「目標」と「現在の自分」の距離感を掴む
CGW:卒業制作を作り終えたときはどんな気分でしたか?
松島:一人で黙々と作っているだけでは見出せなかったであろうことばかりで、自分の持てる実力をはるかに越えさせてもらったな、という実感がありました。ここまで高いクオリティを出せたのは、鈴木さんの細かく適切なフィードバックがあってこそなので。やはりフィードバックって大切なんですね。
鈴木:学生は想像力と経験の引き出しが少ないので、自分に足りないものを客観的に知る術があまりないんですよね。でも、こうやって大きなコンテストで受賞したり、プロの目線でクオリティを上げる経験をすることで、目標までの距離感が掴めるようになるんです。1人でやることと誰かにアドバイスしてもらいながらやることのちがいもここにあると思います。彼女は自分自身の力で0から1を作り出したけど、1から10に磨き上げる引き出しを持っていなかった。だから、足りないところを僕がアドバイスして、彼女の世界を膨らませた感じです。
CGW: Rookie Awards 2019でグランプリを受賞した感想をお聞かせください。
松島:Rookie Awardsは世界的なCGコンテストで、学生の頃から目標の1つだったのでとても驚きました。このレベルまで作ったら世界に認められるんだ、と実感できたのも大きな収穫です。でも、受賞は自信に繋がり素直に嬉しかったのですが、自分一人の実力で受賞できたわけではないし、まだまだ先があるんだという事実を改めて実感して、手放しで「やったぞ!」と喜べる気持ちではなかった、というのが率直な感想です。
鈴木:Rookie Awards 2019に応募した動画は、卒業制作で作ったムービーのメイキングとして編集したものなんですが、卒業制作の作品をそのまま出していたら受賞できなかったかもしれません。メイキングだからテンポが良くて、それなりにかっこよく見えるんですが、ムービー作品のままでは尺が長すぎてアラが目立ち、質が落ちて見えたんです。人によっては途中で飽きられる危険もありました。結果テンポの良いメイキングとして応募したことが功をそうしたのかなと思っています。
CGW:ところで、なぜ廃墟というモチーフを選んだんですか?
松島: 廃墟をモチーフに選んだのは、ビジュアルとして魅力的で、さらにその場所で起こっている物語を伝えられたらと思ったからです。舞台は1940年代のロンドンなんですが、メインとなる大聖堂のモデルも作ってみたかったことと、そこで起こっている「事象」を掘り下げたくて。とにかく興味のあるものじゃないと完成させるのは難しいだろうと思っていました。
鈴木:僕は廃墟を作ることに反対したんですよ。「地獄を見るぞ」と(笑)。というのも、廃墟って作るのがすごく難しいんですよ。ただ作るだけじゃなくて絵の情報量をコントロールしないといけない。そんな難しいものを学生にチャレンジさせるのって、終わりが見えない気がして。最悪、完成しないじゃないかと。
CGW:「鈴木さんがイメージしている完成」と「松島さんがイメージしている完成」にもギャップがありそうですね。
鈴木:そう。僕がイメージしている完成は、ハリウッド映画に出てくるレベルだから。そんなクオリティでしかも廃墟だなんて、学生の挑戦としてはかなり難しいなと。実際、瓦礫の制作に入ってから急にスピードが下がったよね(笑)
松島:街全体を作るのに半年ほどかかりました(笑)。瓦礫の組み方から廃墟の演出の仕方から、一つひとつフィードバックしてもらって修正を重ねました。リファレンスを参考にしているとはいえ、模写をするのではなく頭の中にあるイメージをCG空間に再現するのは凄く難しかったです。
鈴木:「習得」と「体得」はちがいますからね。彼女は、僕を通して作品を作ることで一つひとつ背景モデリング論を「習得」していきましたが、まだ完全に自分のものには出来ていない状態です。この差分を自分で埋められるようになって、初めて「体得」になるんです。
CGW:一つひとつ確かめながら「習得」していくことで、一人で出来ることが増えて、いずれ「体得」になるんでしょうね。そして「体得」できたときに世界が一気に広がるのかもしれませんね。さて、松島さんは2019年の4月から背景デザイナーとしてSAFEHOUSEで活躍されていますが、次の目標をおしえてください。
松島:まだ実力や経験が伴っていなくて、作っていても難しいと思うことが多々あって成長の過程にあります。何より、鈴木さんに支えてもらっているうちは「自分の限界」まで辿り着いてない気がするんです。だから、当面の目標は「どこに行っても1人でやっていけるだけの実力」を身につけることです。そして最終目標は、CGを始めた動機でもあるPixar Animation Studios のセットアーティストになることです。
鈴木:そうそう。この機会にしっかりアピールしときなよ(笑)
一同:(笑)
CGW:確かに「チャンスを掴むスキル」というのもありますよね。
鈴木:ありますね。チャンスが掴めないってほんとに怖いことですから。
松島:すごくわかります。一歩を踏み出さなかったことでいつまでも出来ないままだったり、「やるかやらないか」の選択で「やらない」を選んだことで後悔する恐ろしさをいつも感じていました。
CGW:分岐点に立った時に、何を選ぶかで将来が変わったり、起動修正に多大な時間を要したり。
鈴木:そう、ほんとに。
CGW:松島さんのそういった危機感や焦りがチャンスを呼び込んでいるのかもしれませんね。
松島:確かにそう実感することは多いです。チャンスが巡って来た時に具体的に動けるかどうかは、それまでの準備次第なんじゃないかと思うことがあります。経験に加えて、自分のバックグラウンドや自分がどういう人なのかをちゃんと説明できるように準備しておかなければいけませんね。
CGW:これからもどんどんチャンスを掴んで目標まで突き進んでくださいね!松島さん、鈴木さん、ありがとうございました。
鈴木:あ、最後にひとつ! SAFEHOUSEはいつでも新卒を募集しています。仕事では英語を使うこともあるので、海外に向けたトータルなアーティスト教育が受けられます。それと松島を超えたいという次なる弟子も待ってますので連絡ください(笑)我こそは、という人はぜひ!
CGW:最後にしっかりPRしましたね(笑)。ちゃんと記事の最後に書いておきますね!
鈴木:よろしくおねがいします!