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3DCGスタジオから出版業界への挑戦......アニマ流オリジナルIPのつくり方

3DCGスタジオから出版業界への挑戦......アニマ流オリジナルIPのつくり方

企画をつくるより、実際に出版した方が早い

笹原:それと並行して、映像作品の企画を一緒に考えませんか、とご相談していました。ただ、先ほども申し上げた通り、映像制作はコストがかかりますよね。そこで太田垣さんから、だったら漫画や小説をつくった方が早いんじゃないかという逆提案を受けて。なるほどと。

漫画もさることながら、企画を考えるほうも好きと、ご本人から伺っていたんですよ。実際、ご自分の企画でも、画風にあわないため、寝かしているものもあるそうです。今回の出版プロジェクトでいろいろな作家さんと組むことで、さまざまな分野に挑戦できたらおもしろい......そんな話も伺っていたので、ぜひやりましょうという話になりました。

CGW:実際に単行本を1冊出す原価は、映画を1本つくるコストと比べて、桁ちがいに安いですからね。だからこそ出版業界では様々な挑戦ができるわけですが、一方で何がヒットするかわからない、多産多死という側面もあります。笹原さんが本プロジェクトで期待されているものは何でしょうか? 先ほど自社IPという話もありましたが、本企画で達成したい目標について教えてください。

笹原:漫画や小説に人気が出て、映像化やゲーム化などをはじめ、二次使用につながることがゴールと考えています。僕らは3DCGスタジオなので、映像をつくりたいんですよね。そこには映画だけじゃなくて、ゲームの映像も含まれます。そうすれば僕たちも仕事ができるし、権利ももてるし、仕事の幅が広がってありがたいなと。そのためには、ある程度の数を出していって、認知されることが大切で。

『鉄輪(かなわ)のカゲ・ルイ』
原作:ANIMA/江藤俊司 作画:井上菜摘

この国がまだひとつの日本ではなかった時代。東北の地をめぐり争っていた大和朝廷と蝦夷(えみし)勢が突如停戦、蝦夷の大族長・アテルイの元へ朝廷の遣いが訪れる。真蔭と名乗る男は告げる「共に鬼を滅す旅に出よう」。朝廷に仕える〈声聞師〉がつくった鬼が突如離反し、敵味方問わず襲い出したのだ。敵の不始末に手を貸す謂れはないが、アテルイは真蔭が提示した条件=妻の仇を討つ手掛かりを得るため、旅に出る決意をする。イーブックジャパンで連載中
©鉄輪のカゲ・ルイ/ANIMA・江藤俊司・井上菜摘

『鋼鉄城アイアンキャッスル(仮称)』
原作:ANIMA  小説:手代木正太郎 鋼鉄城デザイン原案:太田垣康男

機械仕掛けの鋼鉄の城・アイアンキャッスルを駆る大名達が天下統一を目指して群雄割拠する時代。三河国を拠点とする弱小大名・松平氏の当主になるべく生まれた少年、竹千代が家臣たちとの絆を武器に戦乱の世に打って出る! 武将と巨大ロボが乱舞する、奇想天外な戦国絵巻!! 2020年末、小学館ガガガ文庫よりシリーズ刊行開始(予定)

CGW:『カゲ・ルイ』に加えて、ライトノベル企画『鋼鉄城アイアンキャッスル(仮称)』も進行中ですね。

笹原:いま実際に執筆いただく作家さんと内容を詰めている最中です。小学館ガガガ文庫から刊行予定で、年末には形になると思います。

CGW:漫画と小説でメディアの区分けや、基準みたいなものはあるんでしょうか?

笹原:こちらでは特に決めていなくて、パートナーとして手を挙げていただいた出版社や編集部の意向に従っています。出版社や編集部の方に営業して、企画の原案をお見せしているんですよ。そこで気に入った作品があれば、お互いに契約を結んで、得意な分野で出版いただくという。太田垣さんにはスーパーバイザーとして、弊社と出版業界をつなぐ役割もお願いしています。

CGW:どれくらいの企画ストックがあるのですか?

