>   >  自治体が旗をふる人材育成の最前線〜富山県魚津市「UOZUゲームハッカソン 夏の陣」に参加してみた
自治体が旗をふる人材育成の最前線〜富山県魚津市「UOZUゲームハッカソン 夏の陣」に参加してみた

自治体が旗をふる人材育成の最前線〜富山県魚津市「UOZUゲームハッカソン 夏の陣」に参加してみた

ジャムの初心者向けに開催された企画ワークショップ

企画ワークショップはジャムの総合司会をつとめた、HackCampの青木トモ氏によるファシリテーションで進行した。アメリカの大学で応用数学と分析を学び、米Intelでの契約業務を経て帰国後、官公庁の経済セクションのキャリアを経て民間に移動。ハッカソンの主催経験も豊富と、ユニークな経歴をもつ人物だ。本ジャムの企画・進行に限らず、「つくるUOZUプロジェクト」の支援や、Slack上でのコミュニティ運営なども手がけるなど、キーマンの1人となっている。

青木氏が行なったのは、発想法に関する古典的名著『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング著)で主張された「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせから生まれる」というテーゼの実践だ。はじめに人気ゲームを構成するメカニクス(ルール)、続いてマンガ・アニメ・映画などの世界観を校正する要素を参加者間で出し合い、共有する。その後、これらの情報をもとにA41枚程度のゲームの企画書(ペラ企画)を作成する。最後にペラ企画の人気投票を行い、それをもとにチーム編成を行うというながれだ。

アイスブレイクも兼ねて参加者全員で実施された企画ワークショップ

筆者も実際に開発に参加しながら取材を進めることにした。参加者間で共有された数々の情報のうち、目を惹いたのがマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』の世界観を支える要素として挙げられた、「日常生活で使ってみたい名台詞が多数入っている」という説明だった。たしかにアニメ『機動戦士ガンダム』でシャアが酒場でつぶやく「坊やだからさ」など、人気マンガ・アニメは多数のパワーワードで溢れている。そこで、こうした名台詞をVTuberが選び、互いに紹介しあうゲームをつくるというアイデアがわいてきた。

そこでコピー用紙にマジックで書き殴るように、1分間で書いたのが「VTuberになってマンガ・アニメの名台詞を言い合い、相手を心理的に言い負かす」ゲームだ。通常のビデオゲームではなく、バラエティ番組の1コーナーという体裁をとり、勝敗の判定は視聴者に丸投げすれば、「オリジナルゲームをVTuberで配信する」テーマにも合致する。既存コンテンツの台詞を二次利用するということで、著作権的にグレーな印象はぬぐえないが、Game Jamでプロトタイプを開発する程度であれば問題ないように感じられた。

ペラ企画が完成したところで、全員参加による人気投票が行われた。そして、この結果をもとに10件程度の企画が発案者からプレゼンテーションされ、それを見た参加者が「自分がつくってみたいゲーム」の発案者のもとに移動。そこから最終調整を行うかたちでチームが編成された。自分の企画はというと......そこそこの人気を集めてしまい、プレゼンを行うことに。その結果、iOSアプリのエンジニアでSwift言語を操るBanboo明神氏から賛同を受け、思いがけず2人でゲームをつくることになってしまった。

最後に青木氏はGame Jamにおけるチーム開発の特長について解説した。通常のプロジェクトが分業で進めるのに対して、ハッカソンでは全員が明確な役職を分けずに、お互いがカバーし合いながら進めていく、などだ。短時間で集中して開発するため、プロ向けの進捗管理ツールよりも、付箋と黒板を用いた大ざっぱなやり方が、より現実的なソリューションとなる。これはトヨタ自動車が発案し、世界に広まった「カンバン方式」の原始的なスタイルで、多くのGame Jamで活用されている手法だ。

このように本ジャムでは大半の参加者がGame Jam初心者とあって、開発前のガイダンスが手厚く行われていたのが印象的だった。

エンジニアと企画、最小単位のチームで素早く開発

企画ワークショップ終了後、昼食をはさんで教室に移動し、本開発がスタートした。はじめに筆者の漠然としたアイデアが、Banboo明神氏によってヒアリングされ、その内容をもとに画面遷移図が模造紙に記されていった。その後、具体的な素材や要素が付箋に書き込まれ、黒板に貼られていった。「タイトル画面」、「ゲーム画面」、「リザルト画面」、「キャラクターの絵素材」、「台詞リスト」、「判定の方法」などだ。その過程で曖昧だった内容が明瞭になり、制作可能な段階に進んでいった。具体的な仕様は下記の通りだ。

