セッション2:
exsa流ビジュアルコンセプト作成術
▼登壇者
exsa
山口 一夫氏/制作部 ディレクター
海老澤 広樹氏/制作部 副部長・プロデューサー
札幌・東京・名古屋・福岡の各拠点をネットワークで結び、有機的なプロジェクト進行を進めるexsa。地方スタジオが主導して東京スタッフが制作することもあり、地方在住でも東京と変わらない仕事ができる点が、社員のモチベーション向上にも貢献しているという。そんな同社ではスタッフ間やクライアントとの意思疎通を深めるために、ビジュアルコンセプトの制作を重視。ディレクターの山口氏がそのノウハウを披露した。
▲(左)exsa 海老澤 広樹氏 (右)山口 一夫氏
「ビジュアルコンセプトで最も重要なのはインパクトで、これが乏しいと関係者のモチベーションが高まらない」と語る山口氏。今回はゲーム系の依頼を想定し、みずから「古い甲冑・不死鳥・ボスキャラ」という題目を設定した。その後「リファレンス(資料)収集」「イメージラフの作成」「ベースモデルの制作」「エフェクト制作」「背景の制作」「コンポジット」と続く一連の流れについて解説した。
ベースモデルは3ds Maxで制作され、静止画にもかかわらずボーンが入れられている。これは早い段階でポーズとレイアウトを設定し、その後の修正も容易にするため。山口氏は「ポーズはキャラクター性を表現する上で最も重要な要素で、ボーンを入れておくと後から微調整がききます。チームやクライアントからの要請に迅速に答える上でも重要です」と語る。ポーズとレイアウトが決まると、ZBrushでディティールを追加。テクスチャーもZBrushで出力したマップを重ねて使用しており、彩色はPhotoshopで行われている。
背景をAfter Effectsで作成している点も本作の特徴だ。これにはベースモデルが3Dで制作されており、解像度の拡大などがしやすい点と、コンポジットワークが専門という山口氏の専門分野も大きい。雲はFumeFxを使用して素材を作成し、After Effects上でレイアウト。「背景で重要なのはスケール感の表現。手前に密度のある雲、奥に細かい雲を配置するなどして、視線誘導にも配慮しています」(山口氏)。太陽の表現にはOptical Flaresを使用しているが、単純に光源を配置すると平面的になりがちなので、雲を重ねてリアルに見えるような配慮も行われている。
最後にAfter Effects上でキャラクターを配置して、コントラスト・色味・被写界深度などを調整。一連のポストエフェクトと共に、全体的なブラッシュアップをすませれば完成だ。手前に細かい炎のエフェクトを追加するなど、絵としてのメリハリも強調されている。
セッション3:
次世代機におけるリアルタイムアニメ表現への取り組み
▼登壇者
サイバーコネクトツー
芦塚 慧祐氏/業務部 制作推進課 技術支援室 テクニカルアーティスト
ゲーム機の性能向上が表現力の増加に不可欠なゲームビジュアル。その一方でゲーム機のライフサイクルにより、開発工程が影響を受けることもある。もともとPlayStation(PS)3世代とPS4世代のマルチタイトルとして開発が始まり、途中でPS4世代の専用タイトルに変更された「NARUTO−ナルト− 疾風伝 ナルティメットストーム4」は好例だ。ステージやキャラクターデータなど、過去のリソースを引き継ぎながら、どのように最新のビジュアル表現が行われたのか、芦塚氏が解説した。
▲サイバーコネクトツー 芦塚 慧祐氏
物理ベースのフォトリアルな絵作りが主流の中、同社がめざすのはセルシェードがベースの「超アニメ表現」だ。中でも重要な要素がパーティクルで、ボス戦では画面あたり2〜3000個ものパーティクルをとばしたという。これに伴い従来の描画システムではCPU負荷がかかりすぎることが判明。背景にはパーティクルの総量もさることながら、ゲーム機がPS3からPS4に移行し、CPUのコア数は増えたものの、クロック数が低下した点があった。そのため描画処理をマルチスレッドに移行し、乗りきったという。
新たにキャラクターの負傷表現なども加わった。もっとも既存キャラクターでは過去作のモデルを流用し、傷や汚れなどのデカールを表面にのせることで、約800時間(8時間×100体)の作業時間短縮を実現している。背景に落ちる影の計算による描写(セルフシャドウの自動化)や、フリンジ(色収差)の表現、魚眼レンズによるダイナミックな絵作りなども行われており、次世代らしさを演出している。ステージの色相調整やトーンカーブ設定などをツール上で効率的に行う仕組みも、Photoshopの機能を生かす形で追加された。
このようにゲームビジュアルの進化はプログラマーの協力なしでは実現できない。講演ではグラフィックAPIがDirectX9世代からDirectX11世代に移行したことで発生した、シェーダーモデルの移植作業についても解説された。また傷デカールの表現では、アーティスト側からDCCツール(3ds Max)上で使えるような、直感的なツールに対する要望が多く、今後の課題になったとことも紹介。プログラマーとアーティストをつなぐポジションとして、さらなる環境整備に取り組みたいと抱負も聞かれた。
- 「PS3世代のリソースとPS4世代のパワーをくみあわせ、既存のワークフローを大きく変更することなく、最新のゲームビジュアル表現が実現できたと振りかえる芦塚氏。もっとも、まだまだハードの性能をフルに生かしているわけでなく、さらなる技術の追求を進めたいという。そのうえで「画面の情報量の増加」と「空間をいかに変化させるか」が、「次世代らしさ」を表現する上でのポイントだと指摘した。
KOO-KIが再登壇、展示コーナーでは参加企業との直接交流も
このほか東京会場でも豊富な知見を披露したKOO-KIが再登壇。ディレクターの池田一貴氏とアニメーションディレクターのVito La Manna氏が、「仕事は頑固な職人気質、仕上がりは芸術的かつエンターテインメント。KOO-KI流CGとは?」と題して講演を行った。池田氏はハイクオリティなCG映像が短期間で実現できたポイントの一つに、広告代理店が介在することなく、クライアントと直接クリエイティブのやりとりができたことをあげた。
▲(左)KOO-KI 池田 一貴氏 (右)Vito La Manna氏
またVino氏は「その色では(日本では)食べ物が美味しく感じられない」「その表情では(日本では)キャラクターが魅力的に感じられない」など、日本人と外国人クリエイターとの間で、文化的な衝突が数多く発生したとあかした。解決方法はシンプルで、互いに信頼して「accept(受容)」すること。これが国際間での共同制作では不可欠だったという。
- 展示コーナーでは東京に拠点をかまえ、福岡とロサンゼルスに支店をかまえる映像制作会社のD・A・Gも参加した。タイミングよく新刊「熱狂する現場の作り方 サイバーコネクトツー流ゲームクリエイター超十則」を出版した松山洋氏のサイン会も実施。来場者との記念写真にも気さくに応じるなど、和気あいあいとした雰囲気が印象的だった。
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福岡市に拠点を持つゲーム・映像スタジオが東京に集結。さまざまなテクニックが公開されたCGWORLD CREATIVE MEETING(東京)をレポート。
http://cgworld.jp/feature/1510-cgwmtg-tokyo.html
■関連リンク
福岡クリエイティブキャンプ2015:http://fcc.city.fukuoka.lg.jp/