笹原:これまで3~4社にお声がけしたところです。そこで10~15本くらい企画のご提案をして、2本が形になりました。

CGW:まだまだ開拓しがいがありますね。

笹原:そうですね。だから実績をつくらなくてはいけなくて。ある程度形にして、周知されるのが大事なのかなと思っています。僕たちがやりたいのは、ヒットした作品を基に映像をつくることであって、出版業界に割って入るつもりはありません。そういった説明を丁寧にさせていただいています。

CGW:それぞれの業界でそれぞれの不文律がありますよね。その一方でデジタル化の進展に伴い、状況がどんどん変化しています。作家と出版社の関係もそのひとつで、電子書籍の出版は変化の象徴だともいえます。

笹原:今回、太田垣さんに入っていただいたことで、そういった業界ごとの肌感覚や、漫画家さんが本当に求めているものについて情報が得られたのは、たいへん幸運でした。作品制作を通して、そうしたノウハウもどんどん蓄積していきたいですね。

CGW:作品のコピーライトに漫画家や原作者の名前が入っていることも印象的でした。買い取りではなく、権利をシェアされるんですね。

笹原:そこも今回の取り組みで特徴的なところです。出版物に対して原作権と映像化権は保持しますが、それ以外の部分はできるだけ作家さんに還元していこうと考えています。一般の出版物とはちがい、原稿料を制作準備金というかたちで、事前に作家さんにお支払いする点はそのひとつです。「作家が一番困っているのが、本や雑誌が出るまで原稿料が出ないこと」だとお聞きして、そうした提案をしています。

公式サイトより

CGW:ゲーム業界ではAll Rights Reserved.の考え方が一般的です。一方で出版業界では作家側に権利が帰属していて、出版社は複製権の許諾を受けて出版しています。今回の取り組みはその中間という印象を受けました。

笹原:ご指摘の通りで、もし作品が大ヒットしたら、1社で権利を独占している方が何かと便利です。ただ、出版業界では何がヒットするか、事前に見極めるのが非常に難しいですよね。にもかかわらず、作品の権利を全部所有するのはどうなのかという疑問もありました。そのため、出版物に関しては権利をシェアするほうが健全ではないかと......。映像化されれば、原作も相乗効果で販売増が見込めるので、共存共栄ができますよね。

CGW:電子出版などの広がりで漫画を発表する機会は増えていますが、漫画家個人の収入増にはつながりにくい現状があります。いわゆる出版不況の中で、売れる作品と売れない作品の二極化が進み、1冊あたりの平均部数が減少傾向にあるとも言われていますね。

笹原:実際、漫画家さんの中には、生活できなくなっている人もいると聞きます。そうした現状に対して、僕たちが少しでも補填することで、お役に立てればと。将来的にどうなるかわからないけれど、今は出版として形にすることが、けっこう大きいのかなと思います。

CGW:『カゲ・ルイ』は連載が無料で配信中ですが、今後はどうなっていきますか?

笹原:単行本化も含めて様々な戦略がありますが、そこは専門家であるebookjapanさんにおまかせしています。ただ、最低限これくらいは続けましょう、という相談はさせていただいています。映像作品をつくるとなると、ある程度の話数が必要になりますよね。単行本で2冊くらいは続けたいなと。

CGW:一方で書籍の方は書き下ろしの単行本が出版されるわけですね。

笹原:そうですね。版元のガガガ文庫さんからも、かなりポジティブな評価をいただいています。ガガガ文庫さんだけでは難しいことでも、僕らがサポートすることで可能になったりすることもあるので。先方としても、興味をもっていただけているのではないかと思います。

CGW:どの出版社も生き残りに必死ですからね。宣伝活動を誰かに肩替わりしてもらえるだけで、大変ありがたいのが本音だと思います。

笹原:そんなふうに言っていただけるとありがたいですね。

CGW:これまでも、商品やサービスの宣伝を漫画で行なったり、ビジネス書を漫画でリライトしたりと、出版界で新しいながれがどんどん出てきました。ネット投稿小説からヒット作が出て、漫画になったりアニメになったりという展開も、ひと昔前では考えられなかったと思います。産業ごとの境界線がどんどん崩れていますね。

笹原:僕たちが映像をつくるときも、漫画があったらキャラクターデザインをしなくて良いし、お話もあるから、あとは映像化するための落とし込みをすれば良いですよね。小説でも表紙や挿絵でイラストを挟みますので、イメージを共有するのにすごく楽になります。プリプロダクションの前半が終わっているわけです。しかも、ファンがついていて、ある程度マーケティングができている。このプロジェクトをきっかけに、そういった事例が増えると良いなあと。

出版界と3DCGスタジオの関係性を広げたい

CGW:本プロジェクトにおける笹原さんの立ち位置はどのようなものですか?

