2019年の3月に武蔵野美術大学映像学科を卒業し、4月からは株式会社SAFEHOUSEにて背景モデラーとして活躍中の松島友恵氏。世界的な学生コンテストRookie Awards 2019でグランプリを受賞し、CGWORLDが主催する学生コンテスト『WHO'S NEXT』でも1位に輝いた松島氏の作品は、学生レベルを超越した圧倒的なクオリティで人々を驚かせた。そんな松島氏と同氏の「師匠」である鈴木卓矢氏に、弟子入り期間に学んだことや圧倒的なクオリティを実現させるまでの道のりについてお話を伺った。

TEXT_UNIKO. / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

がむしゃらなエネルギーで壁を突破する。

Tomoe Matsushima_environment modering reel from Tomoe Matsushima on Vimeo.

CGWORLD(以下、CGW):Rookie Awards 2019のグランプリを受賞され、CGWORLD主催の学生コンテスト『WHO'S NEXT』でも1位を獲得されました。作品のクオリティの高さに驚いた方も多いと思うのですが、CGを学び始めてどれくらいで、そしてどのような過程を経てこのクオリティにたどり着いたのでしょうか。

松島友恵氏(以下、松島):大学2年生の終わり頃に授業で3ds Maxを触り始め、CGでものを作る楽しさを知ったのがだいたい2年半くらい前です。ちょうどその時にCGWORLD +ONE Knowledgeの鈴木卓矢さんの講座『背景モデリング講座』を受講して、背景モデリングをもっと勉強したいなと思うようになったのが始まりです。

CGW:大学は映像学科とのことですが、どのようなことを学ばれたのですか?

松島:実写映像やフィルム写真、アニメーション、インスタレーション型の空間演出など映像に関することを幅広く勉強しました。中でも「映像前史」の授業は、映像作品の歴史や映像技術の発達の過程、映像技術の用途といった、映像技術の背景や変遷を知ることができてとても興味深かったです。自由に学ばせてもらえる環境だったので、興味をもったことを追求することができました。

松島友恵氏

CGW:理論や歴史的な背景に関する洞察は知的好奇心が刺激されますよね。

松島:はい。どういった過程を経て現在の姿になっているのか、何かしら原因があって「今」のかたちになっているわけで、その関係性を考えるのが好きなんです。

CGW:大学2年生の頃に鈴木さんに「弟子入り」したと伺っているのですが、鈴木さんと出会ったきっかけは?

松島:大学2年生の春休みに、鈴木さんの『背景モデリング講座』に参加した際に初めて鈴木さんにお会いしました。学校でCGを学び始めてまだ2~3ヶ月ほどしか経っていない頃です。

CGW:「背景デザイン」と言うとある種独特の世界だと思うのですが、なぜ松島さんは背景デザインの道に進もうと思ったのですか?

鈴木卓矢氏(以下、鈴木):ほんと(笑)。俺もそれ知りたい。背景デザインなんてかなり独特な領域ですよね。

松島:単純に、自分の好奇心が場所や情景といった方向に向いたからです。「その場所」がどのような歴史的背景があってそうなったのか、その状況が作られた過程や背景にある物語を想像するのが好きなんです。だから、無意識のうちに場所や空間に興味を持つようになっていました。

CGW:鈴木さん講座を受けたことで、無意識に興味を持っていたことが明確になったのでしょうか?

松島:はい。大学の授業は、イメージを実現するためにロジックで組み立てるという教え方ではなかったので、「作りたいものをビジュアル化するために、具体的にどういった方法で実現するか」という鈴木さんのお話はとても新鮮でした。なにより、当時は技術力を高めるための方法を自分で探さなければ! という焦りがあって(笑)。そこに行くことで確実に自分に足りないものが得られると分かっていたし、鈴木さんのお話が聞けて会えるチャンスがあるなら行かない手はないと思って参加しました。結果として、知りたかったことをどんどん吸収していく自分が楽しくて、ずっとワクワクしながらお話を聞いていました。

CGW:講座が終わって、すぐに鈴木さんに「弟子入りしたい!」と申し出たんですか?

