>   >  片桐裕司監督 ✕ 上杉裕世氏(マットアーティスト)特別対談ーハリウッドから『ゲヘナ〜死の生ける場所〜』へいたるまで
片桐裕司監督 ✕ 上杉裕世氏(マットアーティスト)特別対談ーハリウッドから『ゲヘナ〜死の生ける場所〜』へいたるまで

片桐裕司監督 ✕ 上杉裕世氏(マットアーティスト)特別対談ーハリウッドから『ゲヘナ〜死の生ける場所〜』へいたるまで

全体を見る片桐氏、細部を見る上杉氏

上杉:長編映画をきちんと監督できるなんて、本当にすごいと思います。私も高校、大学時代には映像をつくっていましたが、起承転結のあるストーリー作品は皆無でした。「こういう画をつくりたい」というショット単位の構想は実現できても、1本のストーリーにまとめあげることはできませんでした。昔も今も細部を緻密につくり上げていくことは得意ですが、全体をディレクションすることには向いていないのです。だから映像をコンテストに出すときには、予告編形式にしてショットごとの格好良さを追求していました。

片桐:私はまったく逆で、細かいこだわりがなさすぎるというか......、細部の1個1個に対する執着はないのです。私は「映画が好き。映画に関わる仕事がやりたい!」という思いからこの業界に入ったので、細部をつくることよりも、1本の映画をつくることの方を重視します。

C:普段あんなに細かいものをつくっているのに、そんな自己分析をなさっているのは意外ですね。

片桐:上杉さんとは正反対の、全体を見るタイプというのかな。脚本や構成づくりが好きですし、全体のディレクション......、仕切り屋のような役割の方が得意なのです。ストーリーのながれに対するこだわりはありますが、ひとつひとつのショットにはそれほどこだわりません。「こだわりがない」ということはマイナスではなくて、例えば「こういうものをつくってくれ」とクライアントから依頼されたときに、要望に忠実なものを出せるし、リテイクもまったく痛くないというプラスに働く考え方だと思っています。いち技術者でいるときは、クライアントにとって「使いやすい駒」に徹するよう意識しています。まあとてつもない優秀な駒だという自覚はありますが(笑)。自分がつくりたいものは、自分の映画を監督するときにつくれますから。

C:上杉さんは、いつ頃、どんな思いで映画制作の道を志したのでしょうか?

上杉:私の場合は高校1年生のとき、他校の学園祭で自主制作映画を観たことがきっかけでした。クオリティはともかく、楽しそうにワイワイ上映している様子が羨ましくて、自分も映画をつくってみたいと思ったのです。2年生に進級した後、仲のいい友達と「映画をつくろう!」という話で意気投合し、富士フイルムまでアポなしで行き......多分新品だったと思うのですが、8mmフィルムのカメラを貸していただきました。当時は3分のフィルムを買って現像するだけで2,000円かかる時代で、学生の自分たちには払えなかったので、近くの商店街でスポンサーを募ったりもしました。

片桐:すごいですね。クラウドファンディングのない時代に、映画制作のスポンサーを募ったわけですね(笑)。

上杉:「商店街のCMを撮りますから!」と言って資金援助を頼みましたね。でも自分の場合は物語が内側から出てくるわけではなかったので、最初に「NGシーンから撮ろう!」と言い出すくらいストーリーは適当でした(笑)。ただ、もともと手先が器用で、各ショットの画づくりには凝っていましたね。中学時代には工作机から超ミニチュアの竹とんぼを削り出し、飛ばして遊んでいたこともあるくらいだったので、映画では「かまぼこ板から主人公を削り出し、パラシュートで降下させる」という特撮まがいのことをやったりしていました。ストーリー自体はしょうもない内容だったんですけれど。

