フリー部門
9:俺の霊魂を越えてゆけ
何度も失敗を重ねて自分の死体をステージ上に残すことで、ゴールへのルートをつくり上げていくアクションパズル。メンバーのブログで開発の振り返りが公開されている
10:ピンボールゲーム
JavaScriptの習作として個人制作されたピンボールゲーム
11:運命から逃げろ!
棒人間のキャラクターを操作し、動物の力を駆使して悪魔から逃げるアクションゲーム
12:Re:ゼロから始める人工知能生活 とうじゅうぎ!
強化学習のAlpha Zeroを用いて、ボードゲーム『闘獣棋』のAIアルゴリズムを自作したデモ。対戦を重ねながらコンピュータが最強のAIを自己学習していく
このように個性豊かなゲームが並んだ中、最優秀作品に輝いたのは『破壊!VRゲートボール』だった。ゲートボールというテーマをうまく活かした企画力・他のゲームよりも頭1つ抜けたビジュアル面・VRにも対応する技術力の高さなど、総合力が評価されたかたちだ。他にVTuber部門では直接カスタムキャストとは関係ないものの、強化学習を活用した点が高く評価され、『Re:ゼロから始める人工知能生活 とうじゅうぎ!』が選ばれた。また、ゲートボール部門はBlenderで3DCGモデルをつくりこんだ『ゲートレーサー』が輝いた。
表彰を受ける『破壊!VRゲートボール』開発チーム
このほか、「つくるUOZUプロジェクト」参加作品の最新情報として、ビジュアルノベルゲーム『君と僕だけが知っているあの場所へ』の現状が紹介された。
本作の主人公は富山県出身で、現在は東京で働いている若手のビジネスマンだ。いつの間にか世間から富山県に関する情報が消失し、ネットの検索にもヒットしなくなった異常事態を受けて、主人公は地元に急遽帰省。3人のヒロインと共にこの事態を引き起こした原因を解き明かしていく。地元の女性開発者チーム「富山美少女ゲーム部」によるもので、「つくるUOZUプロジェクト」で知り合ったことが、開発のきっかけになった。富山県出身の県外転出組に遊んでもらい、地元について思い出してもらうことが目的だという。
「君と僕だけが知っているあの場所へ」OP MOVIE
※本作は2019年8月に開催されたコミックマーケット96で頒布された。Web上で体験版もプレイできる
「つくるUOZUプロジェクト」はどこにいくのか
このように成功裏に終わった本Game Jam。しかし、「つくるUOZUプロジェクト」にとって本イベントは手段であって目的ではない。目的はゲーム産業による地域活性化であり、そのために掲げられているのが企業誘致・人材育成・創業支援だ。そのキーマンが前述の青木氏であり、魚津市役所で商工観光課の主事をつとめる山田 聡氏となる。青木氏が旗振り役になってコミュニティを運営し、イベントなどを切り盛りする。そして、山田氏が実行委員会のハブとなり、行政の立場からバックアップするというかたちだ。
もっとも、このスタイルも2019年度でひと区切りがつけられる。青木氏が所属するHackCampと、魚津市との契約が終了するためだ。そのため当面は市役所を中心とした実行委員会が直接、手弁当で「つくるUOZUプロジェクト」の取り組みを継続していくという。いわば今年度は第一期の総仕上げにあたり、青木氏の様々なノウハウを実行委員会側が吸収している段階だ。実際、本Game Jamの開催においては、青木氏の手で詳細な運営マニュアルが作成されていることに驚かされた。このマニュアルは終了後、実行委員会側の資産となる。
実際、Game Jamの開催は一度コツがわかってしまえば、それほど負荷のかかるものではない。市役所にもクリエイティブな人材が眠っており、「つくるUOZUプロジェクト」を通して可視化された側面があるという(一例を挙げれば、本Game Jamのキービジュアルは、市役所の職員が作成したものだ)。実行委員会が地元の公共施設を活用することで、コストを最小限に抑えられる強みもある。HackCamp側のノウハウを実行委員会が吸収すれば、真の意味で地域主導のGame Jamが開催されることになる。
ただし、そこから企業誘致・人材育成・創業支援にまで繋げられるかは、また別の話だ。点と点を結び、相乗効果を生み出すことが必要だからだ。「UOZUゲームハッカソン夏の陣」も、2018年12月に開催された「UOZUゲームフォーラム2018」、2019年3月の「GAMEサミット」、5月の「ゲーム開発入門講座」といった取り組みの一環として行われており、今後も8月24日(土)に「プロクリエイターによる開発メンタリング」や、東京ゲームショウでの「商談ブース出展」などが予定されている。次回のGame Jamも11月に実施予定だ。これから半年でどれだけ知見を蓄積し、運営体制を準備できるかが、次年度以降の正否を決めることになる。
一方で「つくるUOZUプロジェクト」に対して、外部の賛同者も現れ始めた。チームメンバーとなったBanboo明神氏もその1人で、都内からの移住を計画中だという。すでに物件選びも終了し、今夏に引っ越しを行う予定だ。しばらくは都内と魚津を往復しながらリモートで業務を行い、ゆくゆくは完全移住をめざすという。理由について聞くと「本取り組みの真剣さと、参加者のモチベーションの高さに心を打たれた」という答えが返ってきた。決め手になったのが2018年10月に行われた産業フェアへのブース出展だ。自分が移住することで少しでも恩返しになれば......というわけだ。
現在Slack上では青木氏と山田氏が中心になって、「つくるUOZUプロジェクト」をさらにより良い取り組みにするために、130名以上の参加者で様々なディスカッションが行われている。もっとも、参加者の思いは様々だ。今回のジャムについても、「趣味でゲームをつくりたい人」、「就職につなげたい人」、「インディゲームクリエイターを志望する人」など、様々な参加理由が入り交じっており、それぞれで求めるものが異なっている。ゲームをつくるのは1人ひとりの参加者で、プロジェクトの未来も同様にゆだねられている。
このようにコミュニティベースの草の根的な取り組みが「つくるUOZUプロジェクト」の特徴だ。外部のコンサルタントによるお仕着せの地域活性化策が全国で死屍累々を続ける中、地域主導で進む魚津市の事例は、ゲーム産業という要素を取り除いたとしても、興味深い事例だろう。引き続き注目していきたい。
青木トモ氏/HackCamp(左)、山田 聡氏/魚津市役所商工観光課(右)
※魚津市では市外からの移転や定住に際して様々なサポートが行われている。詳細は公式サイトを参照のこと