鈴木:講座が終わった後に松島が「作品を見てください」と言ってきたんですよね。作品を見てみると、女の子なのに随分と男っぽいものを作るなぁと、ある種の好感が持てたんです。内容のクオリティはさておいて、しっかり世界観を作れてたしオリジナリティはあるなというのが第一印象でした。

松島氏の師匠、鈴木卓矢氏

松島:それで、講座があった夜に鈴木さんとTwitter上でちょっとしたやりとりがあり、「あと2年しかありませんが、鈴木さんに背景デザインを教えてもらいたいです」とDMを送ったんです。

鈴木:とんでもない肝っ玉を持っているなと思いましたよ(笑)。でも、そういうがむしゃらなエネルギーが壁を突破する力になるんでしょうね。事実あの時僕にDMをしていなければこうなってはいなかったですし(笑)
その時、彼女の作品を全部見せてもらったんですがCG歴が浅いのに背景作品数が多くて、自分の殻を破ろうと奮闘している熱意が伝わって来たんですよね。
ちょうど一番弟子だった谷垣まい(@my_my1110vimeo)を超える二番弟子を探していたタイミングだったのと松島自身が谷垣をリスペクトしていたので、弟子入りを頼まれた時「アナキンを超えるルークを育てよう」とワクワクしたのを覚えています。

CGW:鈴木さんに弟子入りを申し込んだとき、松島さんには将来の自分の姿や目標が明確にあったんですか?

松島:当時はSony Pictures Imageworksを目指していました。

鈴木:そうそう、結構ミーハーだったよね(笑)。でも、弟子にするなら海外を目指している子の方が良かったので、僕としてもちょうど良かった。というのも、僕自身がBlizzard Entertainment で「リードデザイナー止まり」だったので、弟子にはスーパーバイザーかそれ以上のキャリアを積んでもらいたいと考えていたんです。早速、海外のスタジオを目指しているなら3ds MaxからMayaに切り替えるようにアドバイスして、卒業までの期間を逆算して、彼女に最適なカリキュラムを組みました。ちなみに、僕が教えることは全て僕がBlizzard Entertainmentにいたときと同じレベルの考え方・進め方ですので、海外でも通用する実力が身につくと思います。

松島:鈴木さんが推薦してくれた伊藤克洋氏のMaya入門本『伊藤脳塾』 を数ヶ月で読破してMayaを習得しました。3ds MaxでCGの基本的な作業工程は知っていたので、比較的スムーズにマスターできたと思います。

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<2>目標に向けてしっかりと計画を立てる

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目標に向けてしっかりと計画を立てる

CGW:二年間の弟子入り期間で非常に多くのことを学ばれたと思いますが、中でも印象的だったことはどんなことですか?

松島:はじめにカリキュラムを組んでもらった時、目標達成に向けてとても丁寧に計画を立てることにすごく驚きました。とても大切なことなんですね。

鈴木:そうなんです。例えば、5年後に特定の海外スタジオに行きたいという目標があるとして、現段階のスキルをどのように育てたらそれが達成できるのか、やるべきことをリストアップしてスケジュールを立てないといけません。だからまず、彼女が思い描く将来設計を聞きました。

CGW:デッドラインを用意しないと、ずるずると先に伸ばせますからね。

鈴木:そう。僕としても、教える事がたくさんありすぎてキリがないし。

CGW:2年間、レッスンはどのような形式で行われたんですか?

鈴木:基本的にはメールベースで、進捗に合わせて週1~2回くらいの頻度でやりとりしていたよね。

松島:そうですね。鈴木さんはお仕事で忙しいし、私は学校の課題をやりつつのレッスンでしたが、鈴木さんから課題をもらってそれをこなして、鈴木さんのフィードバックを受けて修正する、の繰り返しです。課題は毎回、「今回はモデルの基礎をしっかりと作れるようになりましょう」といった感じで達成するべき目標が明確にあって、観察力やモデルの作り方、テクスチャの作り方、クオリティの上げ方などを一つひとつ順番にこなしていきました。時間をかけて作品を完成させることも大事ですが、データを丁寧に作ることの方が大事でした。

鈴木:仕事として納品できるデータかどうかをチェックしつつ、制作プロセスもイチから教えていきました。ラフモデルを作る際も、なぜラフモデルが必要なのかとか、誰がチェックするのかとか、ディテールをつけるのは最後でOKとか。そして、その実践としてラフモデルを作ったらチェック、窓を作ったらチェック、と一工程ごとに細かくチェックしていきました。手間がかかるんですけどね(笑)

