<2>村瀬監督との仕事は常に刺激的
CGW:撮影チームとのやりとりはどのように進められました?
増尾:今回のワークフローでは、撮影スタッフとのやりとりは特にありませんでした。こちらとしては、どんな撮影処理をされても、もしくはまったく処理をしなくても画面として成立するような意識で提出していました。これはCM映像をつくっていたときと同じ意識です。私のポリシーとしては、画づくりに対しては最後まで責任をもってつくり上げるけれども、後工程のスタッフが監督の指示に従って変えるのであればかまわない。加工をするならばやりやすいよう、パーツやレイヤーを分けた状態で納品するというのが基本的なスタンスです。ただ、アニメの場合は撮影のファクターが非常に大きいので、実写案件よりも撮影さんにおまかせする要素は増やしました。
CGW:撮影のチームとしてもCGの上がりを見てから判断されたこともあったでしょうし、何より本作においては村瀬監督の意図がどのスタッフにも行き届いているのでしょうね。
増尾:改めて思いましたが、村瀬監督は本当にすごいクリエイターですよ。一緒に作品をつくっていて常に刺激的です。まず、画がべらぼうに上手い。さらにAfter Effectsで何でもやってしまうし、レイアウトもCinema 4Dを使って組み立ててしまう。その他のCG要素に対してもとても理解が早いと思います。目線も的確だし、伝えてくる情報量も多い。きっとこの作品全部を1人でつくってしまえるような方ですよ。われわれは監督が望んでいることを一生懸命察知して、それを支えて叶えることが重要だと思いました。村瀬監督は言葉を尽くして説明するよりも、「描いちゃった方が早い」というタイプなんです。ただ、そこで周りのスタッフが監督の意図を理解しきれていない様子も見受けられました。私はあまりわかりづらいと思ったことはないんだけれども。
CGW:増尾さんは監督の指示をすぐに理解できたのですね?
増尾:できたとすると多分、実写やCMを含め、様々な監督と仕事をしてきたからだと思います。皆さんそれぞれのやり方があって、こちらとしてはその意図を即座に理解してつくり上げる能力が求められ続けてきました。その結果、その監督が何を創りたいか、どんな表現をしたいのか目指すところが明確であれば、大体のことは理解できるつもりでいます。抽象的かもしれないけども、やっぱり「良い画をつくりたい」ということに絶対的な価値があると思っていて、それを示してくれれば途中のルートは自ずと「こうなるよね」とわかる。だから村瀬監督みたいな天才と仕事をするのは楽しいんですよ(笑)。
CGW:増尾さんが作画アニメにこれだけ本格的に携わることで、何か変革をもたらすのではないかと期待してしまいます。
増尾:そんなおこがましいというか、恐ろしいことはとてもとても(笑)。ただ、アニメーション制作において改善していきたい部分はあって、そのお手伝いはできればと思っています。本作で痛感したのは、2Dベースの作品と3Dベースの作品では3DCGに対する考え方がまったくちがっていて、アプローチを根本的に変えていく必要があるということです。ただし現状では2Dベースの作品では3DCG側の視点が蔑ろにされている感じがします。今後は、2Dと3Dそれぞれの強みを最大限に発揮させるためにも、双方の特性をふまえた改善案を提案していくことが重要だと思います。
CGW:今回の制作を通じて見えてきた課題は?
増尾:最も大きなネックになったのは複数のCGプロダクションが携わるなか、それをトータルで管理するパイプラインがないことです。今回は、FBX形式にコンバートすることで対応しましたが、ツール間の仕様のちがいから、どうしてもデータにズレが生じてしまうことがありました。そういったロスを、今後は極力発生させないで済むように、テクニカルディレクターやテクニカルアーティスト職の方々にも参加してもらいながら改善していきたいです。
CGW:3部作の『閃光のハサウェイ』は今後も制作が続いていくと思いますが、増尾さんの個人的な目標を教えてください。
増尾:とにかく新しいワークフローのパイプラインを構築して、サンライズのアニメーションをさらに効率的にして、クオリティをアップしていけるようなサポートができればと考えています。だって、天下のサンライズが新しいワークフローをつくり出せたら格好良いじゃないですか? 今回の制作で(アニメ制作特有の)いろいろなことを勉強できましたが、学べば学ぶほどわからないことが新たに浮かぶのがこの世界(笑)。村瀬監督やほかのスタッフに教えてもらいながら、私ができることを提供していきたいですね。
CGW:最後に、CGWORLD読者へのメッセージをお願いします。
増尾:今のCG業界を見ていると、例えば「フォトリアル」とひと口に言っても、昔とは比べものにならないぐらいハイクオリティの画をつくり出せるようにはなっている。だけれども、私としては「それで面白いの?」と思うんですよ。たとえ嘘でも、魅力的だったり格好良い画面だったり、良い芝居ができていたりすれば、その方が面白い表現に仕上がると私としては思うのです。システムは使うものであって、使われるものではない。システムが高度になりクオリティが上がってできることが増えた今だからこそ、システムから外れたことをやって、私たちを驚かせてほしいです。