福岡市内のクリエイティブ企業へのU/Iターン転職プロジェクト「福岡クリエイティブキャンプ 2015」。IT・デジタルコンテンツなどのクリエイティブ人材が対象で、CGWORLDとのコラボイベントやセミナーも実施されている。10月4日にデジタルハリウッド東京本校で開催された「CGWORLD CREATIVE MEETING」では、福岡市に拠点を持つゲーム&映像スタジオのクリエイターが登壇し、福岡市の魅力や最新の開発技術などについて講演を行った。
10月24日(土)大阪開催!『CGWORLD CREATIVE MEETING』
CC2松山氏、フロム・ソフトウェア竹内氏によるスペシャル対談も!
参加申込はこちら:http://cgworld.jp/special/cgwmtg-fcc/
イベントは福岡市役所の駒田浩良氏による挨拶で始まった。1989年に開催されたアジア太平洋博覧会を契機に、アジア戦略を開始した福岡市。サービス業が中心という産業特性に即して、過去20年以上にわたり情報通信産業やデジタルコンテンツ産業の集約化に取り組んでいる。リーマンショックによる減退もみられたが、近年では勢いを取り戻し、2015年3月には国からグローバル創業・雇用創出特区に認定された。
- 駒田氏は「スタートアップ支援・企業誘致・新産業設立にむけて、今後も市を上げてバックアップしていきたい」と語った。
▲福岡市経済環境文化局 創業・立地推進部 部長 駒田浩良氏
同じく福岡市企業誘致課の内田沙弥香氏からは「福岡クリエイティブキャンプ 2015」の説明が行われた。
- 「福岡クリエイティブキャンプは福岡市へのU/Iターンの転職を支援するプロジェクトです。移住者(応援金交付対象要件を満たしている移住者)には40万円の応援金を支給するだけではなく無料の転職サポートや移住後のフォローも行います。FCC参加企業には福岡を代表するゲーム会社や映像制作会社が数多く参加し皆さんのチャレンジを待っています」と語った。
▲福岡市経済観光文化局 創業・立地推進部 企業誘致課 内田沙弥香氏
セッション1:
注目の福岡進出企業が語る、地方都市での3DCG制作の可能性とは
▼登壇者
フロム・ソフトウェア
竹内 将典氏/専務取締役
KOO-KI
木綿 達史氏/代表取締役社長
CGWORLD
沼倉 有人/編集長(モデレーター)
ゲーム「DARKSOULSシリーズ」「Bloodborne」など多くのヒット作品の開発を手がけ、東京に本社をかまえるフロム・ソフトウェアと、東京五輪招致PRムービーやTOYOTA G's『Baseball Party』など幅広い映像制作を手がけ、福岡で活動するKOO-KI。このように対照的な両社だが、今年9月にフロム・ソフトウェアが福岡スタジオ設立を発表、今回の対談へとつながった。CGWORLD編集長の沼倉有人のモデレートで、さまざまな議論が行われた。
▲(左)KOO-KI 木綿達史氏 (右)フロム・ソフトウェア 竹内将典氏
自身も福岡出身の竹内氏。もっとも進出理由について聞かれると「国内外で候補地を抽出したが、決め手になったのは人口分布だった」とあかした。ゲームのハイエンド化に伴い、CGアーティストの人材不足が逼迫している昨今。政令指定都市の中で唯一、人口が増加傾向にある福岡市は、大学・専門学校も豊富で、若くパワーのある人材が集まっている。中長期的なスタジオ経営を考えた時、この点が最大の決め手となったという。
期待する人材像についてあげられたのが「職人気質」だ。ゲームのクオリティを上げるためには、細部に至るまで根をつめて作業をすることが重要で、商人や職人の街として栄えた福岡には、そうした文化が根付いていると評価。美術系・工学系の教育機関が多く、互いにキャンパスが近いことから「アートやエンジニアリングなど、さまざまな分野に興味のあるマルチな人材が獲得できそうだ」と語った。
これに対して木綿氏は「自分も石川県出身で、九州芸術工科大学(現・九州大学)を経て福岡で起業したので、若い人の都会に憧れる気持ちは良くわかる」とコメント。福岡は九州全域から人材が集まる一方で、本当に優秀な人材は東京や大阪に流出してしまうので、どのようにつなぎ止めるかがポイントだと指摘した。その中でも女性に優秀な人材が多い印象とのこと。家庭の事情で県外で働けない場合があり、狙い目かもしれないという。
また、東京からのUターン/Iターン組が増えている現状に対して「弊社にもそうしたベテランがいる。自分も東京で働いたことがないので、刺激になっている。一緒に新しい福岡のクリエイティブを作っていきたい」と語った。そのうえで、福岡・東京に限らず、さまざまな経歴をもつ人材が交わることが大切だとも補足。実際に同社には国際色豊かなクリエイターがそろっており、海外との協業も多いという。
最後に今後の課題について、竹内氏は人材獲得と東京本社との連携強化をあげた。「福岡スタジオの人数を3年以内に30名程度まで増加するのが目標です」(竹内氏)。その上でデータ容量がテラバイト単位になっている中、ネットワークインフラの細さが気になるという。この点については木綿氏も同意見で、市としての対策を求めた。また今後は受注制作に加えて、オリジナル作品への取り組みについても意欲を見せた。
セッション2:
仕事は頑固な職人気質、仕上がりは芸術的かつエンターテインメント。KOO-KI流CGとは?