松島:そうなんですよ。鈴木さんのフィードバックがかなり細かかったので驚きました。

鈴木氏によるフィードバック。細かいところまで的確なアドバイスがぎっしりと書き込まれている

鈴木: しかも24時間体制だったよね(笑)。大学の授業ではソフトウェアの使い方を教えると思うんですが、実際の現場ではツールと自分のスキルをいかにカスタマイズして使いこなせるか、が問われます。だから、最初の半年から9ヶ月間は「この課題の中にモデリングの基礎が身につく全てが詰まっているので、とりあえずこれをちゃんと作りましょう」と修行みたいな感じで一歩ずつ基礎を固めて行きました。そして、基本的なスキルを学んだら、今まで学んだことを活かして表現したい映像を実際につくってみましょう(卒業制作)、という「段階を踏んだカリキュラム」を組んだんです。

CGW:基礎をしっかりと身につけた上で卒業制作にとりかかったんですね。

松島:はい。始めの一年間は基礎レッスンの期間で、静止画を作っていました。

鈴木:彼女が卒業する時に「日本国内で就職できない企業がない」状態を最終目標にしていて、まずはプロが見て納得するレベルの静止画のクオリティで作れるよう目標を設定していました。僕が出した静止画の課題をクリアしないと卒業制作でクオリティの高いムービーは作れないし、万が一、彼女が挫折した場合、静止画だけでも就職活動が出来るくらいクオリティの高い作品を作っておく必要があったからです。

課題の静止画

CGW:なるほど。「学生レベル」を超える基礎を静止画で身につけたわけですね。卒業制作のムービーに関しては、どのようなアドバイスをされたんですか?

鈴木:まず、彼女がやりたいことと卒業制作にかけられる期間を聞きました。その結果、彼女の構想に対して時間が足りそうになかったので、「限られた期間で完成させるためにするべきこと」を明確にするためにプレビズを作らせました。プレビズでボリュームが大きすぎることが明らかになったので、次にカメラワークで問題点をカバー(物量を削減)しましょう、とアドバイスしました。モデリングに関するアドバイスは、どうやって作るかというよりも絵的に何を考えて作るべきかというのを中心に教えてました。
このフレームで何がみえるのか、その先のフレームで何を見せたいのかといった演出面のアドバイスが多かったです。

ほぼ完全に空洞になった都市 / The city made almost empty from Tomoe Matsushima on Vimeo.

松島氏が制作した卒業制作のムービー

松島:退廃した感じを伝えるために、どういったモデルを作ってどのようにモデルを置くべきか。「廃墟モデリングのあり方」のようなフィードバックをたくさんいただきました。

CGW:卒業制作の制作期間はどれくらいですか?

松島:まず、大聖堂の制作に2~3カ月ほどかかり、そこから廃墟となった街を作り始めたのですが、プレビズでしっかりとスケジュールを立てたものの修正などで少しずつずれ込んで、最終的には1年ほどかかりました。

鈴木:中途半端なものは作らせませんでしたからね(笑)

演出面のフィードバック

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<3>「目標」と「現在の自分」の距離感を掴む

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「目標」と「現在の自分」の距離感を掴む

CGW:卒業制作を作り終えたときはどんな気分でしたか?

松島:一人で黙々と作っているだけでは見出せなかったであろうことばかりで、自分の持てる実力をはるかに越えさせてもらったな、という実感がありました。ここまで高いクオリティを出せたのは、鈴木さんの細かく適切なフィードバックがあってこそなので。やはりフィードバックって大切なんですね。

鈴木:学生は想像力と経験の引き出しが少ないので、自分に足りないものを客観的に知る術があまりないんですよね。でも、こうやって大きなコンテストで受賞したり、プロの目線でクオリティを上げる経験をすることで、目標までの距離感が掴めるようになるんです。1人でやることと誰かにアドバイスしてもらいながらやることのちがいもここにあると思います。彼女は自分自身の力で0から1を作り出したけど、1から10に磨き上げる引き出しを持っていなかった。だから、足りないところを僕がアドバイスして、彼女の世界を膨らませた感じです。

CGW: Rookie Awards 2019でグランプリを受賞した感想をお聞かせください。

松島:Rookie Awardsは世界的なCGコンテストで、学生の頃から目標の1つだったのでとても驚きました。このレベルまで作ったら世界に認められるんだ、と実感できたのも大きな収穫です。でも、受賞は自信に繋がり素直に嬉しかったのですが、自分一人の実力で受賞できたわけではないし、まだまだ先があるんだという事実を改めて実感して、手放しで「やったぞ!」と喜べる気持ちではなかった、というのが率直な感想です。

鈴木:Rookie Awards 2019に応募した動画は、卒業制作で作ったムービーのメイキングとして編集したものなんですが、卒業制作の作品をそのまま出していたら受賞できなかったかもしれません。メイキングだからテンポが良くて、それなりにかっこよく見えるんですが、ムービー作品のままでは尺が長すぎてアラが目立ち、質が落ちて見えたんです。人によっては途中で飽きられる危険もありました。結果テンポの良いメイキングとして応募したことが功をそうしたのかなと思っています。

CGW:ところで、なぜ廃墟というモチーフを選んだんですか?

