<2>アニメーターが必要に応じて背景モデルにリグを入れる!?「アニメーターファースト」な現場
CGW:アニメーターの判断でリグを入れることはよくあったんでしょうか?
藤原:そうですね、シーンの中でどうしても動かさないとダメだなというときがあるので。リガーにリクエストを出せるんですけど、作業優先度の関係でなかなか対応してもらえないので自分たちで判断して作った方が早くて(笑)。で、同じようなショットを作る人は他にもいるので、「こういうの作ったから使ってね」と他のアニメーターにシェアしていました。ちなみに、マイルスがラボの蛍光灯に捕まって揺らすショットでは、僕が蛍光灯にリグを入れました(笑)。
島田:スパイダーマンが集合してメイおばさんの家の中で戦うシーンでは、小さな家の中にたくさんのキャラクターが勢ぞろいして戦っている中、「ツボや電話といった家の中の生活用品も全てめちゃくちゃにしてほしい」と指示されて、アニメーターが動かしたり傾けたり吹き飛ばしたり。そういうのもSPIっぽいのかな。
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島田竜幸/Tatsuyuki Shimada
埼玉県出身。 2008年にポリゴン・ピクチュアズでキャリアをスタート。その後、2013年に台湾のCGCG inc、2017年1月にMPC Vancouverへの移籍を経て、現在はSony Pictures Imageworks所属。これまでに参加した作品は 『スター・ウォーズ / クローン・ウォーズ』(2013)、『ヒックとドラゴン: 新たな世界へ!』(2015)、『トロールハンターズ』(2016)、『ジャスティス・リーグ』(2017)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』、(2019年公開予定)など
『スター・ウォーズ』を追い海を渡ったラガーマン 第30回:島田竜幸/Shimada Tatsuyuki(Sony Pictures Imageworks / Animator)
cgworld.jp/regular/030-tatsuyuki-shimada.html
藤原:アニメーターを優先するというカルチャーは特徴的かもしれませんね。アニメーターが作ったものをとてもリスペクトしてくれていて、アニメーターのわがままを結構通してくれるんですよね。背景のオブジェクトなどは、リグが入っていなくて動かせないものが多いのですが、僕たちアニメーターが勝手に背景からモデルをもってきてリグを入れられるツールがあるんです。そのツールが結構使えるんですよね。
園田:ドクター・オクトパスがピーターの首を掴んでラボの机の上に投げ飛ばすシーンでは、机の上にある試験管や研究材料といった小道具も全部リグ化して動かせるようにして、そのアニメーションを基に、エフェクトで割るということをしていました。
藤原:エフェクトに関しても、最終のイメージをアニメーターがアタリで付けていますね。
アール:逆にめんどくさいことになることもあるんだけどね。「これ動いたら良いのにな」と言われちゃうと動かさなきゃいけなくなるから(笑)。
島田:そう!できちゃうからね。「それはリグがないから動かせないんです」と言えないんですよね(笑)。
CGW:日本のアニメCGの手法はどういったところで使われましたか?
島田:先ほどお話ししたように、アニメーターがモデリングみたいなことをやっていたんですが、カメラから見たときの普通のポーズを作っても、でこぼこしちゃってあんまり格好良い形にならないんですね。でも制作中によく言われていた「格好良いラインを強調する」とか「強いポーズ」を作る場合は、3Dモデルを自分で修正しないといけないんですよ。で、その修正したモデルをカメラの位置からではなく横から見ると、すごく引き伸ばされていたり、遠くに行くにつれて尖っていくので足がすごく小さくなっていたりするんです。日本のアニメCGで言う「嘘パース」というやつですね。そういう日本アニメのパース表現はかなり意識しました。
園田:ペニー・パーカーにも日本のアニメCG的な制作手法を使っています。これは大変でした(笑)。ペニーの顔を横から見たときの口は、ただの板が置いてあるだけなんですが、板の中に歯と舌が仕込まれていて、その形を変えることで口パクさせているんです。顎もつけて輪郭の外にあまり出ないように。あと、髪にはものすごい数のコントローラが入っていて、カメラのアングルによって調整しないといけなくて。専用のセレクタがあるんですが髪専用のタブができるほどで、どこのコントローラを触っているのか判らないくらいでした(笑)。その他の日本アニメっぽいものでは、SP//drのUIが日本語だったのでUI担当のマットペインターに日本語を教えたり、SP//drのルックにはガンダムが資料として上がっていたので、少しだけガンダムの要素を採り入れていたのかもしれません。
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』本編映像<ペニー・パーカー編>(3/8全国公開)
アール:日本のアニメっぽいといえば、モーメントですね。日本のアニメーションはポーズを大げさに付けますが、アメリカのアニメーションは小さい動きで見せるので。アクションっぽいタメ・ツメは参考にしました。
藤原:日本のアニメーションのリファレンスはだいたいアクションもので、2コマ打ちのものもあったしフルコマで作っているものもたくさんありました。ただ、口パクだけは厳密に付けないといけないんですよね。日本のアニメだと声優さんがアフレコで上手く合わせてくれたりしますけど、海外のアニメの場合はプレスコが多く、リップシンクがとても厳しいので、口の形もタイミングもアニメーターが細かく付けるんですよ。
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藤原淳雄/Atsuo Fujiwara
大阪府出身。東京でCGデザイナーとしてキャリアを開始。4年後の2006年よりカナダに移住し、CM・TVシリーズ・ゲーム・映画など様々なジャンル、複数の会社で経験を積む。オンラインスクールAnimationAidの発起人であり、2016年初頭の開校後は同校の講師、運営にも携わっている
AnimationAid
animation-aid.com
園田:僕のショットだけだったのかもしれないですけど、ペニーのアニメーションでは「あんまりリップシンクに合わせすぎないで」ってリードアニメーターから言われて(笑)。それが逆に難しかったです(笑)。
CGW:パルクールの失敗動画以外に、アニメーションで参考にしたものは?