▼登壇者
KOO-KI
木綿 達史氏/代表取締役社長
池田 一貴氏/ディレクター
Vito La Manna氏/アニメーションディレクター
続いてのセッションではKOO-KIの池田氏とViTO氏から、餃子の王国TVCM「王国登場篇」、マルイTVCM「マルコとマルオの7日間」制作の舞台裏が披露された。ドイツ出身でイタリア国籍を持つViTO氏をはじめ、両CMとも国際的なメンバーで制作され(「マルコとマルオ~」はViTO氏の古巣Movie Bratsを拠点に、ベルリンで行われたほど)、インターナショナルな同社の映像制作の強みがアピールされた。
▲(左)Vito La Manna氏 (右)池田一貴氏
「餃子の王国」は熊本県に本社を構える双和食品工業の餃子通販ブランドで、同CMも熊本県と福岡県でのみ放映されたもの。「おもしろくユニークな映像」「長く愛される、特に子供たちにファンになってもらえるブランド確立」というオファーから、「餃子工場をモチーフに、餃子が大好きな住人たちが巨大な餃子を作り上げていく過程を、リッチなCGアニメーションで作る」というコンセプトが浮かび上がってきた。
制作では池田氏とViTO氏を中心にプリプロダクションが行われ、さまざまなラフスケッチが行われた。その後ViTO氏の人脈で外国人アーティスト2名を福岡に呼び、社内の人材とあわせて5名(うち日本人は池田氏のみ)という体制で制作。良い意味で日本ばなれした、ユニークな映像になったという。「工場見学に行って、餃子が作られる工程を見せてもらいました。その経験が映像に活かされています」(池田氏)
この映像は大評判を呼び、マルイTVCMの制作へとつながった。ハイクオリティで作家性のあるCG映像というオファーを受けた同社は、国内では短期間で必用なスタッフを揃えることが難しいと判断。ViTO氏を中心に、フリーランスの層が厚いベルリンでの制作を決断。制作期間は半年間で、クライアントとの折衝を福岡の木綿氏が受け持ち、週二回のSkypeミーティングとメールベースでのやりとりで業務を進めたという。
「餃子の王国」と違い、プリプロダクションに十分な時間がとれなかったという本作。中でもキャラクターのフェイシャルと衣服のデザインについては、日本人と外国人の文化やセンスの違いも加わって、何度も修正を繰り返したという。もっとも、そのかいがあって劇場クラスのハイセンスな映像が完成。視聴者から「マルイが海外の大手スタジオにCMを発注した」と誤解されるほどのクオリティに仕上げることができた。
セッション3:
フロム・ソフトウェアにおけるハイエンドグラフィックス制作ワークフロー
▼登壇者
フロム・ソフトウェア担当者
冒頭の対談でも述べられたとおり、来春から福岡にグラフィックアセット制作専門のスタジオを開設するフロム・ソフトウェア。俗に第8世代と呼ばれるPS4・Xbox One向けのゲーム開発に必用な、CGアーティストのリソース不足を懸念してのことだ。では、実際に現代のハイエンドゲームではどのような制作体制が構築され、何がポイントになっているのか。担当者が概要を説明した。
多くのゲーム会社と同様に、同社でもCGアーティストの業務は多岐にわたり(キャラクター・モーション・背景・エフェクト・メニューなど)、プログラミングやゲームデザインと有機的に結びついている。かつては「雑木林のステージで処理落ちをふせぐために木々を枯らした結果、モンスターも雰囲気にあわせて死霊的なデザインに変更した」などの対応も見られたほど。ゲーム機のスペック向上に伴い最近ではこうした例は減少したが、逆に細部の作り込みで、これまでにない労力が求められるようになったという。
そこで重視されるようになったのが、ツールやミドルウェアの活用と、さらなる自動化の推進だ。前世代では1280×720ピクセルだった解像度が、今世代では1980×1080ピクセルが標準となり、テクスチャの解像度も1Kから2K~4Kと拡大している。これに伴いZBrushを用いて、スカルプトでハイポリゴンのモデルを制作する手法が一般化。
もっとも、すべてのデータをスカルプトすると、制作工程が非常に増えるため、できる限り自動化を推進。▽キャラクターの衣服でMarvelous Designer▽テクスチャの作成でQuixel DDOを活用▽標準リグの活用でリギングコストを軽減▽ロードバランサーの導入で、フレームレートに応じて最適なレンダリングを実施ーーなどが行われているという。
