仕事では、現実にあるものの再現力の方が求められる
C:就職活動はどのような感じですか?
水野:今現在、第一志望の某社の選考中です。最初の書類選考は通ったのですが「フォトリアルな人体の全身をつくってください」という課題を出され、「あー、やっぱり来たか!」と苦笑いしています。
C:水野さんのポートフォリオは、オリジナルのメカやクリーチャーなどの作品はいっぱいありますが、人体の全身はありませんものね......。
水野:そうなんですよ......。人体の顔だけはつくってポートフォリオに入れたのですが、全身はつくったことがないのです。「いずれはつくるだろう」と思っていたので、この機会に全力でやります。
C:キャラクターモデラーを志すからには「普通の人体」をつくれる基礎力が、不可欠ということなのでしょうね。
水野:はい。課題の背景には、そういう意図もあるのだと思います。もともと僕は模写が嫌いでした。この世にあるものをそのまま真似ることに意味があるのかなと思ってしまうのです。
C:目の前にあるのだから、写真を撮ればいいだろう、あるいはスキャニングすればいいだろうと思ってしまうということでしょうか?
水野:「せっかくつくるなら、この世にないもの、ちがうものを生み出した方が面白い」という考えが根底にあるのです。リファレンスとして現実にあるものを見ることはありますが、作品をつくるときには現実にないものをつくりたいと思ってしまいます。とはいえ仕事では、デザイン画や現実にあるものをそっくりそのまま再現する力の方が求められると理解はしているので、ポートフォリオにはそういう作品も入れました。
C:このトランシーバーですね。ポートフォリオ全体の中で、この作品だけものすごく異色で、明らかに水野さんの作風から外れています。就職を意識してつくったのだろうと、すぐわかりました。
▲実在するトランシーバーを再現した作品
水野:これだけは、実在するトランシーバーの写真を見ながらつくりました。ポートフォリオを会社の方に見せるたび、「貴方のオリジナリティは十分にわかったから、うち(会社)に入った後、どんな仕事ができるのかが伝わる指標を示してほしい」という主旨のことを言われ続けたのです。もし自分がキャラクターモデラーとして会社に入ったとしても、最初に任される仕事は絶対プロップ(小道具)制作だろう思い、1週間以内と期限を決めてつくりました。
C:プロップの再現力を見せることが一番効果的だろうと判断したわけですね。作家性の強い人ほど、会社に入ってもフィットせずに短期間で辞めていくという話を数多くの採用担当者から聞いているので、会社の気持ちはすごくわかります(苦笑)。
水野:雇う前も、雇った後も、会社はかなりのお金を投資しているので「それに見合う仕事はします」という意思表示をしたいと思い、この作品を入れることにしました。
▲専門学校に入ってから描き溜めてきたイラストレーション。鉛筆、あるいはボールペンを使って描かれており、基本的には下描きなしの一発描きだという。「1度は個展をやりたいと思っていたので、専門学校の1年次のとき、美術の先生の知人が経営しているカフェで個展をやらせてもらいました」(水野氏)
C:最後に今後の抱負を聞かせていただけますか?
水野:一番番大きな目標は「世界で活躍すること」です。「この作品に関わりたい」とか「ハリウッド映画をつくりたい」という思いももちろんありますが、最終的には世界中の多くの人に自分の作品を知ってもらえるようなアーティストになりたいです。
C:その目標が叶うよう願っています。お話いただき、有難うございました。