先日から「CGWORLD Online Tutorials」にて「ポートレート作成を通じて学ぶリアルな肌・ヘアーの作成方法」を公開中のキャラクターアーティスト・藤田祐一郎氏。リアリスティックな人物モデルや複雑な造形のクリーチャーなど、幅広い範囲の表現手法をもつ藤田氏に、これまでのアーティスト活動や実際の制作手法について話を聞いた。
INTERVIEW_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
ポートレート作成を通じて学ぶリアルな肌・ヘアーの作成方法
(CGWORLD Online Tutorials)の
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<1>実写とCG、ゲームを行き来した学生時代
CGW:映像学部をご卒業ということですが、もともと高校時代から映像業界の3DCGアーティストを志していたのでしょうか?
藤田祐一郎氏(以下、藤田):どちらかというと、最初は漠然と「ゲームの分野に進みたい」と思っていました。『バイオハザード』シリーズが好きで、他にも当時親しんでいたタイトルの影響もあって。子どもの頃から絵を描くのは好きでしたが、CGに触れたのは大学入学後でしたね。立命館大学は実写映像、3DCG、ゲーム開発など多岐に渡る分野の授業があったので、映像に関する俯瞰的な情報を得ることができました。
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藤田祐一郎/Yuichiro Fujita
1988年愛媛県生。2012年立命館大学卒業後、都内CGプロダクションに入社。これまで主にキャラクターデザイン、キャラクターモデリング・リギングを担当。着用しているのは片桐裕司氏の初監督作品『GEHENNA』のTシャツ。藤田氏は片桐氏の彫刻セミナーに参加した際に感銘を受け、自分を見つめ直してキャラクターアーティストへの決意を新たにしたとのこと。「そのご恩を返したくて『GEHENNA』のTシャツを着てステマしました。ちなみに私自身は制作にはいっさい関わっておりません!」(藤田氏)。なお、『GEHENNA』は2018年夏、東京でロードショー決定(上映後イベントあり)
Twitter:@you16_0823 chironamo.artstation.com
CGW:様々な制作技法に触れる中で、もともと興味のあったゲーム業界ではなく映像業界を目指した、ということでしょうか。
藤田:そうですね。1年生の頃はずっと実写映像をやっていて、そこでカメラワークや照明を学びました。同時にゲームプログラムの授業もあったのですが、そこはあまり興味をもてなくて......。その翌年にMayaによるモデリングの授業を受ける機会があったのですが、「出会ってしまった感」というか、ピンと来る感覚があり、そこからのめり込んでいきました。
CGW:ピンと来た、というのはどういった理由だと思われますか?
藤田:モデリングは「形を捉える」という視点が大切です。子どもの頃から親しんできた「絵を描く」というアナログ線画の部分と、感覚的にリンクする部分があったのだと思います。
<2>モデリングのために2Dイラストを描き始めた
CGW:その後CG業界で働き始めてからは、どういったお仕事をされてきましたか?
藤田:基本的にはフルCG案件でモデリングとリギングを担当してきました。今はMayaを使うことが多いですが、以前は3ds Maxを使い込んでいた時期もありました。
藤田氏のArtStationに掲載中の3DCG作品(一部)
CGW:モデリングだけでなく、リギングまで担当されているのですね。
藤田:はい、リギングは実際に働き始めてから学んだ領域ですが、リグ周りの知識がある方が当然モデリングも上手くいくんです。例えば"指を曲げるアニメーション"に違和感があった場合、モデル側で直すかリグ側で直すか、という判断がありますよね。人間の指を横から見たとき、人体構造的には上から1/3のところに骨が通っています。だから、リアリスティックな3Dモデルの指に対してボーンが真ん中に設定されていると、指を折り曲げたときに違和感が出るんです。モデルだけやっていると、このあたりの事情がわからない。
CGW:ある程度、解剖学的な知識も必要なんですね。
藤田:指の話は経験則ですが、おっしゃる通り人体構造の把握のために解剖学も必要ですね。加えて言うならば、本来モデラーはリギングをわかっているべきだし、リガーはモデリングとアニメーションをわかっているべきだと思っています。あとは、しっかりと3DCGに向き合うために、自分で2Dイラストを描くようにしたんです。もともと絵を描くのは好きでしたが、当時は線画止まりで。着色を含めた工程を自分でやってみようと思って、個人的に勉強をしていました。
藤田氏が練習を重ねて描いた2Dイラストの一部
CGW:3DCGのために2Dイラストを描くというのは、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。
藤田:これはメリットだらけでした。2Dイラストの場合は、シルエットも自分で引く、というか全ての線を自分で描いていくわけです。モデリングの際にはツールが何となく補完してくれていたことも、絵ではごまかせない。造形力や観察力を鍛え直すことができたと感じています。また、ライティングやハイライトも決まりきったかたちはなく、絵のテイストに合わせて自分で色を選んで乗せていくわけです。着色、というか「色」自体にずっと苦手意識があったのですが、こうした取り組みのおかげか随分と自信がつきました。キャラクターモデルの場合、クライアントに見せるときのパッと見の第一印象がすごく大事なのですが、着色込みのルック周りを出すときもこの経験が活きています。
<3>承認欲求と上手く付き合うことがモチベーションを上げるコツ
CGW:普段制作をするときに意識していることはありますか?
