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RTXの最新事情、RTコア対応アプリの実演デモも実施「ELSA JAPAN レンダリングセミナー 2019」レポート

RTXの最新事情、RTコア対応アプリの実演デモも実施「ELSA JAPAN レンダリングセミナー 2019」レポート

<4>Unityセッション「Unity Automotive Case Study」

続いてUnityのセッション「Unity Automotive Case Study」では、ユニティ・テクノロジーズ・ ジャパンの中嶋雅浩氏が、自動車業界で利用されているUnityの事例など、自動車・製造分野における最新情報を紹介した。

中嶋雅浩氏/ユニティ・テクノロジーズ・ ジャパン合同会社 事業開発統括マネージャー(自動車・輸送機器分野担当)
unity.com/ja

Unityは2004年にデンマークで起業された会社で、はじめはゲーム開発をしていたが全く売れず、現在はゲーム開発のためのツールをつくって成功している。現在2700人の社員、モバイル向けゲームの38%はUnityベースで制作されており、Unityを使う開発者は世界で100万人にも及ぶそうだ。

Automotiveと呼ばれるUnityによる自動車関連の事業は世界12拠点で展開されており、日本もその1つ。Unityを使ったレクサスのビジュアライズなど、様々な協力関係が広がっている。ちなみに自動車業界で興味をもたれるのは、リアルな車体だけでなく、それを取り巻く臨場感のある環境なのだそう。

LC500のコンフィギュレータ(車体や車内の色を変えたりカスタマイズできるツールのこと)
Lexus Partners with Unity to Create Virtual Reality Lexus LC 500
lexusenthusiast.com/2018/08/06/lexus-partners-with-unity-to-create-virtual-reality-lexus-lc-500/

Unity & Lexus: Real-time revolution in auto'

Unity and Automotive: Rendering in the fast lane

BMW 8シリーズクーペ事例
Reality vs illusion: Unity real-time ray tracing

フォルクスワーゲングループでのトレーニング応用事例
Volkswagen Group uses Innoactive Hub for global VR Training rollout with HTC Vive

自動車業界においては「Unityによるリアルタイム描画をどう使うか?」という点がこれからの課題だという。

ある事例では、実車のCADデータをPixXYZというコンバータで取り込み、背景はアセットを購入したそう。ドライビングシミュレーターもこうしてアセットを組み合わせればつくることができ、アセットの豊富さがUnity環境の価値のひとつでもあるということだ。

ドライビングシミュレータ応用事例

<5>Unityセッション「アマナデジタルイメージング"croobi"による自動車リアルタイムレンダリング制作事例」

アマナデジタルイメージングは、フォトストックサービス・アマナイメージズ等を運営するアマナグループのCG制作会社。広告中心の制作を得意とし、企業からCADデータを預かってCG制作する場合も多い。そのなかでもcroobiは自動車CGや背景CGを得意とするグループだ。そんなアマナデジタルイメージングによるUnityセッション「アマナデジタルイメージング"croobi"による自動車リアルタイムレンダリング制作事例」では、大量の画像制作を、Unityのリアルタイムレンダリングを使うことで大幅に時間短縮したという事例が紹介された。

(左)鈴木健哉氏/株式会社アマナデジタルイメージング Producer、(右)横尾達也氏/株式会社アマナデジタルイメージング croobi/Director
amanadi.jp

croobiには「ワンソースマルチユース」という考えがあり、デジタルモックアップをつくり、動画、静止画、コンフィギュレータ、リアルタイムまでマルチに展開している。これを実現するためにCGで描画する自動車だけでなく背景もCGで制作し、時間や場所、天候を自由に設定できるようにしている。以前は静止画の仕事が多かったが、最近は動画の仕事が多いそうだ。

croobi CGI VFX Showreel 2017

制作事例。車体も背景もCG

TOYOTAのコンフィギュレータを手がける際、高解像度で複数パターンの画像が大量に必要となり、通常のプリレンダリングではトータル1000時間以上かかる計算になった。9000×4500ピクセル、11バリエーション、インテリアカラー8色、9方向からのアングル――合計で792枚のレンダリングというボリュームだった。そのためUnityでリアルタイムレンダリングすることとなった。

TOYOTAカローラスポーツ、360度視点でのコンフィギュレータ
toyota.jp/corollasport/cp/360/

制作におけるワークフロー

Unityでリアルタイムレンダリング際、工夫された点としては次のとおり。

・リフレクションプローブを多様して映りを車らしくする
・車への反射はいったん背景をHDRIにして余計な反射をとりのぞく
・各アングル毎に光量やトーンなどを調整
・車内インテリアはアングルごとにリフレクションブローブを入れかえる
・黒、白、シルバーが同じシーンで成立するように調整。そうすればどのカラーでも見栄えよくみえる

