>   >  圧倒的なクオリティでRookie Awards 2019を受賞。鈴木卓矢に師事した松島友恵の「背景デザイン修行の日々」
圧倒的なクオリティでRookie Awards 2019を受賞。鈴木卓矢に師事した松島友恵の「背景デザイン修行の日々」

圧倒的なクオリティでRookie Awards 2019を受賞。鈴木卓矢に師事した松島友恵の「背景デザイン修行の日々」

目標に向けてしっかりと計画を立てる

CGW:二年間の弟子入り期間で非常に多くのことを学ばれたと思いますが、中でも印象的だったことはどんなことですか?

松島:はじめにカリキュラムを組んでもらった時、目標達成に向けてとても丁寧に計画を立てることにすごく驚きました。とても大切なことなんですね。

鈴木:そうなんです。例えば、5年後に特定の海外スタジオに行きたいという目標があるとして、現段階のスキルをどのように育てたらそれが達成できるのか、やるべきことをリストアップしてスケジュールを立てないといけません。だからまず、彼女が思い描く将来設計を聞きました。

CGW:デッドラインを用意しないと、ずるずると先に伸ばせますからね。

鈴木:そう。僕としても、教える事がたくさんありすぎてキリがないし。

CGW:2年間、レッスンはどのような形式で行われたんですか?

鈴木:基本的にはメールベースで、進捗に合わせて週1~2回くらいの頻度でやりとりしていたよね。

松島:そうですね。鈴木さんはお仕事で忙しいし、私は学校の課題をやりつつのレッスンでしたが、鈴木さんから課題をもらってそれをこなして、鈴木さんのフィードバックを受けて修正する、の繰り返しです。課題は毎回、「今回はモデルの基礎をしっかりと作れるようになりましょう」といった感じで達成するべき目標が明確にあって、観察力やモデルの作り方、テクスチャの作り方、クオリティの上げ方などを一つひとつ順番にこなしていきました。時間をかけて作品を完成させることも大事ですが、データを丁寧に作ることの方が大事でした。

鈴木:仕事として納品できるデータかどうかをチェックしつつ、制作プロセスもイチから教えていきました。ラフモデルを作る際も、なぜラフモデルが必要なのかとか、誰がチェックするのかとか、ディテールをつけるのは最後でOKとか。そして、その実践としてラフモデルを作ったらチェック、窓を作ったらチェック、と一工程ごとに細かくチェックしていきました。手間がかかるんですけどね(笑)

松島:そうなんですよ。鈴木さんのフィードバックがかなり細かかったので驚きました。

鈴木氏によるフィードバック。細かいところまで的確なアドバイスがぎっしりと書き込まれている

鈴木: しかも24時間体制だったよね(笑)。大学の授業ではソフトウェアの使い方を教えると思うんですが、実際の現場ではツールと自分のスキルをいかにカスタマイズして使いこなせるか、が問われます。だから、最初の半年から9ヶ月間は「この課題の中にモデリングの基礎が身につく全てが詰まっているので、とりあえずこれをちゃんと作りましょう」と修行みたいな感じで一歩ずつ基礎を固めて行きました。そして、基本的なスキルを学んだら、今まで学んだことを活かして表現したい映像を実際につくってみましょう(卒業制作)、という「段階を踏んだカリキュラム」を組んだんです。

CGW:基礎をしっかりと身につけた上で卒業制作にとりかかったんですね。

松島:はい。始めの一年間は基礎レッスンの期間で、静止画を作っていました。

鈴木:彼女が卒業する時に「日本国内で就職できない企業がない」状態を最終目標にしていて、まずはプロが見て納得するレベルの静止画のクオリティで作れるよう目標を設定していました。僕が出した静止画の課題をクリアしないと卒業制作でクオリティの高いムービーは作れないし、万が一、彼女が挫折した場合、静止画だけでも就職活動が出来るくらいクオリティの高い作品を作っておく必要があったからです。

課題の静止画

CGW:なるほど。「学生レベル」を超える基礎を静止画で身につけたわけですね。卒業制作のムービーに関しては、どのようなアドバイスをされたんですか?

鈴木:まず、彼女がやりたいことと卒業制作にかけられる期間を聞きました。その結果、彼女の構想に対して時間が足りそうになかったので、「限られた期間で完成させるためにするべきこと」を明確にするためにプレビズを作らせました。プレビズでボリュームが大きすぎることが明らかになったので、次にカメラワークで問題点をカバー(物量を削減)しましょう、とアドバイスしました。モデリングに関するアドバイスは、どうやって作るかというよりも絵的に何を考えて作るべきかというのを中心に教えてました。
このフレームで何がみえるのか、その先のフレームで何を見せたいのかといった演出面のアドバイスが多かったです。

ほぼ完全に空洞になった都市 / The city made almost empty from Tomoe Matsushima on Vimeo.

松島氏が制作した卒業制作のムービー

松島:退廃した感じを伝えるために、どういったモデルを作ってどのようにモデルを置くべきか。「廃墟モデリングのあり方」のようなフィードバックをたくさんいただきました。

CGW:卒業制作の制作期間はどれくらいですか?

松島:まず、大聖堂の制作に2~3カ月ほどかかり、そこから廃墟となった街を作り始めたのですが、プレビズでしっかりとスケジュールを立てたものの修正などで少しずつずれ込んで、最終的には1年ほどかかりました。

鈴木:中途半端なものは作らせませんでしたからね(笑)

演出面のフィードバック

次ページ:
<3>「目標」と「現在の自分」の距離感を掴む

Profileプロフィール

松島友恵/Tomoe Matsushima(SAFEHOUSE)

松島友恵/Tomoe Matsushima(SAFEHOUSE)

株式会社SAFEHOUSE
背景アーティスト
1997年生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業。2年次に受けた 3ds Max の講義で初めて3DCGを学び、アニメーションや映像作品を制作。大学在学中に鈴木卓矢さんに師事し、3DCGを用いた背景作りを基礎から学ぶ。2019年4月に背景モデラーとしてSAFEHOUSEに入社。
Twitter:@o331331331ooo

鈴木卓矢/Takuya Suzuki(SAFEHOUSE)

鈴木卓矢/Takuya Suzuki(SAFEHOUSE)

株式会社SAFEHOUSE
取締役/モデリング・スーパーバイザー
1980年生まれ。大学卒業後、スクウェア・エニックス ヴィジュアルワークスに入社。その後、アメリカに渡りBlizzard EntertainmentのCinematics Divisionでシニアアーティストとして背景デザインからモデリングまでを担当。2014年に活動の場を日本に移し、都内のCG制作会社にてEnvironment&Propsのモデリングスーパーバイザーとして勤務。2018年、ドイツでリアルタイム映像制作で活躍しているアートディレクターErasmus Brosdauと共同で日本にCGプロダクションSAFEHOUSEを設立する。自身のさらなるスキルアップのためにフリーランスの背景モデラーとしても、実写、フルCG、アニメなど幅広く活動中。
Twitter:@takupomu

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