松島: 廃墟をモチーフに選んだのは、ビジュアルとして魅力的で、さらにその場所で起こっている物語を伝えられたらと思ったからです。舞台は1940年代のロンドンなんですが、メインとなる大聖堂のモデルも作ってみたかったことと、そこで起こっている「事象」を掘り下げたくて。とにかく興味のあるものじゃないと完成させるのは難しいだろうと思っていました。

鈴木:僕は廃墟を作ることに反対したんですよ。「地獄を見るぞ」と(笑)。というのも、廃墟って作るのがすごく難しいんですよ。ただ作るだけじゃなくて絵の情報量をコントロールしないといけない。そんな難しいものを学生にチャレンジさせるのって、終わりが見えない気がして。最悪、完成しないじゃないかと。

CGW:「鈴木さんがイメージしている完成」と「松島さんがイメージしている完成」にもギャップがありそうですね。

鈴木:そう。僕がイメージしている完成は、ハリウッド映画に出てくるレベルだから。そんなクオリティでしかも廃墟だなんて、学生の挑戦としてはかなり難しいなと。実際、瓦礫の制作に入ってから急にスピードが下がったよね(笑)

松島:街全体を作るのに半年ほどかかりました(笑)。瓦礫の組み方から廃墟の演出の仕方から、一つひとつフィードバックしてもらって修正を重ねました。リファレンスを参考にしているとはいえ、模写をするのではなく頭の中にあるイメージをCG空間に再現するのは凄く難しかったです。

鈴木:「習得」と「体得」はちがいますからね。彼女は、僕を通して作品を作ることで一つひとつ背景モデリング論を「習得」していきましたが、まだ完全に自分のものには出来ていない状態です。この差分を自分で埋められるようになって、初めて「体得」になるんです。

CGW:一つひとつ確かめながら「習得」していくことで、一人で出来ることが増えて、いずれ「体得」になるんでしょうね。そして「体得」できたときに世界が一気に広がるのかもしれませんね。さて、松島さんは2019年の4月から背景デザイナーとしてSAFEHOUSEで活躍されていますが、次の目標をおしえてください。

松島:まだ実力や経験が伴っていなくて、作っていても難しいと思うことが多々あって成長の過程にあります。何より、鈴木さんに支えてもらっているうちは「自分の限界」まで辿り着いてない気がするんです。だから、当面の目標は「どこに行っても1人でやっていけるだけの実力」を身につけることです。そして最終目標は、CGを始めた動機でもあるPixar Animation Studios のセットアーティストになることです。

鈴木:そうそう。この機会にしっかりアピールしときなよ(笑)

一同:(笑)

CGW:確かに「チャンスを掴むスキル」というのもありますよね。

鈴木:ありますね。チャンスが掴めないってほんとに怖いことですから。

松島:すごくわかります。一歩を踏み出さなかったことでいつまでも出来ないままだったり、「やるかやらないか」の選択で「やらない」を選んだことで後悔する恐ろしさをいつも感じていました。

CGW:分岐点に立った時に、何を選ぶかで将来が変わったり、起動修正に多大な時間を要したり。

鈴木:そう、ほんとに。

CGW:松島さんのそういった危機感や焦りがチャンスを呼び込んでいるのかもしれませんね。

松島:確かにそう実感することは多いです。チャンスが巡って来た時に具体的に動けるかどうかは、それまでの準備次第なんじゃないかと思うことがあります。経験に加えて、自分のバックグラウンドや自分がどういう人なのかをちゃんと説明できるように準備しておかなければいけませんね。

CGW:これからもどんどんチャンスを掴んで目標まで突き進んでくださいね!松島さん、鈴木さん、ありがとうございました。

鈴木:あ、最後にひとつ! SAFEHOUSEはいつでも新卒を募集しています。仕事では英語を使うこともあるので、海外に向けたトータルなアーティスト教育が受けられます。それと松島を超えたいという次なる弟子も待ってますので連絡ください(笑)我こそは、という人はぜひ!

CGW:最後にしっかりPRしましたね(笑)。ちゃんと記事の最後に書いておきますね!

鈴木:よろしくおねがいします!