笹原:太田垣さんとの接点が僕だったので、編成チームの起ち上げを行いました。そこから実務が始まって、今は僕の手からほぼ離れています。今は社内に4~5名ぐらいスタッフがいて、外部にも編集者が2名いて。それに太田垣さんが加わって、チームができています。そこに漫画家や原作者の方が加わって、ディスカッションしながら進めています。

CGW:同じように出版を絡めた原作制作に興味があるCGスタジオに対して、何かアドバイスはありますか?

笹原:うーん。今回の件でいえば、太田垣さんの存在が一番大きかったのは事実なんですよね。実際、すごくタイミングが良かったなと思うんです。ただ、こういうながれがつくれれば、漫画家さんと3DCGスタジオが安心して組めるようになりますよね。そのための実績がつくれるように頑張りたいですね。

CGW:本来であれば、こういったしかけは出版社の編集者がやるべきなんですよね。元集英社で『週刊少年ジャンプ』の編集長を務められた鳥嶋和彦さんは好例で、社内外の様々な才能を結びつけるハブとなり、結果としてゲーム『ドラゴンクエスト』が生まれました。

笹原:なるほど。

CGW:ただ、今は編集者がすごく忙しいので、なかなか本業以外ができないんですね。今回の事例も、出版社側からすれば外部からのもち込み企画に相当します。そのため歓迎されたのではないでしょうか。

笹原:出版だけで食べていけるのなら、あえて他のことをやる必要もないと思うんですが、僕たちはなかなかそうもいかなくて。実際、3DCGアニメーションやアニメ業界は変化が激しいじゃないですか。だからこそ、自分たちでコントロールできるものがあるとすごく楽なんですよ。受託型だと、そこがとても難しくて。自分たちがIPをもっていたら、スケジュールもある程度コントロールできるだろうし。資金調達もやりやすいだろうし。やっぱりやっておいた方が......皆さん同じだと思いますが。

CGW:そうした問題意識は、どの業界でも同じだと思いますが、より切実な方が動くということですね。

笹原:そうですね。前々から危機感を抱いていたところで、タイミング良く答えをくれる人がいたので、すごくタイミングが良かったなあと。実際、いろんな漫画家さんとのコラボできれば面白いと思いますし。漫画家さんも、映像化できる方が嬉しいじゃないですか。そうしたお手伝いができたらいいのかなと。

『鋼鉄城アイアンキャッスル(仮称)』企画書より

CGW:何か良い窓口ができればいいんですけどね。ビジネス書原作の漫画化でいえば、最近では同ジャンルを専門に手がけるような広告代理店や編集プロダクションが誕生していて、今までの出版のながれとはちがった制作スタイルが生まれています。

笹原:そういったノウハウを貯めていければいいですね。漫画を企画して映像化するまでの動きはやったことがなかったので、今回書籍の考え方や権利関係も含めて勉強できて、すごく興味深かったですね。

CGW:ちなみに、笹原さんの本プロジェクトにおける個人的な野望はありますか?

笹原:なかなか難しいですね(笑)。とりあえず、数を増やしていきたいですね。世間に認知されるっていうのが大事だと思っていて。認知されるまでやり続けたいです。

CGW:文庫でいえば、書店で棚を取るのが重要だと言われていました。そのため年間で20冊くらいは出版しろと。そうしたら1冊くらい当たるだろうと。良くも悪くも出版には、そうした「水もの」的な考え方があります。

笹原:そうですね。とにかく数を出して目に触れるというのが大事なのかなと。ただ、漫画といえども時間がかかるので、地道に継続したいですね。そこからヒットが出れば、ほかの人もやろうかという話になると思いますし、出版社の人も協力してくれやすくなるので、そこまでやってみたいですね。あとは弊社の体力が続くようにがんばります。

CGW:ありがとうございます。最後に何かアピールがあれば。

笹原:漫画家さんでも、作家さんでも、出版社さんでも、本プロジェクトに関心がある方は、ぜひご連絡いただきたいです。本来なら「こんなネタがあります」と一覧をお見せできれば良いんですが、インターネット上だと、なかなか難しくて(笑)。個別に問い合わせいただければ、全てお見せできますので、ぜひお問い合わせください。

CGW:ありがとうございました。

Profileプロフィール

笹原晋也/Shinya Sasahara

笹原晋也/Shinya Sasahara

株式会社アニマ 代表取締役

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