またシェーダはShaderForgeを利用し、PBRベースでつくってはいるが物理的な正しさよりも見た目重視で調整できるよう細かいパラメータを設定している。広告制作の場合は、ある程度の誇張も必要とされるのだそうだ。

ひと昔前であれば、リアルタイム性を重視してクオリティを犠牲にするか、またはクオリティを重視してレンダリング時間に目をつぶるかというトレードオフの状態にあったが、現在ではリアルタイムレンダリングですぐに確認することができ、修正できることが全体のクオリティアップに繋がっている。修正ややり直しのコストが少なくて済むのも良い点だ。

今後さらに4K、8K、高フレームレートの映像制作が求められてくると時間をかけてプリレンダリングする作業には限界がくる。そう考えるとGPU支援のレンダラやUnityやUnreal Engineといったゲームエンジンの活用が重要で、これらの問題をチャンスとしてとらえることもでき、ビジネスチャンスが拡大していくだろうと考えているそうだ。

<6>EPICセッション「Ray Tracing with Unreal Engin 4.22」

EPICセッション「Ray Tracing with Unreal Engin 4.22」では、Epic Games Japanの杉山 明氏が、Unreal Engine 4.22から利用できるようになったレイトレーシング機能について説明した。

杉山 明氏/Epic Games Japan セールスマネージャー
www.epicgames.com

Epic GamesではUnreal Engineをゲーム制作のほかに、建築やエンジニアリング、デザイン、映像制作、テレビ番組制作、トレーニング動画といった分野での活用に力を入れている。さらにUnreal Engineでは多くのアセットを活用でき、静止画、インタラクティブコンテンツ、VRやCAVEといったイマーシブな体験、映画や放送コンテンツなどの動画、ARやMRといった用途、バーチャルブロダクション環境としても活用されている。

そういった環境に向けて、リアルタイム3D没入型ビジュアリゼーションツールとしてTwinmotionが 2019年11月まで無償提供されている。期日までに手に入れれば、その後も無料で使い続けられるそうだ。

Twinmotion 登録&ダウンロードサイト
www.unrealengine.com/twinmotion

リアルタイムレイトレーシングについては、GDC 2018の際に発表されたILMxLABとの取り組みが注目された。

"Reflections" - A Star Wars UE4 Real-Time Ray Tracing Cinematic Demo | By Epic, ILMxLAB, and NVIDIA

さらにGDC 2019では、『トロル』というリアルタイムレンダリングの映画作品が紹介された。特殊なシェーダやプログラムを使わず、Unreal Engine 4.22のみで短編作品が制作されている。

"Troll' from Goodbye Kansas and Deep Forest Films | GDC 2019 | Unreal Engine

<7>EPICセッション「レイトレーシングで変わったUnreal Engine 4での建築ビジュアライズ」

続いてFramesの真茅健一氏からは、「レイトレーシングで変わったUnreal Engine 4での建築ビジュアライズ」と題して、Unreal Engine4による建築ビジュアルの制作事例が紹介された。

真茅健一氏/Frames
www.frames-cg.com

今回紹介された数々の取り組みが入ったデモ映像
UE4 Ray Tracing Night @Tokyo [Session2 Demo]

Unreal Engine 4.22ではレイトレーシングが使えるようになり、例えばリフレクションの表現としては次のような効果があったそう。

・ツヤ感のある空間ではグラフィックの品質が劇的に上がる
・長年の課題だった鏡の表現力に有力な選択肢ができた
・デフォルト設定だと計算が重くなりやすいので注意が必要

従来のスクリーンスペースを使った鏡の表現。スクリーン外にあるものの映り込みがない

レイトレーシングを使った室内にある鏡の表現。画面外にあるものも正確に写り込んでいる

全体的にはプリレンダーのような完全なるレイトレーシングではなく、基本となるラスタライズの上にレイトレーシングがうまくのっている、ハイブリッドなレンダリングという意識で制作する必要があるとのことだ。コツとしてはレイトレーシングの全機能をONにしてレンダリングするのではなく、コンテンツ表現に応じて、レイトレーシングの機能、旧来の機能を取捨選択して利用する必用があるという。

トータルとして、Unreal Engine4のレイトレーシングは設計やデザインフローに有効と考えられ、作例を調整する際に検討しやすかったそうだ。またツヤ感や照明の映り込みが正確に検証でき、光源の大きさの影の柔らかさなども検証できたそうだ。

Unreal Engine 4.22のレイトレーシング機能の活用で、今までできなかった表現が可能となり、様々な問題点はあるものの、今後のアップデートで技術的課題が解決することに期待したいという。

参考記事:UE4のレイトレーシング実装が広げる、リアルタイムCGの可能性~「UE4 Ray Tracing Night @ Tokyo」レポート

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