藤田:モチベーション的なところでお話をすると、実は仕事を始めてから少し経った後、自分の限界を感じてかなり思い詰めた時期があったんです。周りに海外就職者やコンセプトアーティストとしての成功者が出始める中、私自身は好きだったはずのCGに全然身が入らなかったというか。何とかモチベーションを軌道に乗せないと、と思っていた時期がありました。
CGW:何となくわかります。クリエイティブな作業をしているはずなのに、技術的に同じことのループになってしまっている感というか。
藤田:そうですね。だから一度立ち止まって考えてみたのですが、私が作品づくりの中で楽しいと感じるポイントは2つあって。1つはつくっている最中の全能感というか、クリエイターズ・ハイとでも言うような高揚を感じているとき。もうひとつはつくった作品を誰かに見せて「すごい!」と言ってもらえたときです。これ、調べてみるとどちらも「承認欲求」という言葉で語られていたんですね。
CGW:なるほど。表現者にとっては、常に付きまとうキーワードな気もします。
藤田:はい。この承認欲求というやつと上手く付き合っていく、というのがモチベーションを保つのに不可欠だと思ったんです。ただ上達するまではなかなか他人から褒められない。他人の評価で承認欲求を満たそうとしても、その判断基準は他者にあるわけです。そこでまずは、自分が最大限に楽しいと思えることをとことん追求して、自己承認欲求を満たしていくことにしました。
CGW:それで好きなものを描き続けた、ということですか。それで自己承認欲求が満たされるというのは、根っからのクリエイター気質なのかもしれませんね。
藤田:そうだと嬉しいです。ただ時には他者からの承認も得たくなるもので、ゲーム大会の優勝イラストを描いたり、Twitterで「RTした方に抽選でアイコン描きます!」みたいな企画をやったりもしました。必ずしも自分の技術への称賛ではなくても、反響があれば欲求は満たされるものだとわかりました。行動は人それぞれですが、自分の欲求とどう付き合っていくかを考えることはモチベーションの維持に繋がると思います。
CGW:とは言え、自分自身を掘り下げて分析する、というのは簡単にできることではないと思います。
藤田:そうですね......私自身は留年も浪人もしているので、立ち止まって考えるのは慣れているのかもしれません(苦笑)
CGW:ちなみに、ルック的なところで言うと、どういった部分に気を遣って制作をされていますか?
藤田:ルック周りについては、何よりもパッと見の印象勝負! というところに重きを置いています。映像作品はシナリオの良し悪しや動画の出来などももちろん重要ですが、キャラクターをひと目見たときの魅力というのも非常に求心力があります。そこで意識しているのは「視線誘導」ですね。
CGW:3Dモデルを見たときのユーザーの目線の動き、ということですか?
藤田:と言うよりは、静止画における視線誘導、という感じです。内容はチュートリアル動画でも触れますが、様々な場面で使われている視線誘導の例をたくさん集めてきて、似たもの同士でグループ分けしました。体系化して理解することでそれぞれを比較したり、組み合わせたりできるようになります。その結果、引き出しを開けるスピードが早くなったり、新たな理論を発想しやすくなります。
CGW:なるほど! 非常に面白い分析だと思います。視線誘導の具体例などはありますか?
藤田:分類した4つの視線誘導の中では、「形による視線誘導」がわかりやすいかも知れません。例えばこのドラゴンの作品を見て下さい。
藤田:この中で注視させたいのは真ん中のドラゴンで、そこに目がいくような構図にしています。各人物の手やマントのなびき方が、ドラゴンへの方向性をもっているような感覚になりませんか?
CGW:この作品はわかりやすいですね、パッと見たときに中心に目線が行きます。
藤田:他にも、人間が纏うローブはあえてシンプルな形にすることで、ディテールまで表現したドラゴンに視線を誘導しています。これらは全て意図的にやっていることです。
CGW:このあたりは全てチュートリアルで解説されている情報なんですね。現在公開中の動画チュートリアルについて、内容を教えていただけますか?
藤田:「ポートレート作成を通じて学ぶリアルな肌・ヘアーの作成方法」と題して、全20回でリアルな人物のポートレートを作成していく、という内容です。特に「髪」と「肌」の質感表現について詳しく触れています。基本的にはMayaを触ったことがある方向けですが、肌の設定などのやり方は全て動画内で解説しています。先ほどお話しした視線誘導の4つの分類法も含め、ぜひチェックしていただければと思います。
藤田氏の動画チュートリアルより、視線誘導の4つの分類に関する解説を特別に公開!
CGW:最後に、チュートリアルを実践される方に向けて、一言コメントをいただけますでしょうか。
藤田:これは動画の最後のチャプターでも言ったのですが、もし動画を見て参考になったところがあれば、ぜひそれを絡めた作品をつくっていただいて、そしてそれをいつか私に見せていただけたらと思っています。楽しみにしています。
CGW:ありがとうございました。
ポートレート作成を通じて学ぶリアルな肌・ヘアーの作成方法
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