片桐:(笑)。


上杉:高校3年生になる頃には周りの友達は映画制作に飽きてしまい、同世代の人とのぶつかり合いを求めて武蔵野美術大学に入りました。当時は「美大に行けば、熱い心をもったアーティストがいる!」と思っていたのです(笑)。そこで映画づくりの相棒に出会い、徐々に「アメリカに渡ってマットアーティストになる」という自分の方向性が定まっていきました。当時は「マットアーティストのロッコ・ジョフレさんに認めてもらい、彼の下で働く」という目標を勝手に定めており、彼に見せるための作品制作に励んでいました。SFXに必要なモーション・コントロール・カメラやオプチカル・プリンターを自作することから始めたので、親ですら「いったい何をやっているんだ?」といぶかしんでいましたね。片桐さんは高校時代に自分の道を見定めていたわけですから、素直にすごいなと思います。

片桐:私は高校2年生の終わりに決心しましたね。でも上杉さんは同じ年の頃に映画をつくり始めていたわけですから、私よりよっぽどすごいと思います。

上杉:どうでしょう?(笑)私は未来への投資をたくさんしておくことが大切だと当時から思っていました。つくった作品がロッコ・ジョフレさんに届かず、目標がかなわなかったとしても、やったことはムダにならないと思っていましたね。途中でハシゴを外されたからといって、一番下までは落ちないんです。感覚的な話ではありますが......。

C:「チャレンジしたことはムダにならない」という話は、『ゲヘナ』のKickstarterにも通じる話のように思います。1回目の失敗が、2回目の成功の土台となったわけですから。

片桐:そうですね。1回目のKickstarterが失敗したときも「ムダだった」とは思いませんでした。

上杉:私の場合はロッコ・ジョフレさんに作品が認められ、アメリカに行くことができました。親には心配をかけましたが、大学での4年間はとてもいい時間でしたね。

CGは万能ではない。まずは撮影段階で完璧を目指す

C:『ゲヘナ』では、どのくらいCGを使ったのでしょうか?

片桐:CGの使用は必要最小限に留めました。ダグ・ジョーンズさんが演じた不気味な老人に関しては、目を白くする処理にだけCGを使っています。コンタクトレンズも試しましたが、完全な白目にはならなかったので、ポストプロダクション段階で白くしたわけです。それ以外は特殊メイクアップを施したダグ・ジョーンズさんと、彼の身体の型からつくったパペットを使って撮影しています。

▲ダグ・ジョーンズ氏の全身の型をさらに細く削り、生きた人間ではあり得ないガリガリにやせ細った老人のパペットを制作した。このパペットと、頭部に特殊メイクアップを施したダグ・ジョーンズ氏本人を臨機応変に使い分け、各ショットを撮影している


▲頭部は特殊メイクアップを施したダグ・ジョーンズ氏本人で、頭部から下はパペットとなっている。パペットの後方に、黒色の服を着たダグ・ジョーンズ氏本人の身体が確認できる


▲このショットでは壁に穴を開け、ダグ・ジョーンズ氏が頭部だけを出して演技している。同氏の頭部から下はパペットとなっている


C:どのショットも、かなり工夫して撮影なさったわけですね。

片桐:事前にストーリーボードを描きながら、撮影方法を綿密に設計しました。ほかには、ショーン・スプロウリングさん演じる「ぺぺ」がシャベルで殴られて頭部と腕を負傷するショットでもCGを使っています。徐々に頭部が崩れる過程を3段階のパペットで表現し、そのパペットを撮影した映像と、ショーン・スプロウリングさんが演じた映像を合成しました。

▲徐々に頭部が崩れる過程を表現したパペット


▲パペットの撮影風景


上杉:VFX技術が発達した結果、最近はポストプロダックション段階への「先送り」と、そこでの「やり直し」に頼る傾向が日米問わず加速しているように思います。各工程の担当者が問題を先送りにすると、ポストプロダクションに全部のしわ寄せが来るわけですが、CGは万能ではありません(苦笑)。一方で片桐さんは、撮影段階でなるべく完璧な画を撮ろうとしているように見えますね。

片桐:「あとで直せばいい」という考え方には私も首を傾げたくなります。まずは撮影段階で完璧を目指すべきであって「後からCGで直しましょう」は、撮影現場で気軽に言っていい言葉ではありません。

上杉:日本の制作現場では、最近カラーグレーディングに力を入れているように思います。アメリカでも、例えばマイケル・ベイ監督の作品はILMが納品した映像と、完成映像とでは色味が大きく変わっていて、驚いたことがありました。『ゲヘナ』のカラーグレーディングは片桐さんがしっかり見られたのでしょうか?