島田:グウェンの動きをつけるときはバレエの動画をよく観ていました。
藤原:ほかにも各キャラクターの声を付けてくれる俳優さんが出ている実写の映画をとにかく観てくださいと言われていましたね。
島田:その俳優さんがどういう演技をするのか、どんな話し方をするのかといった特徴を掴むために。
園田:スパイダーマンになって間もないマイルスがまだ自分の動きに慣れず空中でクルクル回っている、というアクションでは、ガラスのチューブの中でふわふわ浮く室内スカイダイビングの「インサイドスカイダイビング」の動画が良いリファレンスになったのでよく観ていました。
島田:最後のシークエンスでマイルスとドクター・オクトパスが戦うシーンでは、「パースを効かせてほしい。とにかくアニメをリファレンスしろ」と言われました。「こういうアクションが欲しい」といういうイメージが明確で、ピンポイントで『NARUTO』のアクションシーンを指定されることが多かったです。だから、テイストとかポーズ、タイミングとか、もちろんそのまま使うわけではないんですけど、『NARUTO』のアクションにあるエッセンスみたいなものを抽出していました。
CGW:ところで、制作当時のオフィスの雰囲気はどんな感じでしたか?
園田:途中でビルが変わって、スパイダーマンをやっているアニメーターはほぼ全員そこに入れられたんですよね(笑)。
一同:入れられた(笑)。
園田:真新しい何もないただのオフィスビルの一室でちょっと寂しい感じだったんですが、何もない壁にティザーで出たすごくアイコニックなショットを印刷したものやスパイダーマンのファンアートを貼ったりして。みんなが描いたものが日に日に増えてだんだん華やかになって、とてもモチベーションが上がりました。会社でやっているドローイングクラスのモデルさんにスパイダーマンっぽいポーズをリクエストしたこともありましたね。
新オフィスの壁に貼られたショット
藤原:「デスクのデコレーションコンテスト」というものもあって、デスク周りをスパイダーマンになぞらえたデコレーションで飾る、というコンテストだったんですが、そういうことをみんなでわいわいと楽しくやっていました。
園田:制作の後半、朝出社したらデスクにスパイダーマンのピンバッヂが置いてあった、ということもありました。アニメーターだけに配られた、マイルスの顔が描かれた非売品で、裏には「Thank you for your hardworking」って書いてあって。この頃は土曜出勤が当たり前になっていて大変な時期だったんですが、これは嬉しかったですね。
CGW:『スパイダーマン』シリーズは世界的に人気のある作品ですが、実際に制作に関わってみてどんな気持ちでしたか?
園田:僕は、制作初期にはスパイダーマンの格好をしていないピーターとマイルスを作ってばっかりだったので、そのときはスパイダーマンを作っているという感覚はなかったんですけど、実際のスパイダーマンにアクションを付けているときは「キター!」って気分でテンションが上がりました(笑)。
藤原:スパイダーマンを動かせるのは嬉しいよね。こっち(カナダ)ではスパイダーマンって圧倒的に子供に人気があるんですよ。僕も子どもがいるので将来「お父さんこれ作ってたんだよ」って自慢できるかなって(笑)。
アール:私は......、以前はとても嬉しかったけど、今はもうわからなくなったな(笑)。でも、今までとはちがう『スパイダーマン』を作っている感じがとても良かったです。ストーリーもビジュアルも良かったし。
アニメーター自身が演技をして収録したリファレンスを参考に作成されたショット
園田:そういえば、自分が作ったショットがコンポジットされたとき「すげえっ!」て感動しました。いつも自分のPCモニタでしか見ていないので、大きなスクリーンで観るとやっぱりちがいますよね。
島田:会社のスクリーンでも3Dグラスで観ることができるんですが、一足先に大きなスクリーンで体験できるというのもテンションが上がったし、作っている僕たちが「この作品、超格好良い!」と思っていたのでヒットする確信がありましたね。
藤原:うおお、かっこええ!ってね(笑)。作っているときから「絶対ヒットする!」って確信があったもんね。スタッフのモチベーションを上げるために月イチで出来上がったところをみんなで観ながらランチをするんですが、忙しくても毎回観に行って「よし、やるぞー!」とテンションを上げてやっていたよね。あれ、僕、会社に上手いこと乗せられてる?(笑)。
一同:(笑)。
CGW:ありがとうございました!
>>後篇は近日公開予定!