  • ・VTuber(=プレイヤー)とCOMによる対戦の様子がわかるデモをつくる
  • ・名台詞をネットで検索し、100個のリストにまとめてデータベース化する
  • ・データベースからプレイヤー側とCOM側で5つずつ、合計10個の台詞をランダムで抽出する
  • ・VTuberとCOM側で名台詞を1つずつ表示し、勝敗を参加者に投票してもらう
  • ・それぞれで勝ち負けを決め、結果を表示する
  • ・結果が5つ出そろったところで、投票結果によって最終結果を表示する
  • ・COM側のキャラクターはカスタムキャストで作成し、勝ち・負けの結果に応じて、表情やポーズなどを切り替える
  • ・プレイヤー側のキャラクターもカスタムキャストで作成し、iPhone上でリアルタイムに動かす
  • ・iPhoneとMacをライトニングケーブルで接続し、QuickTime PlayerでiPhoneの画面をデスクトップ上にキャプチャして表示する

このように本プログラムはカスタムキャストをはじめ、ゲーム的な要素を散りばめているものの、ネットのアンケートシステムの応用版だといえる(さらに言うなら「名刺じゃんけん」だ)。ここで問題となったのは、会場の反応をどのように集計し、表示に反映させるかだった。最終発表時に会場で参加者に手を挙げたり、拍手をしてもらったりして、その場で勝ち負けを決めるやり方も考えられる。しかし、電子投票的なシステムと連携させる方がスマートなのは明らかだ。とりあえずこの部分は後で考えることにして、実際の開発が始まった。

作業の分担は台詞のリスト作成・カスタムキャストの調査・UIまわりの素材作成などが筆者で、それ以外の全てが明神氏にまかされた。これまで自分が参加したGame Jamとちがい、はじめてゲームエンジンを使用しないプロジェクトとなったが、明神氏は勝手知ったるSwift上での開発ということで、サクサクとコードを作成していく。数時間もするとアプリの骨格である「台詞用の吹き出しを画面に表示する」、「台詞のぶつけ合いを5回行い、最終結果を決める」などの仕様が組み上がった。

これに対して筆者も「Web上からマンガ・アニメの名台詞をリサーチし、テキストファイルで100個ほど並べたリストを作成する」、「UIの仕様に合わせて、PowerPointとフリー素材を活用し、ボタン・吹き出し・メッセージなどをつくる」、「タイトル画面・リザルト画面などの絵素材や、世界観を説明するテキストなどを作成する」などの作業を進めていった。その結果、夕食や入浴休憩などを経て、深夜にはα版の完成にこぎつけられた。これまで自分が参加した中でも例を見ない進捗ぶりで驚かされた。

児童数の減少により2016年3月に閉校した旧・片貝小学校。施設のあちこちに当時の面影が残る

もっとも2日目の朝を迎え、筆者が仮眠室から起き出すと、さらに事態が進展していた。懸案事項となっていた投票システムが、LINE Botシステムを応用することで実装されていたのだ。特定のLINE Botを自分のスマホでフォローすることで、視聴者は2つの名台詞のうち、どちらがより強力か投票できる。これをもとに投票数を自動集計し、PC上で表示するしくみだ。LINE Botの結果に外部からアクセスするために、APIの修正が必要だったが、明神氏はこれを一晩でやり遂げたのだった。

ただし、Webアプリケーションはスタンドアロンのゲームと異なり、思わぬバグが発生するリスクが高まる。しかしGame Jamレベルでは、バグの原因がクライアント側に存在するのか、ネットワーク側なのか、インフラ側なのか、ネットワークにアクセスする別の端末側なのか、判断がつかないことが多い。そのため2日目は大きな仕様変更を避け、主に実装済みの内容をブラッシュアップすることに費やされた。おかげで筆者も主催者や他の参加者に取材して回る時間を取る余裕が生まれた。

ひと通り会場を回って驚いたのは、ほとんどのチームが動くものをつくっていたことだ。実のところ企画ワークショップでは、内容は面白そうだが企画倒れになりそうな気配が感じられたものもあった。参加者の技術力がわからず、ジャムの初心者も多いとあって、企画の実現可能性が不明瞭だったのだ。しかしメンターのサポートもあり、多くのチームで完成に向けてゲームのつくり込みが進められていた。これには社会人が半数以上を占め、ゲーム開発は初心者ながら、何らかの開発経験がある参加者が多かったことも影響していると感じられた。

元小学校の設備を活かして、旧・調理実習室ではボランティアスタッフによるカレーライスなどの食事が自炊され、参加者にふるまわれた

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