片桐:はい。撮影監督の立石さんと一緒に、詰めの調整をしました。


C:お2人のトークライブでは、どういったお話をされる予定ですか?

片桐:映画制作がアナログからデジタルへ転換する中で、デジタルをどう利用してきたのか? 今後、どう利用していくのか? というテーマで語ろうと思っています。私たちには「CGのない時代に、この世に存在しないものをつくってきた」という共通点があります。やがてCGが登場し、制作現場にどう浸透していったのか、歴史をふり返りつつ、今後の話もできたら面白いのではないかと思っています。便利なツールが登場すると「それありき」で物事を考えがちですが、「何を伝えたいのか」という映像制作の本質を忘れることなく、それを成し遂げるためにツールを使うべきだと思うのです。

上杉:人間の目と脳は、ものすごい情報量を短時間で処理できます。例えば20m先で、知らない人がこっちを見ているかどうか、人間はすぐに判断できます。私たちの仕事は、そういった研ぎ澄まされた人間の感覚を「騙さなければいけない仕事」です。映像を見て「何だかおかしい」と感じたとき、その違和感の原因がどこあるのか、どうすれば違和感を取り除けるのか、それを判断できる能力がこの仕事においては不可欠です。モデラーであれ、アニメーターであれ、コンポジターであれ、それぞれの工程で、その能力を発揮できることが重要だと思っています。そういった映像制作にまつわる話をしたいですね。

C:前人未到の分野を進んできたお2人の、過去、現在、そして今後の映像制作に対する考えを聞ける機会はとても貴重ですね。

片桐:ご来場をお待ちしています。そして、ぜひこの機会に『ゲヘナ』をスクリーンでご覧ください。

C:お話いただき、ありがとうございました。

『ゲヘナ∼死の生ける場所∼』東京上映の開催概要

上映期間:7月30日(月)∼8月5日(日)
会場:ユーロライブ(渋谷)
主催:片桐裕司・株式会社ファイブツールデザイン
公式サイト:gehennafilm.jp

Profileプロフィール

片桐裕司/Hiroshi Katagiri

片桐裕司/Hiroshi Katagiri

東京生まれ。特殊メイクアップアーティストを志し、高校卒業後18歳で渡米。19歳からスクリーミング・マッド・ジョージ氏のスタジオでインターンとして働き始める。その後は映画、TV番組の特殊メイクアップアーティスト、キャラクターデザイナーとして活躍。スティーブン・スピルバーグ監督、ギレルモ・デル・トロ監督、サム・ライミ監督などの映画制作に参加。主な参加作品は『パシフィック・リム』(2013)、『マン・オブ・スティール』(2013)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(2011)など。クラウドファンディングのKickstarterで資金を集め、『ゲヘナ∼死の生ける場所∼』で長年の夢であった長編映画監督デビューを果たす。同作は2018年5月4日に全米10都市で公開された。現在は『キャプテン・マーベル』(2019公開予定)、『アバター2』(2020公開予定)などのハリウッド大作映画に関わりながら、日本全国で彫刻セミナーを開催。
chokokuseminar.com

上杉裕世/Yusei Uesugi

上杉裕世/Yusei Uesugi

1964年広島県生まれ。武蔵野美術大学油絵科卒業。1987年、渡米費用を稼ぐため『欽ちゃんの仮装大賞』に出場し優勝。賞金100万円でアメリカに渡る。マットアーティストのロッコ・ジョフレ氏に師事し、1989年、Industrial Light & Magicに入社。以後マットアーティストとして活躍。『スター・ウォーズ 特別編』(1995)で3Dマットペインティング(主観移動表現)を開発し、マットペインティングの表現領域を大きく広げる。主な参加作品は『アベンジャーズ』(2012)、『アバター』(2009)、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)、『スター・ウォーズ エピソード3』(2005)、同『エピソード2』(2002)、同『エピソード1』(1999)、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)など。エミー賞最優秀視覚効果賞、VESベストマットペインティング賞受賞。2017年11月、オムニバス・ジャパンにVFXスーパーバイザーとして移籍。
www.omnibusjp.com

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