また、現時点ではUnityやUnreal Engineなどの商用ゲームエンジンは使用していないという。社内の技術力低下を恐れてのことで、シェーダーやエフェクトも内製ツールを使用しているという。自社のゲームエンジンをベースに、適切な外部ツールを組み込んで、効率的なワークフローを構築することが重要だとまとめられた。
セッション4:
ModelingCafeコンセプトモデリング講座テクニカル解説編
▼登壇者
ModelingCafe
松本 龍一氏/モデラー
木村 佳介氏/モデラー
岸本 浩一氏/代表取締役
最後に登壇したのは3DCGのコンセプトデザインとモデリングに特化したModelingCafeだ。同社では東京本社に加えて、本年4月より福岡オフィスを設立。バンクーバーオフィスとあわせて、国際的な制作体制を敷いている(同社にはアニメーションに特化したAnimation Cafeもあり、Cafeグループを形成している)。CGWORLD本誌でも2015年11月号から新連載「ModelingCafe コンセプトモデリング講座 テクニカル解説編」が開始された。
▲(左)木村佳介氏 (中)岸本浩一氏 (右)松本龍一氏
講演前半では福岡オフィス設立に伴い、東京から福岡に移住した木村圭佑氏が感想を共有。後半ではバンクーバーオフィスに在籍し、本誌連載も手がける山家遼氏のCG制作ノウハウについて、作例をもとに同社の松本 龍一氏が解説した。
神奈川県出身で福岡に移住するまで一人暮らしの経験がなかったという木村氏は、福岡での生活を「コンパクトにまとまっており、非常に暮らしやすい」と評価した。会社は福岡市中心部の天神地区に位置し、マンションまで徒歩10分程度。家賃も4ー5万円と単身者に嬉しい価格帯だ。周辺には市役所、大型商業施設、飲食街、空港などが点在しており、自転車での移動が非常に便利だという。
後半では松本氏が登壇し、連載でも使用されたオリジナルのマシンガンのCGについて、制作過程を紹介した。使用ツールはZBrushで、粘土をこねたり、彫刻刀で穴をくりぬいたりするように、デザインと立体造形を並行して進めるのが「山家流」だという。
完成したモデルはZBrush to KeyShot Bridgeを使用すれば、ワンクリックでレンダラーのKeyShotにデータを転送できる。マテリアルのアサインから細かいライティングまで直感的に設定することが可能だ。出力された画像ファイルをPhotoshopで仕上げれば完成。銃器の下に敷かれた布は、自然な凹凸を表現するため、Marvelous Designerを使用したとのことだ。
福岡クリエイティブキャンプ参加企業もブース出展
このほか展示コーナーでは、福岡クリエイティブキャンプ参加企業によるブース出展やパンフレットの配布、福岡クリエイティブキャンプ事務局による移住&転職相談、CGWORLD本誌のバックナンバー紹介やフリーペーパー「CGWORLD Entry vol.13」の配布なども行われた。
講演の休憩時間には多くの参加者がつめかけ、時間帯によっては自由な移動もままならなかったほど。参加者属性もゲーム系と映像系、社会人と学生がそれぞれ半々ずつという割合で、熱心に情報収集をする姿が印象的だった。
TEXT_小野憲史
PHOTO_弘田充
本イベントは10月24日(土)に大阪(大阪電気通信大学 寝屋川キャンパス)でも開催が決まっている。
大阪ではサイバーコネクトツーの松山 洋氏と東京でも登壇したフロム・ソフトウェアの竹内 将典氏によるスペシャル対談「消えるクリエイターと伸びるクリエイター」が決定している。その他にも全国に拠点を持つ映像制作会社exsaが「exsa流ビジュアルコンセプト作成術」を披露する。また、東京でも講演を行ったKOO-KIが再び東京で大好評だった「餃子の王国」と「マルコとマルオの7日間」のメイキングを行う。東京会場は満席となったほどの人気イベントなので大阪近辺のクリエイターは早めに登録しよう。
10月24日(土)大阪開催!『CGWORLD CREATIVE MEETING』
CC2松山氏、フロム・ソフトウェア竹内氏によるスペシャル対談も!
参加申込はこちら:http://cgworld.jp/special/cgwmtg-fcc/