり)
Twitter:@you16_0823 chironamo.artstation.com

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