03:ライティング
「コンピュータ上の世界に太陽や照明を配置する」工程がライティングです。ただ、明るく照らすだけでなく、その場所の空気やキャラクターの感情表現を作り上げ、画としての完成度を高めていきます。
ライト一つで、その場所が湿っているのか乾いているのかといったところまで表現することができます。また、今回はポケモンの可愛さを補助するためにも使われました。特にピカチュウは作品を代表するポケモンなので、ライティングにも力が入っています。
どんなにきれいなモデルを作成しても、表情などによってはどうしてもシワ等ができてしまうことがあります。シワや凹凸ができてしまうとピカチュウとしては可愛くないということで、女優ライトのように光で飛ばしています。
ポケモンを可愛く見せるキャラクターライト
▲実写の撮影と同様に、キャラクター用のライトを置いて立体感を出すようにしている。キャラクターライトのあり/なしの比較。ライティングが印象に大きな影響を与えることがわかるだろう。毛のながれや密度を調べ、どうしたらかわいくなるような陰が出せるのか、徹底的に研究したそうだ
ライティングによって空気感を演出する
▲バトルフィールドのセットライト。自然なライティングを目指したという本作では、Maya上でライトが入れられた。闘技場には様々なパターンのライトがあり、チェックひとつでパターンのライトを切り替えることができる
▲ ピカチュウをベースとしたモデリング及びライティングテスト動画。ラフモデルを制作し、毛の向きや毛量の調整を行ったうえでライティングをテストしている。 これまで2D作画で親しまれてきたピカチュウをフルCGによってどのように可愛く表現するか、スタッフたちの試行錯誤が詰まっている
▲シーンにひとつづつ様々なライトを置いていき、ひとつの画を完成させていくまでのプロセスを紹介した動画。画から受ける印象が次々に変化するのがよくわかる。ライティングによって、何を魅せようとしているのか、リアルに見せる為にどのような点に気を付けているのかなど、考えてみるとよいだろう
▲「リムライト」と呼ばれる光を対象の背後から当て、輪郭を際立たせるためのライティングの効果を紹介した映像。 何かを強調したいとき、目線誘導をしたいときに利用するが過度に使用すると対象が背景から浮いて見えてしまったりするので注意が必要だ
■ライティングアーティストを目指す若手へのアドバイス
ライティングの腕をあげるためには、まずはカメラのレンズ越しの世界を意識するということが重要ですね。肉眼で見ている世界とレンズ越しで見ている世界には差があって、ちょっとしたレンズの絞り具合で光が変わったりします。
こうした表現の種類と効果を理解することで、より印象的なライティングができるようになりますよ。また、能面は光の当たる角度によってその表情が変わって見えるといいます。ライティングでドラマチックな画を作る表現の参考になると思います。
04:エフェクト
「爆発、水しぶきや光などの特殊効果や自然現象を作り出し、物語に臨場感を与える」のがエフェクトの役目です。エフェクトには大きく分けて、現実世界に起こる現象を再現するものと、非現実的な超常現象を表現するものとの2つがあります。
今作でもその両方が使われていますが、やはりポケモンの大きな魅力の一つであるわざの表現には力を入れています。ファンの方はわざのイメージが出来上がっていると思うのですが、今作では皆さんが抱く共通のイメージを守りながら新しい表現を生み出さねばなりませんでした。
皆さんの愛するアニメをリスペクトしながらも、それに+αした迫力のある表現を目指しました。序盤のバトルで放たれるピカチュウの「10まんボルト」はそんな姿勢がよくわかっていただけるかと思います。
リアリティあふれる嵐の再現
▲現実の事象を再現するエフェクトの場合、物理法則、自然現象に即した説得力のある表現が求められる。この海のシーンの制作にあたっては、実際に船が欠航するような波の高さがどれくらいか、波に揺れる船の動きはどのようなものか、積乱雲が発生するときの高さがどれくらいなのか、など様々なリサーチが行われた。こうした厳密なリサーチによって、怖いほどの迫力が生み出されているのだ
▲ 山場のひとつである嵐の中の海。リアルな波の作り方のプロセスを紹介した映像。このシーンのテーマとなった「冒険」「困難に立ち向かう」にふさわしい荒れ狂った海の表現が目指された。
作画的エフェクト
▲ピカチュウの代表的なわざの一つ「10まんボルト」。ポケモンの放つわざのエフェクト表現は特に苦労したポイントのようだ。長年の多くのファンの目に触れてきた表現をフル3DCGでつくり出すということで、TVアニメシリーズに忠実でありながら、リアルなものでもなくてはならない
▲意図的な力が加わった水の表現、バリアといった超自然的なポケモンのわざをエフェクトで表現したもの。フルCGならではリアルで迫力ある表現となっているのがわかるだろう。これらは現実世界には存在しない事象ではあるが、エフェクトアーティストは流体、粒子のふるまい、爆発などの現実世界の物理法則をまるで化学者のように組み合わせながら、独自のビジュアル表現を作り上げていくのだ
■エフェクトアーティストを目指す若手へのアドバイス
エフェクトの場合は、表現アイデアの引き出しをとにかく増やすことだと思います。古今東西の様々な映画・ゲーム作品でエフェクトは登場するのでどのように表現されているかを研究していけばセオリーがわかってきます。
セオリーを踏まえながら新しいエッセンスを加えた表現に挑戦してみるといいですよ。現場でも監督からは「あの映画のあのシーンみたいな感じ」といった指示を受けることは多いですからね。若いうちから多くの作品をに触れて表現の蓄積をしておくことは必要かもしれません。
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- Q1本作は作画で描かれたオリジナル作品のフルCGによる再現が目指されましたが、こちらのサトシの3Dモデルについては、本編と異なる部分があります。それはどこでしょう?
A1.帽子 A2.目と眉毛 A3.ほっぺ
- Q2リザードンの「かえんほうしゃ」の表現について、フルCGならではの迫力を演出するためにある演出を考案しました。それはどういったものでしょう?
A1.炎を口から吐く前に腹からのど元へと炎がこみ上げていく様子も描写した
A2.炎の熱さを表現するために周囲の壁や床を溶かした
A3.吐いた炎のスピード感・強さを倍加させるために、赤い炎だけではなく、紫や青といった色も加えた
- Q3アーマードミュウツーに関して、フルCG化した今作で実現したある表現があります。それは次のうちどれでしょう?
A1.アーマーの「黒色」の金属質な表現
A2.変幻自在な飛行スピード
A3.複数色を使ったダイナミックな「はかいこうせん」